胃と腸 47巻7号 (2012年6月)

今月の主題 大腸憩室疾患

序説

大腸憩室疾患の現況 芳野 純治
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はじめに

 大腸憩室は近年増加しており,それに伴う大腸憩室出血や大腸憩室炎などの合併症に遭遇することが多くなっている.特に,高齢化が進んでいる本邦における臨床診療において常に念頭に置いておかなければならない疾患である.しかし,大腸憩室に関する詳細な研究はそれほど多くはない.「胃と腸」誌でこれまで大腸憩室を主題として取り上げたのは「大腸憩室」(15巻8号,1980年)があるだけである.

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要旨 大腸憩室は,欧米のみならず本邦においても増加してきており,1995年以降の発表では15.0~34.6%の頻度と報告されている.その罹患率は年齢とともに増加し,80歳以上では42~60%に認められる.欧米では左側大腸に群発するが,本邦では右側大腸に単発で認められる場合が多い.しかしながら,加齢とともに本邦でも左側大腸憩室を有する割合が増加している.大腸憩室の合併症として最も頻度の高い疾患は大腸憩室炎である.その10~30%に認められ,膿瘍や瘻孔のため外科手術を要する症例もあり,本邦では虫垂炎との鑑別が臨床上に重要である.大腸憩室出血の頻度は5~10%とされており,その頻度は低いが,高齢者の大腸憩室患者に多く,今後増加していくことが予想される.

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要旨 1999年から3年間に行った注腸検査1,040例のうち大腸憩室は373例(35.9%)に認められた.大腸憩室は年齢とともに増加し,右側結腸では40歳代まで急激に増加したが,左側結腸では年齢とともに次第に増加し,右側結腸とほぼ同率になった.大腸出血性疾患557例のうち大腸憩室出血は55例で,出血部位は左側結腸40例,活動性出血を認めた例は7例,治療は外科手術1例,塞栓術1例,内視鏡的止血術5例であった.便秘症は56.4%,内服薬はLDAを含む抗血栓薬が43.6%,LDAを服用した者が27.3%,NSAIDsが25.5%であった.大腸憩室炎に伴う穿孔に対して治療を行った14例はS状結腸に最も多く発生し,内服薬はNSAIDs 5例,便秘薬5例,LDA 2例であった.

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要旨 大腸憩室および大腸憩室に関連した疾患・病変について概説した.本稿で取り扱った項目は,大腸憩室の臨床病理学的基礎事項,憩室炎・憩室周囲炎,虫垂憩室炎,憩室炎の合併症,MPS様の炎症性隆起性病変,およびdiverticular colitisである.MPS様の隆起性病変は,憩室症に伴う腸管の短縮・拡張不良によって憩室周辺に生じた“たるんだ”粘膜が慢性的な牽引性の機械的刺激を受けることにより形成される.diverticular colitisとは大腸憩室症に時に合併する区域性の慢性腸炎で,内視鏡的にも組織学的にもIBD,特に潰瘍性大腸炎に類似した所見を呈する.生検組織所見のみではdiverticular colitisと潰瘍性大腸炎の鑑別が困難な例も存在する.両者の鑑別で重要な点は,diverticular colitisでは肉眼的(内視鏡的)にも,組織学的にも直腸に炎症所見が乏しいことである(rectal sparing).

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要旨 2005年4月~2011年4月に市立旭川病院消化器病センターで診断・治療を行った大腸憩室炎の92例について臨床的に検討した.92例全例が,腹部CT検査で診断されており,発症平均年齢は55.4歳で男女差を認めなかった.65歳未満の若年者では右側結腸の,65歳以上の高齢者では左側結腸の憩室炎発生が有意に多かった(p=0.03).発症時の臨床検査として,WBCとCRPのpeak値はともに,入院治療例では外来治療例に比較して有意に高値であり(p=0.0001),入院治療の決定に有用な検査の1つとなりうる.手術施行例は9例で,左側結腸の憩室炎で多く行われていた(p=0.02).憩室炎の診断に注腸X線,内視鏡検査の役割は少ないが,手術例においては非手術例と比較して注腸X線が多く施行されており(p=0.003),術前の憩室腸管の切除吻合部位の同定に有用であった.逆に内視鏡検査は他疾患との鑑別目的で非手術例において多く施行されていた(p=0.003).各種検査の特徴を理解し,大腸憩室炎患者の治療方針の決定に用いることが有用である.

