胃と腸 42巻8号 (2007年7月)

今月の主題 胃MALTリンパ腫―除菌無効例の特徴と治療戦略

序説

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 MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫は,慢性炎症を背景に消化管,甲状腺,肺などの節外臓器に発生するリンパ組織(MALT)のmarginal領域のB細胞に由来する低悪性度リンパ腫であり,1983年にIsaacsonら1)によって提唱された疾患概念である.この概念の導入以来,消化管,特に胃においては,以前はreactive lymphoreticular hyperplasiaあるいはreactive lymphoid hyperplasia(RLH)ないしpseudolymphomaと呼ばれてきた病変の多くがMALTリンパ腫に相当することが判明した.そして,2001年に発表されたWHOの組織分類では,extranodal marginal zone B-cell lymphoma of mucosa-associated lymphoid tissueの名称で独立疾患として位置づけられている.

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要旨 胃MALTリンパ腫は,多くの症例ではHelicobacter pylori(H. pylori)と深い関連があり,これを除菌することによって腫瘍は消褪することが当初注目された.最近の進歩として,MALTリンパ腫の染色体異常としてt(11;18)(q21;q21),t(1;14)(p22;q32),t(14;18)(q32;q21)が見い出された.このうちMALTリンパ腫に特異性の高い染色体異常としてt(11;18)(q21;q21)が,またこの転座による融合遺伝子としてAPI2-MALT1の存在が広く認識されてきており,この異常がみられる胃MALTリンパ腫は除菌に抵抗性であるという特徴があることが判明した.その結果,胃MALTリンパ腫はH. pyloriの感染の有無,API2-MALT1の有無によって少なくとも3群に分けられるようになっている.API2-MALT1陽性例はその腫瘍化メカニズムとしてBcl-10やNF-κBがkey moleculeとなりつつあり,H. pyloriの除菌反応性を示す胃MALTリンパ腫とは異なった病理発生機序をとると考えられる.

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要旨 胃MALTリンパ腫の病態は除菌療法の反応性とAPI2-MALT1の有無から3群に分けられる.responderでAPI2-MALT1陰性のA群,non-responderでAPI2-MALT1陰性のB群,non-responderでAPI2-MALT1陽性のC群であり,その特徴は次のようである.A群:H. pylori陽性,深達度SMまで,臨床病期I期,潰瘍や早期胃癌類似の肉眼型.B群:H. pylori陰性,深達度MP以深,リンパ節転移陽性,臨床病期II1期以上,高悪性度成分あり,隆起型.C群:男性,H. pylori陰性,cobblestone粘膜,高悪性度成分なし.除菌不応例の予測因子は,臨床病期II1期以上,API2-MALT1陽性,H. pylori陰性,深達度MP以深,隆起型,cobblestone粘膜であった.除菌不応例に対する二次治療は有効であり,その予後も良好であった.しかしAPI2-MALT1陽性例を二次治療なしで経過観察する場合,胃癌の発生や病期の進行に注意が必要である.

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要旨 限局性胃MALTリンパ腫76例の臨床経過を調査し(平均経過観察期間44.4か月),Helicobacter pylori(H. pylori)除菌治療の成績と除菌治療抵抗例の臨床的特徴およびその対策について検討した.H. pylori陽性胃MALTリンパ腫49例のうち,除菌治療のみで治癒した症例は38例(77.6%)であった.一方,H. pylori陰性例13例に対しても除菌療法を試みたが,治癒した症例はなく(77.6%vs 0%,p<0.001),除菌治療抵抗例の臨床的特徴として"H. pylori陰性"が挙げられる.H. pylori陽性胃MALTリンパ腫における除菌治療有効例と抵抗例を比較すると,性,年齢,病期,病変の内視鏡所見,壁浸潤度,病変部位に有意な差を認めなかった.除菌治療抵抗例あるいはH. pylori陰性例30例のうち30 Gy放射線療法で治癒した症例は29例中22例(75.9%)で,低容量放射線療法は"二次治療"として有用と考えられた.

