臨床整形外科 53巻8号 (2018年8月)

誌上シンポジウム 椎弓形成術 アップデート

緒言 山崎 正志
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 わが国における頚椎外科の歴史を振り返ると,欧米のそれとは,若干,様相が異なる.本邦の頚椎外科が独自の発展をとげてきた主な要因として,日本人の頚椎の脊柱管が欧米人に比して狭いこと,そして,占拠率の大きい後縦靱帯骨化に伴う重度の脊髄障害の患者が本邦で圧倒的に多いことが挙げられる.

 わが国の頚椎外科は,当初は,欧米と同様に前方法が主流であった.しかし,脊柱管が狭いことで,前方固定後の隣接椎間障害に伴う脊髄症の再増悪が多発した.そして,巨大な後縦靱帯骨化を開削する前方法は難度が極めて高く,本邦の脊椎外科医を悩ませた.

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 頚椎後縦靱帯骨化症(ossification of the posterior longitudinal ligament:OPLL)の術式選択の参考になる指標として,K-lineがある.頚椎単純X線立位側面像中間位でC2およびC7脊柱管前後径の中点を結んだ線をK-lineとし,骨化巣の頂点がK-lineを越えないものをK-line(+),骨化巣の頂点がK-line上にある・越えるものをK-line(−)と定義する.K-line(+)の症例は椎弓形成術単独で十分な脊髄除圧が期待しうるが,K-line(−)症例では椎弓形成術単独では除圧不足に陥る可能性が高いため,前方除圧固定術または後方除圧固定術を選択する.

 K-lineは動きの要素を反映していないこと・計測困難例などK-lineの弱点および対処法を理解したうえで用いれば,K-lineは頚椎OPLLに対する術式選択に際して非常に有用である.

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 頚椎症性脊髄症に対する頚椎椎弓形成術の成績は良好であることが知られている.しかし一部の症例では,術後の脊髄圧迫の残存や後弯変形などの成績不良例も存在することから,術前の十分な検討を要する.われわれは頚椎MRI矢状面におけるmodified K-lineを提唱し,術前にこの線分と頚椎前方要素とのクリアランスが4mm担保されていれば,椎弓形成術による全周性除圧が得られる可能性が高く,良好な成績となることを明らかにした.また別の解析において,術前頚椎X線像におけるC-SVAが42mm以上の75歳以上の高齢者において,椎弓形成術後の後弯変形の可能性が高くなることがわかった.これら2つのツールを用いることで,頚椎椎弓形成術の術後成績不良例を術前から予測できる可能性がある.

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 椎弓切除幅を脊髄横径+2〜3mmに限定した選択的頚椎椎弓切除術は,椎間関節と関節包が完全に温存され,頚椎深層伸筋の損傷も少ないため,頚椎前弯が消失した例でも頚椎の弯曲が保持され,運動性と支持性が損なわれにくい.また,拡大椎弓の再閉鎖,ヒンジ骨折による椎弓の脊柱管内への陥込み,意図せぬ椎弓同士の骨癒合も起こり得ないため,椎弓の内固定は不要であり,後療法が簡素化され,早期社会復帰が可能である.本法は頚椎椎弓形成術特有の問題を回避し得る優れた術式である.

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 圧迫性脊髄症に対する外科的加療として,代表的な術式は頚椎椎弓形成術である.拡大椎弓側溝の骨癒合が達成されるまでの期間,椎弓の拡大を維持するためにスペーサーを設置する工夫がなされており,人工骨スペーサーやミニプレートなどの人工材料が頻用されている.本稿では,ハイドロキシアパタイト(HA)椎弓スペーサーを用いた椎弓形成術に焦点を当て,スペーサー開発の変遷や現況,臨床成績について概説する.

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 チタン製椎弓プレートを用いた頚椎椎弓形成術の臨床経過を報告する.プレートを使用した頚椎椎弓形成術は,ハイドロキシアパタイトスペーサー使用と比較して手術時間が短縮でき,頚椎可動域を温存できる可能性が示唆された.

