胃と腸 45巻6号 (2010年5月)

今月の主題 側方発育型大腸腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)─分類と意義

序説

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 本誌「胃と腸」において“側方発育型大腸腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)”を冠した特集を組めることは,LSTの初期の時代から携わってきた者として感慨深いものがある.

 LSTは恩師・工藤進英先生が提唱した概念であるが1),歴史的には側方に拡がったと考えられる病変は以前にも存在していた.1979年に佐竹ら2)が「花壇様隆起を示した大腸腺管腺腫の1例」として本誌に報告したことを皮切りに,顆粒集簇,結節集簇,creeping tumor,carpet lesionなどと表現された病変の報告3)~6)を経て,1992年に“いわゆる結節集簇様病変”として本誌でまとめられた7)

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要旨 側方発育型大腸腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)の臨床病理学的および分子病理学的解析を行った.最初に,LSTについて臨床病理学的検討を行った(LST-GおよびLST-NGに分類し,さらに前者をLST-GHとLST-GMに,後者をLST-NG-FとLST-NG-PDに亜分類した).発生部位は,LST-NGにおいて右側大腸に好発し,担癌率はLST-GMとLST-NG-PDで高かった.次に,LST型腺腫において分子病理学的解析を行った.解析方法はPCR-LOH法を用い,LOHとMSIの有無を検討した.PCR-SSCP法および直接シークエンス法で,ki-ras,APC,p53,BRAFの各遺伝子の変異についても解析を行った,最後にCOBRA法で,癌関連遺伝子のメチル化について検討した.分子病理学的にもLST-GとLST-NGは異なっていた.LST-GとLST-NGは臨床病理学的にも分子病理学的にも互いに異なる腫瘍であることが示唆された.

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要旨 側方発育型大腸腫瘍(LST)は顆粒型(LST-G)と非顆粒型(LST-NG)に大きく二分され,さらに,前者は顆粒均一型(LST-G-H)と結節混在型(LST-G-M)の2群に,後者は平坦隆起型(LST-NG-F)と偽陥凹型(LST-NG-PD)の2群に分けられる.注腸X線検査では浅い陥凹の描出は難しく,注腸X線検査だけでLST-NG-FとLST-NG-PDを厳密に分けることは困難である.注腸X線検査は,現在,癌の深達度診断において内視鏡診断を補助する目的で施行されることが多く,LSTに関しても同様である.LSTは粘膜内に限局する病変であっても,時に側面変形を認めることがあり,注意を要する.深達度診断に際しては,拡大を含めた内視鏡所見,超音波内視鏡所見を合わせた総合的な判断が重要と思われる.

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要旨 LSTをLST-G-H,LST-G-MとLST-NG-FE,LST-NG-PDに分類し,臨床的背景,大きさと病理組織の関係,および通常内視鏡観察におけるSM深部浸潤癌の指標について検討した.LST-Gは盲腸と直腸に多く,LST-NGは横行結腸に多く存在し,LST-GはLST-NGに比して有意に大きかった.LST-Gは腫瘍径が大きくなるに従い担癌率が上昇し,LST-NGは小さい病変においても担癌率が高く,深部浸潤率も高値であった.通常観察における深達度診断の指標としては緊満感を伴う二段隆起または陥凹内隆起が重要であった.

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要旨 LST は顆粒型(granular type ; LST-G)と非顆粒型(non-granular type ; LST-NG)に大別され,さらに前者は顆粒均一型〔homogeneous type ; LST-G(Homo)〕と結節混在型〔nodular-mixed type ; LST-G(Mix)〕に,後者は平坦隆起型〔flat-elevated type ; LST-NG(F)〕と偽陥凹型〔pseudo-depressed type ; LST-NG(PD)〕に,亜分類される.これらは性格をやや異にする面もあるので,特に治療法の選択上重要である.NBI拡大観察において,LST-GとLST-NG(F)でirregular patternを呈する病変,LST-NG(PD)でsparse patternを呈する病変はSM-mの可能性が高い.pit patternがIIIL,IV型やVI軽度不整のみであれば,SM-mはほとんどないので,EMRの適応となる.特にLST-G(Homo)にはSM癌がほとんど皆無であり,大きくともEPMRで治療してかまわない.LST-G(Mix)は結節の部分で浸潤している可能性が高く,その部分さえ分断されなければ,EPMRになっても通常問題ない.LST-NG(PD)は,pit pattern解析をもってしてもSM浸潤部を予想できないことがあるので,一括切除が望ましいが,線維化を伴ってnon-lifting sign陽性となることが多いので,スネア法EMRやEPMRより,ESDが適している.

