胃と腸 22巻8号 (1987年8月)

今月の主題 陥凹型早期大腸癌

序説

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 今から約17年前(1970年),本誌5巻11号に「大腸早期癌のX線診断」を書いたとき,早期大腸癌の肉眼所見は早期胃癌の3つの隆起性分類(Ⅰ型,Ⅱa型,Ⅱa+Ⅱc型)で整理できること,そして,このことこそ早期大腸癌の肉眼所見の特徴であると強調した.その頃,筆者は外科の手術所見の記載を丹念に掘り起こし,肉眼標本の写真を集め,それから病理組織学的診断を確認する方法でかなりの数の病変を集めたとの自負があったから,早期大腸癌,すなわち隆起性病変であるとの確信は揺るぎないものであった.と同時に,“なぜ早期大腸癌には陥凹性病変がないのか”という素朴な疑問すら持たなかったような気がする.

 当時,早期大腸癌に関する頼りになる文献といえば,Spratt and Ackerman (1962) の「Small primary adenocarcinoma of the colon and rectum」ぐらいだった.X線診断ではWeber(1950)やWelin(1958)の記載はあったが,これらは絵で納得させるようなものではなかったから,診断の実際にはあまり役に立たなかった.

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要旨 早期大腸癌の肉眼形態は隆起型がほとんどであり,ⅡcあるいはIlb型の報告は非常に少ない.われわれは下行結腸に発生した4mmのⅡc型sm癌を経験したので報告する.患者は50歳,男性.CEA4.1ng/dlとやや高値のため全大腸ファイバースコープ検査を施行し,下行結腸に異常なdiffuseな発赤を認め,空気量を変化させることにより浅い陥凹性病変(Ⅱc)と判断し生検を行った.その結果,腺癌と診断され腸切除を施行した.切除標本では粘膜ひだの集中断裂を伴うⅡc病変であり,組織学的にはわずかにsmに浸潤する高分化腺癌であった.腺腫成分は認められず,de novo癌と考えられた.内視鏡医は発赤で発見されるこのような病変を念頭において注意深く検索する必要があると思われた.

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要旨 患者は70歳,男性.胃体上部後壁のⅡc型早期胃癌の手術目的で紹介入院した.術前検査としてS状結腸内視鏡検査を施行し,S状結腸にⅡc型の肉眼的形態をとる大腸癌を認めた.total colonoscopyを施行したが,大腸に他の病変は認めなかった.胃全摘,およびS状結腸部分切除合併手術を行った.切除標本の肉眼所見は,15×9mmの全周に蚕食を認めるIIc型de novo癌を呈していた.病理組織型は,高分化腺癌で,深達度はsmで,ly,v因子はなく,その拡がりは15×4mmであった.

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要旨 患者は64歳,男性.1985年5月,S状結腸ポリープ(腺管腺腫)の内視鏡的切除術を施行.ポリペクトミー後の経過観察のため同年12月大腸ファイバースコープを行ったところ,横行結腸に新たに粘膜集中を伴う発赤斑を認め,生検の組織学的診断で癌を疑った.1986年1月当院入院,横行結腸部分切除術を施行した.肉眼的に,病変は大きさ1.5×1.5cm,胃のIIc型早期癌様の発赤を呈し,病理組織学的には高分化腺癌,深達度mと診断された.大腸の陥凹型早期癌はまれな病変であり,本症例は組織発生および形態発生を検討するうえで極めて重要なものと考えられる.

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要旨 患者は58歳,男性.人間ドックにて便潜血反応陽性であることより大腸精査を受け,直腸にⅡa+Ⅱc型早期癌が発見され,経仙骨式局所切除術が施行された.固定前肉眼所見はⅡc+Ⅱa型を呈し,伸展固定標本ではⅡc型を呈した.病変の大きさは1.4×1.25cm大であった.組織学的には粘膜下層に微少な浸潤を示すⅡc型sm癌であったが,腺管腺癌と腺腫が微妙に混在する病変であり,adenoma-carcinoma sequenceの中でも特異な癌化様式をとったと考えられる1例として報告した.平坦・陥凹型早期大腸癌本邦報告例を集積し,大腸癌組織発生,発育,進展に関する考察を加えた.

