胃と腸 35巻10号 (2000年9月)

今月の主題 食道アカラシア

序説

食道アカラシア 吉田 操
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 はじめに

 食道アカラシアは原因不明の食道疾患で,食道筋層の運動能力の欠如,下部食道噴門の弛緩不全を主徴とするものである1).組織学的には,Auerbach神経叢の変性が著明である.その原因は不明なものが多く,特発性のものが大部分であるが,このほかに家族内に多発するもの,パーキンソン病などのような神経の変性に起因する疾患に伴うものなどがある.通過障害の結果,食物は常に食道内に鬱滞,食道は著明に拡張し,筋層は肥厚する.中でも下部食道の筋層の肥厚が顕著である.食道の粘膜もこれらの影響を受け,炎症を生じ,粘膜上皮の反応性の角化や肥厚を伴う.

 食道アカラシア症例の発生頻度は,100,000人当たり0.4~1.1人と言われている2).症状は,罹病期間によって決まる.20~40歳に発症し3),固形物の通過障害は代表的な愁訴であるが,逆流,胸焼け,胸痛もしばしば伴う.このような症状があっても食道アカラシアと診断されるまでに4~5年を要するものが多いとされる.胃食道逆流症などと誤診されるためである4).通過障害は固形物にはじまるが,次第に流動物の通過も不良になる.食物の摂取に伴う胸部の鬱帯感,重圧感は時とともに進行する.このため食事の摂取量に限界を生じ,患者の体重は低値を呈する.食道アカラシアに生じる合併症としては,拡張した食道による縦隔内臓器の圧排症状,食道の潰瘍あるいは穿孔や誤嚥性肺炎である。就寝中や早朝に逆流を生じ,未消化の食物や白色の泡沫状の唾液の逆流をみる.夜間に咳込み覚醒することも食道アカラシアに特徴的な症状である.これを避けるために,食道内に停滞する内容物を意識的に嘔吐してから就寝する習慣をもつ患者も少なくない.胸骨後部の痛みはしばしばあり,若年者に多い5).体重の減少は食道アカラシアの重症度をよく表しており,有効な治療後は明らかに体重の増加がみられる.

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要旨 食道アカラシアは食道体部一次蠕動波の消失,下部食道括約筋の弛緩障害を特徴とする機能的疾患である.末梢神経には抑制性の非アドレナリン非コリン(NANC)作動性神経が存在し,一酸化窒素(NO),血管作動性腸管ペプチド(VIP),カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)がNANC作動性神経のneurotransmitterとして筋弛緩や蠕動運動に関わっている.L-arginineからnNOS(神経型NO合成酵素)により合成されたNOは,直接平滑筋細胞に作用してcGMPを産生し平滑筋弛緩させ,VIPはVIPレセプターと結合してNOSを活性化し,あるいはcAMPを産生し筋弛緩を起こす.CGRPの作用機序についてはいまだ不明である.食道アカラシア症例において,nNOS含有神経細胞の減少が観察されており,NO pathwayの解明は新規治療法につながる可能性がある.

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要旨 臨床経過,胸部X線,上部消化管造影所見,内視鏡所見,および内圧検査などより食道アカラシアと診断され,外科的に切除された31症例50切片を用いて,主として病理学的に検討を行った.H・E染色標本では,Auerbach神経叢の神経節細胞の消失,減少,変性が顕著であった.食道癌を合併したアカラシアでは,神経節細胞の消失は拡張部に高度であった.従来の報告どおりアカラシアでは,アセチルコリンエステラーゼ活性によるコリン作動性神経活性の分布は,Auerbach神経叢上にほとんど認められなかった.また,VIPも同部に染色されず,食道下部括約筋の弛緩不全にVIPも関与しているものと思われる.アカラシア症例では,筋層間にc-kit陽性のCajalの介在細胞の減少はみられなかったが,Cajalの介在細胞に絡み付いて存在すると言われるNO合成細胞はアカラシアで減少しており,NANC抑制神経の障害,特にCajalの介在細胞に対する作用の障害が食道アカラシアの病態に関与するものと考えられる.

