理学療法ジャーナル 28巻11号 (1994年11月)

特集 Ⅰ.中途視覚障害

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 Ⅰ.中途失明者とは

 視覚障害を表す言葉として失明,盲という言葉がある.失明とは片眼あるいは両眼性の視機能喪失,盲とは両眼性の視機能喪失により個体として視覚による生活ができない状態と定義されるが,視覚障害者とは,そのような状態の人々だけではない.視機能をある程度有するロービジョン者のほうが実際には多いということは,あまり知られていない.

 WHOでは矯正視力0.05以下,中心視野10°以内のものを盲,0.3以下のものをロービジョンと規定している.

中途失明者の歩行訓練 河野 章
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 Ⅰ.視覚障害の歩行について

 視覚障害者の歩行行動は,「定位」と「移動」とから成り立っている.

 定位(オリエンテーション)とは「自分が今どこにいるか」「目的地はどこか」「そこはどのように行けばよいのか」というようなことを環境との関連において把握し,認知するため残存感覚を使用する技能の過程であり,移動(モビリティー)とは歩行補助具などを使用し,一つの場所から他の場所へ移動する技術だと言える.

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 Ⅰ.初めに

 視覚障害の受障初期では,それまで何気無くできていた食事などの諸動作がうまくいかないことから不安感,焦燥感が増すと言われる.状況を判断し,目的に向かって適切に身体を動かすコントロールタワーとも言うべき「眼」の機能の喪失または制限により,自分で行動することに臆病になり,また周囲も行動を制限したり過保護になったりするため依存心を助長する.

 しかし,受障直後から必要となる身辺処理をはじめとする日常生活上の諸動作は,ちょっとした配慮・工夫などで容易に可能となるものが多く,早期に指導の機会を得て回復が図られるとリハビリテーションの動機付けに効果的である.したがって,受障初期に関わる医療関係者が視覚障害の特性を理解してADLの指導を行ない,基本的な安全動作や確認の習慣化を図ることが望ましい.ここでは視覚障害者に対する日常生活訓練*の基本的な方法を説明して,中途視覚障害者のADL指導の参考としたい.

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 Ⅰ.初めに

 視覚障害は「情報障害」と言われ,文字情報の入手や処理が困難となる.同時に,周辺情況が認知できなくなるため「移動障害」も引き起こす.特に,人生半ばで視覚障害者になると,下肢が健全であるにも拘わらず,当初は屋外を一歩も歩くことができない.空間認知ができず,恐怖心が先立つためである.

 しかし白杖歩行訓練士の指導で,視覚障害者は保有視覚とそれ以外の感覚とを活用することによって,屋外の移動能力を獲得することができる.それに,物理的な環境の整備と人的な対応によって視覚障害者の行動範囲はさらに拡大する.

 本稿では,白杖使用者が屋外行動を円滑に行なうための環境整備と「やさしい街作り」について,視覚障害者の立場から考えてみたい.

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 Ⅰ.はじめに

 現在,指屈筋腱断裂に対するハンドセラピーには,一般的に早期運動法と3週間固定法とがある.今回はわれわれが施行している屈筋腱断裂修復後における早期自動伸展・他動屈曲法と3週間固定法におけるハンドセラピーの実際を中心に解説する.

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 Ⅰ.初めに

 リウマチは進行性かつ全身性の非特異的慢性炎症疾患である.リウマチ患者の上肢の日常生活活動(ADL)に障害となる手指の疼痛や運動障害は,運動,装具,薬物などの保存的療法や滑膜切除などの観血的療法によって治療される1-3).通常リウマチの手指変形は緩徐に進行するため,機能や形態の上で障害はあってもADLはある程度適応している場合も多く,変形がすべて機能障害につながるわけではない.しかし,明らかに変形に起因する機能・能力障害に対しては変形矯正と機能再建を目的とした手術が行なわれる.「リウマチの手指変形」の手術には多くの方法があり,本稿では代表的な機能再建術とハンドセラピーについてまとめる.

