日本看護医療学会雑誌 1巻1号 (1999年12月発行)

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巻頭言

21世紀に向けての船出石黒　彩子 1巻1号 , 1999年12月 , pp.1

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　わが国は、世界一の長寿国家としてWHOにも認定される誇るべき国家ですが、近年急速に少子・高齢社会に移行しつつあります。社会構造が変化する中で、医療費をはじめとして、在宅ケア、小児の健全な育成などの問題が深刻化しています。特に、ドイツに次いで世界で2番目に開始が計画されている介護保険の運用については種々論議されていますが、大きな医療制度の改革が進展しつつあります。

　医療と福祉サービスにおいてその資源を効率よく活用し、保健サービスも含めたそれぞれの領域をいかに包括的なシステムとして確立していくかが、問題を解決していく上で最も重要な事がらになります。看護職はこの変革において、オーケストラにおけるコンサートマスターのような役割を担うことを期待されているのではないでしょうか。

総説

生命倫理からみた看護水野　金一郎 1巻1号 , 1999年12月 , pp.3-8

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はじめに

　最近、倫理学会、生命倫理学会など倫理を中心とした学会に多くの看護職から発表や投稿が増し、この分野での関心が医師よりはるかに熱心な傾向がみられている。それらの多くは、「看護実践上の看護職者のdilemma」あるいは「看護ケアにおける倫理的意思決定」に関したもので、実践の場で多くの悩みを抱えていることが伺い知れる。

dilemma＝問題解決にあたり、対立する二つ以上の判断基準があり、その選択が困難な状況をいう

　例えば、ある患者のケアの方針について、病棟婦長と実際にケアに当たっている看護者との間で考え方に違いが生じて悩んでいるとか、あるいは医師の治療方針に従うのに苦痛を感じているとか、あるいは限られた時間を、末期患者のケアにかかわる時間を優先すべきか、緊急患者のケアを優先すべきか、などの問題である。

　本論文の著者は医師であり、専ら看護教育に携わった期間はほぼ12年であり、正確に看護学を理解していない杞憂はあるが、両分野に関わった者の責任という立場から倫理という立場にたって、看護ケアを考えてみたい。

原著

アトピー性皮膚炎の乳幼児をもつ母親の育児困難感に関する研究浅野　みどり , 石黒　彩子 , 兼松　百合子 1巻1号 , 1999年12月 , pp.9-18

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和文抄録

　アトピー性皮膚炎の乳幼児（以下AD児）をもつ母親が有する育児困難感、および、母親の日常管理能力と育児困難感の関連を明らかにすることを目的に、6か月〜4歳未満のAD児をもつ母親28名（AD群）と対照群72名の母親を対象に1）ADの日常生活に関する質問紙（自作）、2）日本版Parenting Stress Index（PSI）を用いて質問紙調査を行った。また、AD群の母親には育児困難に関する半構成面接を併せて実施した。その結果、以下のことが明らかになった。

1）両群のPSI平均値に有意差はなかった。しかし、子どもの生活の困難度はAD群が有意に高く（p＜0.01）、特に痒みの困難度について明らかだった。

2）母親のもつ行き詰まり感・不全感などの悲観的な育児困難感は、スキンケア、痒みへの対処、除去食など直接ADケアに関連する内容であった。

3）事例分析の結果「AD児の生活の困難度」「母親の日常管理能力」「育児困難感」3者の関係性から、母親のタイプは5群に分類できた。

資料

約30年間の藤田保健衛生大学衛生学部衛生看護学科卒業生の就業状況大西　文子 , 北村　真弓 , 久納　智子 , 三尾　弘子 , 西尾　和子 , 天野　瑞枝 , 伊藤　小百合 , 水野　正延 , 岡田　由香 , 皆川　敦子 , 北川　美紀 1巻1号 , 1999年12月 , pp.19-26

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　要旨：本研究は、本学科の卒業生の就業状況を把握し、約30年間の本学科の教育評価の資料を得ることを目的とした。そこで、1998年の3月迄の卒業生1153人のうち現住所が判明している978人を対象に、就業および離職状況について調査用紙を郵送し、462人（回収率47.2％）から回答を得た。結果、次の様な実態が明らかとなった。就業状況：就業率は卒業直後93.3％、調査時82.5％であり、その内89.2％が常勤であった。卒業後最初の職種では看護婦が65〜75％と最も多く、保健婦は1989〜1993年の卒業者に多かった。調査時では看護婦と保健婦が各々約4割、教育職が約2割であった。最初の勤務先は、医療施設が約76％、調査時約39％と半減し、保健所・保健センター、教育・研究機関が増加していた。総勤務年数は8.26±6.40年であった。最初の職場における勤務年数は4年未満が約6割、4年以上7年未満が約2割であった。最初の職種の勤務年数は、4年未満が看護婦で約7割、保健婦で約4割であった。卒業後から調査時までの継続就業者は全体の約60％を占め、復職者約25％であった。離職状況（卒後4年未満を除く）：卒業後から調査時まで一度も離職していない者約25％、1〜2回の離職者約60％であった。離職理由は家庭等の個人的理由が多く、労働条件や職場の人間関係は少なかった。この結果に考察を加えた。

