胃と腸 22巻6号 (1987年6月)

今月の主題 胃の腺腫とは―現状と問題点

序説

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 本特集号のタイトル「胃の腺腫とは」を見て,戸惑われた読者もおられたのではなかろうか.今日,この問題が取り上げられねばならなかった理由は,望月論文に詳述されることになっているが,かいつまんで言えば,日本でGroupⅢと分類されている良・悪性の境界領域にある胃粘膜の隆起性病変を,良性腫瘍の1つである腺腫adenomaの名で呼ぶことが妥当か否かという議論である.

 1966年は本誌が創刊された年であるが,胃の診断学の飛躍的な進歩で次々に発見されるようになった胃ポリープの呼び名が,このころから,腫瘍性の病変を示唆する“腺腫性ポリープ”あるいは“腺腫様ポリープ”から,炎症性の成因を示唆する“過形成性ポリープ”あるいは“再生性ポリープ”と変わり始め,数年ならずして前者はすっかり姿を消してしまった.その理由についてのはっきりした説明はなかったように記憶しているが,当時よくみられたドイツ医学からアメリカ医学への乗り換えに伴うものの1つのような印象であった.しかし筆者は今もって釈然としない気持を持っている.

主題

胃の腺腫についての考察 望月 孝規
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 はじめに

 病理形態学の総論では,腺腫についての総括的定義としては,第1に腺腫は増殖性病変,すなわち腫瘍であり,第2に良性の変化である.この良性という判断については,問題の存するところで,例えば予後がよいという物差しをもってすれば,潰瘍性病変を伴わない胃の粘膜内癌(mの早期胃癌)は,その状態で削除されれば,完全治癒するゆえに良性であるので,腺腫と言ってよいということになろう.このような考えが,大腸においては主張されており,胃における腺腫についての考え方にも,影響を及ぼしている.

 組織学的には,第1に癌腫と区別されなければならない.癌腫のごとく,腫瘍細胞が自己および他の細胞や組織を破壊して,増殖せず,したがって他の臓器へ転移せず,本来の発生部位において境界のはっきりした細胞巣あるいはorganoidの組織を形成し,その増殖の速度は遅い.腺腫を構成する上皮細胞は本来の臓器の上皮細胞に似た構造あるいは機能分化を示す場合が多い.もしその部位の上皮細胞のいずれとも類似していない,癌腫とは言えない上皮細胞群が見出された場合には,むしろ迷芽腫とされてしまうであろう.特に,内分泌臓器では,本来の細胞の機能を示す過形成性細胞との区別が難しい場合がある.胃と大腸においては,上皮細胞の機能分化,細胞交代の速度と方式が,他の実質臓器とは異なるので,そこでの腫瘍の形態と発生の様式が特徴的になっている.

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 腺腫一般の定義

 腺腫の本態は,癌の本態と同様に,わかっていない.しかし,病理学の中に古くから知られている疾患単位であることは誰もが認めている.そして多くの器官に腺腫がある.実質臓器では肉眼的にも結節を形成し,その存在が疑問視されたことはあまりない.甲状腺腺腫,副甲状腺腺腫,副腎腺腫,膵囊胞腺腫などは古くから知られており,最近では肝腺腫も市民権を得つつある.これは,その本態が過形成に近いか,癌に近いかというのとは別問題である.また実際に,腺腫の中には癌と区別の難しいものがあること,過形成と区別が難しいものがあることも確かである.疾患単位とされているある病変の周辺に,他の疾患と区別がつきにくい境界病変があることはむしろ例外でなく当然のことのように思われる.

 腺腫の概念を,例えば過形成と癌とに解体すべきであるという意見もある.腺腫をこのように理論上分解することは重要な試みではあろうが,臨床病理学的の面で実行することは困難なことと思われる.

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 本号では消化器病理学の諸権威が,胃腺腫の分類,組織発生と組織学的特徴,malignant potentialなどについて詳細に述べられるはずである.私は全臓器の病理組織学的検索に携わっている一般病理医の立場から,良性腫瘍,腺腫,前癌病変,いわゆるdysplasiaの概念とその相互関係を明らかにし,腺腫とdysplasiaの定義に関する提案をしてその責を果たしたい.

