胃と腸 37巻10号 (2002年9月)

今月の主題 食道sm癌の再評価―食道温存治療の可能性を求めて

序説

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 食道粘膜下層癌再検討のきっかけ

 食道癌の早期診断は最近の20年間で大きく進歩した.内視鏡機器の改良,色素内視鏡検査の開発,粘膜癌(m癌)の病型分類の確立などによって上皮内癌や粘膜癌の発見と粘膜下層癌(sm癌)との鑑別診断は極めて容易かつ確実になり,その病態もよくわかるようになった.その後の内視鏡的粘膜切除法(EMR)の開発と普及によって粘膜癌は食道を温存したまま根治できる時代が到来し,食道癌の早期診断に対する熱意を高めた.EMRの時代は手術中心の時代との間にあまりにも大きな較差を生じたため,食道癌においては粘膜癌を早期癌とする意見にあまり大きな反対がみられなかった.一方,粘膜下層癌については胃や大腸の場合と異なり,食道癌にはリンパ節転移がしばしば合併する,リンパ節転移に対する対策を怠れば食道粘膜下層癌の治療成績は不良となることが明らかである.現在では食道粘膜下層癌に対しては根治手術が行われており,その治療成績は良好である.食道の粘膜癌と粘膜下層癌はそれぞれの治療法に大きな違いがあるが,現時点で確実に治癒せしめうる,という点で再発・転移が頻発する進行食道癌と異なった評価を得ているのである.いま粘膜下層癌を再検討する必要性は,粘膜癌に対する食道温存治療の良好な成績と治療後のQOLの高い点から生じた.この事実が広く知られるに従って,食道を温存しながら癌を治したいという希望を持つ患者が増加した。これまでは粘膜癌と粘膜下層癌との中間的存在であるm3やsm1食道癌に対する食道温存治療に関する社会的要請があり,病態の判明するに従い実現する可能性の高い分野であることを明らかにすることができた1)2).そして患者の希望は必然的に粘膜下層癌に対する外科治療で達成した好成績を維持しながら,食道を温存する治療を希望するようになったのである.

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要旨 食道表在癌手術症例(sm2・3癌)49例を対象に,臨床病型,病巣の縦径,横径,縦径と横径の積,癌巣厚,sm浸潤長,sm浸潤幅,sm浸潤長とsm浸潤幅の積,癌層から固有筋層までの距離,異型度,簇出,脈管侵襲,リンパ節転移および転移部位について検討した.横径(p<0.05)以外の諸計測値にリンパ節転移陽性群と陰性群間に差は認められなかった.臨床病型では,純粋な隆起型9例ではリンパ節転移陰性であったが,0-Ⅲ型では3例全例にリンパ節転移を認め,臨床病型と転移との関連が示唆された.しかし,他にはリンパ節転移の有力な指標を認めなかった.sm2・3癌ではリンパ節転移と関連した因子が少ないため,EMRを主体とした食道温存治療の適応は低く,別の治療戦略が必要であると推察された.

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要旨 食道sm癌切除例217例(扁平上皮癌,外科手術202例,EMR15例)をsm1,sm2,sm3と細分類して予後と関連する腫瘍組織の全体的な病理学的特徴とsmへ浸潤する腫瘍先進部における組織学的特徴の両者から食道sm癌のリンパ節転移の危険性,予後判断に対する危険因子について検討し,sm1群とsm2,sm3群との間に脈管侵襲陽性率やリンパ節転移率に有意な上昇の差を認めた.リンパ節転移の危険性を示唆する上で病理組織像から脈管侵襲,sm浸潤部の広さ,さらにsm腫瘍先進部における癌胞巣の籏出に加えてmatrilysinの発現が有意の差をもって相関を示し,腫瘍先進部の高度細胞異型も重要な所見とする傾向がみられた.

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要旨 内視鏡所見からみた食道sm癌の実態を明らかにするため,食道sm癌の外科切除例(3領域リンパ節郭清)の,深達度とリンパ節転移の状況について再評価を行った.腫瘍長径と深達度に関連性はなかったが,腫瘍長径が50mm以上の症例でリンパ節転移の頻度が高かった.また肉眼病型については0-Ⅰsepや0-Ⅱc+Ⅱa,あるいは0-Ⅲを含む進行癌様の病型は症例数が少ないながら,リンパ節転移の危険群と推測された,予後に関してはリンパ節転移陰性例にもリンパ節再発の症例が少なからずあった,現況ではsm2,3症例における内視鏡治療の適応症例の選択に関しては,内視鏡所見から鑑別することは困難であり,さらに多くの課題が残されていると思われた.