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要旨 欧米と本邦の報告をまとめると,アカラシアのOver all食道癌併存率は2.9%(5,938例中170例)である.食道癌発生のリスクは7倍から33倍までの幅はあるものの,アカラシアが食道癌発生に寄与することが疫学的に示された.またアカラシア食道粘膜は炎症が生じやすく,細胞増殖の指標であるPCNA蛋白の過剰発現するような増殖活性の高い細胞が多い.同時に癌抑制遺伝子であるp53の異常が生じていることも明らかとなった.アカラシアは食道癌の発生母地であり,慢性炎症が癌化のスイッチをオンにする,この炎症と癌化との関連について,更なる分子生物学的な検討が必要である.

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要旨 食道アカラシア診療において,X線造影検査は,拡張,狭窄,通過状態などの病態把握から,病悩期間および発癌の危険性を含めた予後評価のために重要な役割を担っている.形態と病悩期間および機能との関連についての教室例の検討では,病悩期間および病態が進行するに伴い,拡張型は紡錘型(Sp),フラスコ型(F),S状型(S)の形態を呈し,拡張度はⅠ度,Ⅱ度,Ⅲ度となる.特に,S型の因子が病態の進行を反映しており,SⅢ型では平均病悩期間は16.2年で内圧波形B型が68.8%を占め,高度に進行した病変を示す.X線造影を中心とした諸検査による病態把握と経過観察が,適切な治療計画のために不可欠と考えられる.

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要旨 食道の愁訴を訴える症例に対して,食道アカラシアの診断を思いつかず,またその内視鏡診断の記載項目を知らない医師が多い.本稿では1984年に刊行された本症の内視鏡診断基準について述べ,その典型例を解説した.本症の問題点としてまず基本的な内視鏡観察の手順を述べた.本症は若年者からの発症が多く,日常の嚥下障害の改善が治療によりどのような効果・内視鏡所見の変化を来すかが問題となる.また病悩期間と発癌の関係を考察した.本症での発癌頻度は4.9%前後であり,以前は術後の逆流性食道炎からのBarrett食道癌が多かったが,最近では扁平上皮癌が術前,術後問わずに粘膜癌の状態で発見される時代になってきた.内視鏡的にこのような粘膜癌を見つけだす方法論について述べた.

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要旨 食道アカラシアは下部食道括約部の弛緩障害を本態とし,食道体部の収縮運動異常を示す疾患であり,診断にはX線造影,内視鏡,内圧測定などの検査が用いられる.教室の成績では,内圧分類,下部食道括約部静止圧はともに病悩期間,X線造影による拡張度,拡張型と直接の関係を認めなかった.しかし,内圧検査は下部食道括約部における嚥下性弛緩の欠如や過緊張状態,食道体部での異常運動などを直接とらえることができるという点で非常に有用である.更に,経時的術中静止圧の測定は筋層切開,逆流防止機構再生における客観的指標となり,治療効果の推定も可能である.現在,食道アカラシアの外科治療の適応判断や術式の選択において,運動機能の面からこれらを決定できる確実な指標はなく,今後も検討が必要である.

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要旨 食道アカラシアは食道運動機能障害の代表的疾患であるが,その病態生理は不明な点が多い.lower esophageal sphincter(LES)の弛緩不全と食道体部蠕動波の消失による食道の排出障害が主体であり,食物の食道内停滞に基づく諸症状が出現するが,内科的治療としてその原因となる病態を改善させる治療はなく,LESを直接弛緩させる治療が行われている.Ca拮抗薬,亜硝酸薬の投与およびLESの強制拡張術などである.Ca拮抗薬,亜硝酸薬投与で長期間寛解を維持することは困難な例が多く,拡張術を行うことになる.拡張術の有効率は9/11(81.8%)であった.更に最近欧米で行われているbotulinum toxinの内視鏡的局注療法についても述べる.

