胃と腸 36巻13号 (2001年12月)

今月の主題 早期胃癌診療の実態と問題点

序説

早期胃癌診療の実態と問題点 浜田 勉
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 「胃と腸」を創った先達は早期胃癌を血眼になって見つけ出し,その形態的概念を消化管学に植え付け,早期胃癌は治癒する癌であることを日本国中に浸透させた.積み重ねられた診断と治療に関する業績は膨大である.この軌跡は,本誌33巻1号(1998年)『「胃と腸」33年間の歩みからみた早期胃癌-診断と治療の歩みと展望』に,芳野ら1)が余すところなく的確にまとめているので,詳細はこの文献にゆだねたい.さて,新世紀のページが開かれ,新しい診断方法や治療方法が展開されつつある今,近年の早期胃癌診療の実態はどのように変化しているのか,整理し認識することが本号の企画の狙いである.早期胃癌の拾い上げ診断の面においては,集検や検診ではX線検査に代わるペプシノーゲン法の出現があり,また病院施設ではスクリーニングがX線検査から内視鏡検査への移行という現状がある.また,EMRや腹腔鏡下切除などの縮小治療の進展により,その適応となる早期胃癌の診断と治療が中心となってきているのが実態である.したがって,日常診療において診断の質は単に早期癌の発見数ではなく治療法別にみた早期胃癌の割合がどうであるかが問われるだろう.このような観点から,現時点でのX線検査,内視鏡検査の実際の発見成績はどうであるのか,また,その所見はいかなるものであるのかにも注目したい.

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要旨 胃集団検診は間接X線検査による胃検診が定番であった.近年,X線検査の代わりに血液検査であるペプシノーゲン(以下PG)検査を行う市区町村が増えている1).PGのcut-off値は通常PGⅠが70μg/l以下かつPGⅠ/Ⅱ比が3以下の組み合わせでこの値を基準値としている2).(1)胃集団検診を受診した50歳以上の男性4,151人にPGを測定しかつ内視鏡検査を行ったところ,陽性者は43%の1,785人であり,この中に癌は41例(早期胃癌37例,進行癌4例)含まれ,陽性反応適中度は2.3%であった.また,53%の陰性者2,366人中には早期胃癌の14例が含まれ,癌の含まれる確率は0.6%であった.(2)PG(+)とPG(-)例を比較すると,部位,大きさ,深達度では統計学的に有意差はみられなかったが,組織型の比較だけ有意差がみられPG(-)例は未分化型に多かった.(3)基準値を用いている施設間で胃癌の発見率を比べると,0.26~1.4%と様々であった1).これは“内視鏡検査の質”の差を物語っている.

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要旨 術前にX線,内視鏡の両検査が行われ,切除標本の病理組織学的検査が済んでいる早期胃癌278例296病変を対象に,EMR適応・非適応の決定におけるX線診断の有用性の実態を分析し,以下のような結果が得られた.①EMR適応早期胃癌102病変(m:101病変,sm1:1病変)に対してX線は94病変,92.2%を適応と診断しえていたが,内視鏡の96病変,94.1%にはやや及ばなかった.しかし,②非適応sm癌107病変(sm1:29病変,sm2, 3:78病変)を適応病変と誤診した症例は内視鏡の15病変,14.0%に対してX線は7病変,6.5%であり,X線のほうが勝っていた.特にsm2, 3病変では内視鏡が11病変,14.1%を適応と誤診していたのに対して,X線は3病変,3.8%にとどまった.以上からX線診断は早期胃癌のEMR適応に関して,適応よりも非適応の決定により重要な役割を果たしていた.

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要旨 根治を目的にEMRを施行した149例,155病変を対象とし,EMRを施行する場合の術前診断の現状と問題点について検討した,隆起型78病変,平坦・陥凹型77病変とほぼ同数であった.X線により発見された病変は26病変(16.8%),内視鏡で発見された病変は129病変(83.2%)であった.術前の範囲診断では,隆起型の誤診例はなく,平坦・陥凹型の2例に誤診例がみられた.深達度の正診率は,隆起型93.6%,平坦・陥凹型89.6%であった.深達度別の正診率は,m癌97.2%,sm癌37.5%(隆起型50%,平坦・陥凹型30%)であった.同時性多発胃癌は9例(6.0%)にみられ,9例中7例(77.8%)は2病変ともに隆起型の癌であった,異時性多発胃癌は8例(5.4%)にみられ,8例中5例(62.5%)は,2年以内に発見されていた.遺残・再発は4例(2.7%)にみられた,EMR前の範囲診断では,正診2例,誤診2例(境界が不明瞭な病変1例,胃角後壁に病変が存在し観察が不十分1例)であった.EMRが可能な病変の拾い上げ診断には,特に平坦・陥凹型の病変についてはX線検査のみでは限界があり内視鏡の併用が必要と考えられた.EMRを前提とした術前診断では,色素法を用いた詳細な観察が重要であり,境界が不明瞭な病変にはステップバイオプシーの併用も有用である.sm微小浸潤(sm1)については内視鏡診断の限界と考えられた.