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要旨 リンパ節転移陰性のsm癌をふるい分けることを目的として,sm浸潤食道癌65例について,肉眼病型別に,深達度,脈管侵襲,sm浸潤面積とリンパ節転移の有無との関係を検討した.結果,0-Ⅰと0-Ⅲ型ではリンパ節転移の予測は困難であったが,0-Ⅱ型病変ではsm浸潤面積とリンパ節転移の有無は密接に関係し,臨床的にリンパ節転移の予測が可能と考えられた.リンパ節転移陰性のsm癌は,“sm浸潤の面積が100mm2以下の0-Ⅱ型病変”であり,X線所見は“側面像の壁変形所見の長さが15mm以下の0-Ⅱ型病変”であった.

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要旨 食道sm癌の90%近くの症例でly,v等の予後不良関連因子が陽性であるが,これに対するD2,3郭清術の5生率は72.6%,disease specific survivalが81.8%で,D0,1郭清術の40.2%,59.8%より明らかに良好であった.sm癌の中には非手術的な局所治療が根治的な症例もあり,リンパ節転移があっても化学・放射線同時併用療法等で根治できる症例もあるが,過去の成績にはselection biasがあり手術と直接比較できない.sentinel node navigation surgeryも注目されるが技術的にも理論的にも更なる検討を要する.食道sm癌に対する標準治療は現在もその確実性から定型郭清を伴う食道切除再建術であるが,QOL向上の観点から食道温存治療の成績向上と食道切除再建術との客観的比較が望まれる.

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要旨 食道癌のリンパ節転移と関連する遺伝子・分子異常としてc-erbB遺伝子増幅,p16発現異常,8q23-qterと20qの増幅,11q22-qterの欠失,13q12-13のLOH,argyrophilic nucleolar organizer regions(AgNOR)の高値,vascular endothelial growth factor(VEGF)発現,Fas ligand(Fas L)の発現,MTA1遺伝子発現ornithine decarboxylase(ODC)のT/N比高値などが報告されている.これらの事象を臨床に応用するには内視鏡生検材料を用いた判定が必要となる.また,分子生物学的手法により得られる食道癌の情報は有用であるが絶対ではないので,従来の画像診断やlymphoscintigraphyを組み合わせて食道sm癌に対する食道温存療法を選択するべきである.

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要旨 sm2/sm3癌を代表とする,EMR適応外のcStageⅠ食道癌71症例の放射線・化学療法の治療成績をまとめた.治療は,抗癌剤(5FU700mg/m2/日,4日間の持続静注とCDDP70mg/m2/日,第1日目に点滴静注)と放射線1日2Gy,3週間15回の30Gy照射を計2コース(照射総量60Gy)行った.CRは66例(93%)に認められた.有害事象は全体に軽度であったが,機能障害を来さない程度の晩期毒性が比較的高頻度に認められた.全71例の1,2,3年生存率はそれぞれ97%,90%,80%であり,外科的切除術に匹敵する生存成績であった.放射線・化学療法は有望であり,現時点において選択肢の1つとして挙げるべき治療法である.

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要旨 患者は67歳,女性.前切歯列から20cmの左壁に長径約2cmの0-Ⅱc病変を認め,周堤部は隆起していた.トルイジンブルー染色像では,陥凹部は淡染するのみであり,トルイジンブルー・ヨード二重染色では,陥凹部はヨード不染である一方,周囲の隆起部はヨードで染色され,畳目が貫かず,腫瘍が周堤部で粘膜下に浸潤する所見であることと,EUSの結果も合わせ深達度sm2と診断した.またEUS,CTでは縦隔内のリンパ節転移は認められなかった.既往歴にNHL,RAがあり,全身の免疫能が低下していたためEMRが選択された.1997年11月,EMRT法で病変を一括切除した.病理ではpT1b(sm2),ly(+),v(+),断端(-)であった.全身状態,既往歴等を考慮し手術や放射線化学療法などの追加治療は行われなかった.以後外来で内視鏡,EUS,頸腹部超音波で定期的に経過観察されているが,EMR後4年経過した2001年11月現在,局所再発リンパ節転移ともに認められていない.

