胃と腸 36巻12号 (2001年11月)

今月の主題 十二指腸の小病変

序説

十二指腸病学確立の序章 小池 盛雄
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 およそ35年前,病理の勉強を始めたころに極めて印象的な言葉を聞いたことを思い出す.当時,感染症の診療に先端的役割を果たしていた駒込病院の病理医渡辺豊輔先生が東京病理集談会という病理の学会で“小腸は暗黒大陸である”という言葉を使っていた.これは渡辺先生の造語ではなく,院長が使った言葉であると紹介していた.当時の発表の内容の記憶は定かでないが,ほとんど病理解剖例を基本にしたものであったと記憶している.それでも,小腸絨毛構造が鮮明に認識できるきれいな標本で,絨毛の短縮や癒合などが,種々の感染症を中心として提示されており,当時の病理解剖の質が高かったことが証明されている.

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要旨 十二指腸の解剖学的・組織学的特徴と該部にみられる小病変,特に小腫瘍および腫瘍様病変の臨床病理像について,病理形態学的立場から,自験例を中心に文献的考察を加えながら概説した.十二指腸は,解剖学的に腹膜後器官として固定され,組織学的には,空腸・回腸と比較し,腸絨毛が発達し粘液腺や腸内分泌細胞に富む特徴を有する.特に粘液腺が粘膜のみならず粘膜下層に豊富に分布するという他の消化管にはみられない特異性を示す.それらの特徴を背景として,非腫瘍性病変としては,異所性胃粘膜(74.5%),アミロイドーシス(4.4%),Brunner腺過形成(2.5%)などが,腫瘍性病変としては,腺腫(8.5%),カルチノイド(2.9%),腺癌(2.2%)などが比較的高頻度に認められた.病変はカルチノイドや平滑筋腫などの腫瘍性病変も含めて,粘膜下腫瘍の形態を呈するものが比較的多く,各々の臨床病理学的特徴を理解した上での臨床検査および治療が重要と考えられる.

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要旨 Crohn病に伴う十二指腸病変を(a)陥凹性病変(びらん,潰瘍),(b)隆起性病変,(c)細敷石像様外観に分け十二指腸球部,上十二指腸角近傍,十二指腸第2部の部位別における各病変の出現頻度,縦列傾向の有無を調べた.(1)Crohn病患者215例中151例(70.2%)に(a)~(c)いずれかの病変を認めた.部位別では球部:32.6%,上十二指腸角近傍:66.3%,第2部:40.0%に病変がみられた.(2)各病変の頻度を部位別にみてみると(a)陥凹性病変(びらん):球部14.9%,上十二指腸角近傍32.5%,第2部36.3%,(潰瘍):球部2.3%,上十二指腸角近傍2.5%,第2部0.9%,(b)隆起性病変:球部15.3%,上十二指腸角近傍23.8%,第2部3.3%,(c)細敷石像様外観:球部11.2%,上十二指腸角近傍27.5%,第2部0%であった.(3)病変の性状は1例の潰瘍とタコイボびらん様の病変を除けば他の疾患にはみられない特徴的な様相を示した.上部消化管検査によるCrohn病の診断には,Crohn病の十二指腸病変の特徴を把握し,また上十二指腸角近傍に高率に病変がみられたことから球部,第2部に加え上十二指腸角近傍も慎重に観察する必要があると思われた.

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要旨 Behçet病の消化管病変の存在部位,形態,病理所見,臨床経過を検討した.腸型Behçet病7例中,3例において十二指腸球部にびらんがみられ,1例において凹凸不整の粘膜が観察された.生検では粘膜固有層に慢性の炎症所見がみられるのみで血管炎の所見はみられなかった.抗潰瘍療法は効果がなく,ステロイド療法が著効した.Behçet病の十二指腸病変は他の消化管病変同様,びらん周囲の発赤や浮腫などの所見に乏しい特徴を有していた.腸型Behçet病の初発症状は右下腹部痛,下血,下痢などが主なものであるが,上部消化管の症状を主訴とするものがある.食道,胃,十二指腸に多発性のびらんまたは周囲の再生上皮に乏しい潰瘍性病変がみられるときはBehçet病の可能性も考え,詳細な問診や皮膚,眼病変の検索,下部消化管検索などを行う必要がある.

