胃と腸 37巻1号 (2002年1月)

今月の主題 食道m3・sm1癌の診断と遠隔成績

序説

  • 文献概要を表示

 はじめに

 本号のテーマはm3・sm1食道癌である.m3・sm1食道癌は,文句なく早期の癌であるm1,2癌と進行癌としての病態を有するsm2,3癌との境界領域の疾患である.リンパ節転移の頻度はm3・sm1食道癌両方合わせても10%程度ということが判明している.問題はどのような病変がリンパ節転移陽性か,判断するに足りるデータの蓄積が十分にないことである.各施設におけるm3・sm1食道癌の症例数はかなり増加したとは言え,まだ少ない.その結果,転移陽性症例に関するデータの蓄積はもっと少ないのである.

  • 文献概要を表示

要旨 食道表在癌(m2~sm2癌)手術症例36例を対象に,臨床病型,最深部位,細胞異型度,癌胞巣の簇出,脈管侵襲(pv),リンパ節転移(LN)について検討した.深達度に応じてpv(+)率およびLN(+)率の有意な上昇を認め,LN(+)と細胞異型度,pv(+),簇出との間に有意な相関が認められた.EMRの適応となりうるLN(-)症例は,内視鏡的に目立った隆起や陥凹がなく,組織学的にpv(+)を認めず,低異型癌で簇出のない症例であった.逆に,高度異型癌かつ簇出陽性という所見は,LN(+)に対する感度が100%で特異度は76.7%であり,EMR症例の追加治療の判断基準として有用であった.

  • 文献概要を表示

要旨 1994年から2001年までの7年間に当センターで診断され,十分な病理学的検索がなされたm3・sm1例は11例あった.外科的切除された8例は全例リンパ節転移を認めなかった.肉眼型は0-Ⅱc型が7例,0-Ⅱc+Ⅱa型が1例であった.深達度診断をみると,0-Ⅱc型の7例中,病変の中に凹凸が目立った3例は診断でき,0-Ⅱc+Ⅱa型の例は肉眼型だけからm3以深と診断しえた.一方,深達度診断が困難であった例の肉眼型は全例0-Ⅱc型であり,m3の例では,病変の中に目立った凹凸を指摘できなかった.m3に浸潤した部の最長径を計測したところ,深達度診断が可能であった例は3~14mm(平均7.25mm),深達度診断が困難であった例はO.5~17mm(平均5.5mm)であった.sm1の例では,突然sm1に浸潤する例はなく,sm1の周囲にはm3があり,m3の一部でsm1に浸潤する様式であった.X線学的にm3・sm1の診断は,粘膜像では透亮像とバリウム斑の組み合わせ,辺縁像では凹凸不整の程度の分析で可能になる.

  • 文献概要を表示

要旨 m3癌50例(外科切除16例,粘膜切除34例)と,sm1癌22例(外科切除8例,粘膜切除14例)を検討対象とした.①リンパ節転移は,m3癌6%,sm1癌11%であった.脈管侵襲陽性率は,m3癌外科切除56%に対し粘膜切除29%,sm1癌外科切除88%に対し粘膜切除64%と,いずれも粘膜切除のほうが低率であった.②m3・sm1癌とも外科切除例は,隆起・陥凹が目立つため深達度を深く,逆に,粘膜切除例は,浅い陥凹が主体で,陥凹内の凹凸が少ないため,浅く診断する症例が多かった.③粘膜切除m3癌で,浅く診断した症例の半数はm3浸潤部が微小浸潤例であり,6mm以上の浸潤例はなかった.逆に,6mm以上の浸潤例では,m3以深の診断は全例可能であった.④m3浸潤部の形態は,陥凹内隆起(59%),辺縁隆起(3%),陥凹内のより深い陥凹(10%),微小浸潤のため形態不明(28%)であった.⑤m3浸潤範囲と脈管侵襲の関係では,浸潤部が3mm以下では脈管侵襲陰性,4.5mm以上では50%が脈管侵襲陽性であり,m3浸潤範囲の増大とともに脈管侵襲陽性率も高くなった.⑥粘膜切除m3癌にて脈管侵襲陽性10例中9例(90%)はm3以深と診断でき,粘膜切除前に脈管侵襲陽性の可能性は推測できた.

