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大学における外科学の系統講義は,ほかの基礎あるいは臨床科目の場合と同様に,総論と各論に分けて行われるのが通例である.まず総論から始まり,次いで各論に移る.総論の内容は各論全般に共通した基礎的事項に関するもので,その基本的な重要性は申すまでもないが,残念ながら総論を学ぶ時点では,その各論における重要性がまだよく認識されないために,十分な関心が払われないまま終わってしまうことが多いのが実情である.こうした事情が現実に外科臨床に携わるようになる場面まで持ち越されるため,日常,習慣的に行っている診療行為の基礎的背景について十分な思考をめぐらすことなくやり過ごしてしまっていることが少なくないように思われる.各論をひと通り終了したのちにも,事あるたびに総論に立ち帰って,各論における個々の事象や行為の理論的裏づけを絶えず追求する精神を持つことが極めて重要である.しかし,総論に関する従来の成書の記述は一般に退屈で,抽象的,難解な表現に終始する傾向が少なくなく,そのため,いささか取っつき難い印象を与えていることは否定できない.
こうした状況において,最近,旭川医科大学外科の水戸廸郎教授と岩見沢市立病院外科の大平整爾部長によって翻訳されたメルボルン大学外科のFreidin助教授とMarshall教授による「イラストでみる外科手術のベース&テクニック」は,大変時宜を得た好著と言えるものである.この本は,1.創傷―その治癒過程と処置法,2.外科的操作の原理,3.手術の準備,4.手術,5.術後の正常な経過,6.術後合併症,7.日常よく行う手術,の7章から成っており,これらの各章のタイトルからも知られるように,外科手術の実施に関する基礎的事項が最新の知見を含めて的確かつ簡潔に述べられている.各章におけるいろいろな項目の取り上げ方も非常に垢抜けている.第3~5章では,患者・家族・紹介医などへの対応の仕方についても,最近の社会情勢を踏まえた適切な提言があり,その内容は国情の相違を超越して十分に耳を傾けるべきものである.
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