胃と腸 53巻10号 (2018年9月)

今月の主題 食道表在癌の拡大内視鏡診断─食道学会分類を検証する

序説

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はじめに

 食道扁平上皮癌の拡大内視鏡分類には,井上分類1)と有馬分類2)があり,共に優れた分類として用いられてきた.しかし,画像強調拡大内視鏡の普及に伴い,画像が読影され,議論される機会が多くなり,そのたびに,“井上分類では”“有馬分類では”という注釈がつけられた.食道癌に精通していない,一般の内視鏡医から,複雑で混乱するため,できれば統一してほしいとの要望が,多くのところで聴かれた.当時の日本食道学会の理事長(幕内博康)が,日本食道学会の委員会として,“拡大内視鏡による食道表在癌深達度診断基準検討委員会”を設置し,小山恒男を委員長に任命し,井上分類,有馬分類をもとに,簡便で初学者にも使いやすい分類の作成を依頼した.約2年にわたり,熱心に討議し,「日本食道学会拡大内視鏡分類」3)が作成された.

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要旨●頭頸部を含む扁平上皮領域における早期癌の診断は,NBIの開発によって飛躍的に向上した.NBI観察時に拾い上げの指標となる淡い発赤領域の要因である,拡張したIPCLのほかに,血管周囲の上皮の色調変化に焦点をあて,その成因について検討・考察した.NBI陽性となる原理であるHbあるいは類似の成分の存在を疑って検討を行い,癌細胞内のHb含有および産生能の可能性について概説する.

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要旨●SECNとは食道重層扁平上皮直下に存在する細いネットワーク状の毛細血管網であり,IPCLとともに上皮を栄養している終末毛細血管である.M1,M2癌では粘膜固有層のSECNが増生し,これがbackground colorationの原因となっている.CD31などの免疫染色では粘膜固有層のmicrovessel densityは癌部で正常部分と比較し有意に増加していた.SECNの増生には粘膜固有層に浸潤した腫瘍関連マクロファージから分泌される血管新生因子が関与している.

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要旨●2011年に日本食道学会拡大内視鏡分類が作成され,現在臨床の場で広く普及している.B1血管やB3血管の診断精度は高い一方で,B2血管を呈する病変の深達度はT1a-LPM〜T1b-SM2まで幅広く存在し,特にT1b-SM2癌を示す病変の割合が高くunder diagnosis症例が多い.そこでB2血管の領域性に着目し,その長径と深達度との相関を詳細に検討した.T1b-SM2癌におけるB2血管領域長径中央値は10mmであり,T1a-LPM癌(5mm)やT1a-MM/T1b-SM1癌(4mm)に比べて有意に大きい結果であった.さらに,B2血管領域をB2血管のみで構成されるpure typeとB1血管が混在するmixed typeに分類した多施設での検討でも,pure typeにおいてT1b-SM2癌のB2血管領域長径はT1a-LPM癌やT1a-MM/T1b-SM1癌より有意に大きい結果であった.今後B2血管による診断精度向上のためには,この領域性を加味した診断が有用である可能性が示された.

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要旨●拡大内視鏡所見の血管パターンに病理組織学的な裏付けを与えることは重要であるが,内視鏡的に認識される血管と組織切片上の血管とを一対一に対応させることはしばしば困難である.病理組織像と血管の走行とを結びつける一つの方法として,連続切片の3次元的再構築を試みた.Type B1血管は本来のIPCLの構築を保ち,血液のsupplyとdrainは固有層浅層にあり,両者が近接しているため,表面からループ構造が認識できる.一方,Type B2血管は粘膜下層血管との交通が増しており,supply/drainは深部に移動,両者の間隔も離れるため,表層からのループ認識が困難になると考えられる.これらの知見も踏まえ,拡大内視鏡所見と病理組織像との関連について考察する.

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要旨●NBI拡大内視鏡で観察される非ループ血管(B2血管)を,血管径が細く高密度の“B2 i”と,それ以外の“B2 pure”へ亜分類し,その特徴を検討した.2011年1月〜2018年5月までに食道ESDを施行した食道扁平上皮癌(SCC)のうち,NBI拡大観察にてB2と診断し,組織像との一対一対応が可能であった連続51例53病変を対象とした.B2 pureを認めた44病変の病理組織学的診断はすべてSCCであった.一方,B2 iを認めた9病変の病理組織学的診断はSCCが2病変のみで,7病変がびらん・炎症であった.また,CD34染色22切片を用いてNBI拡大観察でB2 pureおよびB2 iが観察された領域の,表層から100μmまでの血管短径と密度を計測した.密度平均値は,B2 pureで3.35本/mm,B2 iで8.22本/mmで,B2 iで密度が有意に高かった(p=0.001).血管短径平均値は,B2 pureで12.3μm,B2 iで6.65μmで,B2 iは有意に血管径が細かった(p=0.0028).血管径と密度の相関をみると,B2 iではより細く高密度であり,B2 pureではより太く低密度であることが示された.B2 iはびらん・炎症の特徴的な拡大所見であり,深達度の深読みを予防しうる重要な指標と思われた.