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 はじめに

 胃には,組織学的に明らかな癌ではないが異型性のある限局性上皮性病変があり,それが炎症あるいはびらん後の再生による上皮性変化でない場合に,われわれはそれを“異型上皮巣lesion of atypical epithelium”,“腺腫adenoma”,“Ⅱa-subtype”,あるいは“異形成dysplasia”と呼んでいる.このような病変の診断は,病理組織学的に,癌診断と共通の“異型”という物差しを用いてなされている.それが実際において一番問題となることは,良性か悪性かの鑑別診断,そして,その病変を放置しておいた場合に悪性化するかどうかの癌化の頻度についてである.そのような問題を含んでいるその病変の“生物学的ふるまい”がある程度明らかにされた後には,それをどのように呼ぶかの共通用語の問題が派生してくる.それに対しては,当然のことながら,種々の観点からの呼び名を付けることができるし,また,それをどのように呼ぶかは自由である.重要なことは,その限局性上皮性病変がどのように認識され,そして,どのような“生物学的ふるまい”をするか,ということを理解しておくことであろう.

 ここでは,分化型癌を含む異型性のある限局性上皮性病変の集合(広義の異型上皮巣)がどのように認識され,どのような部分集合に分けられるのか,そしてそれらの生物学的ふるまい,ということについて述べ,そこから疾患カテゴリー,そしてその取り扱いについての考察を行ってみたい.

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 はじめに

 胃生検組織分類のGroupⅢ,境界領域病変に相当する病変は,必ずしも同一の疾患概念を示すものではない.これらを手術例でみると異型上皮,ATP,Ⅱa-subtype,扁平ポリープ,腺腫(adenoma)など,種々な呼称で表現されてきた.更に最近ではdysplasiaの概念が導入され,境界領域病変をめぐる諸問題は,しばしば議論の対象となっている.本稿では,内視鏡診断,X線診断,更には生検組織診断上,種々な問題を含んでいる境界領域病変のうち,組織学的に腺腫とみなされる病変の定義,病理形態的特徴像,ならびに前癌病変としての意義について,われわれの知見に基づく見解の一端を記述する.

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 はじめに

 本稿では主に病理形態学的立場から,(1)胃腺腫の性格,(2)それを説明する根拠,(3)胃腺腫の診断とその際の問題点・注意点,(4)初回判定がGroupⅢの胃病変の再検討事項,および(5)胃腺腫の名称,について筆者の意見を述べる.

胃の腺腫:私はこう考える 加藤 洋
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要旨 “腺腫”は腫瘍総論的には腺上皮系の“良性新生物(benign neoplasm)”であり,生物学的に1つの安定状態にあると考えられている.しかし,その位置付けからはある程度の前癌性も見込まれている.われわれは従来より胃における上皮性異型病変で過形成・再生の範疇にも癌の範疇にも入らない病変に対しては“異型上皮”あるいは“異型上皮巣”なる名称を与え,この中に腺腫を含める立場を取ってきた(広義の“異型上皮巣”).異型上皮巣はそれを構成する上皮により“腸型”か“胃型”かに分けられ,更に肉眼型により隆起型か平坦型か陥凹型かに分けられる.最も頻度の高いものは腸型のⅡa様隆起性病変である.諸臓器,特に大腸における腺腫の形態学的および生物学的特徴に鑑み,胃の異型上皮巣のうちどの病変が“腺腫”と呼ばれるにふさわしいかの検討を行った.腸型の隆起型病変(早期胃癌Ⅰ様およびⅡ様),腸型の平坦型病変(同Ⅱb様)の一部,および胃型の大きな隆起型病変は腺腫と呼ばれてかまわない病変と考える.その他の病変は異型上皮巣としておくのが妥当であろう.

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要旨 臨床上,胃の腺腫の取り扱いで最も問題となるのは,診断に確証が得られず,癌など他病変との鑑別が困難で,対処に悩むことである.この原因は,現在の生検法で採取される生検標本が小さく,診断に限界があるためである.strip biopsyは病巣全体を採取することが可能であり,病理学的診断が可能である.しかも,診断と同時に,治療をも兼ねることができる.

