胃と腸 39巻6号 (2004年5月)

今月の主題 深達度診断を迷わせる食道表在癌―その原因と画像の特徴

序説

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 食道癌は粘膜上皮の傍基底層付近に発生し,downward growth,upward growthまた,lateral invasionを起こし,粘膜上皮全層を置換するとともに粘膜固有層に釘脚を延ばす.癌はゆっくりと増殖し,粘膜筋板に達するとともにその上下に発達する脈管叢への浸襲が始まりまた,angiogenesisが始まって悪性度・増殖能が増すとともにリンパ節転移を有するものが出現する.粘膜固有層までの浸潤ではリンパ節転移を来すことはまずないと言ってよいが粘膜筋板に達すると約10%,粘膜下層表層に達すると約15%の症例にリンパ節転移を有するようになる.一方,腫瘍がさらに粘膜下層に深く浸潤すると急速にリンパ節転移率が上昇し,40~50%となる.このように大部分の食道癌の悪性度は深達度と密接な関係があるため深達度診断は治療方針決定の重要な鍵を握っていると言える.

 食道癌の深達度診断にはX線造影検査,内視鏡,EUS(超音波内視鏡),CT,MRIなどが用いられている.表在癌の深達度診断には前三者が用いられ,CT・MRIは進行癌の深達度診断,特にT4診断に力を発揮する.

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要旨 食道表在癌216例中,X線深達度診断を大きく誤った症例は16例7%であり,形態別では0-Ipl型1例と0-IIc型15例であった.0-Ipl型の深達度診断では壁変形所見に加え,正面像で壁の伸展に伴い隆起の形態が変化する所見に注目することが必要であった.0-IIc型の深達度診断では,特に陥凹内隆起の性状を明らかにすることが必要であった.導管内伸展症例や浸潤に際して粘膜筋板の破壊が少ない症例の深達度診断は容易ではないが,粘膜ひだの肥厚所見や途絶する所見を描出することで診断が可能になると考えられた.

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要旨 食道表在癌切除例(EMR症例を含む)43症例45病変を対象に術前のX線による深達度診断を病理組織所見と対比検討した.正診はm1~m2:4/9,m3~sm1:14/19,sm2~sm3:17/17であったが,誤診例10例中深読みが8例と多くみられた.深読みについては癌の上皮内での肥厚性発育,リンパ濾胞や粘膜下層の線維化が,浅読みについては微小浸潤やinfγが原因として挙げられた.しかし,深達度診断をするのに十分な情報が得られなかった症例が多く,病変を的確に描出したX線画像,特に最深部の正確な側面像が撮影できれば,過半の症例は正診が可能と考えられた.

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要旨 食道表在癌の深達度を誤らせる要因として①観察困難部位の存在,②リンパ濾胞の影響,③微小浸潤,④浸潤部を粘膜癌が被う,⑤Infγの浸潤性発育,⑥病理診断基準の問題,が挙げられた.本稿ではこれらの具体的例を挙げ,現時点での内視鏡的深達度診断の限界を提示した.今後さらに症例を重ね,診断精度を向上させるためには術前の画像と切り出し標本との一対一対応が必須であり,そのためには一括切除が必要である.

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要旨 食道表在癌において,深達度診断は治療法を選択する上で最も重要な要素である.色素を併用した内視鏡検査および拡大内視鏡観察を行っても,食道表在癌の深達度診断では,15%に誤診を認めた.浅読み症例は39例65%,深読み症例は21例35%であった.浅読み症例の大半は0-IIcであったが,深読み症例には,0-I,0-IIa,0-IIIの各病型が含まれていた.浅く診断した要因としては,①微小浸潤,②導管や食道腺の浸潤で示されるような食道壁の正常構造を破壊しない浸潤,③腺扁平上皮癌のように表面から浸潤部分の組織型が予測できない場合,④癌巣の表面を再生上皮が覆い表面性状が読影できない場合が挙げられた.逆に,深く診断した要因としては,①乳頭状増殖を示す0-Iplや,②上方発育型を示す白色調の0-IIaは,病変の形態から判断し深く診断していた.③固有筋層への圧排型の発育例は浸潤との鑑別が困難なために深く診断していた.また,非常にまれな場合として,④ 粘膜下腫瘍に合併した食道癌は,病巣内に隆起を伴う癌として扱われる可能性が高く,粘膜下腫瘍の存在診断が困難なため,深達度を深く診断していた.