とびら

理学療法士とは…… 遠藤 敏
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 私はこのごろ「理学療法士」とはいったい何であろうかと思うことがある.他人によれば「医療従事者」と言うであろうし,またある人は「専門技術者」と言うであろう.しかし,患者の大多数は「リハビリテーションの先生」「PTの先生」「訓練の先生」などと呼ぶことが多いのではないだろうか.

 私はリハビリテーション学院在学中に,患者は医療サービスを受けるために,病院と契約関係を結んで治療を受けにくる人であると学んだ.つまり,患者はわれわれのサービスに対して保険費用を支払うユーザーということになるのである.しかし,このような観点から現在の医療の状況を観ると,三時間待たせて三分間治療と言われるように,ユーザーである患者の数が過剰となっている.

プログレス

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 2)人工内耳による言語聴取能

 以下に述べるのは,聞き取りテストを完了した患者23名の成績である.ただし,これらの患者は旧型のスピーチ・プロセッサを使用したもので,最新の型ではさらに聞き取りやすくなっている.対象患者の要点を表1に示した.すべて言語を習得した後に聾となった患者(postlingual deaf)である.

 母音の聴取テストは,ランダムに配列された5母音を検査者が読み上げて被験者が答える方式で,人工内耳のみでの正答率は大半が85%以上であった(表2参照).つまり,実際の会話では母音の聞き分けはまず問題無いとしてよい.表3は子音の聴取テストの結果である.この検査では,/p,t,k,b,d,g,m,n,s,z,h,r,y,w/の14子音の前後に/a/を付けて「アパ」,「アタ」…と発音し,人工内耳+読話(A+V),人工内耳のみ(A),読話のみ(V)という条件で行なった.A+Vでの正答率は64~97%となり,平均値は85%であった.一語しか発音されない子音(単音節という)でこの程度の開き分けができるということは,単語や文を使う日常会話は十分可能であることを示している.

理学療法草創期の証言

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 私は1964年に我が国に初めて創設された通称,清瀬のリハビリテーション学院の第2回生として入学し,都心の大手町から清瀬の学院まで毎日通学していた.当時の清瀬の町は松林の中に病院が散在している寂しい町並で,如何にも療養所街のようであった.

 校舎と言える物はまだ無く,東京病院の建物の一部での間借り生活がしばらく続いた.故・砂原茂一先生がリハビリテーション学院の草創期を杉田玄白の「蘭学事始」にたとえられていたのが懐しく思い出される.

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 東京オリンピックのころ,地元紙である神戸新聞で「青い鳥シリーズ」として福祉分野の特集が連載された.その中に兵庫県の更生指導所が紹介され,現在の理学療法士の仕事に近い内容が載った.興味があったので,記事で紹介された国立療養所東京病院附属リハビリテーション学院に手紙を書き資料を取り寄せたのがリハビリテーション学院との最初の接点であった.

 1965年春,受験のため上京し国立公衆衛生院での一次試験に首尾良く合格したのだが,清瀬の学院に場所を変えての二次試験に参加して驚いた.大きな目の外国人女性が英語で質問してくるのである.あとでわかったのだが,この女性が学生から鬼のように恐れられていたConine先生であった.先生は日本における理学療法士教育の生みの親である.

あんてな

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 「少子・高齢社会と健康」は21世紀の私たちの課題です.1988年から1992年3月までの4年間,老人訪問看護ステーションのモデル的取り組みとして,「訪問看護等在宅ケア総合推進事業」が全国の17か所で実施されました.そして1991年10月,老人保健法の一部改正により,在宅における介護支援体制を整えるために「老人訪問看護制度」が創設され,1992年4月から老人訪問看護ステーションが各地でオープンしています.かかりつけ医により訪問看護を必要と認められた老人医療受給者が利用料250円および訪問にかかる往復交通費の支払いでサービスを利用する仕組みができました.