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 病理組織学的に良性と悪性の境界領域病変に対して異型上皮巣,中村(卓)のⅢ型ポリープ,Ⅱa-subtypeなどと呼称し,臨床・病理所見について詳細な報告がある.1977年WHOの組織分類により胃腺腫の名称を用いることが提唱され,喜納らは国際通用性を考え腺腫の名称を用いることを提唱し,flat adenoma(扁平腺腫),colonic adenoma(大腸型腺腫),gastric adenoma(胃型腺腫)に分類している.加藤は隆起型異型上皮巣については腺腫の名称を用いてもよいが,平坦や陥凹型病巣では本態が明確でなく異型上皮巣の名称を残すべきとしている.1970年より1984年までに癌研外科切除全割標本の病理検索で発見された異型上皮巣は224病変である(Table 1).隆起型異型上皮巣が74.3%と最も多く,平坦型14.5%,陥凹型病巣11.2%であった.陥凹型病巣を喜納はdysplasiaとしているが,名称の不統一さはまぬがれなく,困惑を覚えるのは筆者のみではあるまい.病理,臨床ともに利用しやすい名称の決定を期待し,本稿では癌研伝統の異型上皮巣の名称で論じ,異型上皮巣の診断の実態を記し臨床的取り扱いについて言及する.

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 一般に癌の診断は病理学的所見に基づいて行われる.しかし,病理の先生方には大変失礼な言い方かもしれないが,その診断は100%確実で不動のものではない.例えば早期癌がポピュラーとなった昭和36年から昭和40年ごろまでは,胃癌を専門とされる病理の偉い先生方の間でも,その診断には相当なばらつきがあった.また,現在では大腸癌の診断が,学者によって著しく異なることは西沢らが指摘するとおりである.

 今一つ問題がある.たとえどれほど熟達した病理学者でも,癌と非癌を組織レベルで本当に区別できるのかという疑問である.中村は,組織細胞水準における異型の程度は連続的に無数に存在すること,したがって,良性か悪性かの判断をすることが不可能である不確実性域が必然的に生じることを述べている.しかし,岩下らはvillous tumorの検討の中で,組織レベルで癌化の所見を示さずに粘膜下層以下への浸潤像を示し,腫瘍全体を分化したlow grade malignancyと診断せざるを得ない例が多数認められたと述べている.

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 はじめに

 胃の良悪性境界病変の大部分を占めるものとして腺腫に類似した病変が存在することは古くから知られていたが,これらの病理学的なdisease entityを腺腫とするか,腸上皮化生の発生過程に生じた異分化(dysplasia)とみるかは,永い間,議論の分かれるところであった.しかし,1979年にWHOが,このような病変の大部分を腺腫の範疇として分類したことにより,本病変に対する共通の認識が得られるようになった.

 筆者らは当院開設以来1986年までに,腺腫(腺腫内癌を含む)の手術例,および非手術例(生検診断による旧分類のGroupⅢ病変),生検上腺腫と誤診した癌腫などのうち,内視鏡写真良好例として399例460病変を得ている.本稿では,これらの臨床病理学的性状や内視鏡所見を比較検討することによって,腺腫のmalignant potentialを示し,得られた成績から本病変における高危険群の取り扱いなどについて述べてみたい.

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要旨 過去13年2か月の間に経過観察された胃の腺腫90例97病巣のうち,5年以上の長期観察例35例37病巣の内視鏡像および生検組織像について検討した.形態は扁平隆起型が64.9%と多く,立ち上がりは山田Ⅱ型が多かった.表面は平滑または粗大顆粒状を呈し,顆粒の大小不同を41.2%に認めた.色調はいずれも褪色調でその40.5%に発赤を認めた.形態学的変化は4病巣(10.8%)に認め,形が変わったもの2病巣,消失したもの2病巣であった.生検組織学的変化は7病巣(18.9%)に認め,GroupⅢ~Ⅰの軽度の異型性の変化であった.また,腺腫と同一部位より癌の発生をみたものはなかった.以上より胃の腺腫は形態学的にも生検組織学的にも基本的には大きな変化はせず,その癌化率は極めて少ないと考えられた.

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 望月(司会)今日は“胃の腺腫”について皆さんにお話を伺います.大腸においては腺腫という概念が確立していて,その取り扱いも決まっています.ところが,胃においては,具体的にどういうものを腺腫と言ったらいいか,あるいは,いままでいろいろな形で言われてきたものを整理し直して,ここで腺腫という概念を作ったほうがいいのか,作らないほうがいいのか,という問題があります.

 これは病理組織学の問題であると共に,臨床の医師にとっても大切な問題で,そういう病変を病理の医師がどういうふうに診断し,それを受けて立つ臨床の方々が,その診断をどういうふうに判断し,あるいはその病変をどういうふうに治療するかという大切な問題があります.