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要旨 比較的小さく,潰瘍性変化を伴わず,深達度も浅いEMR適応病巣では,EUS診断能は,肉眼型,部位にかかわらず良好であったが,内視鏡と比べて明らかな差は認めなかった.また,EUS,内視鏡ともに正診したものは全病巣の91.2%と高く,内視鏡診断に対するEUS診断の上乗せ効果はさほど期待できなかった.すなわち,EUSはきれいに描出されればその診断能は客観的で説得力があるが,ことEMRの適応決定においては必須の検査とは言い難かった.

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要旨 早期胃癌治療は標準的手術の時代を経て,1980年代から多様化の時代に入った.その方法論は内視鏡的治療と,手術療法に大別できる.内視鏡的治療は,内視鏡的粘膜切除(EMR)の出現により本幹が形成された.1990年代からは適応が拡大され,診断的EMRという概念が形成されつつある.手術療法は,1980年代にリンパ節郭清の縮小が提唱されたことに続いて機能温存手術が導入された.1990年代には腹腔鏡手術が移入され,より低侵襲の治療が模索されている.今後は,施設間の適応をできるだけ均質化することが望まれる.

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要旨 早期胃癌に対する腹腔鏡下胃局所切除術の原則的適応は,①リンパ節転移の可能性がほとんどなく,②EMRでは安全かつ確実な切除が達成されない可能性のある病変である.当科では,開腹胃切除例におけるリンパ節転移の解析結果に基づき,①肉眼的粘膜癌,②隆起性病変では長径25mm以下,③陥凹性病変では長径15mm以下でUl(-),という基準を用いてきた.一方,腹腔鏡補助下遠位胃切除術の原則的適応は,リンパ節転移の可能性が第1群および一部の第2群リンパ節に限られた病変であるが,一定した見解は必ずしも得られていなかった.日本胃癌学会ガイドラインでは,早期胃癌に対する腹腔鏡下手術は臨床研究に分類され,適応基準が示された.早期胃癌に対し腹腔鏡下手術を行う場合には,日常診療として推奨される開腹縮小手術,および臨床研究として適応のあるEMRの選択機会を患者に保障するよう,各方法の長所・短所を十分説明することが必要である.

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要旨 早期胃癌EMR後遺残再発病変に対する治療方針と治療法およびその成績について述べた.EMRは235例266病巣に行い,完全切除率は64.7%である.不完全切除94病巣(“遺残癌”)に対する治療方法は追加内視鏡的治療69病巣,外科的切除15病巣,未治療10病巣である.追加内視鏡的治療の有効率は92.8%であった.追加内視鏡的治療は深達度Mで,比較的遺残範囲の狭い病巣に対し行った.外科的切除は広範なMの遺残とSM1-β以深の病巣に対し行った.遺残再発癌は5病巣(5.3%,5/94)認めたが,4病巣は再EMRで切除した.他部位再発癌のうち外科的切除の適応となったものが2例あった.早期胃癌に対するEMR治療では,EMR前の慎重な診断,不完全切除病巣に対する積極的追加治療および厳重な経過観察が重要である.

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要旨 早期胃癌に対する治療は,内視鏡的粘膜切除術(以下EMR)をはじめとする縮小治療がその中心となってきた.しかし,EMRでは癌の発生母地としての胃粘膜を残すため,EMR後の他部位での同時性および異時性の多発胃癌の発生を避けては通れない.今回,EMR症例の胃病変発生における背景胃粘膜,発生様式,さらにH. pylori感染との関連より臨床的検討を行った.対象とした病変は,EMRの適応となる粘膜内に限局する分化型胃癌および腺腫が大部分であり,単発例を81.5%,多発病変を18.5%に認めた.多発病変の中では同時性多発がその大部分を占め,病変の発生様式の違いとH. pylori感染には関連性が少なく,H. pyloriの存在しない胃粘膜にも異時性の多発胃癌が発症していた.したがって,EMR後の残存粘膜に対するH. pylori除菌治療にも限界があり,今後除菌すべき症例の適応に関してさらなる研究が必要であると考えられた.多発病変を臨床的に診断する上から重要である多発病変の局在に関しては,EMR症例では大部分の病変が高度萎縮を伴った背景胃粘膜を有し,腺萎縮境界の萎縮粘膜側に位置することが多かった,しかし,分化型癌と未分化型癌との多発では病変が腺境界の幽門腺側と噴門腺側の2領域にまたがることがあり,内視鏡検査を行う上で胃粘膜全体にわたる注意深い観察が必要であると考えられた.