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要旨 食道表在癌91例を対象として,高周波数細径超音波プローブ(細径プローブ)による深達度診断を誤認させる要因について,その病理組織像と比較して検討した.深達度診断は粘膜筋板(mm)を反映している9層に分離したうちの3層目(3/9層)の破壊の程度から判定した.m1・m2癌では28例中27例(96%)を正診していたが,m1癌とm2癌の正確な鑑別や,mmに接する程度のm3癌との鑑別は難しかった.これは,食道炎による線維化や癌巣周囲のリンパ濾胞過形成と癌浸潤部との鑑別が難しいことに起因していた.m3・sm1癌は25例中18例(72%)の正診率であったが,3/9層の不整・欠損・中断所見とm3・sm1癌の範囲とは一致しない場合もみられ,特に小範囲の浸潤例で一致しないことが多かった.腫瘍周囲に生じるリンパ濾胞過形成や細胞浸潤,線維化,sm層内の脈管や食道腺,retention cystなどによって修飾を受け,実際より広い範囲を浸潤部として指摘していることが多かった.さらに,層構造の変化が高度な部分が癌最深部でないこともあり,m3癌とsm1癌の鑑別を難しくしていた.m3深部浸潤範囲が広いsm1癌は深読みしやすく,sm1癌部分の診断は特に難しかった.低エコー腫瘤が3/9層を中断させ,4/9層にまで及ぶ場合にsm2・sm3癌と診断し,38例中37例(97%)を正診していた.小範囲の浸潤であっても深部浸潤部を捕らえることができ,信頼度が高かった.

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要旨 深達度が粘膜下層までにとどまる食道表在癌においては,治療前の内視鏡的深達度診断が EMR 適応の有無を決定する重要な因子となるため,肉眼型に応じた深達度診断が報告されている.1990年代は,症例の蓄積も十分とは言いがたく,現在に比べれば内視鏡の技術・画像が不十分であったために,微小な表面性状の変化をとらえることができずに,内視鏡的深達度診断は,概して“浅読み”傾向にあった.最近は,症例経験の蓄積と内視鏡技術の進歩により,より細かな食道表在癌の表面性状が読み取れるようになったが,微小な表面性状の変化をもって,深部浸潤と判断してしまう“深読み”の内視鏡的深達度診断もみられる.

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 小山(司会) 先生方,お忙しい中お集まりいただきましてありがとうございます.「食道表在癌―深達度診断のピットフォール」の座談会を開始させていただきます.最初に,吉田先生に現時点での問題点をご解説いただいた上で,6例の症例を先生方に見ていただき,討論して行きたいと思います.よろしくお願いいたします.

 吉田(司会) イントロダクションとして,今までの流れを整理してお話しし,その後の検討につなげたいと思います.

 深達度診断,特に浅い癌の深達度診断は大変進歩し,一時期われわれが手探りしながらいろいろと苦労して診断システムをつくってきたころを考えると,隔世の感がします.しかし,現在でも限界があり,深部浸潤を読み切れない症例,浅い癌を深く読んでしまった症例があります.深部浸潤を読み切れなかった症例の病理学的な特徴はいくつかあり,従来から苦い思いをかみしめてきたものです.形態の変化の出にくい浸潤様式がその特徴で(Table1),非常に狭い範囲の浸潤であったり,周囲の組織を壊さず,小さな癌胞巣でばらばらと入っていくとか,定義の問題もありますが,最深部が脈管侵襲で形成されている症例の場合は,なかなか形態に出にくいというものがあります.それから浅いものを深く読んでしまった症例は,迷わせる形態学的変化があるわけでして,それが瘢痕であったり,リンパ球の浸潤であったり,ときには再生上皮がそれに関与してくる.今まで,こういうものが間違いやすいということがわかっていますが,たくさん経験してきて,非常にいい画像をそろえたところでもう一度整理して,何に注意すべきなのかについて今回は議論していただきたいと思っております.よろしくお願いいたします.

 小山 それでは早速症例を見せていただきたいと思います.