 この新制度による訪問看護の現状について,厚生省大臣官房統計情報部が行なった老人訪問看護実態調査の概況を基に紹介します.なおこの調査は,指定されている297ステーションのうち,実際に稼動している277か所について,1993年10月1日現在の状況です.

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 Ⅰ.初めに

 種々の器械・器具は,高価なものから身近なものまで日常の理学療法場面で多く用いるものである.本稿は「器具を用いた運動療法;片麻痺編」として,より身近な器具を用いた運動療法を,脳卒中片麻痺患者のもつ障害と,その運動療法に器具を取り入れる意味を考えた上で紹介する.

講座 行動科学・5

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 Ⅰ.何故,行動科学が医学の領域に必要とされるのか

 医学の領域内に,行動科学の需要が高まったのには,幾つかの要因がある.

 1.疾病パターンの変化

 20世紀までは,病気や死の主な原因は,急性疾患,特に結核,肺炎,その他の感染症であった.こうした感染症は,しばしばウイルスやバクテリアの侵入の結果生じる,短期間の疾患で,ふつう,治るか死亡するかであった.ところが今日の主な疾患である慢性疾患は,例えば心臓病や癌そして糖尿病などは,典型的には,治癒できる病気ではなく,患者と臨床家が一緒になってマネージしていく病気である.この慢性疾患は,発病や経過もしくは治療において,心理的そして社会的要因が絡んでおり,また,これらの慢性疾患は,その疾患と長年一緒に付き合いながら生きていかなければならないから,そこには,二次的にも心理的,社会的問題が生じてくるのである.

1ページ講座 生理学的診断・11

自律神経機能検査 山田 裕
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 自律神経機能検査には生理学的検査,薬理学的検査,生化学的検査,病理学的検査それに画像検査があるが,今回は生理学的検査および薬理学的検査のうち代表的なものを取り上げていることとする.

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 Ⅰ.初めに

 “Australian Journal of Physiotherapy”はオーストラリアの理学療法士協会が年間4回発行する季刊誌で,1993年で第39巻を数えている.本誌は主に“Leading Article”“Original Article”“Book Review”などの記事で構成されているが,今回は,“Original Article”を中心に,分野別に紹介し,最後に“Leading Article”についてふれることにする.

 第39巻に掲載された“Original Article”は,全部で27編を数え,その内訳は運動学に関するもの8編,物理療法4編,理学療法全般が5編,整形外科に関するもの2編,経営・管理に関するもの2編,その他6編であった.

 なお,文中の[( )]内の数字は論文掲載号とページを示す.

クリニカル・ヒント

障害を生きた工夫に学ぼう 金 景美
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 多かれ少なかれ,私たちが「リハビリテーション」というものに関わっていくとき,いちばん心に思うものは,目の前におられる患者さんの生活であろう.患者さんは,今,何を考え,何を感じておられるのだろうか.退院した後は,どのような生活に戻られるのであろうか.生きる喜び,生きがいをもたれた生活を送られるのであろうか.そして自分たちは,患者さんにとってどれだけの力になれるのであろうか,どのようなお手伝いができるのであろうか.

 近年,「QOL」や「ノーマライゼーション」という概念が声高にさけばれるようになって,障害をもった方も,少しずつではあるが社会参加の機会を拡げてきているようである.

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文献抄録

編集後記 鶴見 隆正
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 今夏の異常渇水は台風26号でやっと一息つくことができましたが,水不足の対応が節水対策や貯水率などといった量的な問題に終始して,水源地域(川上)の質的な改善を無視しているように感じます.元来が工業用水確保のためのダム建設や高度成長の犠性となってきた中間山村が極端な高齢化と人口減少,林業の衰退に直面している現状を都市の人々(川下)がもっと理解し,山村の生活基盤の充実,林業の育成などを図ることが重要だと考えます.

 さて,今月号は小特集「中途視覚障害者の理学療法」,「ハンドセラピー」の二本立てです.

基本情報

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理学療法ジャーナル
28巻11号 (1994年11月)
電子版ISSN:1882-1359 印刷版ISSN:0915-0552 医学書院

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