今月の症例

膵体部癌の1例 藤田 直孝 , 李 茂基
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〔症例〕 患者は68歳,男性.1987年1月から時おり心窩部痛があった.腹部超音波検査(US)にて肝腫瘤を指摘され,同年3月精査のために入院となった.なお,この検査では膵は腸管ガスのため描出不能であった.入院時臨床検査成績でCA19-9が3,430IU/mlと異常高値を示したこともあり,膵胆道系の精査が進められた.

胃と腸ノート

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 従来のコロノスコープの挿入法は奥まで入れることを唯一の目的として記述されている.挿入法なのだから当然すぎるほど当然のことだが,重大な欠陥がある.すなわち小病変の見落としは必要悪だとのニュアンスが行間ににじみ出ている.挿入はいまや誰にでも比較的楽になったのだから,もう少し余裕のある,病変の発見を第一義とした挿入法の模索が求められる.病変発見のために少々寄り道をしても最終的に帳尻の合っている挿入法である.しかしコロノスコピーに関する手技は,気のきいたものにしろ,きかないものにしろ,とっくに出尽していて,今さら新しいアイディアはなく,新しいと見えるものでも二番煎じである.既存の考え方・方法をいかに有効に組み合わせていくか,というのが残されているにすぎない.

 前回直腸がpitfallであるゆえんを述べたが,そうしたら大腸全体が盲点にみえてきた.例えばS状結腸である.同部は過伸展にならない―半月ひだが伸びない―状態で通過するのがsuccessful colonoscopyの要点であるが,そうするとポリープがひだに隠れたり,ひだの間に腸内容が溜まったりして,小病変が見落とされる可能性が大きくなる.スコープ挿入の巧拙・スピードと病変発見率は必ずしも相関しない.速く挿入して病変もよく見つける人もいるが,それは熱意と興味が人一倍あるパイオニアに特有の条件である.これからコロノスコープ人口が激増すると思うが,そういういわば第2世代においては,技術はあるが病変がみつからないといった事態が憂慮される.

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要旨 患者は61歳の女性で心窩部痛にて来院.胃十二指腸造影にて,十二指腸下行脚外側に大きな深掘れ潰瘍を認めた.内視鏡検査でも同部に洞窟様の深い潰瘍を認めたが,周囲の粘膜には異常はなかった.腹部血管造影では十二指腸枝は拡張し,その領域に腫瘍血管の著明な増生と腫瘍濃染像を認めた.以上より十二指腸平滑筋肉腫と診断し,リンパ節郭清を伴う膵頭十二指腸切除および横行結腸部分切除術を施行した.腫瘍は80×90×50mmで,割面は灰白色充実性で,所々に出血,壊死を認めた.病理組織所見では,腫瘍の大部分は類円形の核を有し,好酸性の胞体から成る上皮様細胞で占められており,leiomyoblastomaと診断された.

病理学講座 消化器疾患の切除標本―取り扱い方から組織診断まで(6)

切除標本の切り出し方 喜納 勇
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 切り出し総論―(1)

 一般臨床検査室や病院病理部における,摘出臓器の切り出しの目的は,その病変の質的診断が第1の目的であることはもちろんのことであるが,そのほかに種々の目的を兼ねている.まずその病変の立体構造の把握であり,それに伴う病変の範囲の決定である.更に悪性腫瘍の場合は所属リンパ節の検索である.

 欧米諸国の切り出しは上記の事項でほとんどその目的のすべてが尽くされるが,本邦では,切り出しについても,多少とも研究的な面が加味されている.そして,この研究的態度による切り出しが本邦の臨床病理学的な消化管研究を進歩させた原動力となった.欧米における実用一点ばりの切り出しに対する態度がいかに進歩を阻害しているかは,最近米国を訪れ,二,三の病院を見学する機会があって今更ながら痛感した.

初心者講座 大腸検査法・6

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 注腸X線検査法には,充満法,圧迫法,粘膜法,二重造影法があるが,主体を占めるのは二重造影法である.その方法についての詳細は既に成書に述べられている.筆者らが行っている注腸二重造影法も,原則的にはこれら成書に記載されている方法と同じである.本稿では,解剖学的な理由から良好な二重造影像を得るのが難しく,しかも病変の好発部位である直腸・S状結腸のX線診断について述べる.