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 〔患 者〕 45歳,男性.2003年3月,検診で胃潰瘍を指摘され,精査希望で当院消化器科を受診した.自覚症状はなく,現症ならびに入院時検査成績では異常を認めなかった.

 〔低緊張性十二指腸造影所見〕 十二指腸下行脚Vater乳頭部周囲に,腫大した皺襞を認めた.その皺襞に囲まれた内部の表面性状は,Vater乳頭も含めて,微細なバリウムの付着異常を伴っていた.そして,さらにその周囲に比較的大きさのそろった顆粒状の小隆起を多数認めた(Fig.1).また,Vater乳頭部対側やや下方にも同様の皺襞の腫大と顆粒状の小隆起を多数認めた(Fig.2).

消化管造影・内視鏡観察のコツ

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は じ め に

 上部消化管のルーチン内視鏡検査とはpanendoscopeによる食道から胃,そして十二指腸(Vater乳頭部を含む)までの一連の観察および撮影である.panendoscopeには直視鏡,および斜視鏡があるが,本稿ではわれわれがルーチン検査に用いている斜視鏡による観察撮影法について述べる.

上部消化管のルーチン内視鏡検査の基本

 上部消化管ルーチン内視鏡検査の基本は一定の手順に従って盲点なく観察・撮影することである.

 ルーチン内視鏡検査における観察のみの欠点として,①術者の診断能力に差があること,②直視下観察能は,術者のコンディションによって変化すること,③患者の苦痛を軽減し,一定の検査数をこなすためには直視下観察に長い時間をかけられないことなどが挙げられる.写真撮影を行い指導医のもとで撮影写真のレビューを行うことで,見逃し病変の拾い上げ,診断の是正を含めて,以上の欠点が補える.

 また,写真を撮影するに当たり,一定の手順に従って,食道・胃・十二指腸を盲点なく撮影しておくことで,たとえ病変を見逃しても,その後の写真判定で拾い上げるきっかけが生じる.また,病変が発見された場合,過去に遡って評価することが可能となる.

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要旨 患者は31歳,女性.繰り返す著明な鉄欠乏性貧血による全身倦怠感を主訴に近医受診,便潜血反応陽性のため消化管出血が疑われたが,上部および下部消化管内視鏡検査で異常を認めず,精査加療目的にて当院に紹介入院となった.小腸 X 線検査で上部空腸に約3cm大の柔らかい結節状隆起性病変を認めた.小腸内視鏡検査では,表面に微細顆粒状の白色斑および赤色斑を伴う,黄色調の柔らかい分葉状粘膜下腫瘍であった.生検にて粘膜内のリンパ管拡張所見を認め,小腸リンパ管腫と診断し,小腸部分切除術を施行した.病理組織学的には粘膜下層および粘膜固有層は,1層の薄い内皮に被われた大小の管腔から成り,内部は好酸性のリンパ液に満たされていた.一部に出血を伴っており,出血を伴った小腸リンパ管腫と診断した.小腸リンパ管腫の内視鏡所見は特徴的で,術前診断に有用であり,文献的考察を加えて報告する.

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欧文目次

編集後記 八尾 隆史
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 食道表在癌の深達度診断の基礎はかなり確立されたように思われる.しかしながら,実際の診療では深達度診断を誤る症例も存在する.今回の特集で深達度誤診の原因が詳細に検討され,深達度の浅読みあるいは深読みされた実際の症例が示された.それらの中には再検討すると正診できたであろうという症例も含まれていた.また鬼島の検討結果は,過去に浅読みの誤診をした原因の再検討により浸潤を示す所見が判明してきたことを反映したものであると想像される.今後はこの深読みも是正され,さらに正確な深達度診断がなされるようになっていくと思われる.

 ただし病理学的課題も残されており,例えば粘膜筋板が断裂したために m3 となってしまった症例(小山が提示)の扱いや,微小浸潤の意義を再検討する必要がある.今後,深達度以外の因子も含めた治療方針と直結した術前診断が可能となることを期待したいが,そのためには病理組織学的解析を臨床画像と結びつけるさらなる努力が必要であると病理の立場からは痛感した次第である.

基本情報

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胃と腸
39巻6号 (2004年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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