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 頚椎後方除圧・固定術に伴うC5麻痺発生の予防法の取り組みについて述べた.除圧術に対しては,術前椎間孔径2.5mm以下に予防的C4/5椎間孔拡大術を,また固定術に対しては,予防的C4/5椎間関節切除術を行ってきた.しかし,いずれも発生率を減らすことができても,根絶には至らなかった.椎間孔の除圧不足は,C5麻痺を誘発する可能性があるので,十分な除圧が必要である.ドリル熱対策として最近,冷却水を使用しているが,今のところその有用性は実証されたとはいえなかった.術中脊髄モニタリングによって,C5麻痺の発生機序が解明されつつある.

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 高齢者頚髄症の特徴は,罹病期間が長く,術前神経障害が重篤で,動的因子の関与が多くなると脊髄症状の急速な悪化を認める点である.具体的には,C3-4レベルの不安定性による急性増悪例や頚椎すべり症を伴う例に留意が必要となる.後療法の簡便さ,合併症の頻度などから椎弓形成術が一般的に選択され,多くの研究者がその良好な安定した臨床成績を報告しているが,高齢者の脊椎手術に対する期待も変化してきており,患者や家族のニーズを尊重しながら治療方針を進めていくことが求められる.

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目的:変形性膝関節症患者の骨粗鬆症罹患率,および骨密度と下肢骨形態との関連性を調査した.

対象と方法:対象は,2016年1〜12月に人工膝関節全置換術(TKA)を施行した75例102膝(男20,女82,平均75.4歳).全例橈骨遠位部の骨密度および脆弱性骨折を評価し骨粗鬆症罹患率を調査した.また,大腿骨および脛骨骨形態を計測し,骨密度との相関関係を調査した.

結果:骨粗鬆症罹患率は38.7%であり,82.8%が骨粗鬆症未治療だった.骨密度と脛骨関節内変形との間で負の相関関係を認めた(P<0.01).

考察:変形性膝関節症患者に対する骨粗鬆症の治療は,今後の脆弱性骨折の発生や変形進行の予防に繋がると考える.

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はじめに

 大腿骨寛骨臼インピンジメント(femoroacetabular impingement:FAI)は,2003年にGanzら1)によってはじめて体系化された概念で,特有の骨形態異常を有する大腿骨近位部と寛骨臼が股関節の運動に伴い繰り返し衝突(インピンジメント)することで,関節唇および寛骨臼軟骨の損傷が生じるとされている.Ganzらは外科的脱臼アプローチにより関節内の処置を行ったが,その後,低侵襲な股関節鏡視下手術が行われるようになり,微細な病変の確認が可能となり,さらに股関節鏡の手術機器と手技が大きく発展した2,3).画像診断技術の向上も相まって,股関節鏡視下手術は2000年代以降,欧米を中心に世界的に増加した4).股関節鏡手術は低侵襲であるが,良好な手術成績を獲得しかつ合併症を少なくするためには,手術適応を適切に見極めることが重要である.

 現代の股関節鏡手術の適応は,central,peripheral,peritrochanteric,deep glutal spaceの4つのcompartmentに分類されている(表1)5).なかでもFAIはcentral compartmentからperipheral compartmentまで多くの病態を含むため,股関節鏡視下手術の最もよい適応疾患であり,短期から長期の良好な成績が報告されている6-10)

 一方,股関節鏡手術の普及に伴い,成績不良な病態や因子が明らかになってきた.寛骨臼形成不全(developmental dysplasia of the hip:DDH)は,わが国における股関節痛の原因として最も多い11,12)ため,股関節痛を有する患者に対し鏡視下手術を検討する際には,極めて慎重な評価が必要である.

 本稿では,FAIとDDHを中心に,病態および診断と鏡視下手術の成績を述べ,股関節鏡手術の適応と限界について考察する.

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背景:特発性側弯症の装具治療は有効との報告がある.

対象と方法:特発性側弯症の装具治療の成績を検討した.検討項目は1)装具直前年齢,2)初診時Cobb角,3)装具直前Cobb角,4)装具直前Risser sign,5)装具直前の初潮後経過である.治療中にCobb角が6°以上進行した例を進行群,それ以外を非進行群として検討した.統計にはMann Whitney U-testを用いた.