第1回日本看護医療学会学術集会　会長講演

アレルギー看護からケアシステムの構築へ石黒　彩子 1巻1号 , 1999年12月 , pp.27-31

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　わが国の喘息患者数は1970年（59×1,000/日）から1996年までに約3倍（165×1,000/日）に増加している^1）。これは医療機関への受療率、入院回数のみならず医療費も増えたことを意味する。この背景にはわが国の保健医療の整備に伴う医療の受けやすさもあるが、何といっても喘息になりやすい環境があげられるのではないだろうか。これまでに取り組んできたアレルギー看護の中から喘息児の環境調整、自己管理指導、母親の看護、心の問題への対応を中心に、どのような職種の方々と協働してきたかを述べ、現状における問題点を見い出したい。

第1回日本看護医療学会学術集会　シンポジウム

看護の知の創造西尾　和子 , 西垣　克 1巻1号 , 1999年12月 , pp.33

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　来るべき21世紀は、医療の高度化や少子・高齢社会を反映して保健・医療・福祉サービスがそれぞれの専門性を発揮しながら連携していくことがより重要になってきます。

　近代医療の発展によって、人々の寿命をのばすことには成功しましたが、その一方で、慢性疾患を抱えて生きていく辛さや、いわゆる植物状態といわれる重度な意識障害のまま生きる人々とその家族の苦悩など、新たな問題を生み出しています。

看護のキーワードは愛田中　靖代 1巻1号 , 1999年12月 , pp.34-35

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1．はじめに

　私の臨床看護歴はやがて30年になる。といっても看護を育むというよりも、目の前の患者に力を尽くすというか、「今よりも良くなるための工夫」の日々だった。つまり、「知の創造」という専門職らしい発想に届かないまま、患者の前に立ち、時には横や後に位置しながら共に歩み続けてきたようである。そして、この歩みに学び、種々の発見とテーマに触れながら、私の看護が少しずつ変容してきたように思われる。ここでは、そのささやかな歩みから、「テーマ・知の創造」ヘアプローチしてみたい。

人間が人間らしくあるために石原　美智子 1巻1号 , 1999年12月 , pp.36-37

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　1960年代、日本があらゆる側面で右肩上がりに成長してゆく中、食糧事情が良くなり衛生環境も整い医療保険が出来、長寿の社会を構成した。しかし、その反面、社会は大きく変化して人々は意味のない多忙に振り回され、周囲の人を顧みるゆとりを失い、寝たきり老人はベッドに横たわり、痴呆老人は狭い空間の中を抑制寝間着を身にまとって徘徊する。

　成長とは何を言うのか。我々は何の目的で多忙なのか。

社会福祉を基盤とする医療ソーシャル・ワーカーの視点より高橋　光宣 1巻1号 , 1999年12月 , pp.38-39

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はじめに

　高齢化社会の到来、疾病構造の変化、国民の生活水準の向上や意識の変化に伴い、国民の医療や福祉に対するニーズは多様化してきています。臨床の場に現れる患者さんは、生物学的存在であるだけでなく社会的存在でもあります。医療職でない福祉職の立場で、患者さんや家族との相談援助業務にたずさわる中で話される声から、今回のテーマについての話題提供とさせて頂きます。

生命倫理からみる看護水野　金一郎 1巻1号 , 1999年12月 , pp.40-41

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1　はじめに

　看護ケアは人間を対象としたものであり、このためには、生命の尊厳を基本とする生命倫理の原則に基づいて看護ケアが成されなければならない。

　日常、看護職者が遭遇する困難の中には、必ずしも倫理的な問題のみとは限らない。看護職者は、それが倫理的な問題であるか否かを容易に判断する能力と倫理的問題であった場合にはどのように倫理的決定を行ってゆくのかを知っている必要がある。

　また、もともと西洋哲学的思想から生じた倫理的思考を基に、わが国での看護ケアを患者や家族に戸惑いなくスムースに行うためには、わが国の伝統的な社会的、文化的特徴を理解し、これを考慮した上で看護ケアを行うことも重要である。

基本情報

日本看護医療学会雑誌
1巻1号
(1999年12月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：1345-2606 日本看護医療学会

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