胃と腸 53巻11号 (2018年10月)

今月の主題 胃拡大内視鏡が変えたclinical practice

序説

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要旨●A.慢性萎縮性胃炎:胃癌の高危険度群の抽出によく用いられている慢性萎縮性胃炎の通常光内視鏡所見/萎縮境界線を理解すべく努めた結果,以下の結論に達した.1)内視鏡的萎縮境界線は正常胃底腺粘膜と萎縮胃底腺粘膜の境界線と解釈される.2)その原著Kimura,Takemoto論文3)には問題となる表現があり,資料を揃えて改稿すべきかと考えられた.3)通常光内視鏡所見/萎縮境界線の確立には,通常光内視鏡所見と病理学的検索が行われた切除標本との対比検討が必要である.拡大内視鏡による小区単位の診断を通じて,領域単位の診断の進化が期待される.B.胃癌:見つけ出し診断,性状診断,浸潤範囲の診断は,拡大内視鏡なしには考えられない.A,B,共に“clinical practice”には,正確な通常内視鏡検査法の確立が最も重要で,その修練が疎かにならないよう配慮しつつ,拡大内視鏡検査がより普及,発展することが望まれる.

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要旨●慢性胃炎の大部分はH. pylori起因性である.胃はH. pyloriの視点から未感染の胃,H. pyloriが消失した非活動性胃炎,そして現在もH. pyloriが陽性の活動性胃炎の3つに大きく分けられる.そしてH. pylori感染により胃底腺から幽門腺化生へ,そして腸上皮化生の発生と腺の化生が進展する.これらの化生の変化の中で大部分の胃癌は発生する.これらの化生の状態を画像から診断することが胃の拡大内視鏡には求められてきた.組織学的所見から構築された現在の拡大内視鏡は胃粘膜のそれぞれの状態を診断することができる.すなわち胃炎の活動性の有無,そして胃底腺から化生によって発生したさまざまな腺の状態を診断することが可能となった.

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要旨●胃癌リスクに応じた上部消化管内視鏡のサーベイランス間隔を考慮するうえで,腸上皮化生の診断は重要である.腸上皮化生の存在診断に関しては,有用な拡大観察所見が複数報告されている一方で,内視鏡画像の鮮明化に伴い非拡大観察での診断能も向上している.腸上皮化生のうち不完全型腸上皮化生は完全型腸上皮化生に比べ胃癌発生リスクがより高いとする報告が多く,筆者らはNBI併用の拡大観察を用い,微細粘膜構造と腸上皮化生サブタイプの関連性を検討した.NBI拡大観察で畝状の表面構造が優勢である腸上皮化生は,不完全型である割合が高い傾向にあったが,正確な鑑別は困難であった.

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要旨●背景と目的:胃拡大内視鏡による早期胃癌診断の有用性について多数の報告がある.しかしながら,このモダリティーが実際の臨床(clinical practice)において何を変えたかは,明らかでない.そこで,ルーチン検査において,小さくまたは平坦な癌を診断するために採取されていた生検の数を減らした否かを求めた.対象と方法:1人の内視鏡医が,上部消化管拡大内視鏡を用いルーチン検査を行った連続した患者を対象に“早期胃癌1病変を診断するために必要であった生検の個数”を求めた.結果:上部消化管拡大内視鏡を用いルーチン検査を806例の患者に対し施行し,早期胃癌1病変を発見するために必要であった生検の数は,3.8個(生検数:34個/早期胃癌数:9病変)であった.考察:胃癌内視鏡検診で早期胃癌1病変を発見するために採取された生検の数は少なくとも34.1個であり,この数値と比較すると,拡大内視鏡をスクリーニング検査に用いれば,早期胃癌を診断するために採取されている生検数を減らせるという点でclinical practiceを変えていることが示唆された.結語:胃拡大内視鏡は早期胃癌診断に必要な生検数を減らすという点でclinical practiceを変えたoptical biopsyとして有用かつ非侵襲的な診断法である.

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要旨●2012年1月〜2014年12月までの期間にESDが施行された早期胃癌537例684病変を対象として,同時性胃癌は99例(18.4%)128病変,異時性胃癌は92例(17.1%)102病変に認めた.NBI拡大観察によるVS classification systemを臨床導入することによって,高い診断精度で病変を拾い上げることができた.今後は診断精度のばらつきを少なくするために日々の教育やトレーニングが重要になると思われる.