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要旨 十二指腸球部の隆起性病変で,組織学的に胃型被覆上皮を伴う206例について,胃底腺組織をもつ狭義の異所性胃粘膜型と,それをもたない胃型被覆上皮のみの胃上皮化生型に分け,内視鏡的所見の特徴からこれらの分類を行った.形態的特徴所見より球状隆起散在型,集簇隆起型,びらん隆起型,顆粒状隆起型の4型に分類した.集簇隆起型を呈するのは異所性胃粘膜型であり,びらん隆起型と顆粒状隆起型を呈するのは胃上皮化生型であった.球状隆起散在型を呈するものは両方にみられ,通常観察だけでは診断が困難だった.メチレンブルー染色法を行うと異所性胃粘膜型は境界明瞭の完全な不染となり,胃上皮化生型は境界不明瞭の淡染となった.以上より,形態的特徴所見にメチレンブルー染色法を併用することで,迷入によると考えられる異所性胃粘膜型と,炎症による変化と考えられる胃上皮化生型の鑑別が可能であった.

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要旨 1990年1月から2000年12月までに経験した十二指腸腺腫および癌43例(腺腫23例,早期癌14例,進行癌6例)のうち20mm以下の21例(10mm以下17例,11mm以上20mm以下4例)について,それらのX線・内視鏡所見および病理組織学的所見について検討した.10mm以下は腺腫13例,早期癌4例,11mm以上20mm以下は腺腫2例,早期癌2例であり,腺腫はその大部分が白色調,微細顆粒状ないし結節状の無茎性隆起(Ⅰs型,Ⅱa型)を占め,後者は腺腫と同様の形状あるいはⅡc型で,赤色調ないし同色調を呈した.鑑別疾患として,2つのタイプを挙げ,隆起全体が正常と異なる上皮性病変の型は異所性胃粘膜が,まれながら粘膜下腫瘍様隆起で頂部に上皮性ないしびらん性変化を来す型は異所性胃粘膜,カルチノイド,転移性腫瘍,などが主に挙げられた.

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要旨 十二指腸悪性リンパ腫のうちMALTリンパ腫および濾胞性リンパ腫の臨床病理学的特徴について自験例8例および報告例36例について検討した.それらの特徴は,解剖学的発生部位と臨床病理学的所見が密接に相関することである.球部では肉眼型として隆起性病変が多いものの,胃のMALTリンパ腫と同様な所見を呈する.H. pylori除菌療法に反応する例が多く,胃のMALTリンパ腫の延長上の性格を有するものと考えられる.一方,球部から下行脚あるいは下行脚では,白色顆粒状隆起を呈するものが多く除菌療法に反応しない.自験例ではそれらの組織型は濾胞性リンパ腫である.十二指腸悪性リンパ腫は発生する場の違いによりH. pylori関連の球部病変(MALTリンパ腫)とH. pylori非関連の下行脚以遠の病変(濾胞性リンパ腫)に病態が分かれるものと思われる.

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要旨 十二指腸の内視鏡治療は10~20mmのポリープ,癌,腺腫,カルチノイド,脂肪腫などに行われている.同部位は壁が薄く,管腔も狭いため治療が困難である.方法は2チャンネルの内視鏡を用いる方法と,1チャンネルの内視鏡を用いる方法が行われている.前者は把持鉗子にて牽引摘除する方法であり,後者は内視鏡先端にキャップを装着して吸引摘除する方法である.手技として,ポリペクトミー,内視鏡的粘膜切除術,ligating deviceを装着して切除する方法,留置型スネアを病変の基部に装着して切除する方法などの報告がある.偶発症を防止するには病変の下部に生食水などの液体を十分に注入して病変を持ち上げる必要がある.

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症 例

 患 者:48歳,男性.

 主 訴:特になし.