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要旨 食道アカラシアの第一選択の治療法はバルーン拡張術である.手術適応は①F型で拡張度Ⅱb~Ⅲ,S型のもの,②バルーン拡張術に抵抗するもの,③経過とともに病期が進行するもの,④食道癌が合併するもの,である.外科的治療の目的は,①LESを開大して食物通過を図ること,②逆流性食道炎の発生を防止することである.術式は腹腔鏡下Heller-Dor法が最も広く施行されている.Heller-Dor法と似ているJekler-Lhotka法,その変法である東海大法,Girard-田中法,胃弁移植術,Thahl-籏福法,岡本法などがある.機能性疾患に対する外科的治療は難しく,1例ごとに機能の程度を中心とする病態をよく理解して治療に当たらなければならない.

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要旨 患者は73歳,男性.1998年9月ごろから嚥下困難,咽頭部不快感が出現した.食道造影にてspindle typeのアカラシアを認め,最大径は45mmであった.内視鏡では食道内に大量の粘液,残渣を認めたため,約2,000mlの洗浄後に観察した.胸部食道は全体に拡張し,脊柱による壁外性圧排が著明で偽憩室様の異常拡張を認め,更に中部食道右後壁と下部食道前壁に不整形の0-Ⅱc病変を認めた.IDUSでは第4層の肥厚を認めたが層構造は保たれていた.以上よりアカラシアに合併した同時多発性食道表在癌と診断し,EMRを施行した.アカラシアは食道癌の危険因子だが,食道内に残渣,粘液が多く観察困難なことが多いため,十分な洗浄後に詳細な観察を施行することが大切と思われた.

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要旨 食道アカラシアと診断された後に定期的なfollow-upを受けず,診断後31年目に切除された食道表在癌症例を経験した.切除標本ではsm3とm2の2病変を有する多発癌症例であった.切除標本のヨード染色では2つの扁平上皮癌病巣のほかに約20か所のヨード不染~淡染部が認められた.免疫組織染色による異常p53蛋白発現の検索ではヨードで正染される部位ではp53蛋白は正常発現していたが,非癌部でもヨード染色性の低下した部位では異常発現を示した.異常p53蛋白発現から見るとアカラシア食道では複数のprecancerous lesionが存在している可能性が示唆され,アカラシアのfollow-upにおいては積極的なヨード染色を伴う内視鏡検査が必要であると考えられた.

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要旨 患者は49歳,男性.19歳時より食事時のつかえ感が出現し,20歳時に他院でアカラシアと診断されたが放置されていた.1994年3月より感冒を契機に食思不振,嘔気嘔吐が増悪し当科受診となった.食道X線検査,内視鏡検査では食道の著明な拡張と下部食道の屈曲および多量の食物残渣の貯溜を認め食道アカラシアと診断した.計4回の内視鏡下バルーン拡張術を施行し,術後の内視鏡検査で切歯列より約25cmに0-Ⅱcを疑う病変を認めた.生検病理組織像で扁平上皮癌と診断され,内視鏡的粘膜切除術を施行した.術後,癌の遺残を認めレーザー治療を併用し有効であった.

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 〔患者〕52歳,女性.1998年10月ごろより咽頭部の異和感を覚え当院の耳鼻科を受診した.上部消化管の造影検査目的に当科へ紹介となり,胃に病変を発見され,精査のため入院となった.

「胃と腸」―私の意見

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 polypoid growth(PG),non-polypoid growth(NPG)は池上・下田らが提唱した早期大腸癌の分類の1つである1)2).最近,その分類を進行癌に用いた検討が研究会や学会で散見される.そして,“進行癌ではNPGの形態をとるものが多いので,NPGタイプがメインルートであり,NPGタイプの早期癌(Ⅱc,Ⅱc+Ⅱa)の多数が見逃されているだろう”と結語されて発表されている.はたして,単純にそのように導かれるのか?

