臨床整形外科 53巻9号 (2018年9月)

誌上シンポジウム 外反母趾の成績不良例から学ぶ

緒言 大関 覚
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 外反母趾の多くは靴の装用により引き起こされる2次的な足趾の変形である.母趾MTP関節は内側に母趾外転筋が,背側に長・短母趾伸筋腱が,底側に長母趾屈筋腱と2つの種子骨につながる短母趾屈筋があり,外側の種子骨には母趾内転筋が停止している.これらの腱を取り巻く支帯は,母趾MTP関節の関節包を包むように連結していて,周囲筋は微妙なバランスの上にMTP関節を安定化させている.母趾が外反方向に継続的に傾けられると,これらの周囲筋からの力は母趾基節骨を介して中足骨頭を内側に押し出し,第1中足骨が内反するため第2中足骨軸となす角が増大する.変形が起き始めると母趾外転筋腱が底側に変位するため,母趾が外反するのを制御する力がなくなり,変形はさらに進行し,中足骨頭は種子骨を置き去りにして内側へ変位していく.前足部の横アーチは失われ,第1中足骨頭から第5中足骨頭までの幅が大きくなり,立位では第1中足骨は回内方向に回旋している.

 したがって,外反母趾手術では亜脱臼状態にあるMTP関節を整復し,変形の結果として起こっている関節拘縮を解離し,筋力のアンバランスを母趾の外反力が発揮できるように矯正し,前足部の横アーチを再建して体重が足底に偏りなく分散できるようにすることが求められる.しかし,中足骨骨切り術後に母趾MTP関節が選択できる位置は,周囲を腱によって連結されているため有限である.パラボラと呼ばれる中足骨頭の自然なつながりを再建することが,痛みや胼胝のない足部に矯正するには必須である.近年,足の外科で議論されてきた要件には,第2中足骨の長さに第1中足骨の機能長を合わせること,中足骨の回内変形を矯正し,正面X線写真で中足骨頭の遠位関節面が扁平にみえるようにすること,中足骨頭を種子骨の上方にくる位置まで戻すことなどが挙げられるが,その結果として外反母趾角や足部の縦横のアーチ形成も良好になった.また,足部専用に開発された固定金属も成績向上には大きく貢献している.

緒言 仁木 久照
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 外反母趾の治療はまず保存療法を試みる.保存療法で疼痛は軽減できても,変形は矯正できない.手術は「外反母趾診療ガイドライン2014」にもあるように母趾外反角(HV角)の程度で使い分ける.変形が重度になり母趾が第2趾の下に入り込むと,第2中足趾節関節が脱臼し外側趾変形を伴う.さらにLisfranc関節症を伴うと足背の疼痛や骨性膨隆を訴える.外反母趾といっても複雑で多様な病態を呈し,母趾のみの処置では患者の満足度を得ることは難しい.私自身,足の外科に携わってから長い年月が過ぎ,多くの手術にかかわってきたが,外反母趾手術はいまでもかなり気を遣う.

 以前,外反母趾手術で第1中足骨を短縮すると外側趾中足骨頭痛(transfer lesion)が生じるので,第1中足骨の短縮は禁忌であった.しかし,近年ではある程度の中足骨短縮は矯正を容易にし,術後可動域の獲得にも優れることが指摘され,手術に対する考え方が根本的に変化した.各症例の病態に合わせた,あるいは合わせられる術式を選択することが求められるようになったのである.

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 外反母趾に対する手術療法は,術前計画での手術方法選択から手術施行,その後の長期にわたるフォローでの合併症を考慮すると,非常に難しい手術の1つである。術前の説明や術後のフォローには細心の注意を払わねばならない.

 本稿では重度外反母趾に対して,回旋差し込み中足骨骨切り術を施行した症例の成績不良例から,合併症の回避方法などを考察した.術前評価ではより高齢で重症度が高い症例で成績不良例が多く,術後評価ではより高齢で,男性例で多い傾向にあった.術前に合併症について詳細な説明を行ったうえで,術後のトラブルを回避するためにインフォームドコンセントを得ることも重要と考えられた.

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 筆者が遠位斜め骨切り術(DOMO)を施行した外反母趾患者798人1,112足の成績不良例を検討した.成績不良の定義は,①患者の評価が不満足,②術後20°以上の外反母趾変形の残存,③術後のtransfer metatarsalgiaの存在,のうちどれか1項目でもあれば成績不良とした.

 成績不良は162足(14.6%)であった.原因は,母趾内側部痛の残存,靴に関する諸問題,transfer metatarsalgia,外反母趾変形の残存の順であった.外反母趾角50°以上の重症例に成績不良例が多かった.患者の満足度と臨床成績には若干の相違がみられた.

