胃と腸 53巻12号 (2018年11月)

今月の主題 知っておきたい十二指腸病変

序説

知っておきたい十二指腸病変 蔵原 晃一
  • 文献概要を表示

はじめに

 内視鏡による上部消化管スクリーニング検査の普及を背景に,近年,十二指腸腫瘍に遭遇する機会が増加し,低侵襲治療を前提とした上皮性腫瘍の早期拾い上げ診断の必要性が指摘されるなど,ルーチン検査における十二指腸観察の重要性が認識されつつある1)2).一方,十二指腸はBrunner腺過形成や神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor ; NET)など粘膜下腫瘍(submucosal tumor ; SMT)様を呈する隆起性病変が多く,その鑑別診断は必ずしも容易ではない.また,血管炎,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease ; IBD),アミロイドーシスや各種消化管感染症などの非腫瘍性びまん性病変は十二指腸病変の拾い上げを診断契機とすることが少なくないが,その認知度は高くない.さらに,胆膵領域を専門としない消化管内視鏡施行医(筆者自身が該当)にとってスタンダードスコープ(直視鏡)による乳頭部・副乳頭部病変の拾い上げ診断は自信が持てないことが多い.

 本特集号では,「知っておきたい十二指腸病変」について,ルーチン観察時に遭遇する可能性がある病変として,十二指腸非乳頭部の腫瘍様病変・腫瘍性病変,非腫瘍性びまん性病変と乳頭部・副乳頭部病変を取り上げ,それぞれの内視鏡所見を中心に最新知見を収載した.なお,腫瘍性病変に関しては,本誌51巻12号(2016年11月)「十二指腸の上皮性腫瘍」で特集された「非乳頭部の腺腫・癌」以外の腫瘍性病変(NETとSMT)を主たる対象とした.

 本誌の主題として,十二指腸の「腫瘍様病変,NETとSMT」は46巻11号(2011年10月)「十二指腸の腫瘍性病変」以来7年ぶり,「非腫瘍性びまん性病変」は37巻6号(2002年5月)「十二指腸の非腫瘍性びまん性病変」以来16年ぶり,「乳頭部・副乳頭部病変」は32巻2号(1997年2月)「十二指腸乳頭部癌─縮小手術をめざして」以来21年ぶりの掲載となった.

 以下に,十二指腸非乳頭部の腫瘍様病変・腫瘍性病変と非腫瘍性びまん性病変について,最近の動向を含め概観する.

  • 文献概要を表示

要旨●腺腫,癌以外の非乳頭部十二指腸病変と乳頭部病変(乳頭部癌)について病理組織像を解説した.非乳頭部十二指腸病変のうち限局性病変(主に隆起性病変)は,内視鏡的に非腫瘍である異所性胃粘膜,Brunner腺過形成,過誤腫などの病変と腫瘍との鑑別が困難なことがある.びまん性病変は非腫瘍が多く,全身性疾患に伴う病変も観察される.病理組織学的には各疾患の診断の定義,悪性度の評価方法は整理されつつあり,病理組織像の理解は重要である.一方,乳頭部病変は内視鏡的切除も試みられるようになってきた.特に乳頭部癌は臨床的取り扱いが重要であるがいまだ不明な点も多く,臨床病理学的および分子生物学的な解明が期待される.

  • 文献概要を表示

要旨●神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor ; NET)はまれな疾患であり,その多くは膵と消化管に発生する.2010年のWHO分類では,腫瘍細胞の増殖動態を反映する指標を用いたGrade分類に基づく病理組織学的分類が作成され,従来のカルチノイドはNET G1およびG2の一部が相当することになった.上皮性腫瘍ではあるが肉眼的には半球状の粘膜下腫瘍の形態を呈し,腫瘍径が大きくなるにつれて,中心陥凹(delle)や潰瘍形成を伴うようになる.内視鏡的切除については,エビデンスが十分とは言えないため,研究的治療として位置づけられている.腫瘍径1cm以下かつ深達度SMまでにとどまる十二指腸NET(T1)に対して,内視鏡的粘膜切除術(EMR)が推奨されている.十二指腸NETにおいては,内視鏡的切除の適応が非常に限定されることから,早期発見と集約化が今後の展望を考えるうえで重要である.

