胃と腸 2巻8号 (1967年8月)

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 難治ということは,治療して経過をみても治癒しないということであるが,さて,文献を調べると,これほど多くの人々により論じられているものも少ないであろう.専門家が同じ検査法で同じように経過をみていながら,その成績を細かく分析すると諸点で差違がある.この泥沼にわれわれも足をふみ入れた.はっきり言って,われわれは厳密な立場に立って討論することはできない.ただ,経験をのべたり,自分はこう思うという考え方を主張できるにすぎないような気がする.内科の側から潰瘍の経過をみた人たちの成績が,細かい点で差があるといったが,或る点では主張が等しいところもある.何故か.みんなの心の中では自分の今までの経験から,難治とはこんな潰瘍だよと思っていても,その考えを科学的に実証する軌道にのせることができないという臨床的な悩みがある.それは,めいめいが同一の対象例を取扱うことができないという材料の不均一さにある,潰瘍についても発生してからの時期を任意に選び出すこともできない.従って,内科の側は,任意に適当な潰瘍を適当に経過をみて,その成績なり印象をのべているにすぎない,あとにその評価をのべるが,この方法がいまなおとられている現状である.

 外科の側の取扱い方は,手術後,切除標本を検索して潰瘍を調べ,その詳細な所見から潰瘍の実態はこうである,こうである筈だ,こうとしか考えられないという強い主張をのべているのである.

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はじめに

 内視鏡の立場からみた難治性胃潰瘍といえば当然,その内視鏡的特徴が問題になるが,このことは予後の推定または胃切除適応を含め,内科医にとどまらず,一般臨床の場にあってははなはだ重要な消化器疾患の主題である.したがって表現に多少の差はあっても幾度か医学雑誌のテーマとしてとりあげられたり,第17回医学会総会シンポジウムの主題としてとりあげられた故でもあろう.

 しかし本題に入る前に,まず明らかにしておきたいことは対象となる難治性潰瘍の定義である.治癒日数の問題,再発・再燃のとり扱いまた潰瘍症についての考え方など幾つかの間題があるが,この場合私達の行なっている胃潰瘍の長期経過観察の立場から難治性潰瘍の枠付けを試みたい.

 しかし断っておきたいことは私達のとり扱った対象は消化性潰瘍の動態を明らかにすることが目的の一つであったので,すべて内視鏡主として胃カメラ乃至ファイバースコープで観察できた胃潰瘍である.しかも毎常同一の条件下で経過を観察できる対象に限定され,観察しにくい噴門部および胃体上部潰瘍または幽門輪潰瘍といったものは除外されてしまう.

 胃潰瘍は勿論消化性潰瘍の一部分症と考えるべきで,十二指腸潰瘍を除外してこれのみの動態を云々することはその取り扱いに不注意の譏はまぬがれないが,十二指腸潰瘍はX線的に現状ではいまだ治癒判定が難かしいので今回の検討からは除外した.

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 胃潰瘍の内科的治療に際し,きわめて短時日の間に潰瘍の治癒する症例があると同時に厳重な安静加療を行なっても治癒傾向が乏しく長期間潰瘍の存在する症例がある.一般に後者を内科的治療に抵抗する潰瘍,すなわち難治性潰瘍と臨床上呼んでおり,難治性潰瘍に関する厳格な基準,定義はない.いわば治療経過を主とした臨床上の呼称であるといえる.したがって難治性潰瘍の病理組織学的所見についても古来慢性潰瘍の特徴としてあげられているもの以外に明らかな特徴はない.

 他方,直視下胃生検も潰瘍辺縁の癌化の有無,癌性潰瘍との鑑別に関する報告は多いが潰瘍の病勢の検討を行なった報告はほとんどない.

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 本文は,著者らの一人,大井が第17回日本医学会総会のシンポジウム主題39での講演原稿に加筆したものである.ただし加筆の大部分は,ⅠおよびⅡの項にあてられている.

 全文を読んでいただけばわかると思うが,そのときのシンポジウムは“難治性胃潰瘍”という題目であったので,Ⅰ,Ⅱは実は次のⅢにつながる前提にすぎなかったのである.しかもⅠ,Ⅱについては,その要旨をすでに何度か発表したことでもあるので,この講演では説明をできるだけ簡賂化し,ときには省略したところも少なくなかった.ところが意外にも,その席上,われわれはⅠ,Ⅱの趣旨が余りよく理解されていないのを痛感した.このような状態では,せっかく本誌に執筆の依頼をうけても,読者各位のご理解が得られなくてはと思いなおし,とくにⅠ,Ⅱに加筆の重点をおいた次第である.