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要旨 患者は52歳,男性.大腸癌検診でのS状結腸内視鏡検査で肛門縁より14cmの部位に発赤した小隆起性病変を認め,生検組織検査で分化型腺癌が証明された.低位前方切除術を施行したが,切除標本にて病変は直径10mmのⅡc型早期癌で,組織学的には,深達度mの高分化腺癌であった.

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要旨 患者は55歳,男性.主訴は右上腹部痛.検査法は当院独自の内視鏡-X線同日併用法によった.内視鏡は挿入時より撮影を行い,上部直腸に一部発赤を有する孤立性類円形の小陥凹病変を確認した.2個の生検にて高分化腺癌であった.注腸造影でも上部直腸に10mm以下の不整円形病変が認められた.切除標本の肉眼像では,11×5mm大のⅡc型であった.病理組織所見ではⅡc内はすべて構造異型の乏しい高分化腺癌であった.本症例が陥凹型であって,深達度がsm,直径11×5mm大という点から,また検索した範囲内ではadenomaの要素はなく,de novo癌も十分考慮される.また内視鏡的観察で明瞭な陥凹像,大きさ,深達度がほぼ推測しえた症例としては,本邦初と考えられる.手術は国立がんセンターで行われ,下行結腸に2個の腺腫性ポリープと横行結腸にBorrmann 2型の癌の合併病変を認めた.

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要旨 患者は73歳,男性.4年前にS状結腸癌にてS状結腸切除術を受けており,follow-upの大腸ファイバースコープによる検索により横行結腸にdiffuseな発赤所見を指摘され,生検にて癌の診断,横行結腸部分切除術を施行した.病変は7×5mmの浅い陥凹を呈するⅡc型早期癌で,粘膜筋板まで達する高分化腺癌であった.また病変内に異型腺管の混在を認めた.内視鏡像では空気量を加減することにより形態が変化し,空気量を増すことによりⅡc型を呈し,減ずることにより周囲の隆起が著明になった.この所見は発赤病変で発見される大腸のⅡc型早期癌の1つの特徴であると考えられた.

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要旨 患者は64歳,男性.自覚症状は全くなかったが,人間ドックによる注腸造影検査で,横行結腸に辺縁菊花状を呈し中心に不整なバリウム斑を伴うⅡa+Ⅱc型癌を疑われ入院.内視鏡検査では,隆起を主体とし中央には不整な易出血性陥凹を認めた.切除標本では,大きさ14×12mm,肉眼的にはⅡa+Ⅱc様の病変で,病理組織学的には高分化腺癌を主体とし,一部に中分化腺癌を伴っていた.深達度は粘膜下層中部に至り,脈管侵襲はly2,V0であった.なお,郭清したリンパ節には転移を認めなかった.

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要旨 大腸早期癌には隆起性病変が多く陥凹性病変(Ⅱc)は非常にまれである.Ⅱc型早期癌が少ないのは大腸癌の組織発生,進展に起因しているのかもしれないが,大腸癌の組織発生を知るうえで陥凹性病変は1つの手掛かりを与えてくれるかもしれない.患者は72歳の男性で心窩部痛の精査中に偶然発見された病変である.横行結腸の約1cm程度の陥凹性病変で,注腸造影および内視鏡的には隆起を伴わない陥凹のみの病変であり,Ⅱc型早期癌と診断された.組織学的には粘膜下にわずかに浸潤した高分化腺癌であり,腺腫の共存は認めずdenovo癌と考えられた.