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要旨 胃sm癌377例のリンパ節転移と性,大きさ,占居部位,組織型,粘液形質,内分泌顆粒,潰瘍または潰瘍瘢痕などについて検討した.その結果,リンパ節転移率は女性にやや多い.占居部位では有意差をもって口側で少なく肛門側で高かった.組織型では,未分化癌と乳頭状腺癌で高く,高分化腺癌で低かった.また,胃型形質発現例で高かった.潰瘍または潰瘍瘢痕例で高かった.これらのリンパ節転移率の高い傾向のある症例は,EMR施行前m癌と診断し施行後smと診断された場合,リンパ節郭清を含む手術が必要と思われる.なお,リンパ管,静脈侵襲とリンパ節転移の検討は,CD34染色およびEVG染色を行ったが,それでも診断が非常に困難で主観が入る恐れがあるので今回の検討から除外した.

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 〔患 者〕57歳,男性.主訴は空腹時心窩部痛.既往歴:27歳,十二指腸潰瘍.2000年10月,上記症状を訴え,A医院で胃内視鏡検査を受け,胃角小彎の潰瘍の診断で,生検は陰性であった.2001年5月,再び上記症状のため,B医院で胃内視鏡検査を受け,胃潰瘍辺縁の生検で腺癌が認められ,林外科病院に紹介入院.

 〔胃X線所見〕胃角小彎後壁に12mm大の円形陥凹を認め,陥凹輪郭は平滑(Fig. 1a),圧迫像でニッシェの辺縁に異常を認めない(Fig. 1b).

消化管病理基礎講座

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はじめに

 胃悪性リンパ腫の肉眼型として佐野の分類(①表層型,②潰瘍型,③隆起型,④決潰型,⑤巨大皺襞型)や八尾の分類(①表層拡大型,②腫瘤形成型,③巨大皺襞型)があるが,多彩な形態をとる場合も多いので,本稿で詳細まで完全に解説することはできない.また,リンパ腫の組織分類は日本のLSG分類,WHO分類,Kiel分類,REAL分類などさまざまな分類が成されているが,それら詳細な組織分類についても本稿では省略する.リンパ腫の肉眼形態と病理組織構築との対比においては,表層型と腫瘤形成型の2つに分けて考えるほうが理解しやすいので,代表的な2つの型である表層型と腫瘤形成型について実際の代表的症例を用いて解説することにする.

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要旨 患者は49歳,女性大腸癌検診で便潜血反応陽性を指摘され,当センター外来を受診した.大腸内視鏡検査を施行したところS状結腸に大きさ約10mmのⅠs型癌を認め,形態からsm深部浸潤により隆起が形成された病変と診断した.30日後に施行した大腸内視鏡検査では,同病変は類円形の平坦な病変となり,病変中央の隆起は消失していた.隆起が消失した部分には白苔を伴った不整形の浅い陥凹とわずかな陥凹内隆起を認め,これらの内視鏡所見から病変はsmに深部浸潤したⅡa+Ⅱc型癌と診断した.注腸X線検査では,病変は大きさ10mmの辺縁平滑な類円形病変として描出され,中央には不整形の浅い陥凹と陥凹内隆起を示す透亮像を認めた.側面像ではゆるやかな弧状変形がみられた.超音波細径プローブ所見を加味し,病変は中央部分でsmに深部浸潤したⅡa+Ⅱc型癌と最終診断した.腹腔鏡補助下にS状結腸切除術を施行した.病理組織学的には大きさ8mmの類円形を呈する陥凹性病変で,中央の陥凹内隆起部分で深達度sm3まで浸潤した高分化腺癌であった.病変の立ち上がり部分は正常粘膜で被覆されていた.大腸癌の発育進展を考えるうえで興味ある症例と思われ報告した.