  • 文献概要を表示

要旨 食道表在癌に対する深達度診断には高周波数細径超音波プローブが有用であり,9層構造を基本としてm3浸潤の有無が診断可能である.問題点は,微小浸潤を診断することが困難であること,微細な層構造の描出率が高くはないことであると思われる.現在においてもm3・sm1領域における正診率は十分とは言えず,m3・sm1と診断された場合でもできる限りEMRを試みることが推奨される.組織学的にm3・sm1と診断され,追加治療の必要性を検討する際にEUSによるリンパ節の情報が重要な意味を持ってくる.また,仮に転移陰性と診断され,追加手術が行われなかった場合,経過観察にEUSは重要な役割を担う.

  • 文献概要を表示

要旨 m3・sm1食道癌の予後は良好で,5年生存率はEMR施行例79例で88.0%,外科的根治術56例で95.2%であったが,他病死・他癌死を含めると,それぞれ62.2%,80.0%であった.ly(+)が30.4%,n(+)が15.5%に認められたが,外科的根治術施行例でみると,転移リンパ節1個のみが73.3%を占めた.EMR後の局所再発は8.2%に認められたが予後に影響しなかった.リンパ節再発は6.8%に認められ,発見時にはいずれも切除不能であった.EMR施行後の病理検索でly(+)であったときn(+)となる可能性は33.3%であった.m3・sm1癌でEMR可能と診断された症例でも,リンパ節転移を有している可能性が6.8%はあることを念頭に置き,6か月ごとのCTとEUSによる経過観察が必要であるとともにさらなるリンパ節転移診断能の向上が望まれる.

  • 文献概要を表示

要旨 m3・sm1食道癌は表在食道癌の発育進展過程において特異な時期にあるものと考えられ,その分子生物学的特性と病態を把握することは治療方針選択の上で重要である.臨床的にはリンパ節転移との関連が最も重要と考えられ,その危険因子についてm3・sm1食道癌51例におけるDesmoglein 1,Cyclin D1,p53の発現より免疫組織学的,臨床病理学的に検討した.Desmoglein 1発現陰性症例の37.5%,減弱症例の15.4%にリンパ節転移を認め,発現良好例に比べ高率であった.転移危険因子は,Desmoglein 1発現陰性または減弱,1y陽性,術前深読みと考えられた.これらの因子を認めないm3・sm1癌症例では積極的に食道を温存した治療法が可能と考えられる.

  • 文献概要を表示

要旨 2001年11月に開催された第46回食道色素研究会にて“転移のあったm3,sm1食道癌”を主題とし,全国21施設にアンケート調査への御協力を頂いた.この結果,749例のm3,sm1癌が集計され,遠隔転移率は0.4%と少数で,いずれもly陽性であり,2例で静脈侵襲を認めた.リンパ節転移は深達度m3で9.3%,sm1で19.6%認め,0-Ⅰ,0-Ⅲ型,低分化型扁平上皮癌,ly,v陽性,Infβ,γ,術前深達度診断sm2,sm3群に多かった.EMR群に他病死を多く認めたが,原病死のみであれば食道切除,食道抜去,EMRの3群間に有意差を認めず,今回のretrospectiveな検討から転移のあるm3,sm1癌の特徴がある程度解明されたことから,今後はprospectiveな検討を開始するべきと思われた.