 現病歴:糖尿病などのために治療を受けていた光陽生協病院で,上部消化管の検査を勧められ,2001年1月23日に内視鏡検査を受けた.下十二指腸角に病巣を見出され,治療目的で当科に紹介された.

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症 例

 患 者:62歳,男性.

 主 訴:特になし.

 現病歴:2000年10月11日,市の胃集団検診間接X線撮影で食道の異常所見を指摘されたため,当センターを受診.

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症 例

 患者は70歳,男性.直腸癌の術前精査中,上部消化管内視鏡検査で十二指腸に病変が認められた.

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はじめに

 3年の間隔をおいて,いずれもEMR(endoscopic mucosal resection)にて治療しえた十二指腸異時性多発早期癌の1例を供覧する.

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はじめに

 Vater乳頭近傍のlow grade MALT (mucosaassociated lymphoid tissue) lymphomaと診断された十二指腸リンパ腫の症例を経験したので報告する.

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症 例

 患者:57歳,男性.

 主訴・既往歴・家族歴:特記すべきことなし.

 現病歴:1992年12月の会社健診での上部消化管造影検査にて十二指腸球部の異常を指摘され,1993年4月当科を紹介された.当科外来で行った上部消化管内視鏡検査において,十二指腸球部前壁側にやや黄赤色調の山田Ⅱ型隆起を認めた.同部からの生検にてカルチノイドが疑われたため,精査加療目的にて6月7日当科に入院となった.

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 〔患 者〕69歳,男性.1995年より特発性血小板減少性紫斑病(idiopathic thrombocytopenic purpura;以下ITP)および糖尿病の診断で,当院内科外来にて経過観察中であった.2000年7月便潜血陽性を指摘され,上部消化管内視鏡検査にて十二指腸第3部に陥凹性病変を認めた.ITPによる出血傾向があるため生検は施行できなかった.ITP治療のための脾摘術と陥凹性病変に対する十二指腸部分切除を目的に,2001年1月5日当科入院となった.臨床検査成績では血小板数の著明な低下(4.0×104/μl)を認めた.

 〔上部消化管内視鏡所見〕下十二指腸角より2~3cm肛門側の十二指腸第3部皺襞上に,約5mm大で辺縁隆起を伴う発赤調の陥凹性病変を認めた(Fig. 1a,b).色素撒布像にて辺縁は不整で陥凹内の一部に微細顆粒状の変化がみられた(Fig. 1c,d).本症例はITPを合併しており,出血のリスクが高いと判断し生検を断念した.

Coffee Break

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 ISDE(International Society for the diseases of the esophagus)は3年に1度開催される国際学会で食道に関するすべての疾患を対象にしている.今回は9月5~8日の日程でブラジルのサンパウロで開催された.9月4日18時,成田発ダラス行きのアメリカン航空機は予定より1時間遅れで成田を出発した.ダラスで乗り換え,合計25時間のフライトの後に5日の早朝に無事サンパウロへ到着した.ブラジルの英雄アイルトンセナの名を冠した高速道路を通ってスラム街を抜け,サンパウロ市街に入ると大渋滞が待っていた.サンパウロは人口1,000万人の大都会である.

 すぐにSiero hospitalへ行き食道表在癌の診断と治療に関する講演を行った.この病院は肝移植や心移植も日常茶飯事のごとく施行しているサンパウロを代表する高度先進医療機関だが,食道癌は99%までが進行癌である.食道癌と言えば外科的切除,放射線,ステントが中心であった.日本で行われている内視鏡による食道表在癌の早期診断やEMRに関して報告したところ,診断基準,偶発症等多くの質問を得,彼らの関心の高さが感じられた.

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要旨 患者は24歳,女性.咽頭痛,嚥下時の胸のつかえ感と発熱を主訴に来院した.上部消化管内視鏡検査で食道全域に及ぶアフタ様病変を認め,下部消化管内視鏡で回腸終末部および大腸全域に微小なアフタ様病変を認めた.いずれの生検組織にも非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認め,食道病変を中心に発症したアフタ様病変のみのCrohn病と診断した.入院後,栄養療法を含め無治療で症状は消失し,また食道のアフタ様病変は治癒傾向を示したが,大腸のアフタ様病変はほとんど変化せず現在まで経過している.臨床経過から考えて,単純ヘルペス感染症が本例の発症の契機になった可能性も示唆され,アフタ様病変のみのCrohn病の経過を考えるうえで,非常に興味あるまれな症例である.