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背景:中足痛(外反母趾における足底胼胝の痛み)は外反母趾に合併し,術後も重要な合併症である.本研究の目的は,第1中足骨の第2中足骨に対する相対的長さが小趾列底側の胼胝,中足痛の主因であることを証明することである.

方法:対象は二平面骨切り術を施行し,臨床所見とX線を備えた102足で,平均経過観察期間は16カ月であった.臨床評価はJSSF hallux scaleで行われ,X線学的評価は立位X線像から外反母趾角(HVA),中足骨間角(IMA)を計測し,第1中足骨突出度(relative first metatarsal length:RML)はNilsonne/Mortonの計測法で行った.

結果:外反母趾角は術前平均37°から術後3°,中足骨間角は術前平均17°から術後4°に改善した.JSSF hallux scaleは術前平均56点から術後96点に改善した.足底胼胝の面積は術前平均3.1mm2から1.5mm2に改善した.術後中足痛の60%,無痛性胼胝の85%が改善した.X線指標の中でRMLはJSSF hallux scale(P<.0001)と術後の中足骨痛(P<.0001)と最も強く相関していた.

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 外反母趾術後成績不良の原因に再発や内反母趾があるが,第1足根中足(TMT)関節の過度可動性との関係は明らかではない.本研究ではTMT関節の過度可動性を,荷重位足背底X線像を用いて分類し,われわれが行っている第1中足骨近位回外骨切り術(PSO)の術後成績との関係について検討した.TMT関節に過度可動性があり,術前の外反母趾が重度の症例では術後再発が有意に多かった.また術後に新たにTMT関節に過度可動性を認めた症例では,術後に内反母趾を高率に生じていた.本稿では本研究の結果について詳説する.

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 外反母趾に対する最小侵襲遠位中足骨骨切り術DLMO法は,選択的に外側軟部組織解離を加えることで,軽度から中等度のみならず重度の変形に対しても適応可能である.その矯正効果,患者満足度については概ね良好な結果が得られているが,一部の例で外反母趾再発,transfer metatarsalgiaの原因となりえる遠位骨片の背屈変形を生じている.これらへの対策として,手術中,近位骨片遠位端を十分内側に引き出しておく,骨片間の固定性が不十分な場合にはKirschner鋼線を追加するなどの工夫が必要であると考える.

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諸言

 高齢社会に伴い成人の脊柱変形患者が整形外科領域で外科的治療を受ける機会が増加傾向にある.高齢者の脊柱変形は若年者の側弯変形と異なり,術前の併存疾患を有し,変形に伴う症状と神経症状を合併することもしばしば見受けられ,患者の健康関連QOLが障害されている1,2).成人脊柱変形に対する手術治療は保存治療と比べQOL改善に有利である一方で,手術自体の手技が複雑で手術時間も長く,周術期合併症が一番の懸念事項となる3-5)

 もちろん患者,家族に手術の限界と起こりうる周術期合併症について説明しておくことは重要である.合併症が生じれば患者の回復は遅れ,入院期間は延長し,高齢者の心肺機能低下から生命予後にも影響を与える可能性がある.最近,周術期合併症のリスクファクターとして患者の年齢,既往歴,併存症,内服歴,American Society of Anesthesiologist (ASA)score,椎体骨切りなどの手術侵襲が報告されている.しかし多くの合併症に関する報告はそのリスクファクターの検討であり,実際に合併症を予防する対策について述べているわけではない.そこで今回われわれは合併症を予防するために,簡便で利用しやすいスライディングスケールを作成し,それが実際の合併症予防に有効かを検証した.

連載 いまさら聞けない英語論文の書き方・1【新連載】

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なぜ臨床家が英語論文を書くのか

 なぜ英語論文を書くのか.

 “教授に言われたから”,“大学に残りたいから”,“専門医取得に必要だから”,“何となく格好いいから”,理由やきっかけは何でも構いません.兎にも角にも,どんなに素晴らしい発見をしても,その知見を広く伝え,後世に残さなければ無意味です.それには論文は必須のツールです.また,知見をより広く伝え残すことを考えれば,当然英語になります.“自分は臨床家を目指すのだから,論文は必要ない”,と言う声も聞こえてきそうですが,本当にそれでよいでしょうか.

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背景:足関節外果単独骨折は今後増加が見込まれる.

対象と方法:足関節果部骨折43例44足をAO/OTA(Orthopaedic Trauma Association)分類に沿って分類し,足関節外果単独骨折20例20足の治療方法と短期成績を検討した.

結果:外果単独骨折44-Aを7足認め,2足に手術,5足に保存療法を行った.44-Bを13足に認め,身体所見やグラビティストレステストで三角靱帯損傷が予測された7足と患者希望の1足,計8足に手術,予測されなかった5足に保存療法を行った.JSSFスコアは平均96.3点と良好な臨床成績を得た.