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要旨 側方発育型大腸腫瘍(LST)におけるEUSの深達度診断能を検討した.対象63病変の内訳は顆粒型39病変(顆粒均一型11病変,結節混在型28病変),非顆粒型24病変であった.20MHz細径超音波プローブで観察し,SM軽度以浅とSM高度以深に分け,EUS診断と組織診断を比較した.正診率は79.8%で,正診できない原因は,超音波減衰,垂直断層像描出不能,貯水不能による描出不良であった.顆粒均一型ではSM癌はなく,EUSは基本的に不要と考えられた.結節混在型で径30mm以上かつ腫瘍高10mm以上の病変で超音波減衰が顕著であったが,7.5MHzの専用機を用いれば描出できた.LSTでは型毎に部位,組織像,深達度,浸潤様式が異なり,EUS施行に際しては必要性,難易度,使用機種を考慮する必要がある.

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要旨 LSTは臨床病理学的に,LST-GとLST-NGに分類され,SM浸潤はLST-Gでは7.1%で.LST-NGは18.8%であり,腫瘍径の増大とともにSM浸潤率は上昇した.線維化を伴う病変などではEMRで一括切除できない病変でもESDで可能となるので,近年はESDによる切除が増加している.軽度の線維化を伴う病変では,病変周囲切開後のEMR(hybrid EMR ; HEMR)で一括切除できるものもあり,最大径30mmまでの病変や線維化が軽度の病変では有効である.特にLST-NGでは大きさによりEMR,HEMR,ESDを選択することにより効率的に一括切除が可能である.

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要旨 内視鏡所見と病理組織における検討から,SM浸潤率が高く多中心性SM浸潤を呈することが多い20mmを超えるLST-NGをESDのよい適応とし,SM浸潤率が低く,たとえSM浸潤するにしても粗大結節下で浸潤することが多いLST-Gに関しては計画的分割切除(EPMR)での対応が可能と報告してきた.しかしながら,LST-Gに対する治療方針に関してはコンセンサスが得られていないのが現状である.最近LST-Gに対するEPMR後に浸潤癌再発を来した症例を経験したため,ESDで一括切除されたLST-GのSM浸潤率・SM浸潤部位の再評価を行い,LST-Gに対する治療適応を考察した.LST-Gにおいても30mmを超えると16%のSM浸潤率を呈し,また全SM癌の25%にてLST-NG同様,粗大結節や陥凹以外の多中心性浸潤を認め,拡大観察でも診断できない場合が多かった.以上より20mmを超えるLST-NGに加え,LST-Gにおいても,30mm以上の結節混在型の病変に関してはESDのよい適応と考える.

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LSTネーミングの経緯と現状

 斉藤(司会) 大腸の側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)が,大変多く発見・治療されています.LSTは「大腸癌取扱い規約」で定義された肉眼型ではなく,ニックネーム的な呼称であることは皆さんご存知と思います.しかし,病変形態のイメージを頭で思い浮かべたり,治療,特にEMR(endoscopic mucosal resection)やESD(endoscopic submucosal dissection)をどう適用したりするかという点においては,非常に有用なニックネーミングだとされています.また,深達度診断が難しい場合もありまして,特にLSTのnon-granular(非顆粒型,NG),pseudo-depressed typeでは,深達度診断が困難な場合が多々あります.また,LSTの結節混在型(nodular mixed type)の中には大きな結節部分で,SMに浸潤しているけれど,表面からの観察では深達度診断が難しい例もあり,診断上,治療上,難渋する例もあると思います.大腸LSTは今後ますます多く発見され,これらに対する内視鏡治療がさらに普及していくと思われますが,本日の座談会では,LSTの病理的な特徴,それからX線,内視鏡的な診断,そして最も重要な治療の面からLSTを細分類することの現状における意義と今後の展望についてお話しいただければと思います.はじめに,LSTという言葉がどのような経緯で生まれたかについて,山野先生からお話しいただきたいと思います.