 Fig.1は1971年に発表された井川睦章先生の論文3)にある図である.この井川論文の研究は後に九州大学教授となる遠城寺宗知先生の指導で行われたが,それ以前に遠城寺先生は胃癌における粘膜内の拡がりを分類しており4)5),その分類をもとにしたものである.M1型は大腸癌の粘膜内の拡がりが潰瘍辺縁より0.5cm以内の極めて狭いもので,潰瘍辺縁粘膜に非癌粘膜部を認めるもの,M2型は粘膜内の癌の拡がりが潰瘍辺縁より0.5cm以上にわたるが,深部腫瘍主塊の拡がり範囲を越えないか同程度のもの,M3型は粘膜内の癌の拡がりが潰瘍辺縁より0.5cm以上で,しかも深部腫瘍主塊の拡がり範囲より広い拡がりを示すものと定義されている.すなわち,M1型がNPGに相当し,M2型,M3型がPGに相当する.潰瘍を有さない大腸癌は検討されていないが,潰瘍を有する155例の全割標本を検討した結果,M1型が77.4%,M2型は22.6%,M3型は0%であったとされる(胃癌ではM1型が42.5%,M2型が35.6%,M3型が21.9%).単純に“進行癌における粘膜内の癌は隆起性病変の名残りである”“隆起由来の癌はPG様の形態のまま進行癌となり,陥凹由来の癌はNPG様の形態のままの進行癌となる”という仮説が正しいとすれば,大腸癌はNPGが多いと導かれる.しかし,その仮説が正しければの話である.

消化管病理基礎講座

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 はじめに

 病変の肉眼像と組織所見との問には一定の対応があり,臨床画像検査に投影される病変の肉眼像からその組織所見を推定することができる(病変の質的肉眼診断,以下肉眼診断).的確な肉眼診断は,観察・分析すべき肉眼所見やそれらと組織所見との対応規則を知ることにより可能となる.このことは,炎症,腫瘍,上部・下部消化管を問わず,基本的には変わらない.本稿では,ホルマリン固定材料から得られた知見をもとに,大腸癌の肉眼所見(肉眼診断)について概説する.

早期胃癌研究会

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 2000年5月の早期胃癌研究会は,5月17日(水)に一ツ橋ホールにて開催された.司会は星原芳雄(虎の門病院消化器科)と飯田三雄(川崎医科大学消化器内科Ⅱ)が担当した.ミニレクチャーは「胃粘膜下腫瘍に対する腹腔鏡下手術」と題して大谷吉秀(慶應義塾大学医学部外科)が行った.

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 2000年6月の早期胃癌研究会は6月21日(水)に東商ホールにて開催された.司会は西元寺克禮(北里大学医学部内科)と田中信治(広島大学医学部光学医療診療部)が担当した.また「胃癌切除範囲決定のための術前検査」と題する細川治(福井県立病院外科)のミニレクチャーがあった.

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要旨 患者は72歳の女性で,1973年に右乳癌切除術を受けている.胸部の皮疹を主訴に当院皮膚科を受診,Hb 8.4g/dlと貧血を指摘された.上部消化管内視鏡検査を施行したところ,たこいぼびらん様の小隆起が前庭部から胃体中部にかけて多発しており,胃角部には不整な陥凹性病変が認められた.たこいぼびらん様の隆起および胃角部の生検にて低分化型腺癌が検出された.原発性の胃癌か,乳癌の転移性胃癌かを鑑別する目的で胃前庭部のたこいぼ様病変に対して内視鏡的粘膜切除術を施行した.病理組織標本では,腫瘍細胞は乳癌細胞の形態と非常に類似しており,これらの胃病変は乳癌の転移によるものと考えられた.また,本患者は食道,十二指腸球部,上行結腸から下行結腸にも小隆起が散在しており,生検の結果すべて低分化型腺癌であった.また,皮疹の生検でも低分化型腺癌が検出された.本症例のように術後25年以上経過した例や臨床的に胃以外の消化管の食道・十二指腸・大腸に同時に病変を認めた例は極めてまれであると考えられる.

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要旨 患者は54歳,女性.主訴は心窩部痛.生来健康で,特に誘因なく心窩部痛が出現し,CRPが2.2mg/dl以外に血液検査上も異常を認めなかった.上部消化管内視鏡検査にて胃幽門部に強い粘膜集中を伴った粘膜下腫瘍様病変を認め,肛門側に憩室様陥凹部と口側の不整部に小孔を認めた.腫瘤口側の小孔にERCP用カニューラが挿入可能で,白色膿性物が流出し内視鏡的ドレナージを施行しえた.膿性物の細胞診では悪性細胞は認めず,多数の好中球を認め,培養ではStreptococcus属を認めた.各種画像所見も合わせ胃壁膿瘍と診断し,抗生物質を投与するも腫瘍が消失しないため手術を施行した.最終病理診断は胃壁膿瘍であり,前庭部の陥凹部は憩室型の重複胃であった.

