胃と腸 36巻6号 (2001年5月)

今月の主題 早期大腸癌の深達度診断にEUSと拡大内視鏡は必要か

序説

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 超音波内視鏡検査(endoscopic ultrasonography;EUS)も拡大内視鏡も,20世紀の科学が産み出したハイテク技術を応用した診断法である.人類が宇宙へ旅立つ時代,遠隔操作で火星の土壌組成を調査しようという時代にあって,その技術のほんの一部を応用するだけで,人の消化管の小病変を判別できないはずがない.

 今号で早期大腸癌の深達度診断に果たすEUSと拡大内視鏡の意義を主題に取り上げることになったが,平凡ではあるが重要なテーマである.深達度診断を正確に行い,内視鏡治療の適応と限界を明確にするために,これらのハイテク診断技術は臨床の場でどのように生かされているのか,これらの位置づけと問題点について探ることは興味深い.

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要旨 EUS像のパターン認識に基づけばsm浸潤度分類に沿った早期大腸癌の深達度診断が可能である.専用機と細径プローブの比較では,特に厚みのある病変を除けば細径プローブがより適している.病変の形態別では隆起型よりも表面型で良好な成績が得られる.通常内視鏡とEUSの比較ではEUSがやや診断能が高く,両者の診断をうまく組み合わせれば更に診断能の向上が図れると考えられる.誤診原因は病変の描出が不良であることに起因するものが最も多いが,炎症細胞浸潤や線維化の存在によるものもみられ読影上の工夫が必要と考えられる.第3層内低エコーの特徴をとらえれば組織像の推定も可能である.EUSは早期大腸癌の深達度診断において決して必須ではないが,ほかの検査法とは違う情報が得られるため一部の症例では有用であることは無視できない.EUS診断に習熟するためには,ある程度無差別に検査を行うことが必要であるのも事実である.

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要旨 秋田赤十字病院胃腸センターにて拡大内視鏡観察が可能であった大腸腺腫,早期癌10,656病変を対象として,pit pattern分類(工藤分類)と病理組織診断の対比を行った.その結果,ⅢL型は96.7%が腺腫であり,Ⅳ型も大半が腺腫であるが,腫瘍径が大きい病変もあるため腺腫内癌も含めたm癌15.8%,sm癌は軽度浸潤癌を主体として2.9%を認めた.ⅤA型では軽~中等度異型腺腫は圧倒的に減少したのに対して,高度異型腺腫22.6%,m癌32.6%,sm癌22.2%とm癌を中心としていたが,この理由として他のpit patternを除外したものが含まれていること,病理学的にも境界領域的なものが対象となっている点が考えられた.一方ⅤN型では,60.3%がsm癌であり,その80.2%がsm深部浸潤癌であった.以上より深達度診断にはⅤN型がsm深部浸潤癌として重要な指標であり,ⅤA型はm癌を基準とした腺腫とsm軽度浸潤癌を主体としたsm癌との中間に位置すると判断すべきと考える.

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要旨 早期大腸癌100病変を対象とし,深達度診断(m,sm1とsm2,3の鑑別)における通常内視鏡検査(E)とEに組み合わせて施行した注腸X線検査(X),超音波内視鏡検査(U),拡大内視鏡検査(M)の有用性を治療前の総合診断を基準にして検討し以下の結果を得た.(1)Eで病変を詳細に観察できた観察可能は89病変で,大きさなどのために観察が不十分な観察不可は11病変だった.観察可能のうち88病変を正診し,1病変を誤診した.正診のうち83病変は所見から簡単に診断できた確診で,5病変は所見の解釈が難しく診断に苦慮した疑診だった.観察不可のうち4病変が正診し,7病変を誤診したがすべて疑診だった.つまり,Eの正診は92病変だが疑診を9病変含んだ.(2,Eの観察不可で誤診した2病変が総合診断で正診され,総合診断の正診は94病変だった.(3)病変に施行した検査は,Eのみの1検査群,EとXの2検査群,EとXとUの3検査群,EとXとUとMの4検査群の4群があった.(4)観察可能のうち正診した確診病変は,組み合わせた検査の診断が誤診であってもすべて総合診断で正診され,組み合わせた検査の意義はなかった.(5)Eで正診した中の疑診病変と誤診した病変を総合診断の正診に導いた検査を有用,導かなかった検査を不要とした.結果,観察可能で有用な検査は4検査群に認めた.X線は7%,EUSは17%,拡大内視鏡は13%が有用だった.観察不可で有用な検査は2検査群と3検査群に認めた.2検査群ではX線は60%,3検査群ではX線は40%,EUSは40%が有用だった.3検査各々に有用な検査を認めたが,それは観察不可に多かった.更に,不要な検査数は有用を上回っていた.したがって,今後は効率のよい検査の組み合わせを検討する必要があると考えられた.