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要旨 早期大腸癌の形態は大部分が隆起型をとると考えられてきた.しかしながら最近,陥凹成分を有する早期癌が報告されるようになり,大腸癌の発育・進展の面からも,その存在意義が注目されるようになった.直腸癌手術後,注腸検査を3回施行し,3年後にIlc+Ila型の早期大腸癌が発見された症例を経験した.組織型は高分化腺癌と低分化腺癌が混在しており,ly2,v2,壁深達度sm,n1(+)であった.

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要旨 患者は75歳,女性.1986年8月末より便柱の細小化に気づいていたが,9月中旬患者自身が指を挿入して直腸内に腫瘤を触知し,同時に指先に血液付着を認めたため,9月24日他院を受診した.大腸内視鏡検査で肛門縁より約9cmの部位に出血を伴った浅い潰瘍性病変を指摘され,生検にて癌と診断された.新鮮切除標本では,不整形を呈する大きさ2.2×1.5cmの浅い潰瘍性病変があり,病理組織学的検索では,深達度smの高分化腺癌でリンパ節転移は陰性であった.また一部に粘液癌と腺扁平上皮癌の組織像が認められたが,腺腫成分は確認されなかった.

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要旨 患者は68歳,男性.3年半前に横行結腸癌にて右半結腸切除術を受けており,follow-upの大腸内視鏡にて直腸Rsに無茎性の隆起性病変と,それに連続して強い赤色調の平坦やや陥凹した病変の拡がりを認め,生検にて癌と診断,低位前方切除術を施行した.病変は10×8mmのⅠs型早期癌と7×4mmのⅡc型早期癌が連続しており,粘膜内に限局する深達度mの早期癌であった.Ⅰs型病変は一部腺腫成分が認められた.Ⅱc型と,Ⅱa以外の他の形態との連続病変の報告は少なく,今後このような発育形態を呈する症例の蓄積が望まれる.Ⅱc部分の内視鏡像の所見は純粋の大腸Ⅱc病変の所見と酷似していた.

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要旨 患者は70歳,男性.右下腹部不快感を主訴として来院,注腸造影検査で回盲部の異常を指摘され内視鏡検査を施行した.指摘の個所は特に異常をみなかったが横行結腸中部腹側に中心やや陥凹のみられる小扁平隆起性病変を発見,生検ではGroup 5の診断であった.切除標本では中心に3×3mmの陥凹を有する最大径7×5mmの扁平な隆起で,Ⅱa+Ⅱc様所見を呈していた.また,手術時所属リンパ節ならびに肝転移は認められなかった.組織学的には高分化腺癌で粘膜下浸潤部では低分化腺癌となっていた.

主題症例をみて

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 掲載した症例は,筆者の独断的な判断で主題症例として典型的とみなしたものから順番に並べてみた.これについては議論が百出すると思われるので,読者諸氏の忌渾のない御意見を聞かせていただきたい.

 症例の年齢分布は,50歳~75歳,平均63.8歳であるが,性別をみると13例中12例が男性で,女性は1例のみである.

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 大腸には陥凹型の早期癌はないと信じられてきた.実際に診断されたもの(切除標本で偶然に見つかったものも含めて)がなかったことと,理論的に,胃と異なり消化液の作用がないことが相まって,そう信じられてきた.ごくまれに報告例はあったが特殊なもの(未分化癌,ポリポーシス症例)であり,陥凹型早期癌は大腸にはないという総論に抵触するものではない,とされてきた.

 ところが数年前から風の便りにどこそこにⅡc型の大腸早期癌があるそうだ,という話が少しずつ伝わってくるようになった.いったんあるとなると,皆が必死で発見しようとするので,たちまちのうちに相当数診断されるようになってきた.

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 驚くべき時代になったものである.10年前に,大腸にもこのような陥凹型早期癌が確実に存在すると誰が予想できたであろうか.その病変が術前に発見されていることが素晴らしく,発見者に拍手を送りたい.