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Ⅰ.はじめに

 最近の胃疾患に対するレ線,内視鏡診断などの進歩は目ざましいものがあり,以前には診断困難であった小さい潰瘍瘢痕なども比較的容易に発見される機会が多くなってきた.しかしながらこのように診断技術が向上している現在であっても,なお時に高度に穿通した胃潰瘍症例がみられ,その頻度が著明に減少したとは思われない.

 高度穿通性胃潰瘍における問題点は,第1に診断の問題,すなわち悪性化の有無の判定,第2は手術方法の問題であろう.第1の点は最近の胃癌診断の進歩によって術前または術中に大多数は確実な診断をつけ得る状態になってきている.第2の点については,v.Haberer(1915),Schmieden(1923)以来,姑息的胃切除か,穿通臓器を含めて潰瘍底を残さずに胃切除を行なうか,あるいは潰瘍底を穿通臓器に残して胃切除を行なうか,という点に議論があるようである.またこのような手術方法に対して,穿通潰瘍の悪性化が疑われる場合,または明らかに悪性化している場合にどの様に処理するかという事が問題になってくる.

 以上の諸点を考慮に入れて,われわれの経験について手術方法,遠隔成績,術中診断などに関して記し,2,3の点について考察を試みてみたい.

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Ⅰ.まえがき

 難治性胃潰瘍には明確な定義はないが,一般には慢性経過をとって治癒が遷延し,胼胝性,穿通性の性状を示す潰瘍が総括される.これを潰瘍発生の因子の面よりみると,攻撃因子として塩酸,ペプシンの分泌充進による過酸,防禦因子として粘膜の抵抗性減弱をきたす因子,さらに血行障害などの影響も存在しているものと考えられる.このような潰瘍には出血,穿孔,狭窄および癌化などの危険が存在し,外科治療の適応となるわけである.また逆に言うならば,外科治療の対象となっている胃潰瘍の大部分のものは難治性潰瘍とみなすこともできよう.われわれは後述の理由から胃潰瘍と十二指腸潰瘍と手術対象としては別個に考え,胃潰瘍に対しては幽門機能を保持させるような胃切除術式を採用している.以下それらの術式や術後成績を中心に述べることにする.

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症例

患者:会○貞○郎 47歳 男

主訴:心窩部重圧感

家族歴,既往歴:特記することなし.

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症例

患者:斎○清○,61歳,男

主訴:上腹部痛

現病歴:昭和41年6月初旬より,食事に関係なく,上腹部に鈍痛あり.嘔気・嘔吐・腹部膨満感なし.食欲良好.41年8月13日,当科受診.

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 春日井 本日は皆さん学会でお疲れのところをお集まりいただきましてありがとうございました.これから昨日の総会のシンポジウム「難治性胃潰瘍」に関する座談会を催しますが,ご出席の先生方は,昨日のシンポジウムの演者もしくは演者の教室の代表の方でございまして,こういう方面に非常に長い間のご経験とご研究をお持ちの方でございます.それできょうはこの問題を一つわかりやすくディスカッションしていただきたいと思います.私司会を命ぜられましたけれども,十分な司会ができるかどうか心配をしております.皆さんベテランの方ばかりでございますので,皆様方のお助けをいただいてすすめて参りたいと思います.

技術解説

私のレントゲン検査 青山 大三
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1.はじめに

 レ線診断は影を読むことによって行なう診断である.したがって影が描写される種々の条件や状態を十二分に知っておく必要がある.影のことであるから,読む価値のある影と,読む価値のない影とがあることを区別して認識することもレ線診断の一つのコツであろう.

 一般に消化管のレ線診断は凹凸が消化管内壁にあるかないかを区別することである,消化管の内壁は凹凸があるように描写しようとすれば凹凸がみとめられ,また凹凸がないか少ないように描写しようとすれば,そのようにもなる.

 そこでもっとも重要なことは,胃についていえば摘出された状態にひとしいか,もっとも近い状態に描写したレ線像を得ることであろう.しかし摘出した胃の状態はレ線診断時には未知であるので,各種の状態でレ線像を得ておくことが必要である.

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 岡部 まず先生の業績集がおできになりましておめでとうございます.きよう,先生に,斯界の先達として,いろいろ先生の御経験を通して,読者や,若い人たちに,将来のためになる含蓄の深いお話をお伺いしたいと思います.大へんお忙しいお時間を工面していただきましたがありがとうございました.