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要旨 患者は57歳,男性.食道症状なし.健康診断の上部消化管造影検査で食道に異常を発見され,内視鏡検査により食道癌との診断を受けた.精密検査により胸部下部食道癌(Lt 0-Ⅱa+0-Ⅱc,深達度m3,転移なし)と判断して,informed consent下に内視鏡的粘膜切除術を施行した.切除組織の病理学的検索で明らかな脈管侵襲は認めなかったものの,固有食道腺直下まで癌巣は拡がり,深達度sm2と診断した。また,腫瘍は上皮下粘膜固有層内を伸展しており,口側に癌遺残が疑われた.十分な診断情報を提供するとともに追加治療を勧めたが,患者本人の意志により厳重に経過観察することとなった.内視鏡,CT,EUS,腫瘍マーカーなどによる検索を続けているが,術後約3年半の現在まで再発を認めていない.

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要旨 症例は71歳,女性.1997年1月人問ドックの内視鏡検査にて食道癌を指摘.内視鏡検査では切歯列より28~34cmに1/2周性の0-Ⅱc病変あり.隆起成分が広範に認められ,深達度sm3と診断.病変口側には壁内転移も認め,生検では低分化~中分化型扁平上皮癌であった.食道造影検査では,胸部中~下部食道に長径約6cm,1/2周性の0-Ⅱc病変あり.陥凹内に粗大顆粒状隆起があり,同部の壁に硬化所見を認め,深達度sm3以上と診断.頸部超音波検査にて,左鎖骨上窩にリンパ節転移が疑われた.①壁内転移を有する0-Ⅱc型食道癌で,深達度sm3以深,②組織学的には低分化~中分化型扁平上皮癌,③頸部リンパ節転移が疑われる病変,以上の点から放射線・化学療法を選択.放射線はlong-Tで70Gy照射,しかし,化学療法はCDDP15mgにて白血球低下のため中止.治療終了時には,病巣は平坦化していた,治療後5年経過した現在,再発なく健在である.

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要旨 リンパ節転移を伴う食道sm2/sm3癌に対して放射線化学療法が有効であった症例を経験したので報告する.患者は67歳,男性.食道Mtの0-Ⅰ+Ⅱc(sm2/sm3)で101L,Rにリンパ節転移が認められた.患者はQOLを重視し手術を拒否したため放射線化学療法を選択した.頸部から主病巣下端までのT字照射66Gy,CDDP10mg/日×5日×4週(合計200mg)を行い,さらに10Gyの腔内照射を追加した.主病巣は潰瘍瘢痕となりCRと判定されたが,101R(17×10mm),L(10×5mm)のリンパ節はそれぞれ12×7mm,5×4mmに縮小したものの残存した.その後徐々に縮小し101Rは1年半で消失した.4年半後切歯より21cmに0-Ⅱc病変が認められ,EMRを施行した〔m1,VM(-),LM(-),ly0,v0〕.初療より5年経過し,現在再発の兆候なく生存中である.

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 〔患者〕 54歳,女性.主訴:下腹部痛.既往歴:46歳時S状結腸癌でS状結腸切除.現病歴:2001年6月初旬ごろ,下腹部痛が出現したため近医を受診し便潜血テスト陽性であったため,注腸造影が施行された.回腸末端に腫瘤像が認められたため,6月21日精査目的で,当科を紹介され受診した.

 〔注腸造影所見〕 回腸末端に3cm大の双こぶ様の陰影欠損が認められた.その境界線は平滑な曲線で形成され,癌よりも粘膜下腫瘍の可能性が考えられた.腫瘤表面には淡いバリウム斑が認められ,びらんの存在が示唆された.また腫瘤の肛門側にはリンパ濾胞よりも少し粗い結節穎粒状陰影が描出されていた(Fig.1a).圧迫像でも腫瘍の外側の少し肛門側に小隆起があり,対側にも壁の不整像がみられた(Fig.1b).

追悼

﨑田隆夫先生を悼む 多賀須 幸男
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 日本消化器内視鏡学会名誉理事長﨑田隆夫先生が平成14年8月19日に死去されました,謹んで哀悼の意を表します.