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要旨 Helicobacter pyloriに対する除菌療法を行い消退した直腸原発のMALTリンパ腫の1症例を経験した.患者は67歳の女性.大腸癌検診で便ヒトヘモグロビン陽性を指摘された.大腸内視鏡検査で直腸下部(Rb)に径11mm大の隆起性病変を認めた.生検病理組織学的にはcentrocyte-like cellの浸潤増殖とlymphoepithelial lesionを認め,またサザンブロット法で免疫グロブリン重鎖遺伝子の再構成を認め,MALTリンパ腫と診断した.超音波内視鏡では第3層に主座を持つ低エコー腫瘤を呈した.胃のH. pylori陽性であったため除菌療法を行ったところ,除菌は成功し直腸MALTリンパ腫は次第に消退した.本治療は胃MALTリンパ腫のみならず直腸MALTリンパ腫にも試みるべき治療法と考えられた.

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要旨 患者は62歳,男性.1999年4月心窩部痛を主訴に当院を受診した.上部消化管内視鏡検査にて胃に不整潰瘍を伴う巨大皺襞を認め,生検で悪性リンパ腫と診断した.胃全摘術を施行し,病理組織診断ではmantle zone由来の中型リンパ球様細胞のびまん性浸潤を認め,それらは免疫組織化学にてCD5とcyclin D1に陽性であり,mantle cell lymphomaと診断した.術後5クールのCHOP療法を行い経過観察中である.

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欧文目次

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 “プロジェクトX-挑戦者達-”というNHKのドキュメント番組が高視聴率を得ていると聞く.不況の世の中になって初めて,さまざまな夢を成し遂げた無名の人々のドラマが人の心を打っているのかもしれない.また,感動の涙の後に,何か一つの目標に向かって力を結集させると,とてつもなく大きな成果が上がることを,人々が改めて認識したからであろうか.このたとえを借用させてもらうならば,今回,書評を依頼された「馬場塾の最新胃X線検査法」は10年間にわたって“最良のX線写真を撮る”ことを一意専心のテーマとして挑戦し続けてきた馬場保昌という熱血漢の医師と,その指導のもとに馬場塾を支えてきた放射線技師達のプロジェクトが織り成す苦闘のドラマとも言える.

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 国立がんセンター東病院肝臓グループによる「肝癌診療A to Z」が刊行された.本書の各頁に占める図と表のスペースはかなり多いが,それぞれの表,図が無秩序でなく意図をもって並べられていることが一瞥してわかる.それは,頭だけで考えた構成でなく,実際に診療の上で直面した問題点を研修医にわからせるためには,どのような順序で図表を使って説明するかの答えを出しているからである.外来レベルでの問題点,診断に至るまでの検査の進め方と,つい上医に聞いてしまいそうな所が,これを読んでいれば順序だって対応できる.しかも,一番大切な“どんな所見のときに治療が必要か”まで極めて要領よくまとめられている.ここまでマスターすれば研修医合格である.

 “治療法の選択”においても,各種治療法の概論と各治療法に期待できる範囲を,自分のデータを根拠に述べたあと,国立がんセンター東病院としての基準が出されている.最近,患者さんへの説明について,担当医はEBMが実行できているのか?との疑問が出されているが,まさにこの基準が施設としての良識というべきである.

編集後記 西元寺 克禮
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 早期胃癌の治療は内視鏡的粘膜切除術(EMR)や鏡視下手術の普及で多様化し,この変化に則した診断学の確立が望まれている.すなわち,正確な(あるいはより精密な)深達度診断,リンパ節転移の診断,EMR後の遺残再発や同時・異時性多発胃癌の診断,そして診断の原点であるスクリーニング法である.今日検診で広く用いられるようになったペプシノーゲン法の有用性が八巻の論文で初めて明らかにされたと思われる.EMRの術前診断はほぼ満足するべきもので,EUSの絶対的必要性は認めないという結論も新鮮であった.国立がんセンターより多数例のm癌,sm癌のリンパ節転移率の報告と西上論文でのリンパ節転移陽性sm癌の特徴は今後の治療法の選択におおいに参考になる.リンパ節転移については慶應外科よりradio-guided sentinel node navigation surgeryの成績が報告されている.今日学会でもホットな討論が行われているEMR後の再発と多発胃癌についての報告も併せ,表題の「早期胃癌診断の実態と問題点」のほぼすべてが明らかになったものと考える.本号が日常臨床の指針となるとともに,今後の診断学向上の一里塚になることを希っている.

基本情報

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胃と腸
36巻13号 (2001年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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