早期胃癌研究会

2001年6月の例会から 川口 実 , 神津 照雄
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 2001年6月の早期胃癌研究会は,6月20日(水)に一ッ橋ホールで開催された.司会は神津照雄(千葉大学医学部光学医療診療部)と川口実(国際医療福祉大学,山王病院内科)が担当した.ミニレクチャーは長廻紘(群馬県立がんセンター)が「colitic cancer」と題して行った.

 〔第1例〕75歳,男性.直腸癌,深達度ss(症例提供:手稲渓仁会病院消化器病センター 泉信一).

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 2001年7月の早期胃癌研究会は,7月19日(木)に一ッ橋ホールで開催された.司会は大谷吉秀(慶應義塾大学医学部外科)と西俣寛人(南風病院)が担当した.ミニレクチャーは馬場保昌(早期胃癌検診協会)が「胃内視鏡のピットフォール」と題して行った.

 〔第1例〕69歳,男性.多発性に食道・胃・十二指腸・大腸に転移を来した胃癌(症例提供:福井県立病院外科 道傳研司).

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欧文目次

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 がんの臨床,がん末期の臨床に長く携わってきた私でも,この本を読み始めると,引き入られて全部読んでしまうような所があります.たくさんの大切なことが書いてあります.私よりはるかに若い昭和43年卒の“四三会”の医師たちが,パッションとエネルギーを注入して本書を書いているからだと思うのです.

 読み始めて最後まで,それこそ一気呵成に読了しました.人が重い病を得て,医療者,家族に囲まれて,そこで苦しみ,悩み,考える魂がリアルに描かれます.あの世に行ってから“皆さんありがとうと思っているか”,“でもやはり…”と思っているか,です.読みながら,書評を書くのを忘れてしまうほど,心を打たれ,自分として苦吟する所もありました.

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 本書は,「胃と腸」誌に掲載された膨大な症例の中で典型的かつ代表的な症例を体系的に整理し,上部消化管を中心とした上巻「Ⅰ」と下部消化管を中心とした下巻「Ⅱ」に分けた大部の書である.本書の特徴は,貴重な各症例を,レントゲン,内視鏡そして病理各所見を有機的かつ統合的に理解すべく編集されていることであろう.最近軽視されがちのレントゲン所見が消化管疾患の全体的把握のためにいかに重要かを示しつつ,かつあくまでも局所的,表面的観察にとどまる内視鏡所見の限界を示し,近年の内視鏡至上主義に警鐘を鳴らしているようにもみえる.さらにこれら臨床所見も結局は病理診断に依存することになるのであるが,しかしそれも絶対的なものではなく,あくまで両者の統合的理解の下に診断は成り立つものであることを示している.

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 芳野純治,浜田勉,川口実の3氏の編集によって,この度若手の研究者を執筆陣とした「内視鏡所見のよみ方と鑑別診断-上部消化管」が上梓された.

 本書の内容は内視鏡検査に必要な解剖,正常所見の解説に始まって,内視鏡検査の歴史,検査にあたっての心構え,偶発症,前処置,内視鏡の挿入法,観察法などの基本事項を簡潔に示した後に,所見からみた診断へのアプローチの章が続き,さらに続いて生検の基本,種々の疾患の分類などが示されている.

編集後記 田中 信治
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 序説でも述べられているように,十二指腸乳頭部病変を除けば,十二指腸の小病変に関する十分にまとまった教科書はほとんどないのが現状である.一方,内視鏡を中心とした診断手法の進歩により,十二指腸の小病変に遭遇することもまれではなく,主題論文や主題症例に呈示されているように,小さな腫瘍は内視鏡的切除で治療される時代になっている.

基本情報

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胃と腸
36巻12号 (2001年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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