 先生は沼津中学から旧制一高を経て昭和20年に東京帝國大学医学部を卒業された俊才です.学生時代には薬理学教室に入りびたって,ギリシャ哲学に造詣が深かった熊谷洋先生を囲んで敗色が深まる戦時下に語り合われたそうです.お言葉の中にかいま見られる理想主義的精神の源は,此処にあるに違いありません.

﨑田隆夫先生を悼む 八尾 恒良
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 﨑田先生がお亡くなりになった.

 先生には「胃と腸」が創刊された1966年より1983年まで,本誌の編集委員として御指導頂いた.晩年,﨑田先生御自身からお聞きした話では1959年,田坂定孝教授が第3回日本胃カメラ学会を開催された折,早期胃癌の全国集計が行われ,早期胃癌の定義と分類が決められたが,その委員長であった故村上忠重先生,X線担当の故白壁彦夫先生,﨑田隆夫先生をはじめ錚々たる先生方が月1回(学会前は週1回)集まられ,夜を徹した検討と議論が行われたという.そして,これが早期胃癌研究会の母体となり,その機関誌として「胃と腸」が発刊されるに至ったという.

早期胃癌研究会

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 第41回「胃と腸」大会は2002年4月18日(木),第63回日本消化器内視鏡学会総会のサテライトシンポジウムとして山梨県昭和町アピオ本館で行われた.司会は高相和彦(山梨県立中央病院内科)と赤松泰次(信州大学附属病院光学医療診療部)が担当した.

 〔第1例〕48歳,男性.SSBEに発生した食道小腺癌(sm1)(症例提供:佐久総合病院胃腸科 小山恒男).

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要旨 患者は55歳,女性.心窩部痛を主訴に当センター外来を受診,上部消化管内視鏡検査で十二指腸球部に巨大な隆起性病変を認めたため入院となった.上部消化管造影検査にて十二指腸球部にほぼ内腔全体を占める大きさ約4cmの亜有茎性の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.腹部CT検査では,病変は動脈相,平衡相ともに肝臓と同程度の造影効果をもつ辺縁平滑な類円形の腫瘤として描出された.超音波内視鏡検査を施行したところ,病変は第2~3層に主座をもつやや高エコーの充実性腫瘤であり,内部に囊胞性変化をうかがわせる低エコースポットを認めた.以上の画像所見から十二指腸球部に発生した巨大な粘膜下腫瘍と診断し,心窩部痛の症状を有していたため腹腔鏡補助下の十二指腸切開腫瘤核出術を施行した.病理組織学的にはBrunner腺が粘膜下層を主体に増殖していたが,明らかな異型を認めずBrunner腺過形成と最終診断した.Brunner腺過形成は十二指腸粘膜下腫瘍の鑑別診断の1つとして重要であり,その画像所見を中心に報告した.

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要旨 患者は63歳,女性.大腸がん検診で便潜血検査陽性を指摘され当センターを受診注腸X線検査では,短縮した虫垂内に芋虫状の細長い大きさ約2cmの隆起性病変を認めた.内視鏡検査では,虫垂入口部には異常所見を認めなかったが,生検鉗子を用いて入口部を広げると,発赤した表面平滑な隆起性病変が蠕動に伴って虫垂口から盲腸に脱出するのが認められた.超音波内視鏡および造影CT検査を行ったが質的診断には至らず,虫垂原発の粘膜下腫瘍であるが,右下腹部の慢性的な鈍痛の原因になりうることや悪性も完全には否定できないと本人および家族に説明し,腹腔鏡下虫垂切除術を施行した.病理組織学的検討から,虫垂体部に発生した子宮内膜症が虫垂重積を来し,それによってポリープ状の粘膜下腫瘍様病変が形成されたものと診断された.

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要旨 症例は75歳,男性.上腹部痛の精査にて施行された内視鏡検査にて胸部中部食道に約5mmの不整形の発赤を伴う0-Ⅱc病変が認められ,拡大内視鏡観察により病変の部位を可能な限り同定した上で生検を行った.生検組織は,中分化型の扁平上皮癌であり,正常な食道重層扁平上皮によって完全に囲まれていた.残存病変の可能性を念頭に置き内視鏡的粘膜切除術を追加したが,切除標本には,異型再生上皮をわずかに認めるのみで癌はみられなかった.以上の結果から生検のみで完全摘除されたものと考えられた.拡大内視鏡による詳細な観察は,微小食道癌の診断,治療において有用である.