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要旨●拡大内視鏡観察と通常観察(色素内視鏡を含む)による早期胃癌の範囲診断能を検討した.2014年4月〜2018年3月までESD適応と考えられ,拡大内視鏡観察にて精査を行った218病変を対象とした.全周で正診できた病変は通常観察では65.1%,NBI併用拡大内視鏡観察(ME-NBI)では98.6%であった.また通常観察では17%の病変で1/2周以上で境界が不明瞭であり,術前に生検を行い切除範囲決定する必要があると考えられた.平坦型病変で通常観察だと,10.6%と正診率が低かったが,ME-NBIだと純粋0-IIb,随伴0-IIb病変にかかわらず,97.0%であり,高い正診率であった.以上の結果から術前範囲診断にはME-NBIは必須である.

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要旨●除菌後発見胃癌60症例の白色光・NBI拡大観察による境界診断能を比較した.また対象の中で胃角より口側に位置する43病変の背景粘膜を拡大内視鏡・病理組織像で検討した.境界診断正診率は白色光65.0%(39/60),NBI拡大観察98.3%(59/60)で,NBI拡大観察が有意に高かった.病変周囲の背景粘膜を拡大内視鏡で観察すると,病変の存在位置は中間帯:胃底腺領域:萎縮領域は19例(44.1%):3例(7.0%):21例(48.8%)と判定された.病理組織学的判定では胃底腺と幽門腺化生または腸上皮化生が混在し中間帯と判断される症例は31例(72.1%)であった.中間帯はまだらな色調と凹凸により病変の認識が困難となりやすいが,非・弱拡大NBIで範囲診断できることも多く,非拡大NBIによるスクリーニングが有用な可能性がある.

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はじめに

 筆者は病理医が日常病理診断の中で拡大内視鏡所見をどの程度参考にしているのか知らない.また,各施設の症例検討の場で拡大内視鏡所見と病理組織学的所見の対比をどれくらい掘り下げて行っているのかあまり知らない.そのような状況だが,病理診断と拡大内視鏡観察のかかわり(接点)について私見を述べる.

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要旨●胃癌取扱い規約第14版における生検組織診断Group 2には癌から再生異型までの病変が含まれる.生検組織診断Group 2と診断された場合には再検査が臨床対応の基本であるが,再検査前に内視鏡画像の見直し,深切りや免疫染色を含む生検検体の見直し,および内視鏡医と病理医の対話を行うという慎重かつ柔軟な対応が必要である.さらに,本検討での生検組織診断Group 2病変におけるNBI併用拡大内視鏡の生検前診断能を鑑みると,時には診断的治療としてのESDは臨床対応の一つとして許容される.

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要旨●目的:超微小胃癌(1mm以下)を微小胃癌(1mmより大きく5mm以下)および非微小胃癌(5mmより大きい癌)と比較した.対象と方法:超微小胃癌24例と微小胃癌35例および非微小胃癌101例を対象に臨床病理学的事項と免疫組織化学的に粘液形質(MUC5AC,MUC6,MUC2,CD10),CDX2,p53,βカテニン,MLH-1発現状態を検討した.結果:超微小胃癌はp53過剰発現が有意に多く,βカテニン核内蓄積は非微小胃癌で多いが,MLH-1発現状態は3群で差はなかった.結論:超微小胃癌はp53経路の異常において内視鏡的切除される1mmより大きい癌とは異なる性質を示していた.Wntシグナル系は癌の発育に伴い異常が蓄積し,ミスマッチ修復遺伝子は癌発生の比較的初期の段階で異常を来す可能性が示唆された.

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要旨●A型胃炎における拡大内視鏡の特徴的所見として,“抜け殻”所見(CSA)とWGAを提示した.CSAとは胃体部小彎に観察されるNBI拡大所見で,通常観察では高度萎縮の所見にもかかわらずNBI拡大所見でネットワーク状毛細血管が保たれ中央に存在すべき腺開口部が脱落し,あたかも“抜け殻”のように見える所見に対して筆者らが命名したものである.生検組織との対比よりネットワーク状血管が保たれているのは粘膜深層の胃底腺の炎症が優位で腺窩上皮には炎症が少ないためであり,腺開口部が不明瞭なのは胃底腺の萎縮により全体の腺窩が浅くなったことが影響していると推測した.また,A型胃炎ではWGA所見もしばしば観察されることを指摘した.A型胃炎でも胃底腺萎縮が高度になり腺窩上皮にも腸上皮化生が生じれば,通常のB型胃炎と同様の萎縮所見を呈する.CSAはその前の段階で観察される所見の可能性がある.