 報告例をみるかぎりでは,この種の病変の発見には内視鏡検査が有利であり,異常な発赤が診断のポイントのように思われる.内視鏡像が極めて類似しているのも,発表されている病変が同じ範疇に属することを裏付けている.微小浸潤例を除くsm癌は隆起の所見が著明で,鉗子で触れれば硬度がわかるはずであり,予測はつけられるであろう.

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 術前に診断された陥凹型早期大腸癌13症例の報告の中で,多く取り上げられている問題点は肉眼型分類,陥凹型早期癌の発育進展,そして癌組織発生についてであります.それらに関する二,三の私見をここで述べてみたいと思います.

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 本特集号で多くの陥凹型早期大腸癌のご寄稿を期待したのであったが,X線所見や内視鏡所見などによる制約のためか,寄せられた症例は意外と少数であった.筆者の経験例では,絨毛性腫瘍を除く陥凹型早期大腸癌(Ⅱc型,Ⅱa+Ⅱc型ないしⅡc+Ⅱa型を含む)は6.7~7.7%であった1)2).大腸では胃に比較して,陥凹型早期癌が明らかに少ないことがわかる.

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 〔症例〕 患者:55歳,女性.主訴:上腹部痛.家族歴:祖母が胃癌.既往歴:40歳より精神分裂病にて加療中.49歳時に右乳癌手術.現病歴:1981年5月,空腹時上腹部痛が2週間ほど続いたが放置していた.その間2回吐血.1982年11月,再び上腹部痛が出現し,同年12月13日に本院内科受診.同日の胃X線検査および12月27日のファイバースコープ(GTF-S3)で,胃体下部後壁の良性潰瘍と診断.1983年1月26日,ファイバースコープ(GIF-B3)の診断は良性潰瘍であったが,直視下生検組織診断は低分化腺癌であった.同年3月9日,本院外科で胃全摘術が施行された.

 〔ルーチン胃X線所見(遠隔操作テレビ)〕 (手術前約3か月)立位充盈像(Fig.1)では,体下部小彎に小規模な陰影欠損および胃角のし開を認めるが胃壁の伸展はほぼ良好である.二重造影像(Fig.2)では体下部小彎後壁に,わずかに不規則な円形のニッシェ(φ25mm)が認められる.ニッシェ周囲にⅡcを思わせるはみ出し様陰影は明らかでない.立位圧迫像(Fig.3)では,ニッシェ周囲に透亮像が認められるが均一でない.

早期胃癌研究会

1987年6月の例会から
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 6月の早期胃癌研究会は17日(水)に開催され,食道1例,胃2例,腸2例が呈示され活発な検討が行われた(司会は武内俊彦,名古屋市大1内).

 〔第1例〕75歳,男性.食道の悪性黒色腫(症例提供:北里大学内科,三橋).

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要旨 早期大腸癌の発育形態は粘膜内隆起性発育を示すもの(PG+)と,粘膜下浸潤による隆起性病変(PG-)とに分けられた.PG(+)は早期癌132病変中114病変(86.4%)で,その大きさは平均17.9mmであった.このうち59病変は有茎性で,2例を除いて腺腫由来の癌であった.これらの粘膜下浸潤は極めて頻度が低く(10.2%),かつそのほとんどは微小浸潤であった.広基性を示すPG(+)癌は平均20.5mmで,これも高頻度に腺腫由来の癌であった(89.1%).粘膜内隆起性発育を示さないPG(-)早期癌は18/132病変(13.6%)あったが,その大きさは平均10.7mmとPG(+)癌に比較して小さかった.これらはすべて粘膜下層に結節性浸潤を示し,かつリンパ管および静脈内浸潤が高度にみられた(72.9%).PG(-)癌は腺腫併存が全くみられず,PG(+)癌と異なり10mm以下の小さいde novo病変より粘膜下に浸潤した癌と考えられた.