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要旨 大腸憩室炎の外来治療を目的に超音波重症度分類を提案し報告した.この分類の妥当性をCTにより評価した.超音波重症度は,Grade Ia : 炎症を伴う憩室エコー,Grade Ib : 憩室エコーと周囲の脂肪織炎,Grade Ic : 憩室エコー,脂肪織炎と2cm未満の膿瘍形成,Grade II : 2cm以上の膿瘍形成や腹腔内穿孔を伴うものに分類した.このうち,Grade Iを軽症から中等症とし外来治療適応とした.Grade IIは入院のうえ外科治療も検討した.CT評価ではGrade IaとIbはCT上も同様の所見であったが,Grade IcとGrade IIは3cm以下の膿瘍がCTでは描出されないことがあった.CTでは重症度が過小評価される可能性が示唆された.

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要旨 大腸憩室出血に対する診断の問題点として,憩室が多発する場合が多く,出血部位の同定がしばしば困難である点が挙げられる.筆者らの検討では,できる限り早期に造影CT検査を施行して,造影剤の血管外漏出像を描出し,下部消化管内視鏡検査(CS)前に憩室出血部位を推定することで,効率的に出血点を同定することが可能と考えられる.大腸憩室出血に対する内視鏡治療として,本邦ではクリップ法が選択されることが多いが,クリップ法は3割程度に再出血を認め,特に活動性出血例では入院中の早期再出血を高率に認めるため,より確実な止血方法の工夫が必要と思われる.EBL(endoscopic band ligation)は,活動性出血例においても高い止血効果が得られており,大腸憩室出血に対する非常に有効な治療法であると考えられる.

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要旨 大腸疾患は近年増加傾向にある.その合併症には憩室炎,大腸周囲膿瘍形成,穿孔,狭窄,出血などが外科の治療対象になる.憩室炎には右側大腸憩室炎と左大腸憩室炎があり,自験例では左側大腸憩室炎が外科手術の対象となることが多く,術後も含めて重症例を認めた.画像診断の進歩でその精度が向上したため,病態を客観的に判断して的確な外科治療を行うことが可能になった.自験例30例を検討して選択すべき術式は,左右側大腸憩室炎とも保存的治療後に膿瘍形成・狭窄を示した症例は手術の適応であり,左側大腸憩室炎の瘻孔症例もいったんは十分に炎症を制御した後で瘻孔を含めて切除手術を行う.穿孔例は救急手術でドレナージを行うとともにHartmann手術を行い,術後ICU管理が必要である.また,出血症例のほとんどは内科的治療で止血される.

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要旨 63歳,男性が下腹部痛と血便を主訴に来院した.注腸X線検査で多発性大腸憩室とともにS状結腸の狭小化,多発する透亮像がみられた.大腸内視鏡検査では狭小化したS状結腸に発赤した多発ポリープがみられ,さらに口側のS状結腸には潰瘍性大腸炎に類似した点状びらん(小黄色斑)が多発していた.ポリープは組織学的に過形成性変化が主体であったが,粘膜脱症候群と類似していた.多発びらんの領域よりの生検ではびまん性の非特異的慢性炎症像がみられ,直腸が組織学的に正常であることから,diverticular colitisと診断した.diverticular colitisと潰瘍性大腸炎との異同については今後検討が必要であるが,当面このような病変の存在を認識することが重要である.

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要旨 患者は53歳,男性.無症状であったが,胃癌術後経過観察目的のCT検査で上行結腸壁肥厚がみられた.注腸X線検査と大腸内視鏡検査で上行結腸に多発集簇した紐状ポリープと多発憩室がみられ,左側結腸にも憩室が多発していた.経過をみていたところ,次第に腹痛,下痢がみられるようになった.2年後,上行結腸の病変は増大し腸管の伸展不良を伴っており,下行結腸遠位側には非対称性のなだらかな狭小化と粘膜の凹凸不整がみられ,右半結腸切除術が施行された.病理診断はfiliform polyposisであり,多発憩室と壁在膿瘍を伴っていた.1年後イレウスを来して入院した際に下行結腸に高度の狭窄がみられ,再度手術が行われた.病理学的所見は上行結腸の病変に酷似していた.本例は憩室腸管にfiliform polyposisが形成される過程を追跡できた最初の症例であると考えられる.

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要旨 小児の大腸憩室炎はまれである.筆者らは現在までに7例の大腸憩室炎を経験している.病巣の部位はすべて右側結腸であり,初診時は虫垂炎疑いでの紹介であった.このうち5例は腹部超音波検査(US)で診断されたが,他の2例はCTまたは手術によって診断された.右側の憩室炎は,虫垂炎疑いで紹介されることが多く,それらの小児においては,USで正常の虫垂を確認することで虫垂炎を否定し,憩室炎を疑うことができる.憩室炎と診断できれば不要な手術を避けることができるため,USを繰り返して正常の虫垂を描出することが重要である.