結果:30名が装具治療を終了し,10名(33.3%)に進行を認めた.進行群と非進行群間に,4)装具直前Risser sign,5)装具直前の初潮後経過に有意差を認めた.

まとめ:骨成熟が未熟なものは装具治療でも側弯の進行を認めた.

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目的:星形遊脚バランステスト(star excursion balance test:SEBT)は,動的な安定性を機能的にスクリーニングする方法として用いられている.この研究では動的な姿勢制御における足趾把持力の役割を探った.

方法:関節と体幹に痛みがない120例の成人においてSEBTと足趾把持力の相関性を評価した.

結果:SEBTの身長に対する後外側および後内側到達方向への到達率は足趾把持力と有意に相関した.

まとめ:後斜めへの転倒は大腿骨頚部骨折の危険因子である.このため足趾把持力の強化は観血的療法を要する転倒骨折の危険性を減少させる可能性がある.

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背景:疼痛評価に従来多く用いられる主観的評価は定量的評価ができない.そこで,知覚痛覚電気刺激検査で肩関節疾患患者の客観的疼痛評価が可能か否かを検討した.

対象と方法:凍結肩および腱板断裂患者165例に知覚痛覚電気刺激検査を行った.

結果:VASと痛み度の相関関係は,凍結肩では,運動時痛,夜間痛,安静時痛すべての疼痛で有意な中等度の正の相関を認めたが,腱板断裂では,いずれの疼痛においても有意な相関を認めなかった.

まとめ:知覚痛覚電気刺激検査は,凍結肩の疼痛評価に有用となりうる可能性が示唆された.

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 下肢および上肢骨折を合併した5症例,下肢および脊椎骨折を合併した2症例,両下肢骨折3症例の多発骨折患者合計10症例において,自操式免荷リフトPOPO®による歩行訓練を行った.免荷用ハーネスは下肢骨折部位に応じて両大腿吊り上げまたは恥坐骨吊り上げ方式を使い分け,免荷量5〜30kgで7〜30日間の免荷歩行訓練を行い,全症例で有害事象なく全荷重へ移行できた.本訓練は,上肢・体幹骨折への過負荷が回避でき,両下肢同時免荷も可能で,こうした下肢および多発骨折症例の免荷歩行訓練への一助になり得ることが示唆された.

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 われわれは,著明な両下腿の短縮を示す中間肢異形成症に,両股関節脱臼を伴う1例を経験し,両下肢の形状から通常の保存的整復に難渋した.生後3カ月時にRiemenbügel(Rb)装具を装着したが,右側は整復不能で高位脱臼となった.下肢,体格の成長を待ち,1歳時にoverhead traction(OHT)法を施行した.骨頭引き下げに難渋し,腓骨神経麻痺も合併した.最終的には長期牽引後全身麻酔下徒手整復により治療した.高位脱臼の進行を抑えるため,Rb装具装着期間,OHT法への待機期間など,両下肢の発育をみながら非整復側を重症化させない配慮が必要である.

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目次

欧文目次

INFORMATION 第45回関東膝を語る会

次号予告

あとがき 松本 守雄
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あとがき

 7月初旬に発生した西日本豪雨災害は未曾有の被害を各地にもたらしました.被災された地域の方々には心からお見舞いを申し上げますとともに,一日も早い復旧・復興を願っております.

 最近,このような豪雨による水害は日本のみならず世界各国で多発しており,地球の温暖化が背景にあるとされています.人の産業活動に伴い排出される二酸化炭素やメタンなどの温室効果ガスが温暖化の原因であるという説が有力ですが,科学的にこれを完全に証明することは容易ではなく,ある国の大統領の主張のように,これに異を唱える意見もあります.しかし,われわれがこれまで経験したことのないような水害の発生を目の当たりにすると,地球温暖化,そして頻発する異常気象の原因が確固たるエビデンスで証明され,有効な対策が実行されることが人類や地球の存続のためには待ったなしの状況と思われます.

基本情報

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臨床整形外科
53巻8号 (2018年8月)
電子版ISSN:1882-1286 印刷版ISSN:0557-0433 医学書院

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