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要旨 胃MALTリンパ腫で除菌無効となる要因は,H. pylori陰性,高悪性度成分の混在,API2-MALT1融合遺伝子が陽性であることが挙げられる.89例におけるH. pylori陽性率は94.4%で,陽性例に対する除菌奏効率は81.9%である.除菌無効例のうち10例はrituximab抗体療法を二次治療として希望された.平均年齢は58.9歳で,部位は噴門部1例,胃体部8例,前庭部1例で,除菌前の肉眼型は隆起型1例,潰瘍型3例,表層型6例であった.抗体療法までの期間は除菌後平均21.0か月(4.5~53.4か月)で,1年以上2年未満が7例と多い.抗体療法は10例全例に奏効し,7例は褪色瘢痕化し3例は瘢痕も不明瞭となった.寛解期間は平均26.9か月,最長38.6か月で,現在まで再発はない.またH. pylori陰性例では抗体療法を希望した5例中4例(80%)で奏効している.

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要旨 Helicobacter pylori除菌治療を行った胃MALTリンパ腫100例〔diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)併存18例を含む〕を対象とし,除菌抵抗例の臨床および分子病理学的特徴を解析した.除菌奏効(完全寛解またはprobable minimal residual disease)率は67%であり,DLBCL非併存例(71%)と併存例(50%)で差はなかった.t(11;18)/API2-MALT1はDLBCL非併存例の14%に認め,トリソミー18を示唆するMALT1過剰コピーは32%にみられた.非奏効群は奏効群に比べ,高齢で,男性,胃上部局在,非表層型,粘膜下層深部浸潤,進行病期,H. pylori陰性,Bcl10核内発現およびt(11;18)/API2-MALT1の頻度が高かった.多変量解析の結果,有意な除菌抵抗因子は粘膜下層深部浸潤と胃上部局在のみであった.奏効群67例のうち6例(9%)で経過中に一時的に組織学的再燃を認めた.非奏効群のうち30例に二次治療(経口単剤化学療法12例,放射線療法9例,多剤併用化学療法5例,胃切除4例)を行い,26例(87%)で完全寛解が得られた.5年後のoverall survivalおよびevent-free survival(EFS)は90%および77%であり,多変量解析ではMALT1過剰コピーが独立したEFS規定因子であった.今後,非奏効群に対しては,遺伝子学的所見も考慮したオーダーメイド治療が望まれる.

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要旨 Helicobacter pylori感染は,胃MALTリンパ腫の病態形成に深く関与しており,その除菌療法は,胃MALTリンパ腫治療の第一選択と位置づけられている.除菌療法が無効な症例に対する二次治療として,放射線療法は確立されつつあるが,化学療法については,その有用性は示唆されてはいるものの確立されるに至っていない.近年盛んに用いられている抗CD20抗体,rituximabは,従来のリンパ腫に対する標準的化学療法に併用することでその治療成績を向上させることが示されており,MALTリンパ腫を含む低悪性度リンパ腫の治療でも用いられつつある.これらのことから,胃MALTリンパ腫の除菌無効例の二次治療としても,rituximabを併用した化学療法が非常に有望視されている.

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要旨 胃および十二指腸MALTリンパ腫の病態をAPI2-MALT1キメラ遺伝子の有無,H. pylori感染の有無,H. pylori除菌治療に対する反応性により4群(A,B,C,D)に分類した.API2-MALT1陰性でH. pylori陽性であり除菌治療に反応した群をGroup A,反応しなかった群をGroup B,API2-MALT1陰性でH. pylori陰性の群をGroup C,API2-MALT1陽性の群をGroup Dとした.除菌治療に反応しなかったGroup B,C,D 3群の臨床病期I期の22症例(2例は化学療法併用)に対して放射線治療を実施し全例CRとなった.急性期有害反応はGrade 1の消化器症状とGrade 1~2の血液毒性のみであり,晩期有害反応は1例にGrade 2の腎機能障害を認めた.前後対向2門照射を多門照射に変更することにより腎機能障害の発生は防ぐことができた.放射線治療は臨床病期I期の胃および十二指腸MALTリンパ腫の治療として有効かつ安全な方法であると考えられる.

