胃と腸 52巻13号 (2017年12月)

今月の主題 咽頭・頸部食道癌の診断と治療

序説

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はじめに

 「胃と腸」誌で,最初に咽頭癌を取り上げたのは,40巻9号(2005年)の「表在性の中・下咽頭癌」である.早期食道癌に対する外科治療の治療成績を踏まえ,1990年より早期食道癌に対する内視鏡治療が始まり,食道の温存治療を行った症例を対象に,治療後の遺残再発や異時性食道癌,他臓器重複癌などの検索を目的に,長期にわたり内視鏡検査が行われてきた.これら治療例の経験から,早期食道癌症例の長期経過として,異時性多発癌や他臓器重複癌発生の詳細が判明した.それまでは,内視鏡検査は食道から始めるものであり,咽頭の観察はなされていなかったのが事実であるが,食道の内視鏡治療に携わった医師たちが,食道粘膜と同じ扁平上皮である咽頭にも,同様の癌が発生することに気づき,率先して咽頭の観察を始めた.「表在性の中・下咽頭癌」の号では,中・下咽頭癌の報告と同時に,内視鏡検査における中・下咽頭の観察方法 1)も示された画期的な号となった.

 2005〜2017年までに,2回の特集号が組まれているが,2010年に発行された45巻2号「中・下咽頭表在癌の診断と治療」の号では,通常観察,NBI(narrow band imaging)観察,拡大観察による咽頭癌の内視鏡診断に加え,経鼻内視鏡による診断学も含まれていた.咽頭癌に対する内視鏡治療 2)では,EMR(endoscopic mucosal resection),ESD(endoscopic submucosal dissection),ELPS(endoscopic laryngo-pharyngeal surgery)など手技の異なる内視鏡治療の治療成績が述べられ,既に2000年より始められた咽頭癌の内視鏡治療の長期予後も報告されていた.続いて,2012年に発行された47巻3号「咽頭・頸部食道癌の鑑別診断」では,観察方法と内視鏡診断に主眼が置かれ,良性疾患との鑑別も述べられていた.

 今回の「咽頭・頸部食道癌の診断と治療」の号では,経口法あるいは経鼻法における拾い上げ診断の違いや工夫,異なる内視鏡治療手技の棲み分け,治療困難例に対する対応や治療後の狭窄に対する予防対策などが述べられていると期待している.食道癌に対するNBIでの拾い上げ診断の方法論が確立し,同様の方法にて咽頭癌の発見例も増加し,内視鏡治療例も増えた.しかし,治療例の増加に伴い,咽頭領域ではいくつかの問題点が生じている.今後の課題として,病理学的な浸潤の判定やリンパ節転移との関わり,予後を左右する因子は何か,内視鏡治療では機能温存を求めた治療手技における合併症対策,治療内視鏡のガイドラインの作成や,治療後の経過観察の方法やその期間など,整備・解決しなければならない問題が山積みである.

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要旨●NBI(狭帯域内視鏡)の開発は,咽頭における表在性扁平上皮癌の発見と発生および嚥下という重要な生理機能を温存することを可能にする大きな治療革新を起こした.このように縮小切除が施行された患者の経過が明らかになっていくにつれて,表在癌に対して解決すべき課題が突きつけられるようになった.その一つは,縮小切除後のリンパ節郭清といった追加治療の可否を病理組織像から予測可能か否かである.咽頭癌では,粘膜筋板がないために壁深達度の概念はT因子に含まれておらず,広い上皮下層を細分類してリンパ節転移に関するリスクを食道癌のように段階別に表示できない.そのため,咽頭癌ではtumor thicknessを壁深達度に代わる組織学的因子として用いている.本稿では表在癌が抱える問題を解説する.

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要旨●経口的手術で切除した中・下咽頭表在癌74病変を対象に,臨床病理学的所見を検討した.リンパ節転移またはリンパ管侵襲を来す病変は,Type B2 or B3血管(p=0.017),上皮下層浸潤(p=0.026),遊離胞巣(p=0.004),静脈侵襲(p<0.001)を有意に認め,腫瘍は厚かった(p=0.007).0-I(p=0.008)とType B2 or B3血管(p=0.001)は上皮下層浸潤にみられる所見であった.白苔(p=0.016),隆起型(p<0.001),混合型(p=0.022)は腫瘍が厚い所見であった.腫瘍は0-Ip>0-Is>0-IIc>0-IIa>0-IIbの順に厚く(p<0.001),Type B1<B2<B3の順に厚かった(p<0.001).