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要旨 自験例大腸sm癌69病変で通常内視鏡検査からretrospectiveに深達度診断を検討した.病変を発育様式(PG・NPG)を考慮して,組織学的にsm微少浸潤癌(sm-s)とそれ以外(sm-m)に分けてその診断能を検討した.内視鏡的深達度診断は内腔の弧の変形・ひだ集中といった伸展不良所見,陥凹局面の凹凸・粗雑,発育様式の予測と台状挙上の有無といった項目から行った.全体の正診率は77%であり,sm-m癌では78%であった.正診率の低下の原因は組織学的にPG発育を呈する隆起型病変の正診率が低いことであった.今回の検討では隆起型癌の緊満感や凹凸,非対称性発育といった所見を深達度診断の要素には加えておらず,それらを加えることにより,正診率は向上するものと考えられた.組織学的NPG発育を呈した病変は,今回の診断項目から91%診断可能であり,拡大内視鏡を用いなければ深達度診断が不可能と思われた症例は3病変のみであった.隆起型病変の深達度診断は超音波内視鏡(EUS)でも文献的に満足のいく結果は得られておらず,拡大内視鏡やEUSがなければ診断できない病変は必ずしも多くないものと考えられた.

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要旨 早期大腸癌深達度診断における拡大内視鏡と超音波内視鏡(EUS)の有用性を明らかにすることを目的として通常内視鏡と比較した深達度診断能の検討を行い以下の結果を得た.①診断不能病変を含めたsm2~3の診断能は感度,特異度,正診率ともに通常内視鏡が拡大内視鏡,EUSより高かった.②拡大内視鏡によるsm2~3の診断能は他の検査に比べ感度が極端に低かった.診断能向上のためにはVpitの亜分類が必要と考えられた.しかし,V型以外のpitにはSM2~3は存在しなかった.③EUSの診断不能率は最も高かったが,診断不能病変を除いたsm2~3の診断能は通常内視鏡に近かった.また,通常内視鏡で誤診した6病変のうち3病変を正診していた.以上をまとめると,通常内視鏡が最も診断能の高い優れた検査法である.しかし,それのみでは十分診断できない病変も存在し,通常内視鏡による深達度診断に確信が持てない病変に対しては積極的に他の検査,特にEUSを施行すべきである.

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要旨 大腸癌の深達度診断は精度向上への様々な工夫が進められている.超音波内視鏡(EUS),細径超音波プローブ(MS),拡大内視鏡(拡大)の有用性を強調する報告が増加している中で,早期大腸癌の深達度診断は通常内視鏡(CS)で十分であるとする意見も少なくない.CSの深達度正診率は内視鏡経験年数に比例して向上する.これに対しMSや拡大では,経験年数10年以上では向上がみられないものの,より年数の少ない内視鏡医で著明に向上し,経験年数による診断能の差は減少する.MSと拡大はCSに比べより客観的な深達度診断が可能であり,比較的経験年数の浅い内視鏡医の深達度診断能の向上に有用であることを示した.

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要旨 1997年4月から2000年9月までの期間に経験した大腸癌94例96病変を対象として,内視鏡通常観察単独での深達度診断能と超音波細径プローブ所見を加味した診断能を比較検討した.内視鏡通常観察単独,細径プローブ単独での深達度正診率はそれぞれ81%,77%(描出困難例を除くと94%)であったが,内視鏡通常観察に細径プローブ所見を加味することで正診率は92%へと上昇した.表面型と隆起型に分けて検討したところ,表面型では内視鏡通常観察に細径プローブ所見を加味した正診率は100%であった.一方,隆起型では内視鏡通常観察に細径プローブ所見を加味した正診率は78%であり,隆起型に対する正診率向上が今後の課題と考えられた.

