胃と腸 39巻7号 (2004年6月)

今月の主題 胃癌術後の残胃癌

序説

胃癌術後の残胃癌 大谷 吉秀
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は じ め に

 早期癌症例の増加に伴い,胃癌術後生存率の改善は認められるものの,残念ながら現在でも年間5万人が胃癌で死亡している.胃癌の早期発見を目的としたスクリーニングにおいて,わが国は卓越した検診システムを構築し,内視鏡やX線の診断技術においても他国の追随を許さないすばらしい成果をあげてきた.しかしながら,年間数万人は手術を受けていると推測される現状を考えると,術後の胃に発生する異時性多発癌の予防と早期発見も見過ごすことのできない重要なテーマと思われる.

 本誌ではこれまで2回,「残胃病変」(1977年)と「残胃の癌」(1982年)を主題に取り上げた.前者では残胃の良性病変(潰瘍やポリープ)に関する論文が主題の大半を占め,後者では潰瘍術後の残胃に発生する癌を中心に討論が行われている.これらの特集から既に22年が経過し,胃・十二指腸潰瘍に対する手術の減少,早期胃癌術後長期経過例の増加,Helicobacter pyloriの発癌への関与の重要性,機能温存を考慮したさまざまな胃切除術の導入など,残胃を取り巻く状況は大きく変化している.

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要旨 良性疾患術後の残胃の癌(良性群)は減少しつつあるが,胃癌術後の残胃の癌(悪性群)は増加している.当院で経験した“幽門側胃切除術後の残胃の癌”211例を対象として,良悪性群の臨床病理学的特徴を比較検討した.良性群に比べて悪性群では,患者の年齢がやや高く,初回手術から残胃の癌診断までの介在期間は短く,早期癌が多かった.また,Billroth II法再建後の良性群では吻合部癌が多かったのに対し,悪性群およびBillroth I法再建後の良性群ではいずれも非吻合部癌が多かった.発生時期や部位などの特徴を理解しつつ,残胃の癌の早期診断に努めることが大切である.

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要旨 早期胃癌に対して切除範囲の狭い手術を行う機会が増し,これらの患者は術後長期生存が期待できる.しかし,早期胃癌術後の残胃をどのように内視鏡サーベイランスするか明確となっていない.1985年から2001年までに1,487例の早期胃癌患者に対して胃部分切除を行い,31例の残胃癌患者が診断された.残胃癌半数の壁在は小彎であり,1例を除き胃腸吻合部から離れて存在していた.22例が早期癌,9例が進行癌であり,残胃早期癌では前回の内視鏡検査から診断時の内視鏡検査までの間隔が平均729日(2.0年)と,進行癌の2,602日(7.1年)より有意に短かった.1,487例中797例(53.6%)が3年間隔での定期的サーベイランス内視鏡検査を受けており,22例の残胃癌が診断された.Kaplan-Meier法による残胃癌累積罹患率は,術後5年では2.4%,10年では5.6%,15年では8.3%と算出された.10年以上の長期サーベイランスでも残胃癌が発見されなかった120例と比較すると,残胃癌が診断された初回病巣には分化型腺癌,同時性多発癌の割合が高かった.H. pylori感染率は残胃癌背景粘膜では初回癌手術時より減少した.早期胃癌術後の残胃癌の内視鏡的サーベイランスは手術後すぐに開始し,2~3年間隔で可能な限り長期間続けることが望ましい.検査時には吻合部から離れた小彎に注意を注ぐことが重要である.

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要旨 幽門側切除後の残胃に発生した癌94症例を,それらの臨床病理学的特徴,背景粘膜の変化,形質発現,p53蛋白発現を解析し,その組織発生について考察した.初回手術時の病変(良・悪性)と残胃癌発見までの期間により初回良性群(Be群),初回悪性10年未満群(Ca/<10群),初回悪性10年以上群(Ca/≧10群)の3群に分類すると,Ca/<10群はBillroth I法による再建術が高頻度で,背景粘膜の腸上皮化生は高頻度で逆流性胃炎が低頻度であり,不完全腸型形質癌を高頻度に認め,同時性多発癌と同様な性格を有すると考えられた.Be群とCa/≧10群はBillroth II法による再建術が高頻度で,背景粘膜の腸上皮化生は低頻度であるが逆流性胃炎が高頻度で,胃型形質癌を高頻度に認め,逆流性胃炎が癌発生に重要な役割を果たしていると考えられたが,Ca/≧10群ではBe群より腸上皮化生の関与が強いことが示唆された.また,p53蛋白発現は全体で38%に認め各群間での発現頻度に差はなかった.幽門側切除後の残胃癌は,初回病変と経過年数の違いにより特徴があり,その発生には背景粘膜の変化(逆流性胃炎や腸上皮化生)が特に重要であると考えられた.