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要旨●経鼻内視鏡は,ここ数年で画質が格段に向上し,NBIやBLI,LCIといった画像強調内視鏡を備え,また中咽頭反転法やValsalva法などの活用により,これまで経口内視鏡の死角となっていた舌根や下咽頭後壁,輪状後部などの観察が容易となった.当科では1996年から咽頭表在癌の内視鏡治療を開始しているが,経口内視鏡で現在までに拾い上げた頭頸部表在癌は77例97病変に対し,2008年より経鼻内視鏡で拾い上げたのは164例227病変と倍以上に増加した.領域性のある発赤,正常血管網の消失,微細な小白苔の付着,ドット状またはイクラ状の異常血管の同定が拾い上げに有用で,深達度診断には十分に咽頭粘膜を伸展して,0-I型の隆起成分の有無を頼りにするとよい.

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要旨●表在型中・下咽頭癌が多く発見されるようになる一方で,その生物学的特徴について明らかにすることが求められている.筆者らのデータでは,自然経過で多くの症例が緩徐な発育を来し,全体として年平均4mmのサイズの増大が認められた.しかし,急速に増大した症例もあることから,少なくとも半年ごとのフォローが必要である.化学療法における反応性に関しては,奏効率が61%,病勢コントロール率は97%であり,良好な成績が得られた.生検による変化については,限られた症例であるが形態変化を来す場合が経験される.したがって,形態変化を来した部位の詳細な観察とともに,生検部位の確認は必要である.こうした動態を踏まえた表在型咽頭癌に対する適切な治療方法の選択が望まれる.

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要旨●上部消化管検査時に,咽頭領域を観察することの重要性が広く認知されるようになり,内視鏡医がこれらの領域の病変を発見する機会が増加している.内視鏡室での観察時にヨード撒布が困難な咽頭・喉頭領域では,NBIをはじめとする画像強調機能を有する拡大内視鏡が病変の拾い上げ,質的診断に有用なモダリティーである.咽頭領域のbrownish areaの鑑別診断は,領域性の有無と血管形態の変化を中心に,咽頭癌,リンパ濾胞,乳頭腫,メラノーシス,炎症,化学放射線後の変化を鑑別していく.咽頭癌であれば治療適応となるが,その他の病変は基本的に経過観察が推奨される.無治療で経過観察したbrownish areaについては,組織学的に癌と診断され10mm前後のサイズのものは増大すると報告されているが,5mm以下の小さなものはあまり増大しないようである.

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要旨●初回治療としてESD/ELPSを施行した中・下咽頭表在癌115症例を対象とし,治療成績を検討した.一括切除率は96.8%であった.治療後の狭窄・嚥下障害を6例に認めた.内視鏡治療後は“resect and watch strategy”の方針とした.後発リンパ節転移を9例に認め,そのうち8例は脈管侵襲陽性例であった.局所再発を1例に認めたが,内視鏡治療可能であった.異時多発病変を25例に認め,累積発生割合は3年で25.8%であった.5年全生存割合は86.7%,5年疾患特異生存割合は97.7%であった.ESD/ELPSは中・下咽頭表在癌に対する有用な低侵襲治療であるが,食道入口部近傍の広範囲切除例では術後狭窄に注意が必要であり,その適応は慎重に判断するべきである.

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要旨●近年,咽頭・頸部食道領域においても多くの表在癌が発見され,咽頭・頸部食道表在癌の診断・治療は非常に注目されている.筆者らは咽頭表在癌に対し,ELPSを開発し施行してきた.ELPSは咽喉頭領域のほぼすべての病変に対して切除可能であり,広範囲の病変でも短時間で安全かつ確実な一括切除が可能である.しかし,病変が食道入口部を越え,頸部食道に達すると喉頭挙上してもワーキングスペースが狭く,鉗子が干渉してしまう.そのため,食道入口から頸部食道の病変はESDの適応である.下咽頭から頸部食道に連続する表在癌に対しては下咽頭はELPS,食道はESDで切除するハイブリッド内視鏡手術の適応である.咽頭・頸部食道表在癌に対する内視鏡治療はELPSとESDの両方の手技を切除部位によって適材適所に使用することが重要である.