  • 文献概要を表示

要旨●十二指腸リンパ腫は組織型によって特徴的な内視鏡像を呈する例も多い.過半数を占める濾胞性リンパ腫は,十二指腸下行脚の白色調のびまん性小顆粒状所見が特徴的であり,小腸病変も高率に併存するため,小腸内視鏡検査も施行すべきである.びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫は潰瘍型が多いが,隆起型や混在型もみられる.MALTリンパ腫はMLP(multiple lymphomatous polyposis)型,隆起型が多く,Helicobacter pylori感染陽性例では除菌により寛解に至る例も多い.マントル細胞リンパ腫は診断時既に進行期であることが多く,また,消化管にも広範囲に分布していることが多い.十二指腸ではMLP型を呈しているものが多い.

  • 文献概要を表示

要旨●十二指腸非乳頭部腫瘍様病変の臨床像と内視鏡像を明らかにする目的で,当科で内視鏡的切除または生検により病理組織学的に診断された腫瘍様病変を対象として,その臨床的特徴を遡及的に検討した.内視鏡的切除によりBrunner腺過形成・過誤腫4例,胃腺窩上皮過形成・胃腺窩上皮型過形成性ポリープ6例,Peutz-Jeghers型ポリープ4例が診断されていた.Brunner腺過形成・過誤腫4例中3例はSMT様の形態を呈し,2例は表層に胃腺窩上皮を伴っていた.胃腺窩上皮過形成・胃腺窩上皮型過形成性ポリープ6例は隆起型や有茎性の形態を呈し,6例中4例に胃底腺組織を認めた.生検に基づいて異所性胃粘膜44例,異所性膵2例が診断されていた.異所性胃粘膜は44例中40例が十二指腸球部に存在し,29例が顆粒状小隆起の集簇の形態を呈していた.近年,腫瘍様病変は腺癌の前駆病変ないし胃型腫瘍の発生母地としても注目されつつあるが,隆起性病変の表面に島状に存在する胃腺窩上皮を通常あるいは画像強調内視鏡下に確認することが,腫瘍様病変の拾い上げ診断ないし内視鏡的鑑別診断に有用となる可能性がある.

  • 文献概要を表示

要旨●十二指腸の粘膜下腫瘍(SMT)は比較的まれであり,組織学的に多彩な疾患が含まれるという特徴がある.通常生検による質的診断が困難であるため,診断には超音波内視鏡(EUS)を含めた内視鏡診断が重要である.本稿では,十二指腸SMTの代表的な症例を提示し,内視鏡診断の特徴,鑑別診断の要点を概説する.

  • 文献概要を表示

要旨●上部消化管内視鏡検査を施行した自験Crohn病,潰瘍性大腸炎,腸管Behçet病における十二指腸病変を遡及的に解析した.Crohn病62例における十二指腸病変の陽性率は48%であり,ノッチ様陥凹を11例(18%)に,アフタ様びらんを21例(34%)に,数珠状粘膜を2例(3%)に,明らかな潰瘍を4例(6%)に認めた.治療介入の有無で比較したところ,アフタ様びらんの頻度が治療介入例で非介入例よりも有意に高かった.一方,潰瘍性大腸炎および腸管Behçet病の十二指腸病変の出現率はそれぞれ1.3%および13%と低率であった.以上より,炎症性腸疾患における十二指腸病変は,疾患別に出現頻度や内視鏡所見が異なり,Crohn病では診断的意義があると考えた.