 私,この業績集を早速読ませていただきまして,もっとも感銘を受けましたのは,最終講議の再録の内容から先生が御卒業後結局現在まで歩まれた研究の道が一貫しておるということでした.非常に私うらやましい気がいたします.それでこういうことについて,先生の生い立ちからおやめになるまでの,御仕事のいろいろな想い出をお聞きしたいと思うわけです.

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 いたみに対する関心は,最も古く,また最も新しいともいえる.とくに近年ペインクリニックの発展にともない,麻酔科医のいたみに対する関心は著しく高まってきた.これまでにも神経ブロックについての書物はあったが,これらはいずれも手技を主としたもので,広い立場からいたみについての基礎と臨床をおりまぜた成書は見当たらなかった.この度清原博士の著書「いたみの臨床」を手にして,まさに待望されていたものが,生まれたといった感を深くした.本書の内容を簡単に紹介すると,第Ⅰ章ではいたみについての基礎的な事項,たとえば,末梢性および中枢性のいたみの機序について,これまでの広汎な文献をもとに解説してあり,とくに最近のGate Control Theoryや血漿Kinin等の発痛物質を中心としたChemalgiaについての記述は,麻酔科医はもとより,いたみに関心をもつ基礎医学者にとっても,興味深いところであろう.第Ⅱ章ではいたみの特質,とくに表在痛や深部痛,内臓痛や関連痛等についてくわしく説明されていて,各方面の臨床家にとって参考となることが少なくない.第Ⅲ章ではいたみの測定や鎮痛剤の効果判定について,これまでのいろいろな研究が紹介され,とくに鎮痛剤の効果判定には十分慎重でなければならないことが述べられている.第Ⅳ章ではいたみの対策として主として神経ブロックが述べられているが,さらにいたみを部位別に分けて,たとえば頭痛,顔面痛,腹痛,背痛,腰痛等について,それぞれの特徴と治療法がくわしく記載されているので,麻酔科以外にも役立つところが多い.

 本書の題名は「いたみの臨床」となってはいるが,著者の経歴と内容からみて,むしろ「いたみの基礎と臨床」の名がふさわしいようにさえ思われた.従来ややもすると経験的に,また対症的にとりあつかわれてきたいたみの対策に,基礎的なよりどころを与えてくれる意味からも,本書のもつ意義は大きい.文献も数多く引用されているので,この方面に興味をもつものにとっては,役立つところが大きいであろう.通読後の印象としてあえて一言述べるならば,基礎的な事項の解説をいま少しく平易に述べてほしかった.そうすれば一層理解を助け,親しみやすいものとなったであろう.

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 近代皮膚科学の特色の1つは,その精細かつ巧緻を極める皮疹の記載であろう.皮疹の描写に拘泥すれば形而上学的考え方に終始し,記載皮膚科学の異名を甘受するのも当然のことである.

 その出発から独仏の影響の強かったわが国の皮膚科学は,時に文学的余韻をも残すが,戦時中の長い空白とヌーベル・バーグというべきアメリカ皮膚科学の浸透により,徐々にその姿を変えつつある.例えば皮膚の症状や病変を全身との関連において考察するといった傾向は,新しい皮膚科学への脱皮の過程と考えてよいであろう.

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〈質問〉

 胃前庭部小彎がX線像で充盈不足がちで,比較的恒存性の変形がみられたときは,その部の癒着が考えられると聞きましたが,そういう癒着の頻度,またその癒着が胆囊炎と関係あるものの頻度について東北大棋教授にご教示いただきたいと思います.

編集後記 市川 平三郎
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 本号では,古くてしかも常に新しい問題を提供する胃潰瘍の特集を行なってみた.内科的治療に抵抗する胃潰瘍の観察は,本当に幾度となく論ぜられてきたが,早期胃癌の診断を進歩させてきた診断技術が,その獲得した高いレベルで,あらためて見直してみるときに,これ程までに種々の問題を内蔵しているかと目をみはるばかりである.執筆者はいずれも第17回日本医学会総会シンポジウム“難治性胃濱瘍”で蘊蓄を傾けられた第一級の方達ばかりである.深く味わっていただきたいと思う.座談会は,綜説執筆者の教室の方達で,業績をまとめられた陰の功労者にお願いした.こういうお話を聞いていると,研究というものを身近に感じていただけることであろう.

 毎月行なわれている早期胃癌研究会に提供された症例や,投稿された早期胃癌症例が,編集部に沢山たまっている.そのうち特集号でも出して少しでも多く,皆さんに見ていただこうという予定である.よい症例を,御投稿下さい.

基本情報

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胃と腸
2巻8号 (1967年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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