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要旨 患者は68歳の男性.食道静脈瘤経過観察中,内視鏡検査にて下部食道に境界明瞭な隆起性病変を認めた.生検で印環細胞癌であり,噴門部に生じた早期癌の診断で下部食道を含む噴門側胃切除を施行した.切除標本で腫瘍は大きさ23×11mm,Ⅱa型の隆起性病変で,粘膜下層に浸潤する印環細胞癌であった(sm1,ly1,v0).リンパ節転移はなく,現在まで再発を認めない.組織学的検索の結果は,下部食道に生じた早期の印環細胞癌であり,隆起型を呈する興味ある症例であった.

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要旨 患者は63歳の女性.2か月間持続する発熱,両肩のとう痛を主訴に来院した.著明な赤沈の亢進と臨床症状などよりリウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica;PMR)が強く疑われ,少量のステロイドが奏効した.外来通院時赤沈は正常化し,症状も安定していた。初診時より9か月後スクリーニングの上部消化管内視鏡にて早期食道癌(0-Ⅱb)が発見され,内視鏡的粘膜切除術が施行された.組織学的に上皮内癌と診断され完全切除が確認された.PMRに伴う早期食道癌の報告は検索したかぎり見当たらず,本症例が第1例目である.

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欧文目次

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 本書は,医師であり弁護士である著者が,戦後の新体制になった昭和22年から平成11年10月までの判例を検索し,医療過誤判例1,250例のうち,古くて現在の臨床とは無関係なものを除く910例について,過誤に直結した医学的問題点を抽出・集約した大変な労作である.その症例は,すべての診療科にわたっているが,更に,上記の910例のうち368例―したがって各科の代表的な事案がカバーされている一については,事案の概要と裁判所の判断が数行の囲み記事として,症例報告的にまとめられている.

 第一章は医事訴訟の概要であるが,医師の民事責任,刑事責任の根拠条文や解決手続,行政処分になる場合などが必要かつ十分に記述されている.本書によれば,医師の過失は大別して技術的ミスと説明義務違反に分けて考えることができるという.説明義務の重要性を改めて教えられたが,第二章が説明義務に割かれている.代諾の可否,説明が不要な場合,癌告知など微妙な問題の解説も簡明である.法律的な総論は,この2章にまとめられているが,出生前診断,脳死と臓器移植,遠隔医療,宗教上の輸血拒否,臨床試験におけるインフォームドコンセントなど最近のトピックスについても最新の判例に基づく医師の義務が明確に述べられている.

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 まず本を開くと,口絵として18枚の内視鏡写真と腹部超音波画像45枚に圧倒される.関東逓信病院退職後,開業以来の症例からすべて選ばれている.どれも鮮明で,解説は簡,要を得ている.

 多賀須先生とは昭和40年代初期,国立がんセンターで市川平三郎先生の指導を受けていたころ,読影会でよく顔を拝見していた.既に開業していた私は,当時多かった胃癌の早期発見に魅せられ,そこに医師としての生き甲斐を覚えていた.そのころから35年,内視鏡は驚異的に進歩し,超音波診断も第一線医師の有力な診断機器となった.プライマリ・ケアの同じ開業医として,多賀須先生の本を食い入るように読んだ.実に共感するところ多く,引用したいところは随所にある.先生の言われるように,消化器診断の面白いところは,開業医でも“知識”と“わざ=うで”を持っていれば,身体的診察のうえ,内視鏡と超音波診断装置などを上手に使うことによって,大病院の医師と遜色ない水準で消化器病に対処できるところである.むしろ開業医は患者と近接的な人間関係があるので,診断・治療に満足感があり,継続性からも,現在の重要課題である医療費節約にも貢献している.序文にもあるが,開業していると,たちまち時代遅れになりそうなコンプレックスに陥る.これだけは知っているべしというタイトルの特集号がつぎつぎに発行されるが,とても付き合いきれるものでない.したがってこの本は,実用的な「洗練された消化器病診療」ハンドブックである.先生は,頭の知識だけではなく,自らの診療体験から書かれているので,迫力ある説得性があり,文章にリズムがある.