  • 文献概要を表示

要旨 EMR後根治切除術を施行した食道癌m3症例でリンパ節転移陽性であり,さらに根治切除術後3年で右肺下葉に転移を認めた症例を経験した.患者は65歳,男性.術前診断Mt,0-Ⅱc.まずEMR(分割切除)施行した.切除標本では2mm間隔の53切片中,大部分はep・m2であったが,2切片の切除断端の1部分でm3であった.右開胸開腹食道全摘術,3領域リンパ節郭清術を施行し,右反回神経沿線に1個リンパ節転移を認めた.術後46GyのT字照射を施行.根治切除術後3年に右肺下葉に転移が出現し,化学療法を施行したが,縮小を認めず,同部位の契状切除術を施行した.m3症例に対するリンパ節郭清の必要性を示唆すると考えた.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は58歳,男性.Mt領域,0-Ⅱc型食道表在癌にて,52歳時(1993年1月),右開胸食道亜全摘,胸骨後胃管再建術施行,リンパ節は中縦隔のみpick up郭清した.病理組織学的には,扁平上皮癌,深達度m3でありリンパ節転移は認めなかった.術後経過順調で退院,以後近医で通院加療中であった.1999年に入り頸部リンパ節腫脹に気づき当科紹介受診.頸部CTで左頸部から一部上縦隔に及ぶリンパ節腫脹を認め,食道癌頸部リンパ節再発と診断し,5回の化学療法および化学放射線療法を施行し,約2年間の長期のNCを維持できた.本症例は,m3食道癌頸部~上縦隔リンパ節再発症例であり,手術時の上縦隔リンパ節郭清の重要性を再認識させられるとともに,化学療法および化学放射線療法が延命に寄与できたことを証明した症例であった.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は79歳,男性.検診で食道病変を指摘され,他院を受診.手術を勧められたが,EMR希望で当院を受診.術前診断は深達度m3であったが,陳旧性肺結核による肺機能障害と本人の希望でEMRを施行した.組織所見にて0-Ⅱc,深達度m3,ly(+),v(+)のため,補助療法として,化学療法を行った.6~12か月ごとの超音波,CT,内視鏡検査による経過観察を行っていたが,3年目に相当する1年間は,来院しなかった.EMR後4年目に嗄声が出現し,リンパ節再発が発見された.リンパ節再発に対し,放射線・化学療法を行うも,リンパ節は縮小せず,EMR後4年10か月,再発後11か月で死亡した.深達度m3・sm1にてEMRを行った症例では,少なくとも6か月ごとに検査を行い,5年以上の長期にわたる経過観察が必要と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は68歳,男性,内視鏡検査で胸部中部食道に0-Ⅱc病変を指摘された.術前検査で深達度m3と診断,画像診断にて明らかなリンパ節転移の所見もなく内視鏡的粘膜切除術(EMR)を施行した.切除標本の病理組織所見では中分化型扁平上皮癌,深達度は小範囲でsm1,ly1の診断であった.患者に説明,同意の上,追加治療は行わない方針とした.3年11か月目に頸部リンパ節腫大を自覚,胸部CTで上縦隔リンパ節転移,肺転移と診断された.化学療法を施行したが効果は認められなかった.病理解剖所見では食道に遺残病巣や他臓器の重複癌も認めず原発巣からの転移と診断した.EMR後のリンパ節,肺転移再発例を経験したので報告する.

  • 文献概要を表示

 DDW-Japan 2001が10月17日~20日に京都国際会議場で開催された.食道に関する演題を中心にDDW-Japanの感想を記載する.

 一般演題はポスターセッションとなったため,400余のポスターを同時掲示できる広い会場に4日で1,500題の一般演題が発表された.韓国,ブラジルなど外国からの一般演題報告もあり,当然英語でのdiscussionが行われ,本学会もいずれは国際的な学会に発展する可能性を感じた.食道関係の一般演題で特筆すべきはFranceのRey jean-Francoisらが発表した「Clinical assessment of Barrett esophagus with magnifying endoscopes」であり,拡大内視鏡を用いてBarrett's esophagusの表面構造を詳細に観察してsuperficial Barrett's cancerを発見しEMRで治療したという内容であった.これまでのrandom multiple biopsiesをやめ,これからはmagnified endoscopeでBarrett's esophagusを詳細に観察し粘膜patternが乱れた部位からselectiveにbiopsyを採取するべきであると結論する驚くべき内容であった.掲載されていた内視鏡写真は粘液まみれで決して褒められたものではなかったが,いよいよ彼らもrandom biopsyを卒業し,詳細な内視鏡診断の重要性を認識したのかと驚くと同時に,彼らに負けぬよういっそうの精進を要することを認識した.

  • 文献概要を表示

 第9回DDW-Japanは10月17日から4日間にわたって京都国際会議場,宝ケ池プリンスホテルで開催された.第43回日本消化器病学会大会は馬場忠雄教授(滋賀医科大学第2内科),第62回日本消化器内視鏡学会総会は北島政樹教授(慶応義塾大学外科)がそれぞれ会長を務められた.初日は,あいにくの小雨に見舞われる悪天候であったが,翌日からは天候にも恵まれ,連日多数の出席者により熱気に満ちていた.