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病理 Epstein-Barr virus(EBV)関連胃癌は,日本人胃癌の10% 弱を占め,通常胃の近位部や良性疾患術後の残胃癌に多いことが知られているが,胃癌術後の EBV 関連残胃癌についての知見は乏しい.今回,初回胃癌手術および残胃癌の標本がともに検索可能であった45例に対し,EBV-encoded mRNA in situ hybridization,腫瘍の粘液形質,Helicobacter pylori(H. pylori),背景粘膜の病理組織学的検討を行い,EBV 関連残胃癌の比率や発生危険因子などを考察した.胃癌術後残胃癌の EBV 陽性率は16% で,通常胃の陽性率(9%)と有意差を認めなかった.初回胃癌が EBV 陽性である11例のうち6例(55%)が残胃癌も EBV 陽性であったが,初回 EBV 陰性である34例中,残胃癌が EBV 陽性であったのは1例のみであった.残胃癌が EBV 陽性例(7例),陰性例(38例)で有意差のあった因子は,腫瘍径,初回胃癌の EBV 陽性率,手術間隔(EBV 陽性 :3.5年,EBV 陰性 :6.9年)であった.EBV 関連残胃癌症例の背景粘膜は,腫瘍の存在する固有腺領域,腸上皮化生では初回胃癌と残胃癌で差を認めなかったが,萎縮の程度,リンパ球浸潤,好中球浸潤,H. pylori 感染はいずれも残胃癌で減少していた.胃癌術後の EBV 関連残胃癌の危険因子は,初回胃癌が EBV 関連胃癌であることであり,術後短期間で吻合部以外に発生してくることが多いが,腫瘍の背景粘膜の変化からは EBV 関連残胃癌が新たに発生してくる環境とは考えにくく,初回の手術時に微小な同時性多発癌が存在していた可能性が高いと考えられた.

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要旨 胃癌術後の残胃癌40例を手術不能進行癌,手術可能進行癌,早期癌に分けて,部位別頻度と経過年数を調べた.その結果,術後5年以内の症例では進行癌は吻合部縫合部に多く,早期癌は残胃部に多くみられた.次に,早期発見のためのX線検査法を述べた.残胃部,縫合部,吻合部を意識して撮影することが基本である.検査は二重造影を中心として行い,それぞれの部の正面像と側面像の2方向撮影を目安とし,空気とバリウムをその都度追加する必要を認めた.さらに,症例のX線像を呈示することにより,縫合部では小彎のペッツを目印として所見を読影し,吻合部では小腸との境界部に注意することを強調した.特に陥凹型の早期癌では所見が軽微なため詳細な描出が必要であった.

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要旨 胃癌術後の残胃癌は胃体上部小彎・後壁の分化型,隆起型癌が多い.また,残胃癌も早期発見されれば予後は良い.以上を念頭に置いて,内視鏡的には,丈の低い褪色隆起,あるいはにじみ出し出血を見逃さない注意深い観察が大切である.また,条件が悪いときには病変がマスクされている可能性を考慮して,積極的に再検を勧めるべきである.

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要旨 endoscopic submucosal dissection(ESD)を施行した残胃癌7例9病変を対象とし,同時期にESDを施行した通常胃癌345例と対比した.残胃癌の腫瘍長径中央値は16mm(5~30mm)であり,通常胃癌の長径中央値16mm(3~145mm)と同値であった.一括切除率は100%であり,通常胃癌での一括切除率97%と比較し有意差はなかった.これら9病変の残胃癌はすべて切除断端陰性であった.残胃癌は狭くスコープの操作性が悪いため通常胃に比してESDは難しかった.特に縫合線上に癌が存在した場合は粘膜下層の線維化が高度で剥離に難渋した.また,剥離中にペッツが露出した場合はペッツへの通電を避ける配慮が必要であった.しかし,直視下に粘膜下層を観察しながら慎重に剥離することで,残胃癌に対してもESDを安全に施行することができた.縫合線上の残胃癌は粘膜下層に強い線維化を伴うため,従来のEMR法では切除が困難であったが,ESDでは安全,確実な切除が可能であった.