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 論文は,客観的に把握できるPG,茎の有無,大きさ,そしてsm浸潤の癌量という所見から大腸癌の発育進展に関する解析を行い,その帰結として“進行癌へと発育進展する大部分の早期癌は,PG(-)のde novo cancerである”としています.論文にみられる所見からは,確かにそのような結論が導かれます.しかし,現在,PG(-)の早期de novo cancerとされた前段階の状態が問題となっています.

 すなわち,小さなあるいはPG(-)のde novo cancerがあった場合に,大腸癌組織発生“大腸癌の95%は腺腫由来である”との立場からは,その学説に整合性を持たせるために“腺腫が癌化して,癌が腺腫成分を完全に置換してしまった状態”あるいは“表面の腺腫と癌の部分が脱落消失してしまった状態”と,組織標本上にみられる所見という事実の背後にあることを探った解釈をします.逆に,“大腸癌の70~80%はde novo cancerである”との立場からは,“そのような癌は70~80%の確率でde novo cancer”であると解釈します.したがいまして,PG(-)癌がde novo cancerであることを主張されるためには,どうしても上記解釈に対して反論できるような証拠あるいは説明が必要となってまいります.それらについて,先生はどのようにお考えでしょうか?

初心者講座 大腸検査法・8

X線検査法のまとめ 丸山 雅一
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 本誌の1号(22巻)から始まった「初心者講座一大腸検査法」は本号のまとめをもってX線検査法についての講座をひとまず終了する.具体的には,

 1号:本講座を始めるに当たって(武藤)

    肛門・直腸病変の診方(1)(武藤)

 2号:肛門・直腸病変の診方(2)(岩垂)

 3号:X線検査―撮り方・読み方(1)初回検査をどう撮るか(杉野)

 4号:X線検査―撮り方・読み方(2)初回検査をどう撮るか(栗原)

 5号:X線検査―撮り方・読み方(3)直腸・S状結腸(松川)

 6号:X線検査―撮り方・読み方(4)直腸・S状結腸(飯田)

 7号:X線検査―撮り方・読み方(5)回盲部(中野)

 8号:X線検査法のまとめ(丸山)

のような内容である.

病理学講座 消化器疾患の切除標本―取り扱い方から組織診断まで(8)

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Ⅰ.はじめに

 手術材料の病理組織検査の第1の目的は,言うまでもなく,三次元である病変を二次元の組織標本として観察し,その病変の疾患名と拡がりを知ることにある.第2の目的は,術前のX線・内視鏡所見と手術材料の所見との間の1対1対応づけにある.なぜこのようなことが必要なのかと言うと,術前のX線・内視鏡所見の“読み”をより正確にするためであり,その“読み”が正確であることは正しい診断につながるからである.この対応をある程度行っていると,X線・内視鏡所見から立体的な病像が脳裏に描かれるようになる.

 病変がX線・内視鏡検査で発見された場合,“なにも術前に細かな所見を読んで病変の全貌を把握せずとも,生検あるいは切除して病理検査をすればよい”との短絡的な考え方もあるが,そのようにするならばX線・内視鏡診断,更には生検・切除を適切に行うことができなくなる.

