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はじめに
「胃と腸」誌で,最初に咽頭癌を取り上げたのは,40巻9号(2005年)の「表在性の中・下咽頭癌」である.早期食道癌に対する外科治療の治療成績を踏まえ,1990年より早期食道癌に対する内視鏡治療が始まり,食道の温存治療を行った症例を対象に,治療後の遺残再発や異時性食道癌,他臓器重複癌などの検索を目的に,長期にわたり内視鏡検査が行われてきた.これら治療例の経験から,早期食道癌症例の長期経過として,異時性多発癌や他臓器重複癌発生の詳細が判明した.それまでは,内視鏡検査は食道から始めるものであり,咽頭の観察はなされていなかったのが事実であるが,食道の内視鏡治療に携わった医師たちが,食道粘膜と同じ扁平上皮である咽頭にも,同様の癌が発生することに気づき,率先して咽頭の観察を始めた.「表在性の中・下咽頭癌」の号では,中・下咽頭癌の報告と同時に,内視鏡検査における中・下咽頭の観察方法 1)も示された画期的な号となった.
2005〜2017年までに,2回の特集号が組まれているが,2010年に発行された45巻2号「中・下咽頭表在癌の診断と治療」の号では,通常観察,NBI(narrow band imaging)観察,拡大観察による咽頭癌の内視鏡診断に加え,経鼻内視鏡による診断学も含まれていた.咽頭癌に対する内視鏡治療 2)では,EMR(endoscopic mucosal resection),ESD(endoscopic submucosal dissection),ELPS(endoscopic laryngo-pharyngeal surgery)など手技の異なる内視鏡治療の治療成績が述べられ,既に2000年より始められた咽頭癌の内視鏡治療の長期予後も報告されていた.続いて,2012年に発行された47巻3号「咽頭・頸部食道癌の鑑別診断」では,観察方法と内視鏡診断に主眼が置かれ,良性疾患との鑑別も述べられていた.
今回の「咽頭・頸部食道癌の診断と治療」の号では,経口法あるいは経鼻法における拾い上げ診断の違いや工夫,異なる内視鏡治療手技の棲み分け,治療困難例に対する対応や治療後の狭窄に対する予防対策などが述べられていると期待している.食道癌に対するNBIでの拾い上げ診断の方法論が確立し,同様の方法にて咽頭癌の発見例も増加し,内視鏡治療例も増えた.しかし,治療例の増加に伴い,咽頭領域ではいくつかの問題点が生じている.今後の課題として,病理学的な浸潤の判定やリンパ節転移との関わり,予後を左右する因子は何か,内視鏡治療では機能温存を求めた治療手技における合併症対策,治療内視鏡のガイドラインの作成や,治療後の経過観察の方法やその期間など,整備・解決しなければならない問題が山積みである.
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