まとめ:外果単独骨折では三角靱帯損傷の有無を判定し,手術適応を決定することが重要と考える.

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背景:大腿骨顆部特発性骨壊死症(以下,ON)は,初期ではX線像に描出されない.本研究では,超音波検査による初期ONの早期診断について検討した.

対象と方法:ON群9名とコントロール群6名に対し,超音波検査による血流シグナルの有無,血管抵抗値を計測した.血流シグナルによる疾患鑑別,有症期間と血管抵抗値の関係性について統計学的検討を実施した.

結果:ON群で血流シグナルを有するものは8例(88.9%)であり,感度=0.83,特異度=0.88であった.血管抵抗値と有症期間に高い相関(r=0.81)を認めた.

まとめ:初期ONのスクリーニングに超音波検査は有用である.

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はじめに:Wartenberg症候群は,橈骨神経浅枝が腕橈骨筋と長橈側手根伸筋の間で前腕筋膜を穿通する部位における慢性絞扼性神経障害である.

症例:55歳女性.先行するde Quervain病があり,症状増悪動作が同じで,感覚障害が乏しかったため,診断が遅れた.手術所見では解剖学的破格はなく,前腕筋膜穿通部での慢性の絞扼が原因と思われた.橈骨神経浅枝の剥離,除圧により症状は改善した.

まとめ:Wartenberg症候群はde Quervain病として治療される可能性が高く,難治性の場合は本疾患を疑う必要がある.

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 非典型的カーブパターンの側弯症では脊髄病変の可能性からMRI検査が推奨されている.しかし,MRI検査では椎弓奇形に伴う先天性側弯症の判定は困難である.3D-CTは椎体奇形の把握に活用されるが,被曝リスクから日常的に使用されるものではない.本症例は,初診時に特発性側弯症と診断し加療を行った非典型的カーブパターンを示す側弯症が,手術計画の3D-CTで先天性側弯症と判明した1例である.先天性側弯症の診断の遅れは適切な手術介入時期を失う可能性があるため,非典型的カーブパターンを示す側弯症ではCT検査を念頭に置くべきである.

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 低カリウム血症に伴う首下がり症候群を発症した1例を経験したので報告する.症例は69歳男性で,頚部の伸展困難を主訴に来院した.後頚部の筋群のみ脱力を認め,その他,神経学的異常は認められなかった.血清カリウム値は1.9mEq/Lと著明に低下していた.血清カリウム値の補正を行ったところ,頚部の伸展もできるようになり首下がりは改善した.首下がり症候群の原因は多岐にわたるが,低カリウム血症も鑑別疾患の1つとして重要である.

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目次

欧文目次

INFORMATION 第45回関東膝を語る会

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 本書は洛和会音羽病院救命救急センター・京都ERで「バイブル」とされてきた院内向けマニュアルを書籍化したものです.臨床教育病院の雄として名をはせる音羽病院由来のものだけあり,随所に秀逸なエッセンスが詰め込まれています.

 まずは冒頭数十ページの「原則編」にお目通しください.多くの医師にとってERという特殊な環境と特別な時間軸の中で診療することは容易ではなく,またその特殊性を研修医の先生方に伝えることも困難ですが,ここでは患者さんの臨床像の変化に対する時間経過とその考え方,救急外来での診療の流れにおける時間とその考え方が非常に明快に記述されています.そして,これら「時間」についての考え方は,以下「検査編」を経て「トリアージで考える 主訴別アプローチ編」では,さらに緊急度を付与して整理されるなど,本書を通して幹のように貫かれています.

次号予告

あとがき 土屋 弘行
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あとがき

 今年は梅雨明けも早く,二十四節気では立秋が過ぎ,暑さが落ち着く処暑になりましたがまだまだ猛暑が続いております.皆様はいかがお過ごしでしょうか? 夏バテを吹き飛ばしつつ,診療や研究に充実した日々を送っていることと推察いたします.

 サッカーのワールドカップで感動したのも束の間,夏の高校野球選手権大会では,大阪桐蔭高校が2度目の春夏連覇という偉業を成し遂げ,秋田県立金足農業高校の雑草軍団が大健闘して大きな感動をもたらしました.日本野球の将来を担う逸材が多数出てきて,頼もしい限りです.また,インドネシアで開催されていますアジア大会では日本のメダルラッシュが続いております.2020年の東京オリンピックにつながる大事な大会で,大きな期待が持てそうです.スポーツは,不思議とわれわれに高揚感をもたらし,力と元気を与えてくれます.2019年はラグビーワールドカップ,2020年には東京オリンピック・パラリンピックと続き,私ども整形外科医の出番も多くなりそうです.関係各部署,関係各位におかれましては,万端の準備を整えているところかと思います.

基本情報

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臨床整形外科
53巻9号 (2018年9月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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