 21世紀最初のDDWであり,消化器病学会大会では「21世紀の消化器病:継承と飛躍」をテーマに,分子生物学的手法や遺伝子解析の成果をもとに,再生や神経消化器病学に関連した内容が組まれた.一方,内視鏡学会総会では,20世紀の業績をもとに21世紀における内視鏡学の研究目標を明らかにすべく,ハイテクノロジーを用いた医学と工学の癒合の結晶が盛り込まれている.

  • 文献概要を表示

 初秋の2001年10月17日(水)から20日(土)の4日間にわたり,国立京都国際会館ならびに宝ヶ池プリンスホテルにおいてDDW-Japan 2001が開催された.会場周辺の山々や公園では紅葉がはじまり,また天候に恵まれたことも幸いし穏やかな学会日和となった.参加者の総数は13,099名(海外留学生:29名)で,盛況ぶりを反映した.第62回日本消化器内視鏡学会総会(会長:慶應義塾大学外科 北島政樹教授)は,日本消化器病学会,日本肝臓学会とともに基幹学会として18日(木)から20日(土)の3日間にわたって催された.

 内視鏡学会初日の10月18日,第1会場において北島政樹会長による「21世紀おける早期消化器癌に対する新しい戦略」と題した講演が行われた.会場は約2,000名が参加して満席状態で,北島会長は会員を前に医学と工学の癒合した21世紀の内視鏡学をスライドとビデオで鮮烈に呈示された.

早期胃癌研究会

  • 文献概要を表示

 2001年9月の早期胃癌研究会は,9月19日(水)に一ツ橋ホールで開催された.司会は渕上忠彦(松山赤十字病院胃腸センター)と今村哲理(札幌厚生病院胃腸科)が担当した.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は49歳,女性.下痢を主訴に受診した.大腸内視鏡で中部~上部直腸に広範な発赤とリンパ濾胞と考えられる白斑の多発を認めた.10か月後,再度下痢のため行った大腸内視鏡では,直腸に不整形の発赤がみられたが初回よりは範囲が縮小していた.20か月後に再び下痢増悪のため行った大腸内視鏡では,中部~上部直腸に背の低い隆起が多発し,表面に付着した粘液を除去すると発赤したびらん面が現れた.生検で確診がつかずEMRを行った結果,腺管の過形成と粘膜表層の肉芽組織がみられcap polyposisと診断した.本症の初期像から典型的病像が完成されるまで追跡された症例の報告はなく,貴重な症例と考えられたので報告した.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は50歳,男性.検診で異常を指摘され当科を受診した.胃X線造影,内視鏡検査で胃体中部~上部前壁に粘膜下腫瘍様隆起が約10cmにわたり非連続性に多発し,隆起の一部に浅い陥凹所見と潰瘍瘢痕を伴っており上皮性の所見としてとらえられた.超音波内視鏡所見では,粘膜下層を中心に濾胞様構造をとる比較的強い低エコーの腫瘍が第4層まで及んでいた.胃全摘術を施行した結果,病理組織学的には深達度MPの低分化型腺癌でいわゆるリンパ球浸潤性髄様癌であり,脈管侵襲やリンパ節転移は認めなかった.またEBER(Epstein-Barr virus encoded RNA)-1 in situ hybridization陽性でありEBウイルス関連胃癌と考えられた.

  • 文献概要を表示

要旨 患者は69歳,男性.主訴は腹痛と水様下痢.急性膵炎を疑い,大量輸液を中心とした保存的加療を行い症状はいったん軽快した.しかし経口摂取開始後に腸閉塞症を呈したため,経口小腸造影および腹部血管撮影を施行した.この結果,上腸間膜動脈主幹部閉塞による広範な狭窄型虚血性小腸炎と診断し,小腸亜全摘術を施行した.本例は腸管の狭窄範囲が4mと極めて長い点が特徴的であった.上腸間膜動脈主幹部の閉塞による広範な狭窄型虚血性小腸炎の報告は極めて少ない.本例は,通常であれば急性期に広範腸壊死に進展しうる病態を免れ,慢性期に虚血性小腸狭窄を生じたまれな症例と考えられた.