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要旨 患者は57歳,男性.嚥下時不快感を主訴に近医を受診.上部消化管内視鏡検査にて下部食道に隆起性病変を指摘された.胸部下部食道左壁に径3cm大の広基性の隆起性病変を認めた.その表面は凹凸を有するが,平滑であり,正常上皮によって覆われていた.隆起は部分的に軽度発赤を認めたが,色素沈着は認めなかった.生検の結果,炎症性の変化と診断された.全生検目的にEMRを施行した.病理学的検討の結果,悪性黒色腫と診断された.患者の希望により放射線照射による治療が選択され,60Gyの放射線照射を行った.EMR後12か月経過し,現在無再発生存中である.

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欧文目次

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 数年前からわが国でもEBMという言葉が流行りとなったが,まだ誤解・曲解に基づく批判や誤用が少なくない.その一方で,老若を問わず賢明な臨床医たちはその本質を鋭く捉え,支持する立場に回り始めた.すなわち,個々の患者の問題点に対して最も適切な医療を提供しようというEBMの本質に対しては,臨床医として反論の余地が無いからである.

 しかし本質の理解がそのまま実践に結びつくわけではない.最適の医療を提供するためにはできる限りよいエビデンスを得なければならない.これまでに出版されたEBMの入門書はいずれも優れたものであり,的確なガイドとして役立っている.それでもなお情報の収集(ステップ2)と吟味(ステップ3)は骨の折れる作業であり,広汎な臨床疫学的知識を必要とする.日常診療では二次情報ソースを活用しながらこれらのステップを簡略化する方法も是認されるが,いざというときには本格的に取り組みたいし,少なくとも知識と技術だけは有しておきたいものである.これまで臨床疫学を学習する機会を得なかった臨床医は,一歩先に進めずに悩むことも多かろうと思われる.

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 evidence-based medicine(EBM)という言葉が臨床の場で頻回に使用されるようになってから,われわれ臨床家は診断や治療の根拠と出現する確率を意識しないわけにはいかなくなった.本書は臨床の現場における決断(臨床決断)をどのような根拠に基づいて行うかをわかりやすい実例を持って示してある極めて基本的,かつ明解な解説書である.

 医療の現場で用いられる決断のプロセスをデシジョン・ツリーとして表現し,それぞれの起こりやすさ(likelihood)とはどのようなものであるかを多面的に表現している.残念なことに,日常診療の場においてはこのような考え方を100%臨床決断に活かすことはできないかもしれない.これはいまだバックアップを行う医学的なデータが欠如しているという現状があるからである.しかし,多くの臨床的な文献を読み解く際に,本書の考え方は文献の記載が縦糸だとすれば,横糸であり,本書で紹介されている手法を思考に導入することにより,より柔軟かつ強靱な臨床活動ができるものと期待される.

編集後記 滝澤 登一郎
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 粘膜下に浸潤した食道癌にリンパ節転移が生じる確率は約40%である.胃癌と比較すると倍の高頻度で,食道癌の予後不良を説明する主要な因子の1つとなっている。しかし,逆に60%の症例にはリンパ節転移は認められず,これらの症例に対しては食道を温存する治療が望ましい.今回の企画は,食道を切除せずに粘膜下に浸潤した癌を完治させるための第1歩を目指したものであるが,背景には放射線・化学療法の着実な進歩があった.本号でも放射線・化学療法の外科治療に劣らぬ有効性については,国立がんセンター中央病院内科から十分量の症例に基づいた報告がなされている.また,癌の悪性度とリンパ節転移については,病理の立場から藤田らによって報告され,深達度,浸潤部の面積,浸潤先進部における癌の組織像,脈管侵襲,細胞異型などが重要な因子であると再確認された.

 目的を達成するための方針が次第に明らかになってきた.食道を切除せずに粘膜下に浸潤した癌を治すためには,最初に癌の性質を病理学的に解析する必要がある.そのためには正確な深達度診断に基づいて病変を内視鏡的に切除し,癌を病理学的に評価する必要があろう.次いで,その結果により放射線・化学療法を併用し,総合的に癌を排除する方法である.EMR,病理診断,放射線・化学療法の各治療が適切に連動すれば夢は叶うと思われる.

基本情報

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胃と腸
37巻10号 (2002年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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