  • 文献概要を表示

要旨●IgA血管炎,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症,多発血管炎性肉芽腫症,顕微鏡的多発血管炎,結節性多発動脈炎,全身性エリテマトーデスでみられる十二指腸病変について概説した.疾患により頻度は異なるが,これらの疾患では血管炎に起因する消化管病変が十二指腸を含む小腸に出現し,浮腫,多発性の発赤・びらん,類円形〜地図状潰瘍など多彩な内視鏡像を呈する.また,重症例では出血や穿孔など重篤な合併症を来し予後を左右する場合もある.上部消化管内視鏡検査で容易に観察しうる十二指腸病変は診断契機となることも少なくなく,これらの疾患における内視鏡所見を認識しておくことは重要である.ただし,消化管病変からの生検では血管炎を証明できることは少なく,診断に際しては他検査所見を含めた総合的な判断が必要である.

  • 文献概要を表示

要旨●消化管感染症は,病変の主座が小腸あるいは大腸に認められることが多い.しかし,全小腸の形態学的な評価は決して容易ではない.十二指腸は小腸と類似した病変を呈することが少なくなく,消化管感染症においても上部消化管内視鏡検査にて十二指腸病変を観察することが疾患の鑑別に有用な場合がある.すなわち,病態としての十二指腸炎は特異的なものではないが,消化管感染症の中にはその特異的な炎症性変化が十二指腸にも現れる疾患があり,十二指腸の評価は有用である.本稿では消化管感染症の十二指腸病変に関して,胃・十二指腸病変の評価が鑑別に有用な疾患を取り上げて概説する.

  • 文献概要を表示

要旨●アミロイドーシスの十二指腸病変の特徴を明らかにする目的で,アミロイド別の臨床像,内視鏡所見,病理組織学的所見を自験例23例(AL型14例,AA型9例)で遡及的に検討した.十二指腸内視鏡所見は,AA型の全例で粘膜粗糙や微細顆粒状粘膜/びらんを呈する一方,AL型の60%は皺襞肥厚や多発する粘膜下腫瘍様隆起を呈していた.粘膜下腫瘍様隆起はAL型のみで認められた.生検病理組織学的所見はアミロイド沈着の程度と沈着範囲で評価したが,明らかな関連性は認めなかった.アミロイド別の特徴的な内視鏡像や臨床像を把握することがアミロイドーシスの診断に重要であり,その基礎疾患を理解することが早期診断につながると考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨●十二指腸乳頭部腫瘍は上部消化管スクリーニング検査で唯一発見可能な膵胆道癌である.さらに,乳頭部腫瘍の一部は内視鏡治療の対象となるため早期発見する意義は大きい.直視鏡によるスクリーニング検査では,乳頭の顆粒状隆起,口側隆起腫大,開口部周囲の粘膜不整に注意する必要がある.また,乳頭部はNETの好発部位でもある.乳頭部・副乳頭部NETは,他部位に比べるとリンパ節転移が高率であり,腺腫・癌と同様,スクリーニング検査で早期発見する意義は大きい.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は40歳代,女性.胃潰瘍でH. pyloriの除菌歴あり.1型糖尿病からの糖尿病性腎症による末期腎不全に対して腹膜透析を導入され,同時期より炭酸ランタンを服用開始となった.炭酸ランタン内服開始21か月目のEGDでは胃,十二指腸に白色微細顆粒状粘膜を認め,胃の萎縮境界は不明瞭化していた.内服開始32か月目には,胃全体にみられた白色微細顆粒は,一部で集簇し斑状,環状となり,ひび割れ様の粘膜模様を呈した.十二指腸の所見も強くなり,十二指腸下行部ではKerckring皺襞の稜上に強く所見を認めた.NBI併用拡大所見では,窩間部の白色変化は明瞭化したが,上皮直下の毛細血管は視認可能であった.白色顆粒状粘膜からの生検で,粘膜内に淡褐色〜好酸性の物質を含む組織球の集簇を認めた.以上の所見より,炭酸ランタン関連胃十二指腸病変と診断した.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は50歳代,男性.下肢浮腫を主訴に近医を受診し,血液検査で低蛋白血症を認め,各種検査で原因不明のため当科に紹介となった.上部消化管内視鏡検査とダブルバルーン小腸内視鏡検査で十二指腸下行部から空腸にびまん性に白色絨毛,散布性白点を認めた.生検病理組織像で著明なリンパ管拡張を認め,腸リンパ管拡張症と診断した.内視鏡観察時に絨毛から乳びの漏出を認め,リンパ漏出を直接確認することができ,他の内視鏡像と合わせて,腸リンパ管拡張症の診断に有用な所見として考えられる.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は60歳代,男性.2013年9月に下痢,腹痛,嘔吐が出現し,症状の増悪を繰り返すため精査加療目的で紹介となった.EGDで十二指腸に顆粒状粘膜がみられ,拡大観察で絨毛萎縮の所見が認められた.その後の問診でグルテン含有食の過剰摂取が判明し,病理組織像で絨毛萎縮や陰窩過形成,表層上皮内のリンパ球浸潤が認められ,セリアック病と診断した.小腸のX線造影検査,内視鏡検査では広範に絨毛萎縮を示唆する所見がみられた.グルテン制限食で臨床症状は改善し,画像的にも病理組織学的にも小腸の絨毛萎縮は改善していた.セリアック病について,十二指腸病変を中心に報告する.