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要旨 患者は40歳,男性.血便を主訴として当科を受診し,2か月間に2回の血便を繰り返した.いずれの出血時にも出血源は不明であったが,注腸X線検査で虫垂に多発憩室が描出されていた.3回目の血便の際に施行した経口腸管洗浄液による前処置後の全大腸内視鏡検査で,虫垂開口部から持続する出血を確認し,虫垂憩室出血と診断した.虫垂切除術施行後は再出血なく退院した.切除標本の病理組織学的検査では,多発憩室のうち1つに小動脈壁破綻が認められ,出血源の可能性が考えられた.虫垂憩室は比較的まれな疾患であるが,下部消化管出血の原因として念頭に置くべき疾患と考えられた.

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 この特集号は筆者が「胃と腸」編集委員になって初めて,八尾恒良先生,渡辺英伸先生とともに企画案を作成した思い出深い1冊である.両巨頭といっしょに企画を立てるということで,緊張した面持ちで編集小委員会に臨んだことを今でも鮮明に覚えている.

 cap polyposisは英国のSt. Marks Hospitalの病理医であったWilliamsらが,1985年に発表した20行程度のAbstractがオリジナルとされている.その後しばらくこのAbstractはほとんど省みられることがなかったが,1993年に同じ施設のCampbellら1)が2例の臨床例をGutに報告し,続いて1994年にフランスのGéhénotら2)が同じくGutに1例報告したことによって,わが国でも注目されるようになった疾患である.筆者は1986年よりこれまでに,7例のcap polyposisを経験しているが,従来報告されてきた炎症性疾患には当てはまらず,新しい疾患単位の可能性が高いとして,「分類不能型大腸炎」という名前で繰り返し報告してきた.Williamsらの報告については当時知る由もなかったが,早期胃癌研究会で本疾患に相当する症例が提示され,筆者が「これまでわれわれが分類不能型大腸炎とし報告してきた画像所見に一致する症例である」とコメントしたところ,出題者がCampbellらの論文で「cap polyposis」という名称がつけられていることを紹介した.おそらくこの機会が,わが国においてcap polyposisという疾患名が知られるようになったきっかけと思われる.

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要旨 患者は88歳,女性.上部内視鏡検査にて胃前庭部大彎に褪色調の陥凹性病変を指摘された.NBI拡大観察では,粘膜表面に多数の微小顆粒状構造物のあるvilliを認め,酢酸撒布により“のこぎりの歯”様の切れ込みを認めた.腺管は粘膜深部に向かい峡谷様に直線的に伸びていた.完全生検目的に胃ESDを施行した.組織学的には,病変は鋸歯状腺管構造を呈し,被覆上皮優位の胃型形質を示した.病理診断上papillary adenocarcinomaと診断されたが,大腸のsessile serrated adenoma/polypと形態的に類似しており,現在の胃腫瘍のカテゴリー外の病変と考えられた.胃の鋸歯状病変に対して病理診断上の何らかの新たなカテゴリーを作る必要性について今後検討する必要があると思われる.

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要旨 患者は64歳,男性.急性骨髄性白血病治療後に貧血を認めたため,その原因精査のために大腸内視鏡検査を施行したところ,回盲弁上に基部を有する30mm大の亜有茎性隆起性病変を認めた.病変の表面は凹凸不整で結節顆粒状を呈し周囲の背景粘膜には炎症性変化を認めた.腫瘍性病変を疑い病変部から数か所生検を行ったが確定診断には至らなかった.本例は1年10か月前に便潜血陽性のため施行した大腸内視鏡検査で同部に明らかな異常を認めておらず,病変はその後に出現,増大したことが示唆された.病変の増大傾向を考慮して,回盲部切除術を施行した.切除標本を病理組織学的に検討すると,病変はリンパ球と形質細胞の浸潤を伴う大小不同の紡錘形細胞の束状増殖から成り,α-SMA陽性,vimentin陽性などの免疫染色の結果と併せて炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(inflammatory myofibroblastic tumor ; IMT)と確診された.本例はその臨床経過から比較的急速な増大傾向が示唆され,IMTの発育進展を考えるうえで貴重な症例と考えた.