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要旨 胃切除術後の残胃(新生)癌は発癌機序の解明モデルとして,また診断学的な意味でも注目されてきた.大阪医科大学一般・消化器外科では過去25年間に60例の同疾患の外科治療を経験してきたが,その臨床病理と手術治療成績を胃上部初発胃癌の成績と対比して,その特徴を検討した.結果と結論;①初回手術と残胃癌手術の間は初回悪性群が短い.②残胃早期癌は初回悪性群あるいはBillroth I法再建群に多い.③高分化型腺癌は初回悪性群に多い.④術後遠隔成績は胃上部初発癌と同等である.⑤下縦隔リンパ節ないし空腸間膜内リンパ節転移が残胃癌の特徴的転移経路である.

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要旨 胃癌幽門側胃切除術後以外の残胃の癌ということで,文献検索された噴門側胃切除後の残胃の癌26例について臨床病理学的検討を行い,当教室で経験した胃癌幽門側胃切除後の残胃の癌22例と比較した.その結果,噴門側胃切除後の残胃の癌は,術後比較的早期に手術操作と無関係な部位に発生し,その多くが分化型癌であるという特徴を示した.また,再建術式により食道残胃吻合群と空腸間置群とに分け,比較・検討したところ,空腸間置群では有意に介在期間が長く,進行癌が多かった.噴門側胃切除により残された胃は高発癌状態にあり,そのことを念頭に置いた術式の選択と定期的なフォローアップが重要である.

Coffee Break

アジアの学会から 武藤 徹一郎
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 第9回Asian Federation Coloproctology(2003)がソウルで開催されるので,ちょっと,顔を出してみる気になった.会長のDr. J-G Parkとは旧知の仲であるので表敬訪問のつもりであったが,急遽moderatorの役を与えられるは,会長招宴では厚生大臣と同じテーブルに席を用意されるはで,かえって気を使わせてしまい申し訳ないことであった.学会そのものは日本と韓国の優れた報告が多く,アジア各国からの発表もあってAsian Federationらしくなってきたと感じられた.実は,Park会長から是非にと勧められた2つの施設に大いに感銘を受けたのでこの小文を書く気になった.

 Dr. Parkはソウル国立大学外科教授で大腸直腸外科が専門であるが,有名なSomsungからの出資で設立した大学所属のCancer Institute所長を兼ね,分子生物学的研究を行っている.広い研究室にはリクルートされた韓国人の米国留学帰りが多数働いており,大規模なcell bankも有している.彼は新空港との中間にある韓国国立がんセンターの総長も兼ねており,その病院も見学ルートに入っていた.2001年6月に開院した病院は500床で,完全なセンター方式の組織の下にMultidisciplinary Medicineが行われているのに驚嘆した.すなわち,Colorectal Oncology Centerでは病棟でも外来でも医師,看護師,放射線診断・治療医,内視鏡医,化療医が1セットになって医療に当たる.完全なmultidisciplinary approachが可能なわけで,胃・肺をはじめすべての臓器がこのシステムの下に運用されている.全メンバーの写真が病棟入口に掲げられており,Dr. ParkはColorectal Centerのトップでもある.この組織はDr. Parkの強い意志とリーダーシップの結果できあがったものであり,恐らく世界でも類を見ないであろう.外来には患者用にがんに関するパネルと,各臓器癌のパネルが整然と並び,内容の統一性ばかりか各臓器癌のフォルマリン標本まで陳列されているのには驚いた.PET-CTも既に2台有しており,重粒子線照射施設も建設中であった.Screening centerにも力を入れており,高級感のある内装で看護師の服装も洗練されたものであった.“癌退治100万人グループ”のキャンペーン活動のパンフレットは簡潔にして要を得ており,研究,禁煙,検診の3つをcore valueにすえていた.ちなみに,建物内のみならず全施設内は禁煙である.外来の会計には銀行員が座り,病院関係者は一切お金に手を触れることがないほどoutsourcingが徹底していた.new system,new machine,new memberをモットーとする韓国国立がんセンターは,朝7時から夜11時まで働くDr. Parkの下で目ざましい飛躍を遂げるに違いない.

消化管造影・内視鏡観察のコツ

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ルーチン撮影法の原則

 上部消化管のルーチン撮影法は,撮影した内視鏡写真が検査後に十分検討できるように以下の点について留意する必要がある.

 (1)すべての部位をくまなく観察・撮影するため,あらかじめ撮影部位と撮影順序を決めておく.漫然と検査を行うと,観察しやすい部位だけに観察・撮影が偏り,観察しにくい部位がおろそかになる.

 (2)撮影部位がわかるようなマーカー(胃角,幽門輪,胃体部大彎,噴門,上十二指腸角など)を画面内に入れた遠望撮影を行った後に,近接撮影を行う.最初から近接撮影すると,検査後に撮影した内視鏡写真を見て検討しようとしても撮影部位が判然としないことが多い.