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欧文目次

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 本書は消化器内視鏡テキスト全3巻のシリーズの第2巻に当たり,大腸の部は“大腸の局所解剖”,“検査法および治療法”,“特殊な内視鏡検査”および“診断のすすめ方”と4章に分けて記述されている.内容は具体的でわかりやすい.例えば“局所解剖”の章では,大腸ファイバースコープの挿入が難しいのはどの部位であるのか.そこは解剖学的にどんな構造になっているのか.したがってどのように挿入すればよいのかというように,理論的に実地に即して説明されている.また大腸の可動性に富む部位では,挿入にあたり腸管に無理な伸展を生じ,患者に不快感やとう痛を起こしやすいなどという気配りの行き届いた記述もある.いわば内視鏡的解剖学とも言うべき内容である.

 “検査法および治療法”の章では,検査のすすめ方の基本としての挿入法と検査法はもちろん,生検については,炎症性疾患と潰瘍性疾患,腫瘍性疾患の特徴を取り上げながら,どの部位から採取すべきか,実際的な解説がなされているばかりか,生検標本の取り扱い方と,介助者とのコンビネーションの問題も触れられている.

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 大学における外科学の系統講義は,ほかの基礎あるいは臨床科目の場合と同様に,総論と各論に分けて行われるのが通例である.まず総論から始まり,次いで各論に移る.総論の内容は各論全般に共通した基礎的事項に関するもので,その基本的な重要性は申すまでもないが,残念ながら総論を学ぶ時点では,その各論における重要性がまだよく認識されないために,十分な関心が払われないまま終わってしまうことが多いのが実情である.こうした事情が現実に外科臨床に携わるようになる場面まで持ち越されるため,日常,習慣的に行っている診療行為の基礎的背景について十分な思考をめぐらすことなくやり過ごしてしまっていることが少なくないように思われる.各論をひと通り終了したのちにも,事あるたびに総論に立ち帰って,各論における個々の事象や行為の理論的裏づけを絶えず追求する精神を持つことが極めて重要である.しかし,総論に関する従来の成書の記述は一般に退屈で,抽象的,難解な表現に終始する傾向が少なくなく,そのため,いささか取っつき難い印象を与えていることは否定できない.

 こうした状況において,最近,旭川医科大学外科の水戸廸郎教授と岩見沢市立病院外科の大平整爾部長によって翻訳されたメルボルン大学外科のFreidin助教授とMarshall教授による「イラストでみる外科手術のベース&テクニック」は,大変時宜を得た好著と言えるものである.この本は,1.創傷―その治癒過程と処置法,2.外科的操作の原理,3.手術の準備,4.手術,5.術後の正常な経過,6.術後合併症,7.日常よく行う手術,の7章から成っており,これらの各章のタイトルからも知られるように,外科手術の実施に関する基礎的事項が最新の知見を含めて的確かつ簡潔に述べられている.各章におけるいろいろな項目の取り上げ方も非常に垢抜けている.第3~5章では,患者・家族・紹介医などへの対応の仕方についても,最近の社会情勢を踏まえた適切な提言があり,その内容は国情の相違を超越して十分に耳を傾けるべきものである.

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 この度,医学書院より「新消化器病学2.肝・胆・膵」が刊行された.筑波大学大管教授,大阪市立大学門奈教授,旭川医科大学建部助教授の編集で,執筆者も102名,それぞれお得意の部門を担当しておられる.編集者も若く,それだけに執筆者も近い.新鮮さと熱気をさえ感じさせてくれる.

 開いてみると,美しいカラーページ,型通りの目次に続いて疾患索引にぶつかる.まずは病名から整理,整頓というスタイルであろうか,あまりお目にかからないスタイルである.確かに病気も定義からという趣向に,なるほどと首肯される.消エネ時代の頭の整理に相応しい.学生の講義には筆者も好んで用いた方法ではある.

編集後記 丸山 雅一
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 本号の“現状”には,こんなものか,という一応の満足感がないでもないが,病理を執筆された先生方に対しては欲求不満が高じている.“絵”が売り物の本誌に“絵”を出してくれたのは3人(喜納,廣田,加藤),dysplasiaの“絵”は1人(喜納).これでは臨床側が混乱するのは必至とみてよいだろう.“私はこう考える”という趣旨なのだから,dysplasiaにおけるmass云々についても,執筆者各々の基準とその“絵”を示して欲しかった.

 また,腺腫と良・悪性境界病変とは別のスケールで論ずべきものであれば(座談会参照)異型度空間を連続体とみなすのか否かをまず明確にすべきであろう.腺腫そのものについても“眼”が違えば診断も異なるのは避けられない“現状”なのだろうか.竹腰(癌研),吉田(がんセンター)両氏の数字の差にこのことが反映されているような気がする.

基本情報

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胃と腸
22巻6号 (1987年6月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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