胃と腸 図譜

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1 概念,病態

 アミロイドーシスは,β構造を有する線維蛋白質を主成分とするアミロイド物質が細血管周囲に沈着する難治性疾患である.消化管は,腎臓,心臓と同様にアミロイド沈着の好発臓器で,沈着する部位や量,さらにはアミロイド蛋白の種類により異なった沈着様式を認めるため,様々な臨床症状や画像所見を呈する1).現在,線維蛋白の違いから25種類以上の型に分類されているが,消化管に沈着する蛋白では,慢性炎症による急性期蛋白SAA(serum amyloid A protein)を前駆体蛋白としたAA型(amyloid of A protein),免疫グロブリンL鎖から成るAL型(amyloid of light chain of Ig),長期透析患者に発生するβ2-ミクログロブリン由来のAβ2M型(amyloid derived from hemodialysis),家族性でトランスサイレチン由来のATTR型(amyloidgenic transthyretin)が重要である2)3)

画像診断道場

回腸終末部不整形潰瘍 大川 清孝
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症 例

 患 者 : 30歳代,女性.

 主 訴 : 難治性痔瘻.

 既往歴 : 特記すべきことなし.

 現病歴 : 痔瘻のため近医にて手術を受けたが,完治しなかったためCrohn病を疑われて紹介された.

追悼

山田達哉先生への追悼文 牛尾 恭輔
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 恩師の山田達哉先生が4月7日,膀胱がんで逝去されました.享年84歳でした.私は約27年もの長い間,国立がんセンターの放射線診断部で,山田先生と苦楽を共にしてきました.私の人生に,それこそ深く関わられた先生でした.そこで近くで接して感じたこと,実際に体験したことを述べながら,恩ある山田先生への追悼文とさせていただきます.

 逝去の知らせを聞いてから,山田先生からの手紙を改めて読んでみました.それは3年前に定年退職した私の挨拶文に対する,慈愛あふれる返書でした.抜粋すると,「月日の経つのは早いものですね.貴君が定年退職し,名誉院長になるとは….これからの長い人生,予定は立ちましたか? 私の経験からすると,仕事は続けた方が体に良いようです.私は,今年81歳になりました.考えてみれば,牛尾君,君は僕より16歳も若い訳です.まだまだ,一花さかせられると思います.これからも更なるご活躍を祈念いたしております.そして,明太子美味しいね.有り難う!」で結ばれています.山田先生,国立がんセンターでのいきさつが,走馬灯のように思い出されます.

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欧文目次

「今月の症例」症例募集
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 「今月の症例」欄はX線,内視鏡写真など形態学的所見が読めるようにきちんと撮影されている症例の掲載を目的としています.珍しい症例はもちろん,ありふれた疾患でも結構ですから,見ただけで日常診療の糧となるような症例をご投稿ください.

早期胃癌研究会 症例募集
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早期胃癌研究会では検討症例を募集しています.

画像のきれいな症例で,

・比較的まれな症例,鑑別が困難な症例.

・典型例だが読影の勉強になる症例.

・診断がよくわからない症例.

学会・研究会ご案内

投稿規定

編集後記 清水 誠治
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 春間賢先生,江頭由太郎先生とともに本企画を担当した.

 本誌で大腸憩室が最初に取り上げられたのは1975年6号で,本邦の憩室研究が緒についた時期である.“消化管憩室症”をテーマとしているが,かなりの部分が大腸憩室に割かれている.巻頭の矢沢論文で披露されているエピソードが極めて興味深い.国際消化器外科学会の席上でDr. Welchから次のように言われたそうである.“日本の結腸憩室症は大問題ではないであろう.しかし,米国では5歳の小児にも憩室が発生して,現在疫学的にも大問題であり,日本も近い将来同じような運命をたどるであろう.”この予言は本邦での現状をみるに,既に的中している.その後,厚生省の班研究が発足し,大腸憩室研究の機運が高まり,1980年に15巻8号で“大腸憩室”が再度取り上げられた.全国集計や剖検による詳細な検討により同時代における大腸憩室の全貌がほぼ示されている.欧米で“diverticular disease of the colon”という用語が大腸に憩室が存在するすべての状態の意味で用いられていたことから,その訳語として“大腸憩室疾患”が導入された.語感として“憩室症”という用語が適切という指摘もあったが,それ以前に多発憩室が存在する状態を表す“diverticulosis”の訳語として“憩室症”が用いられており,混乱を避けるために敢えて“大腸憩室疾患”という言葉が用いられたという経緯がある.

次号予告

基本情報

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胃と腸
47巻7号 (2012年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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