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日本老年看護学会第17回学術集会特集Ⅰ 会長講演
“当事者学”に触れて見直す老年看護学
Gerontological Nursing Science Build with Party Who Are Experiencing Old-age
石垣 和子
1
Kazuko Ishigaki
1
1石川県立看護大学
1Ishikawa Prefectural Nursing University
pp.5-11
発行日 2012年11月30日
Published Date 2012/11/30
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- Abstract 文献概要
- 参考文献 Reference
1.当事者学に着目するプロセスとその背景
人間とは何者であるかという命題についてはアリストテレスの時代から追及されている.トータルな人間と向き合う看護実践においては,先人たちの教えが大変参考になる.一方で,20世紀に急激に発展した近代科学では,客観性や再現性を重んじて証拠を積み上げ,その成果には多大なものがあった.人びとの生活を豊かで便利なものに変え,不可能を可能にしてきた.医学の分野においても革新的な診断技術や治療のための知識・技術・薬剤の開発をもたらし,不治の病が不治ではなくなることが今後も続くであろう.
看護実践の基盤となる「看護学」が誕生してからまだ日が浅いが,トータルの人間が対象である看護学では人間の複雑な側面に突き当たる.多価値を含み,状況依存性の高い人間の姿は,近代科学がいくら無敵でもそれを解くに至ることのできる手段はまだ少ないように思える.なぜなら人間の“真の姿”は状況に応じて変化するからである.人間は昨日と今日では違うし,そこにだれがいるか,なにがあるか,おかれた雰囲気や状況でも変わる.どの姿をつかめばいいのか分からない.このような状況を解明するには従来の典型的な近代科学は強くはない.また近代科学の独り歩きに対する反省の声も聞かれるようになり,福島原発で起こった人の力ではどうにもならない危機一髪の事態にいまだに怯える日本がある.人文科学あるいはリベラルアーツとよばれる学問領域からは,使いこなす人間側の準備性の不足を指摘し,近代科学偏重のなかで置き去りにされた感があるという声も挙がっている.
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