胃と腸 2巻11号 (1967年11月)

今月の主題 慢性胃炎2

綜説

慢性胃炎のレ線診断 青山 大三
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Ⅰ.はじめに

 慢性胃炎は現在では一疾患単位と考えるべきかどうかについてはかなり疑問が残されている.また慢性胃炎には愁訴があるかないかという点でも,臨床的に疑問がある.

 近年胃カメラ,ファイバースコープ,細胞診,胃生検などの進歩により慢性胃炎の診断は精密になってきているが,ある学者は慢性胃炎の診断は生検のように一つの点の診断ではなく,ある広がりをもった面の診断でなくてはならぬとしているむきもある.このような意味ではレ線,内視鏡の診断でその広がりの因子を含めれば,かなり役立つところが多く,また,そのそれぞれが進歩すれば相まってより精確な診断がなされるようになるだろう.

 レ線的,内視鏡的,摘出胃の組織学的などの各種の診断が先人のものでは多種多様で,学者によって異なったりしているので,それぞれの立場による診断の横の関連性が問題になり,場合によっては翻訳すら必要とすることもある.

 特に1950年以前ではレ線的には特記するものはないと思われる.現在では内視鏡的診断と同様にレ線診断も可及的に病理組織学的診断名に近づけなくてはならない.レ線的には凹凸で,内視鏡的には色調,運動,伸展性などで診断して,できれば生検でさらに詳細に分析して行くようにすれば,少しでも組織学的所見に近づけるようである.しかし組織学的でなければわからないものも当然あるわけであって,レ線内視鏡では不明のものもあることは充分知っておかなくてはならない.

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Ⅰ.はじめに

 慢性胃炎と胃癌との関連についてはすでに古くより論じられている.しかし現状は慢性胃炎そのものの解釈についてすらかなりの混乱があり,従来,臨床家と病理学者などの考えているイメージは必ずしも一致していたとはいえぬ.臨床家は一つの疾病単位としてのそれを解明しようとする立場をとり,病理学者は病変の組織学的究明の方に重点をおく以上やむを得ぬことであったともいえるが,最近の内視鏡の発達,普及および生検の応用などにより,とりあえず両者間に話し合う共通の場ができ始めたことは,慢性胃炎の研究にもやっと光明がさし始めたともいえよう.

 一方胃癌は健常粘膜から発生するとは考えられない.しかもそれは多くの場合局在の病変である.最近の診断学の進歩は胃内のある揚所に限局した1cm前後の癌を発見することも可能にしようとしている.しからばそこに局在して癌を発生させる胃粘膜の状態は如何なるものであろうか.同じく局在の病変である潰瘍,ポリープなどを臨床的に長期間観察し,それが癌に変ったという客観的の材料を充分にそろえた症例の発表は未だほとんどない.臨床的に良性と確実に診断された潰瘍,ポリープはそう簡単には癌になるものではなさそうである.そうなると今までの診断学では診断が容易でなかった病変がなにか重大な役割をしているということも想像される,たとえばこの頃やっとかなり多くの人が診断できるようになってきた潰瘍瘢痕,びらんなどもその一つかもしれない.そしてそれらの病変はある意味では局在した胃炎と考えられ,しかもかなり多い病変なので胃炎と癌との結びつきに何か糸口となるかもしれない.

 本年度の医学会総会において,慢性胃炎のシンポジウムに内視鏡の立場から参加するように命ぜられたとき,かなり進歩したとはいえ未だ弱点の少なくない内視鏡による胃粘膜像の所見のうち,その解釈についてもっとも普遍性をもっている萎縮像を示すものをとりあげ,先ずそれと胃癌との関連を考察しようと試みた.もちろん上述の瘢痕,びらんと癌との関係についても考慮に入れながらである.

 さらに胃癌と胃炎との関連を見るもっとも直接的な方法として,胃癌を実験的につくり,その癌に変る以前の粘膜所見の特徴をつかめばよいわけであるが,未だ短期に確実に胃癌をつくる方法は発表されていない.そこでわれわれはとりあえず吉田肉腫をつかい,それがどのような粘膜の状態の時にもっとも胃に移植されやすいかの実験を行なった.もちろん肉腫細胞が移殖されやすい胃粘膜の場はどのようなものであるかを見ることで,発癌以前の胃粘膜状態如何との問題とはほど遠いものであるが,やっているうちに何か今後の新しい問題が出てくることを期待してのことである.

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 慢性胃炎は実に多い疾患であり,病理学的にはその本態が明確にされていない.ましてや臨床的に議論が多く,未解決の問題が山積している.それ故に消化器病の学会では常に議論の一焦点となっている.この春の日本医学会総会でもシンポジウムの1主題として採り上げられ,種々の方面から討論がなされた.学会発表では時間の制限などで意を尽さなかった点や発表を割愛した点もあった.今度そのシンポジウムの内容をまとめて本誌の特集として発表することになったのを機会に口演内容に少し筆を加えることにした.