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要旨 患者は50歳代,女性.排便時の血液付着を主訴に当科を受診した.大腸内視鏡検査で横行結腸に径10mm大で,陥凹の中心にドーム状隆起を伴う,いわゆるIs+IIc型病変を認めた.NBI観察では,佐野分類でIIIA,広島分類でC1,昭和分類でirregularと診断した.ピオクタニンによる拡大観察では,pitの大小不同は認めたものの,辺縁不整,内腔狭小はあまり認めず,VI型軽度不整と診断した.超音波内視鏡では,隆起部で第3層の不整を認め,中心に低エコー領域があり,粘液や血管の存在が疑われた.以上の所見よりpSM-m癌を疑い,腹腔鏡下横行結腸切除術を施行した.病理組織学的には,粘膜内に限局した病変で,粘膜下層には動脈を主体とする大型血管の集簇を認めた.最終診断はwell differentiated adenocarcinoma(tub1),pM,ly0,v0で,リンパ節転移,遠隔転移は認めなかった.陥凹型早期大腸癌はSM浸潤率が隆起型に比較して高く,特に陥凹内隆起を伴う病変はSM深部浸潤を示唆する所見として重要とされている.今回,陥凹内に隆起を伴うが,組織学的にはM癌であった症例を経験したので報告した.

学会印象記

第6回日本消化管学会総会 蔵原 晃一
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 第6回日本消化管学会総会は2010年2月19日,20日の両日に,福岡国際会議場で飯田三雄会長〔九州大学大学院病態機能内科学(現 公立学校共済組合九州中央病院)〕のもと「消化管学の確立に向けて─腸の炎症を探る」をテーマとして開催された.前回までの平日開催(木,金)から今回は週末開催(金,土)となり,参加者は2,000人を超え,過去最高とのことであった.筆者の施設からは,渕上忠彦院長以下,計6人の医師が参加し,ワークショップ1演題,一般演題3題を発表した.

 筆者は学会前日の2月18日夕方,福岡行き最終便で空路,福岡入りした.予約しておいた博多駅前の“鮨 安吉”で後輩たちと江戸前寿司を堪能したのち,鉄鍋餃子で有名な“博多祇園鉄なべ”での2次会で学会発表に向けて士気を上げた.飲食客でごった返す店内に,前日17日に東京の早期胃癌研究会に出席されていた関西や関東の先生方のグループを複数お見かけした.

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欧文目次

編集後記 斉藤 裕輔
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 大腸の側方発育型腫瘍(laterally spreading tumor ; LST)は「大腸癌取扱い規約」の肉眼型にはないニックネーム的な呼称であるが,病変の肉眼型をイメージしたり,内視鏡治療の大きさの限界や切除法について論じたりする際には極めて理解しやすい用語であり,現在広く普及している.LSTは形態学的特徴に基づき顆粒型〔LST-G(granular type)〕と非顆粒型〔LST-NG(non granular type)〕に分類されており,その発見頻度も上昇している.しかし,特にLST-NGにおいては深達度診断が困難とされ,その臨床・病理学的特徴は十分に解明されていないのが現状である.さらに,その治療法選択において,分割切除が許容されるか,一括切除が必要かの判断基準も明らかではない.本特集は,今後さらに普及するであろうLSTに対する内視鏡治療を見据えたうえで,病理学的側面および診断・治療法選択の面からLSTを分類することの意義について明らかにする目的で企画された.

基本情報

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胃と腸
45巻6号 (2010年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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