--------------------

欧文目次

  • 文献概要を表示

 時代の要請による学問のはやりすたりはある程度は避け難いものの,昨今の臨床の場における病理学の影の薄さはどうであろう.こう言うと,病理の専門家は何を言うかと色をなすに違いないが,これは厳然たる事実である.CT,MRその他の画像診断の進歩に加うるに分子生物学の急速な発展のために,病理組織学の占める役割が相対に減少したことは間違いのない事実である.しかし,日常診療の場では,病理学の素養が依然として重要であることは言を待たない.疾患の病態把握の基礎となる病理学を知らないで,分子生物学的研究や免疫学的研究を行ってもはじまらないではないか,という気がするのは年のせいだろうか.

 われわれの世代の医師にとってはアンダーソンの病理学,アッカーマンの外科病理学といえば病理学のバイブルのようなもので,医師たる者知らぬ人はなかった.アンダーソン病理学は1996年に160人の執筆者により第10版が出版され,大変な成功を収めた.

  • 文献概要を表示

 本書は,英国Nottingham大学のWheaterが著した“Functional Histology:A Text and Colour Atlas”(初版は1979年)の第4版(2000年刊)の翻訳で,1979年に第1版が出版されて以来,洛陽ノ紙価ヲ高メてきた名著である.その第1版の日本語訳(1981年刊,医学書院)が東京大学医学部解剖学教室の山田英智教授(当時,現 同名誉教授)監修の下に当時東京大学解剖学教育関係の方々の分担により訳出され,その後,原著が改版される度に同一の担当者(今回から澤田教授が参加)による速やかな和訳の作業が責任ある態度をもって行われてきたものである.

 今回の原著は,その第1,2版の中心的著者であったNottingham大学のPaul R. Wheaterの死去(1989年)後,第3版の執筆者の1人Barbara Young(Australia,Sydney大学)がJohn W. Heath(Australia,Newcastle大学)とともに改訂作業を行っている.原著の執筆者が1人ずつ入れ替わって版を重ねるうち,内容・図版・写真の更新が図られつつ,主体が英国のNottingham,CambridgeからAustraliaの次の世代の担い手達へ引き継がれている様子が窺われる.

編集後記 神津 照雄
  • 文献概要を表示

 食道m3・sm1癌の診断と遠隔成績の本号の特集は,あくまでも治療法に極端な侵襲の差のある食道癌の治療の適応拡大(特にEMR)を企図し,更に適応拡大ができない症例はどのような形態かを明らかにする点である.粘膜癌のm1・m2までの浅い癌の深達度診断は精密な内視鏡動的観察・色素内視鏡の駆使で専門施設の報告では97%以上,細径高周波超音波プローブによるsm2以深の症例では95%以上の正診率が得られる時代になった.問題はこの中間にあるm3・sm1の症例である.多くの施設ですらせいぜい20例以内の検討である.そこで今回,小山氏により21施設からm3:489例,sm1:260例,合計749例の全国集計がまとめられた.このうち初回治療が食道切除(おそらくリンパ節郭清術が施行されていると理解)が56%,EMRが30%の頻度であった.以上の背景からm3症例では9.3%,sm1症例で19.6%のリンパ節転移が確認された.この深達度症例群の他病死を除いた原病死については,食道切除・食道抜去(リンパ節転移の有無は評価はできない)・EMR症例の間に5年生存率に差がないとの結果が報告された.外科手術とEMR症例に当然,治療法選択にバイアスが存在すると思われるが,これだけの多数の症例での検討結果は大きく評価すべき点であろう.

 さて主題論文査読からの印象として,深達度については検査方法別の特徴が正しく専門医から世界に発信できる成果および画像が提示されている.現在のところm3⇒sm1への自然史は判明しておらず,実際にとらえられないのが現状ではある.主題症例の報告を読み,本分野で行うべき課題として,まず実際の症例の反省点からの見直し,個々の症例からの実際的な細かい再検討が必要であろう.新しい研究課題としてm3・sm1のそれぞれの浸潤の二次元的評価のみでなく三次元的な体積の診断も提示され,今後の方向付けが示された.

基本情報

05362180.37.1.jpg
胃と腸
37巻1号 (2002年1月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

文献閲覧数ランキング(
3月11日~3月17日
)