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要旨●2007〜2016年に経験した頸部食道表在癌55例57病変(男性46例,女性9例)を対象に検討した.他院発見が8例8病変(14.0%),当院発見が47例49病変〔86.0%(食道癌EMR/ESD後36.8%,食道癌術後26.3%,同時性多発癌7.0%,他臓器癌10.5%,一般検査5.3%)〕であった.当院の内視鏡検査は,挿入時は白色光を主体に,抜去時はNBIで観察を行っている.挿入時の白色光観察で発見した13病変中6病変(46.2%)は,T1a-MM以深癌であった.抜去時のNBI観察で発見した21病変中17病変(81.0%)は15mm以下であり,T1b-SM癌が2病変含まれるも,大半はT1a-LPMまでの癌であった.食道入口部近傍の3病変を含め,6病変の発見にはアタッチメント装着が有用であった.57病変の腫瘍長径は,最小2mmから最大43mmであり,病変の約80%は20mm以内であった.病型は,0-I型が2病変(3.5%),0-IIa型および0-IIa型の混合型が10病変(17.5%),0-IIb型が7病変(12.3%),0-IIc型が38病変(66.7%)であった.深達度は,T1a-EP癌が32病変(56.1%),T1a-LPM癌が12病変(21.1%),T1a-MM癌が7病変(12.3%),T1b-SM1癌が2病変(3.5%),T1b-SM2癌が4病変(7.0%)であり,T1a-LPMまでの癌が約77%を占めていた.T1a-MM癌1病変とT1b-SM2癌2病変の3病変は脈管侵襲陽性,T1b-SM1癌1病変はINFcであった.頸部食道表在癌を効率よく発見するためには,食道癌の既往や,多発ヨード不染を有する症例を中心に,鎮静剤使用下で内視鏡検査を行い,NBIで観察する.頸部食道の内視鏡観察は食道入口部を越え,咽頭部まで行うが,病変との距離間が保てない場合はアタッチメントやキャップ,フードなどを装着して観察する.

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要旨●頸部食道は生理的狭窄部位であり,内視鏡観察が難しい.また,スコープの操作性が悪く,時には喉頭展開を要する.また,ESD後の狭窄リスクが高いため,ステロイド局注や経口投薬,2期に分けたESDなど,狭窄予防に工夫を要する.本稿では,頸部食道癌に対するESDの特徴,コツと偶発症予防法を解説した.

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要旨●患者は50歳代,男性.下部直腸に径25mm大の発赤の強い表面陥凹型腫瘍を認めた.NBI拡大観察でvessel patternは中央で網目・らせん状血管,辺縁で細い血管を認め,avascular areaは認めなかった.surface patternは不明瞭で,JNET分類Type 2Bと診断.クリスタルバイオレット染色拡大観察では,VI型高度不整pit patternを認め,一部にI型pitが混在していた.患者本人の希望でESDを施行した.moderately differentiated tubular adenocarcinoma(tub2>por1>por2),pT1a(SM1,400μm),ly(−),v(−),pHM0,pVM1.MUC5AC,MUC6,pepsinogen IIが陽性で,胃型粘液形質を呈していた.直腸に占居し,かつ胃型粘液形質を呈し,低分化成分のあるLST-NG(0-IIc)病変は希少症例と考え,報告する.

早期胃癌研究会

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 2017年1月の早期胃癌研究会は2017年1月18日(水)に笹川記念会館2F国際会議場で開催された.司会は小山(佐久医療センター内視鏡内科)と小林(福岡山王病院消化器内科),病理は二村(福岡大学医学部病理学講座)が担当した.また,画像診断教育レクチャーは,和田(順天堂大学医学部付属静岡病院病理診断科)が「臨床医が知っておくべき病理 その2【大腸】腺腫と高分化腺癌」と題して行った.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集

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 《プリンシプル消化器疾患の臨床》第2巻の「腸疾患診療の現在」を入手し,読破した.専門編集は東京医科歯科大の渡辺守教授,編集委員は佐々木裕教授(総編集),木下芳一教授,下瀬川徹教授という日本の消化器病学会の第一人が英知を集めて執筆者を選んでいる.

 最近の消化管関係の出版物では,内視鏡検査やCT・MRIの読み方など画像診断の単行本は多く出版されている.これらの本は画像という外観から病気をみているが,人を判断するのに外見だけではなく,中身が味わい深いかどうかが人の価値を決めるように,本の価値も構成と内容の深さが重んじられる.

早期胃癌研究会 症例募集

学会・研究会ご案内

次号予告

編集後記 八尾 隆史
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 近年,NBI(narrow band imaging)に代表される画像強調内視鏡の普及に伴い,表在型咽頭・頸部食道癌の発見が増加してきた.しかしながら,発見数が増加したとはいえ,表在型咽頭・頸部食道癌のリンパ節転移の頻度や危険因子については明確にされていなかった.そこで本特集号では,表在型咽頭・頸部食道癌の内視鏡診断(発見および鑑別診断),治療方針,治療法について,最新の知見をまとめ,今後の診療に生かすことを目的とした.

 発見に関してはNBIを用いて死角なく十分な観察を行う必要があり,そのコツに関しては経鼻内視鏡の有用性を含め川田論文で解説されている.内視鏡診断の詳細は門馬論文で解説されている.NBIにより発見されるbrownish areaには癌以外にもリンパ濾胞,乳頭腫,メラノーシス,炎症,化学放射線療法後の変化など種々なものがあり,その特徴と鑑別に関しては松浦論文で解説されている.

基本情報

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胃と腸
52巻13号 (2017年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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