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要旨 EUSを施行した早期大腸癌99病変を対象に,EUSの深達度診断能を通常内視鏡(CS)診断と比較した.EUSによる病変描出率は83.8%,描出例での深達度正診率は88.0%であった.EUS描出例でのCSによる深達度正診率は80.7%とEUSより低率であった.形態別の正診率は隆起型,表面隆起型では差はなく,陥凹型でのみEUSがCSに比し高率であった.CSで誤診した15病変中10病変をEUSで正診しえた.その10病変のうちCSで深達度を過大評価し,EUSで正診しえた病変は全例表面型で,逆にCSで過小評価しEUSで浸潤をとらえることにより正診した病変は全例隆起型であった.深達度正診率からみると陥凹型でのみEUSの併用がより正確な深達度診断につながると言えるが,隆起型でも表面構造が保たれた病変ではCS,拡大内視鏡での深達度診断が困難な場合があり,EUSの併用がより有効であると考える.

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要旨 工藤らのpit pattern分類は,組織診断とよく対応することから拡大内視鏡診断に応用されてきた.しかし,現在までの成績と治療の適応を視野に入れて考えた場合,臨床的に無処置で良い非腫瘍性病変(Ⅰ・Ⅱ型pit),内視鏡切除可能な腺腫からsm1癌(ⅢL・Ⅲs・Ⅳ型およびⅤA型の一部),外科的手術が優先されるsm2以深癌の3群に分類可能である.今回,われわれはこの大別した分類を用いて拡大内視鏡とEUSとの正診率を比較した.同一病変にEUSと拡大内視鏡の両者を施行した早期癌123病変(隆起型75,表面型48病変)における深達度診断能の比較では,肉眼型にかかわらず拡大群89%(110/123)がEUS群79%(97/123)に比べ良好な成績であった(p=0.0245).EUSで診断困難とされる腫瘍高11mm以上の隆起型腫瘍においても拡大の正診率は,86%(57/66)と良好な成績であった.早期大腸癌に対する深達度診断能は,肉眼型にかかわらず拡大内視鏡がEUSを凌駕する成績であることから,現時点では通常+拡大観察による内視鏡診断で十分と考えられる.

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要旨 早期大腸癌139病変を対象に,拡大内視鏡による腺口形態(pit pattern)の観察が深達度診断に有用であるかどうかを検討した.工藤の提唱するⅤ型亜分類に準じてみると,VA型の71.7%がm,sm1,28.3%がsm2,3であり,VN型の16.7%がm,sm1,83.3%がsm2,3であった.その結果,Ⅴ型亜分類は深達度に有意差(p<0.01)が認められた.次に,通常およびインジゴカルミン撒布による観察(通常観察群)とそれにクリスタルバイオレット染色を併用した拡大観察(拡大観察群)の深達度正診率は,両観察群において有意差はなかった.しかし,両観察群を深達度に関する確診群と疑診群に分けて検討した結果,通常観察群と比較して拡大観察群では疑診群の数が著明に減少し,確診群の病変数の頻度は増加し,全対象病変からみた確診群の正診率が通常観察群の74.8%(104/139)から拡大観察群の90.6%(126/139)に向上した.以上から,深達度診断に関する拡大内視鏡観察の有用性が支持されると考えた.

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 丸山(司会) 本日は「早期大腸癌の深達度診断にEUSと拡大内視鏡は必要か」というテーマで座談会を開きます.

 先ほどお年を聞いてみたのですが,工藤先生を除く5人の方は40~43歳です.工藤先生は53歳,多田先生は57歳,私は59歳.司会の2人は50歳の半ばを超えています.同じ大腸の仕事をやってきた中でもかなり年齢差があります.これから論ずるのは,極めて新しいmodalityについてなので,8人の間には考え方の差があると思います.かと言って若い世代の40代の先生方が同じ意見では困ると思うし,相互にホットな議論で盛り上げてもらいたいと思います.早期大腸癌の深達度診断にEUS(endoscopic ultrasonography;超音波内視鏡)と拡大内視鏡は必要か,ということを論じていきますと,形態学の中で分析を細かくすればするほど,物事の本質というのは見えてくるのかという,まだ実は解決されていない命題に突き当たります.小さく細かくやっていくことで,何か差のあるものの区別ができるか,ということに迫る問題だと思うので,modalityとしていいとか悪いとかという問題以外の,もっと大きな形態学上の大問題を含むものであると思います.その辺も含めて議論をお願いします.

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 〔患者〕 61歳,男性.検診にて便潜血検査陽性を指摘され,精査目的にて来院.

 〔注腸X線所見〕 横行結腸中部に径約3cmの陰影欠損と,周堤を伴うバリウムの溜まりを認め,皺襞集中も伴っていた(Fig.1a).二重造影にて周堤の口側辺縁は急峻な立ち上がりを示したが,肛門側は丈の低い隆起の進展を認めた(Fig.1b).