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要旨●患者は70歳代,女性.胃体下部大彎に過形成性ポリープ(hyperplastic polyp)を指摘され,内視鏡治療目的に当院へ紹介となった.通常観察では同部位に25mm大の白色部分を伴う発赤調の有茎性ポリープ(Y-IV型)を認めた.NBI観察では,通常観察でも認めた白色部分が明瞭化し,WOS(white opaque substance)と診断された.NBI併用拡大観察ではポリープの表面全体にWOSの密度が低く点状・斑状の部分と密度が高く線状・不整形の部分を認めた.生検では通常の胃過形成性ポリープと診断されたが,WOSが陽性である非典型的な胃過形成性ポリープと診断し,polypectomyを施行した.病理所見上,全体は通常の胃過形成性ポリープの所見であったが,表層には腸型形質を伴う低異型度の高分化管状腺癌を散在性に認めた.最終診断はadenocarcinoma in hyperplastic polypであった.WOSは腸型形質の存在を示唆する所見であること,WOSが癌の領域にのみみられたことから,WOSが胃過形成性ポリープにおける腸型形質を伴う腫瘍化の指標となりうる可能性が示唆された.

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要旨●患者は60歳代の男性と60歳代の女性.上部消化管内視鏡検査で,胃体上部前壁に発赤調の強い小ポリープ様病変の近傍に,胃底腺ポリープと考える正色調の小ポリープを認めた.加えて萎縮のない背景胃粘膜に数個の胃底腺ポリープが散見された.2例ともHelicobacter pyloriは陰性であった.NBI拡大観察で,発赤調の強い小隆起性病変は,窩間部が開大した弧状〜楕円形の不規則な腺窩辺縁上皮内部に不整な微小血管を認め(上皮内血管パターン),分化型癌を疑った.一方,近傍の正色調のポリープは整った蜂の巣状の上皮直下毛細血管内部に楕円形の整った腺開口部を認め(血管内上皮パターン),異型のない胃底腺ポリープと考えた.診断的治療目的に,隣接する2つのポリープをESDにて一括切除した.2例とも最終病理組織診断は,発赤調の強い小ポリープ様病変は胃型(腺窩上皮型)への分化を示す超高分化腺癌で,胃底腺ポリープに発生した癌と診断された.一方,近傍の正色調ポリープは異型のない胃底腺ポリープと診断された.2例ともにプロトンポンプ阻害薬の内服歴はなく,家族性大腸腺腫症は否定的であった.NBI拡大観察が通常の胃底腺ポリープとの鑑別に有用であった,まれな散発性胃底腺ポリープからの癌化例を2例経験した.

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要旨●患者は70歳代,男性.嘔吐,下痢,腹痛のため救急入院となった.感染性胃腸炎を疑い抗菌薬を投与したが軽快しなかった.7日後には腹痛の増強と発熱が出現し,CRPの上昇とAlbの低下を認めた.腹部造影CTにて十二指腸下行脚〜空腸の著明な壁肥厚を認めた.小腸内視鏡にて空腸上部〜十二指腸水平脚は剝離しかけの粘膜と広範な潰瘍を認め,十二指腸下行脚には島状の粘膜の残存がみられた.これらの画像所見と持続する腹痛から,紫斑はないもののIgA血管炎と診断し,ステロイド治療を行い軽快した.後日,凝固第XIII因子の低下が判明し,生検組織でIgA血管炎として矛盾しない所見と判断された.高齢者の紫斑のないIgA血管炎のまれな1例を報告し,考察を加えた.

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目次

欧文目次

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早期胃癌研究会 症例募集

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次号予告

編集後記 小野 裕之
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 拡大内視鏡の歴史は古い.

 1970年代には,榊らが拡大ファイバースコープで胃粘膜を白色光で拡大観察し,拡大内視鏡分類を発表している.しかし,当時はH. pylori(Helicobacter pylori)の存在が明らかになっておらず,胃炎の多様性もあいまって,残念ながら広く用いられるには至らなかった.

基本情報

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胃と腸
53巻11号 (2018年10月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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