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欧文目次

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 John A.R.Smith 著のComplications of surgery in general (Baillière Tindall,1984)が防衛医大玉熊正悦教授により監訳され,医学書院より「一般外科医のための手術合併症管理の実際」として発刊された.監訳者序の中で玉熊教授が述べているように,天下の名医といえども術後合併症はゼロではなく,術前の綿密な準備,慎重かつ熟練した手術手技,適切な術後管理によりこれを皆無にすることこそ永年の外科医の夢である.特に最近では高齢者や糖尿病,高血圧,肝硬変症などの併存病変を有する症例に対しても積極的にmajor surgeryが行われるようになっており,術後合併症の予防や対策は極めて重要な課題である.本書はJohn A.R.Smithの編集になる術後合併症シリーズ,すなわち心肺外科,消化器外科,胆道・膵外科,整形外科,産婦人科,泌尿器科,頭頸部外科,小児外科など外科系各専門分科別にそれぞれ術後合併症をまとめた17巻のシリーズの冒頭を飾る第1巻として,外科系各科の手術に共通した合併症とその対策を取り上げ,術後合併症総論としてまとめられたものであって,手術創の合併症に始まり,感染性合併症,静脈血栓塞栓症,出血性合併症,循環器系合併症,呼吸器系合併症,泌尿生殖器系合併症,消化器系合併症のほか,最近注目を集めている栄養学的問題や老人および小児における問題,更に医薬品による合併症や蘇生法に関連した合併症や問題点も取り上げており,全13章をもって構成されている.これらが玉熊教授を中心とした防衛医大,香川医大および東大の経験豊かな4人の翻訳陣により,平易な,かつ理解しやすい文体で翻訳されており,しかもわかりやすい沢山の図はすべて原著のまま収録され平易な解説がつけられている.更に巻末には薬剤一覧表として原著に出てくる薬品名に相当する本邦の代表的な薬品名および製薬会社名を付けて読者の便利に供しており,実地臨床にすぐに役立つように配慮されている.また各章毎に「今後に残された問題点」を付記し,読者に研究の意慾をもたせるように配慮されているのも本書の特徴の1つと言えよう.本書によって術前術後の評価や管理,手術準備や手術操作の要点を十分に認識し,術後合併症の予防やその早期発見と対策に努めることにより,安全な手術の遂行と手術成績の向上が期待されるわけであって,卒後外科系各科を専攻している若手医師や中堅スタッフの必読,必携の書と言うことができる.

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 本書は全3巻中のⅠ巻で上部消化管を対象としたものであり,B5判総頁数索引を加えて238頁と割に薄い仕上がりの本である.しかし,その目次を見ると,実に多くのことが取り上げられている.“上部消化管内視鏡検査のすべて”と言えそうである.本の厚みからみても,各項目が要領よく簡潔に纏められていることが推察できる.

 目次に沿って内容を簡単に紹介してみよう.第Ⅰ章は,局所解剖,ファイバースコープ挿入に際しての注意が書き添えられている.第Ⅱ章は検査法および治療法であるが,上部消化管内視鏡検査法のほとんどすべておよび内視鏡的治療法が記されている.まず“患者指導”,“器具の選択”から始まり,“挿入法”を経て,“各種検査法”が生検,ポリペクトミー,緊急内視鏡に次いで,治療として止血法とその効果が詳細に述べられている.食道については別個に静脈瘤硬化療法がこれもかなり詳細に記されている.

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 Repeat colonoscopy after endoscopic polypectomy: Holtzman R, et al (Dis Colon Rectum 30: 185-188, 1987)

 1979年12月より82年12月までの1, 184例の大腸内視鏡検査のうち352例にポリペクトミーを施行した.このうち癌のあった例や早期癌は除外し,またIBDやFPCを除外し,腺腫だけの149例について,1年から4年追跡調査した.使用機種はCF-IT10である.また見逃し例を防ぐため,10か月以内に発見されたポリープは見落としと判定し,再発見後から追跡開始とした.

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 Association of Campylobacter pylori on the gastric mucosa with antral gastritis in children: Drumm B, et al (N Engl J Med 316: 1557-1561, 1987)

 胃粘膜にC.p.が存在することは,原発性前庭部胃炎(primary antral gastritis)と特異的に関連があり,原発性十二指腸潰瘍(primary duodenal ulceration)とも関連しているらしい.

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 今回,昭和大学藤田力也教授編集の「消化器内視鏡[3]十二指腸乳頭部・膵管・胆道・肝臓」を手にすることができた.

 日本消化器内視鏡学会は創立以来28年を経過し驚異的な発展を遂げ,1987年3月1日現在で会員数は12,319名に達した.その間,本学会の果たした役割は大きく,国際的にもその業績は高く評価され,本学会はわが国の学会を代表するものの1つと言って過言ではない.