学会印象記

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 第87回日本消化器病学会総会は2001年4月18日より3日間,東京(新宿京王プラザホテル)で,二川俊二会長(順天堂大学第2外科)により単独開催された.100年以上の沿革を持つ本学会のしかも21世紀最初の総会でもあることから,その抄録集における会長の巻頭言からも容易にうかがえることではあるが,世界における日本消化器病学会の将来に対する意気込みのようなものが感じられた.3日目のPostgraduate Course(午前:消化器画像診断,治療の最前線,午後;消化器遺伝子診断,治療の最前線)の終了の直後に二川会長による閉会の辞が述べられ,参加者は5,300名を超え,オンライン登録のみにもかかわらず1,000題以上の演題申し込みがあったとのことである.成功裡に終幕したという印象を受けた.

 本学会の特徴を振り返ってみると,“組織形態学”と“分子生物学”の最先端と,それらが関連する診断と治療に関わる諸課題がわかりやすく提示されていたと思われる.シンポジウム,パネルディスカッション,ワークショップ,それぞれ9テーマずつが先の観点から企画されていた.更に遺伝子診断・治療・移植医療への深い関心が払われており,特に招待講演およびPostgraduate Courseでそれがうかがわれた.“組織形態学”では,GERD,Helicobacter pylori,Barrett上皮,膵胆道検査法,粘液産生膵腫瘍,炎症性腸疾患とサイトカイン,門脈圧亢進症などの今日的課題が取り上げられていた.参加したセッションを振り返ると,シンポジウム4「肝癌治療の新たな展開(ラジオ波から遺伝子治療・肝移植まで)」では,局所療法としては,主にPEIT,MCT,LMC,RFAなどの比較検討が行われた.“患者さんのほうから最近はラジオ波焼灼療法を要求してくることがある.また病棟に長く残る患者さんはエタノール注入だけだったり…”という司会の小俣政男教授(東京大学消化器内科)の言葉がおもしろかった.治療技術の変遷にはめまぐるしいものがあり,腫瘍の大きさや局在との関連もあるが今後どこに落ち着くのか興味深く拝聴した.肝切除,インターフェロン,electroporation法を用いた遺伝子治療,遺伝子銃免疫遺伝子療法などの発表もあった.

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基本概念

1.DNA

 ほとんどの生物体または細胞内小器官において,遺伝情報を担っている物質.DNAは,ほとんどの場合,二本鎖であり,すべての体細胞の核内に存在している.通常DNAは核内に溶液の形で存在しているが,細胞分裂の際には凝縮し折り畳まれて,染色体という形のはっきりした構造になる.二本鎖DNAは,2つの鎖は反対向きに走り,互いの周りに二重らせんを形成している.一方の鎖の上のプリン塩基はワトソンークリック則(AかTと,GかCと対をつくる)に従って,他方の鎖のピリミジン塩基と特異的に水素結合する.

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欧文目次

編集後記 工藤 進英
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 本邦から世界に広まりつつある拡大内視鏡pit pattern診断は,本邦のみならず,欧米でも急激に広まりつつある.同時に,EUSの有要性も認められ論議されている.早期大腸癌,特に表面型腫瘍の診断学がこれらにより進歩し,病変の質的診断向上が,臨床において明らかにむだなポリペクトミーやEMRを減少させている.一方では,拡大内視鏡pit pattern診断やEUSは,同時に通常内視鏡診断の診断能も明らかに向上させている.本号で,拡大内視鏡とEUSの是否を問う企画がなされているが,通常内視鏡からの一連の診断学大系が急速に進歩しているという,今までにない時代の変化を感じるのは筆者だけであろうか.拡大pit pattern診断は,色素内視鏡とほぼ同じ手間しかかからず,内視鏡診断のルーチンの作業であることは,山野論文に示されている.それぞれのエキスパートがそれぞれの主張をすることは認めるが,X線と内視鏡の診断学の比較が,次第に終息したように,通常内視鏡,EUS,拡大内視鏡の比較も早晩に終息して行くであろう.その方向性を決め,変化をなすのは臨床にいる実地の内視鏡医である.そして新しい変化,ビルドに伴うのは,何かを捨てるというスクラップ作業である.われわれは,疑診ではなく,できるだけ確診に近い質の高い診断をし,患者のために過不足のない適切な治療を行うことが必要である.イボ取り屋と呼称された診断学の欠如した時代は終わった.早期大腸癌の診断と治療が今後どうなるのか,世の中の変化を楽しみに見て行きたい.

基本情報

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胃と腸
36巻6号 (2001年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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