  • 文献概要を表示

要旨●患者は70歳代,男性.上部消化管内視鏡検査(EGD)にて十二指腸下行脚に狭窄を指摘され,当科に紹介となった.低緊張性十二指腸造影検査にて十二指腸下行脚に砂時計様の管腔狭小化を認めた.EGDではピンホール様の狭窄を認め,同部の肛門側に粘膜下腫瘤様隆起を認めた.生検にて上皮内リンパ球(intraepithelial lymphocytes ; IELs)の増加と絨毛の萎縮,腫瘍性IELsのびまん性増殖を認め,これらの細胞は,CD3,CD8,CD56,TIA-1(T-cell-restricted intracellular antigen 1)を発現していた.以上の所見より,MEITL(monomorphic epitheliotropic intestinal T-cell lymphoma)と診断した.SMILE療法による化学療法を行ったが,発症9か月後に永眠された.

--------------------

目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 赤松 泰次
  • 文献概要を表示

 53巻12号(2018年11月)は,これまで胃や大腸で特集してきた「知っておきたい」シリーズの十二指腸版である.本号の構成は,まず病理の立場から石田が十二指腸でみられるさまざまな疾患を網羅的に解説した.次に臨床の立場から十二指腸病変を①非乳頭部隆起性病変(腫瘍性病変,腫瘍様病変),②非乳頭部びまん性病変(炎症,感染症,アミロイドーシス),③乳頭部および副乳頭部病変の3つに分け,比較的まれではあるが重要なさまざまな疾患をエキスパートの方々が執筆した.さらに主題症例として4題掲載されている.序説でも記載されている通り,今回は本誌51巻12号(2016年11月)「十二指腸の上皮性腫瘍」で取り上げられた頻度の高い非乳頭部の癌や腺腫は,重複および紙面の理由により除いた.十二指腸非乳頭部の癌や腺腫については,前述したバックナンバーをご覧いただきたい.

 通常の上部消化管内視鏡検査では多くの内視鏡医が十二指腸下行部まで挿入・観察していると思われるが,十二指腸を時間をかけて丁寧に観察している臨床医は少ない.特に乳頭部や副乳頭部の観察は,胆膵系内視鏡医を除いておろそかになっている可能性が高く,筆者自身を含めて大いに反省する必要があると長谷部論文を読んで感じた.また,十二指腸では小さな粘膜下腫瘍様病変に遭遇してもBrunner腺過形成と考えて無視することが多いが,その中には小さな神経内分泌腫瘍や異所性膵などが含まれている可能性があり,違和感を感じたら躊躇せずに生検を行うことも必要であろう.さらにびまん性病変では,本文中でも強調されている通り,IBD(特にCrohn病),さまざまな血管炎,Whipple病や糞線虫症といった感染症,消化管アミロイドーシスなどの十二指腸病変の特徴を知っておくことが,確定診断へのきっかけになる.

基本情報

05362180.53.12.jpg
胃と腸
53巻12号 (2018年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
8月12日~8月18日
)