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 内視鏡的逆行性胆道膵管造影法がMcCuneらによって開発されたのは,今から約20年前の1968年であるが,1970年代にはごく一般的な検査法として広く普及し,超音波検査法やコンピューター断層撮影法あるいは腫瘍マーカーなどの出現と相俟って肝・胆道・膵疾患の診断法は飛躍的な進歩を遂げた.一方,肝・胆道・膵疾患の治療法に目を向けると,閉塞性黄疸に対する超音波映像下で経皮的胆道ドレナージ,肝癌に対する塞栓療法,あるいは内視鏡的十二指腸乳頭括約筋初開術,消化管ホルモンの動態を指標としたより生理的な胆道再建法の開発,重症急性膵炎時の多臓器障害の病態の把握に伴う集中治療部での全身管理法,切除不能膵癌に対する放射線治療や温熱療法および動注化学療法などの集学的治療など数え上げればきりがないほど数多くの試みがなされ,着々とその成果が上がりつつある.日常診療を行う際には,これらの診断法と治療法を正しく,しかも効率よく使い分けることを常に念頭に置かねばならず,特に経験の浅い初学者にとってはその指針となるものが必要である.

 このような状況の下で,本書は研修医やレジデントなどの初学者を主たる対象として,肝・胆道・膵疾患を広くカバーし,偏りがなく,しかも最新の知見を伝えることを目的として編まれている.現在第一線で活躍している最先端の臨床家102名が,各々の専門分野を分担して執筆している点は本書の特徴であり,内容の一部に若干の重複がみられるものの,総じて必要最小限の要点のみが簡潔に記述され,大変読みやすいものになっている.また,本書の構成は,肝・胆道・膵の検査法・肝疾患,胆道疾患,膵疾患の4つの部分から成り立ち,検査法の項目では,個々の検査の具体的な施行方法およびその診断能と限界が示されているので,初学者が各検査法の位置づけを知るうえで極めて参考になるものと考えられる.各疾患別の項では,それぞれの疾患の概念と病態,治療法およびその予後が最新の知見と成績を基にして簡潔明瞭に述べられており,各疾患に遭遇した場合,実用的な教科書としての機能を十分に発揮できる内容を備えている.

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 第12回村上記念「胃と腸」賞は,次の論文に贈られた.

「大腸villous tumorの病理診断―生検診断,癌化の問題を含む」

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 Impaired proximal duodenal mucosal bicarbonate secretion in patients with duodenal ulcer: Isenberg JI, et al (N Engl J Med 316: 357-362, 1987)

 十二指腸潰瘍(DU)患者の大部分では,近位十二指腸の重炭酸分泌が基礎状態および十二指腸の塩酸注入刺激時において低下していると考えられる.健康対照群16人〔男11女5,平均37(24~63)歳〕およびDUの外来患者14人〔男10女4,平均49(24~70)歳〕の両群で,double baloon tubeを用いて近位(球部)および遠位(第3部)の各々4cmのsegmentを分離し,重炭酸分泌を測定した.

編集後記 八尾 恒良
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 陥凹型早期大腸癌の特集号編集に踏み切るまでには種々の討論があった.反対の代表は,症例も少なく時期尚早という意見であった.しかし,症例は少なくとも発見のきっかけとなる内視鏡所見は特徴的で,共通するニュアンスをうかがい知ることができる.この“ニュアンス”を多数の読者にみていただくことで,もっと多数の,もっと典型的な症例の発見につながる可能性がある,という意見が時期尚早論を制した.

 陥凹性早期大腸癌は,少数例しか発見されていないが,もし多数例が発見されれば,大腸癌の発育進展過程のブラックホールを白日のもとに曝し出せる可能性があると思う.そういった意味では,早期胃癌に匹敵する業績になるであろう.そして,その発見は日本の,診断のプロにしかできないであろう.

基本情報

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胃と腸
22巻8号 (1987年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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