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要旨●食道表在癌における特殊組織型は,その頻度が低いことから,拡大内視鏡での検討がほとんど成されていない.自験例での検討では,粘表皮癌は,拡大内視鏡での血管像で明瞭なものはないが,粘液成分を表面に有し,癌の導管進展を伴うことがあることが認識された.腺扁平上皮癌は,表層まで腫瘍が露出するとreticular patternを呈し,深部にのみ存在する場合は,通常の扁平上皮癌と同じである.小細胞癌は褪色調の粘膜下腫瘍様形態を呈し,reticular patternが認められる.類基底細胞癌は,赤みが強く,ループ形成のない拡張した血管が密に増生していることが特徴として挙げられた.拡大内視鏡のみでの診断は困難であり,肉眼形態や付帯する所見を加味して診断することが必要である.

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要旨●日本食道学会分類で,AVAはType Bで囲まれた無血管もしくは血管が疎な領域と定義され,Type B1から成るAVAはT1a-EP/LPM癌に相当するとされている.実際にはType B1とType B2が混じて論じられ,AVAの大きさやAVAそのものの認識も評価が分かれ,深達度診断がばらつく一因となっている.今回,筆者らはAVAを囲む非ループ血管のうち,拡張・蛇行・口径不同・形状不均一の4徴を満たさない血管から成るAVAをnon B2-AVA,4徴を満たすB2-AVAに大別した.non B2-AVAは,①soccer ball appearanceを呈する典型的なAVA-small,②口径不同に乏しい血管がリング状に並び集合するが,一部でリング状構造が途切れてみえるmesh,③口径不同に乏しい血管が上下方向に波打ち,表層で互いに癒合し円形に配列するbaranに細分類できる.AVAを血管形態別に病理組織像と対比し,臨床病理学的特徴を検討した.non B2-AVAは浸潤傾向が弱く,mesh,baranはsoccer ball appearanceを呈するAVA-smallのvariationと考えられた.一方で,B2-AVAはAVA径が小さいうちから乳頭構造が破壊され,血管の口径不同や走行異常がみられ,浸潤傾向を呈していた.B2-AVAを見きわめ,non B2-AVAと鑑別することが,正確な深達度診断のために必要と考えられた.

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要旨●食道学会分類のB3血管はSM2癌の指標として用いられているが,自験例ではB3血管のSM2癌に対する感度は25%と低かった.また,B3血管が病変内にみられれば病変の深達度はほぼSM2であるが,病変周囲の周堤部にみられる場合はSM1以浅にとどまることがあり,注意が必要である.B3血管の低い感度を補完する指標として“B2血管領域10mm以上”や“0-I隆起+B2血管”があり,これらはSM2の診断感度を向上させるが,感度と特異度の両面で優れているかは今後の検討が必要である.また,拡大観察にEUSを加えることで新たな情報が加わるが,その上乗せ効果は隆起性の病変で大きい傾向にあった.

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目次

欧文目次

「今月の症例」症例募集

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 小山 恒男
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 日本食道学会分類(JES classification)は2011年に原案が完成し,prospective studyを経て,2017年に「Esophagus誌」にpublishされた.JES classificationでは,まず乳頭内血管ループ(intra-epithelial papillary capillary loop ; IPCL)に注目した.初期の扁平上皮癌(squamous cell carcinoma ; SCC)は基底膜を破壊せず,既存の乳頭構造を置換性に発育する.この結果,拡大内視鏡で観察すると,不整ながらループを保った異常血管が観察される(JES B1).しかし,深部へ浸潤すると乳頭様構造は破壊され,loopを呈さない新生血管(腫瘍血管)JES B2,B3が出現する.JES classificationは単なる血管パターン分類ではなく,血管構造を読み解くことで癌の進行過程を推察しうる,優れた分類であり国内外で広く使われるようになった.

 その一方で,“JES B2はT1a-LPMからT1b-SM2まで幅広く出現する”,“JES B2はびらんや炎症でもみられる”,“JES B3やAVA-Lは頻度が低いため,T1b-SM2の感度が低い”など,残された問題点が指摘されてきた.そこで本号では,JES classificationを再検証するとともに,近年解明された新たな拡大内視鏡所見を検討することにした.

基本情報

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胃と腸
53巻10号 (2018年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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