 (3)粘膜表面に付着粘液を多量に認める場合は,プロナーゼ溶液を50ccの注射器を用いて鉗子チャンネルより直接注入して洗い流す.胃内に貯留している胃液は極力吸引してから観察・撮影を行う.また,スコープのレンズ面に粘液などが付着しないように送水をこまめに行う.ハレーションをできるだけ少なくするように,必要に応じて光量を調節する.

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要旨 症例は67歳の女性で40歳時に右乳癌の手術歴がある.検診で便潜血反応陽性を指摘され注腸検査を施行したところS状結腸と下行結腸に片側性の壁変形像を認めた.大腸内視鏡検査ではS状結腸,下行結腸ともに発赤したなだらかな膨隆を認め,粘膜表面は顆粒状を呈していた.生検ではどちらの部位からも腺癌が検出された.全身検索にて他に異常を認めず左半結腸切除を施行した.病理組織学的に粘膜下層から漿膜まで全層性に増生する低分化型腺癌がみられ一部は粘膜表面まで浸潤しており転移性大腸癌の所見であった.漿膜面にも癌細胞が散在しており癌性腹膜炎を併発した転移性大腸癌であり,乳癌の転移と診断した.乳癌の消化管転移例は少なく術後25年以上経過した例は極めてまれであると考えられる.

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要旨 患者は50歳,男性.下腹部痛,黒色便を主訴にて来院し,上部消化管内視鏡検査,全大腸内視鏡検査にて,出血源は明らかではなかった.出血シンチグラフィで小腸からの出血が疑われたため,小腸造影検査を施行したところ,隆起性病変を認めたため小腸部分切除術を施行.回腸末端より約78cm の回腸に腫瘤を先進部とする腸重積を認め,病理組織学的には,消化管重複症の内翻と診断した.

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要旨 患者は75歳,女性.高度の貧血(Hb3.1g/dl)の精査のため入院し,上部消化管内視鏡検査で十二指腸に糸状の虫体を認め,回収した虫体よりズビニ鉤虫と診断した.輸血と駆虫薬pyrantel pamoateの投与で虫体,虫卵は消失し,貧血も改善した.本患者は過去2回,同様の貧血で検査を受けていたが原因は究明されておらず,原因不明の貧血を繰り返すような患者の診療に際しては本疾患も念頭に置いておく必要があると思われる.

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要旨 患者は59歳の男性.黒色便,全身倦怠感等を主訴に入院した.腹部血管造影検査,double balloon法による小腸内視鏡検査により,空腸腫瘍または空腸動静脈奇形を疑い腹腔鏡下に手術を施行した.術中にTreitz 靱帯より約15cm肛門側の空腸に,管外性に発育した4.5×3.5cmの粘膜下腫瘍を認め,腹腔鏡補助下に空腸部分切除術を施行した.肉眼的,病理組織学的所見で粘膜面に明らかなびらんや潰瘍は認めなかった.本例の出血機序は詳細な病理学的検索により,腫瘍自体のねじれや腫瘍の管外からの圧迫等の物理的な刺激により血流障害が生じた結果,血栓が形成され虚血状態になった粘膜固有層,粘膜下層に血管が新生し,そこに小腸粘膜面への食物塊等の物理的刺激が加わり,血管が破綻し出血したと考えられた.本邦の出血症状を認めた管外発育型小腸GISTの報告例で粘膜面について記載のあるものはすべて腫瘍表面にびらん・潰瘍を伴っており,本例のように,粘膜の欠損を認めない例はなかった.

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欧文目次

編集後記 浜田 勉
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 良性疾患ではなく胃癌の術後の残胃に,はたして胃癌はどの程度発生するのか,が本号のテーマであった.

 幽門側胃切除後を扱った大橋論文でも,噴門側胃切除後を扱った上西論文でも,術後 10 年以内に,吻合部と離れた部位に多く早期癌が発見されているデータが報告された.また,その背景粘膜は初回癌の発生母地とほぼ同様と八尾は述べ,さらに,海崎らは EB virus,Helicobacter pylori 感染などはそれを修飾する因子になるのかどうか疑問とした.これらはつまり,いったん発癌した担癌胃は残胃という新しい環境になってもやはり発癌の傾向をもつということに集約されるであろう.そうなると多発癌を同時性か異時性かとか,異時性で術後の期間の長短とかを論じてもあまり重要な意味をもたないことになるかもしれない.

基本情報

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胃と腸
39巻7号 (2004年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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