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要旨 限局期胃MALTリンパ腫に対してHelicobacter pylori(H. pylori)除菌治療は,第一選択治療として確立されつつあり,50~95%の完全寛解をもたらす.H. pylori陰性例,深部浸潤例,隆起型,t(11;18)転座陽性例,high-grade成分の存在などが除菌無効例の特徴とされているが,無効例に対する二次治療としての放射線療法,化学療法などの有用性も多数報告されている.最近になり,海外で除菌治療についての多施設共同試験の報告もいくつかなされたが,二次治療まで含めた胃MALTリンパ腫の治療体系においてのエビデンスレベルは低い.また,除菌無効例の取り扱い,二次治療の方法と時期,high-grade成分の取り扱い,二次治療としての放射線療法の照射法など不明な点も多い.現在,海外でもいくつかの臨床試験が進行もしくは計画されており,本邦の臨床試験の結果も含めて,その結果に期待したい.

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要旨 70歳代,女性.2006年4月中旬に,吐血を主訴に当院受診.上部消化管内視鏡検査にて,胃噴門部から胃体下部にかけて小彎を主体とした著明な皺襞腫大と,粘膜面からの自然出血を認め,生検病理組織所見より,胃MALTリンパ腫と診断された.身体所見にて左鎖骨上窩に径1.5 cm大の腫瘤を触知し,胸部CTにて両側肺野に小結節影を認め,臨床病期はstage IV(Lugano国際分類)と判定した.巨大皺襞型で,H. pylori陰性例であり,除菌治療抵抗性と予測されたが,二次治療を念頭に置いた相対的適応として,まず除菌を行った.除菌後,貧血の進行を認め,早急に二次療法(rituximab併用THP-COP療法)を施行した.同化学療法6クール施行後の治療効果判定で,臨床的にも病理組織学的にも胃病変は消失した.なお,肺病変,左鎖骨上窩の腫瘤は治療経過中変化がなかった.治療後8か月経過した現在も寛解を維持している.

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要旨 胃MALTリンパ腫に対する除菌効果は,既に明らかであるが,高悪性度化した混合型やDLBCLではH. pylori感染よりも遺伝子変異への依存度が大きくなり除菌効果は基本的に無効とされている.しかし,出血や穿孔を除き高悪性度リンパ腫でも非手術的な放射線化学療法や抗体化学療法が選択され,高悪性度のDLBCLでも除菌治療の奏効例が散見されるようになった.今回,患者希望により胃限局期のH. pylori陽性DLBCLに対して除菌治療を試みた結果,6例中3例(50%)で腫瘍が消失し48~92週の長期間にわたる完全寛解を認めている.高悪性度リンパ腫に対する除菌治療の報告はまだ少ないが,H. pylori陽性例の特に高齢者における非手術的治療の選択肢の1つとして試みる価値はあると考えられ,その有効性を確認する大規模な前向き研究が望まれる.

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〔患 者〕 70歳代,女性.

〔既往歴・家族歴〕 特記事項なし.

〔現病歴〕 2006年4月近医にて,上部消化管内視鏡検査を施行され,胃体部小彎に異常を指摘,生検でborderline malignancyと診断され当科を紹介され受診した.

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 大腸学の進歩は大腸癌だけにはとどまらない.炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)の進歩も忘れてはならないことの1つである.

 1970年,私がロンドンに向けて飛び立ったころは,わが国にはIBDの専門家としては弘前大学の松永藤雄教授と東北大学の山形敞一教授が存在するくらいであった.今では消化器の専門家なら誰でも知っている潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis;UC)やCrohn病(Crohn's disease;CD)なぞは講義で聴いたこともなければ診たこともなかった.1973年に当時の厚生省の難病対策政策の支援のもとに特定疾患難治性腸管障害調査研究班(難病班)が発足し,わが国における実質的なIBD研究がスタートすることになる.初代班長は土屋周二先生で,私は土屋先生の中学から第一外科に至るまでの後輩ということもあって,最初からこの班の一員に加えていただく光栄に浴した.臨床医も病理医もIBDの経験がほとんどないか,あってもわずかという背景しかないため,班会議と言ってもほとんど勉強会に近いものであった.厚労省は初めから班員あるいは班友の選定に際して,全国的な分布を考え,できれば全県から少なくとも1か所を指定することを強く要望していたが,これは結果的には正しい判断だったことが後に明らかになった.なぜなら,その後増加し続けるIBDの診断と治療が,全国ほぼ均等に行いうるようになったのは,この班会議の大きな成果と考えられるからである.おそらく,数ある難病班の中でIBD班は最も実質的に大きな成果を挙げていると思われる.