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 最近の医用超音波技術の進歩には目をみはるものがある.これらの技術の参考書としてバイブル的に用いられてきた「超音波医学」や「超音波診断」が,急速な最近の技術の進歩を反映して一新された.すなわち,従来は基礎分野を含め1冊であったものが,基礎分野といくつかの診療分野ごとに4分冊化された.

 第1巻である本書は,第1章「超音波の物理的特性」(超音波法の特徴,超音波の音場,ドプラ効果,非線形現象),第2章「探触子の基礎知識」(超音波の発生・検出,探触子の構造),第3章「超音波診断装置」(エコー法,ドプラ法,分解能),第4章「信号処理と映像の保管」(信号処理,映像の表示と記録,画像ファイリング),第5章「アーチファクトと画像の劣化」(超音波の物理特性によるアーチファクト,画像の劣化,コントラスト分解能の劣化),第6章「ハーモニックイメージングと造影剤」(ハーモニックイメージング,超音波造影剤としての気泡の役割),第7章「超音波組織特性」(基礎音響特性,エラスティックイメージング,超音波顕微鏡),第8章「超音波の診断・治療への応用」(超音波映像の診断・治療への応用,超音波エネルギーの治療への応用),第9章「安全性」(音響的安全性と標準化,装置の維持管理),第10章「健診・検診への適用」(施設検診および集団検診,ハイリスク群検診,今後の課題)から構成されており,それぞれ現在第一線で活躍されている研究者により執筆されている.当然のことながらすべての分野について,技術および基礎的事項に関する最新の技術についても加筆修正されているが,特筆すべきことは,機器の大幅な性能向上を可能にしたデジタル方式の機器の記述およびハーモニックイメージングを含む非線形効果とその利用法について記述が新たに追加されたことである.また付録には,時として紛らわしくなる専門用語の解説,診断基準などが網羅されている.

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 がんの治療はいま,大きな変革の時期にある.今までのがん治療の狙いはがん細胞をできるだけ叩くということで,がんの塊りが縮小すればするほど効果があったと考えられてきた.事実,がんの化学療法はそのような狙いのもとに開発され,それなりの成果を挙げてきた.

 しかしながら,多くのがん患者は強い副作用に悩んできたことから考えると,これが果して理想的な延命効果として評価してよろしいかとなると疑問の余地があった.

編集後記 神津 照雄
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 「冒と腸」としては久しぶりに画像だけではなく,本文として読み応えのある特集であった.食道アカラシアはいまだ原因,治療法の確立されていない疾患であることは周知の点である.neurotransmitterからみた本症例の捉え方,病理からみた本症例の捉え方,機能疾患である本症例の形態診断,治療法に関する考え方などが主題で述べられた.主題症例では本疾患の問題点として,その存在を知らないと患者は放置され,また高率に発生する食道癌を早期の段階で見落とすことになる.本号では原因の不明な本疾患の最近の免疫染色,病理学的知見が述べられているが,あくまでも根本的治療に結びつく結論ではない.本号を読破することで食道に関する愁訴のある症例の疾患を理解できれば幸いである.本疾患では病悩期問が最も癌発生の危険因子であり,たとえ下部食道の拡張の治療が外科的・内科的に試行されたとしても,その危機感は減少しないのが特徴である.本疾患は若年者の発症が多く,長期的観察が必要であり,この点のinformed consentも大切な点である.多かれ少なかれ食道内には食物残渣,液体の貯溜があり,これらを排除した後の精密なヨード染色が不可欠な疾患である.以前の外科手術では逆流性食道炎-Barrett食道癌の発生が問題であったが,今日ではきめの細かい内視鏡観察により扁平上皮の粘膜癌の発見の機会が多くなってきた.癌発生部位は食道の拡張部に多いことも本号で明らかになった.最後に本疾患の存在を認識し,かつ病悩期間が短い段階で治療に入ることの重要性を強調したい.

基本情報

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胃と腸
35巻10号 (2000年9月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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