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要旨 症例は68歳の男性.X線造影検査では,胸部上部食道後壁に12 mm大の双頭状の隆起性病変が存在し,明らかな側面変形を認めなかった.上部消化管内視鏡検査では,発赤調の光沢のある亜有茎性の隆起性病変で,肛門側の隆起頂部は白苔で被覆されていた.拡大観察で白苔部以外の隆起表面は正常の扁平上皮で覆われており,ヨードでも淡く染色された.内視鏡的超音波検査では,腫瘤は第2~3層に存在する均一,軽度高エコー輝度を呈していた.患者の希望もあり2チャンネル法でEMRを行った.組織学的には重層扁平上皮下の粘膜固有層内に毛細血管内皮細胞の巣状・分葉状の増生を認めた.また上皮の一部は剥離しフィブリンの厚い析出と高度炎症細胞浸潤が認められた.以上より,化膿性肉芽腫(pyogenic granuloma;PG)と最終診断した.食道PGは19例の報告があり,白苔を伴う亜有茎性ないし有茎性の発赤調隆起性病変が特徴的内視鏡像であり,自験例もその特徴に合致していた.

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要旨 症例は70歳代,女性.約1年前から肛門より脱出する腫瘤を自覚していたため当科を受診した.肛門直腸部に4 cm大の口側に白苔を伴う,表面平滑な黒褐色から黒色調の粗大結節を有する有茎性腫瘤があり,腫瘤周囲および肛門管から肛門周囲に進展する黒色斑を認めた.生検で悪性黒色腫と診断した.診断には透明フード装着による観察が有用であり,超音波内視鏡,拡大内視鏡でも特異的所見を示した.画像検査上明らかな転移巣を認めなかったため,D2リンパ節郭清を伴う腹会陰式直腸切断術を行った.腫瘍浸潤は上皮下から粘膜下層までであり,リンパ節転移を認めなかった.

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欧文目次

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 膵癌は早期発見が困難で「21世紀に残された消化器癌」とも呼ばれている.しかも,予後不良な"膵癌"の診断法について詳細かつ正確にわかりやすく説明することは大変困難である.一方,厚生労働省研究班や各学会による癌の診療ガイドラインが最近続々と作成されている.しかし,これまで国内には,膵癌診療の全領域に関する科学的根拠に基づいた診療ガイドラインは存在しなかった.日本膵臓学会が,膵癌診療ガイドライン作成小委員会を設けて作成にあたり,2006年3月に『科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2006年版』(金原出版)を発行した.本ガイドラインでは,対象を"膵癌"診療にあたる臨床医とし,一般臨床医に効率的かつ適切に対処できるよう配慮されている.さらに,患者さんや御家族など一般市民の方が"膵癌"への理解を深め,医療従事者と患者側の相互が納得したうえで医療が選択され実行されることも意図されている.しかしながら,このガイドラインをもってしても膵癌の早期診断にはほど遠い現状である.

 膵癌診断の現場では画像診断で膵癌との鑑別診断に迷う腫瘍様病変を体系的にまとめたアトラスは少ないと思われる.九州大学大学院医学研究院臨床・腫瘍外科の山口幸二先生,田中雅夫先生による『臨床と病理よりみた膵癌類似病変アトラス』を活用することにより,前回上梓された『小膵癌アトラス』の姉妹版として(著者らも序文で記載しているように),小膵癌を含めた膵癌診断の一助となるものと思われる.

編集後記 長南 明道

基本情報

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胃と腸
42巻8号 (2007年7月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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