 私ども外科医の勤めは,ここ10余年間に手術した患者の遠隔成績を明らかにし,それを基にして術前の諸症状や手術標本の検査所見などと対比し,術後の検査所見とも照らし合せて手術禁忌と手術適応とを決定することと,外科医でなくてはできない面の研究から本症の本態究明になんらかの寄与をすることである.

術後胃炎 中島 敏夫
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Ⅰ.はじめに

 胃手術後の切除残胃と胃炎に関する研究は臨床像,レ線像,胃液分泌,内視鏡あるいは組織像など種々の面から検討せられ,幾多の臨床的興味のもたれるところであるが,その存在の有無,成因,進展過程などについても多くの見解があり,なお未解決の点が少なくない.たとえばその組織像についても,一般の非手術胃にみられると同様の表層性,萎縮性胃炎であるという成績がある一方,術後胃炎としては特有な組織像を認めるものであるとの見解もある.

 またその粘膜所見が,術前に存在する胃炎の継続であるのか,胃手術のために起こってきたものなのか,あるいは術後胃の機能障害によってひき起こされたものであるのか,などについても種々異論のあるところであり,この問題の解明はきわめて困難である.

 最近内視鏡の進歩,ことに胃カメラやファイバースコープの導入,生検法の進歩は病理組織学的検索と相まって,残胃粘膜の観察を可能ならしめ,再びこの問題についての検討が加えられつつある.

 われわれもこの問題について臨床的,実験的研究を重ね,その成績を屡々発表してきたが,ここではそれらを中心に,切除残胃胃炎の病態について検討を加え,更にその成因について考察する.

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はじめに

 これまで学会シンポジウムとして,何度か慢性胃炎の問題がとりあげられながら,一体どんな結論がえられたであろうか?また将来,はたして納得のいく解決がなされるものであろうか?

 慢性胃炎に関しては,たしかに近年いろいろな立場からの研究がなされている.しかしそれらは,ほんとうに慢性胃炎の本態を究明するという意味あいに沿うているものなのかどうか,私は知らない.それはともかく,慢性胃炎の診断は,胃の内視鏡検査や生検が普及するにつれて,昔よりはかなりの根拠をもってつけられるようになったが,それもひとたび自覚症状を含めた臨床像との関連においてみつめるとき,その診断は,はなはだあいまいなものとなる.結局いまなお各人各様にばくぜんとした考えをもって,いわゆる慢性胃炎の診断をなし,その患者を扱っているのが実状である.この状態はここ当分(あるいは永久に)続くかもしれない.慢性胃炎については,今後とも大いに各分野の人々の協力による研究がなされなければならないが,ものの本態というものは,そうたやすく解明されるものでもないし,そうだとすれば,日常診療にたずさわるものにとって,さしあたり必要にせまられることは,現に愁訴をもつ慢性胃炎なる患者を,どのように取扱い,処理していくかということであろう.実際問題として,たとえばその病型分類がいかに詳細になされようとも,患者の訴えや苦痛がなんらのぞかれないとしたら,およそ意味をなさない.臨床家にとって大事なことは,その本態の究明もさることながら,やはり患者の自覚症状をのぞいてやるということではなかろうか.そういう観点から私は,現在一般に慢性胃炎といわれている患者の,取扱い上の問題を中心にのべてみたい.かかげた題名は,いささか大げさな感をあたえるが,けっしてむずかしい議論を展開しようとの魂胆はなく,ただここでは,私の経験からして慢性胃炎といわれる患者を取扱う場合,心身医学的立場からの考慮がきわめて必要であること,また実際に日常の診療にあたって,この考えをどのように役立て,いかに患者を取扱っているかを具体的にのべるにとどめたいと思う.

 以下いくつかの項目にわけ,見解をのべてみたい.

展望

老人の上腹部手術 田中 大平
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 最近老人の手術数が急激に増し,当教室の例(第1図)をみても十数年前の約2倍に達し,全手術例の1/4~1/5を占めるに至り,また,その死亡率も著しく低下してきた.これは麻酔学の急速な進歩,術前後管理法の発達,化学療法の休みなき発展などに伴った現象であるが,ここ10年来世界的に重要な問題となってきた老年の研究,ことに老年医学研究の進展がその大きな因子となっていることは明らかである.

 老年医学の一環をなす老人外科の研究も昭和30年頃を契機として急速に発展し,今日では手術侵襲の老年的特徴を中心として,外科学における加令の問題をかなり深く追求するに至っている.

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Ⅰ.まえがき

 胃癌の発育に関しては,従来多くの報告があるが,いずれも満足すべきものではなく,今後の検索が待たれる分野である.

 近年胃内視鏡とくに胃カメラ,胃ファイバーカメラのように記録性を持った器械の開発普及が進むにつれ,胃癌が発見された際に,それ以前に撮影してあったフィルムを検討することにより,前には発見できなかった微細な胃癌像が分るようになった.これにより診断能の向上が期待されるとともに,胃癌の発育形式が内視鏡的に次第に明らかになり,胃癌の発育形式が確立されるのも近いものと期待される.

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Ⅰ.はじめに

 X線,内視鏡検査で体上部前壁の比較的小さなⅡcと診断,手術時の胃切開にてそれ以外の粘膜の性状に多少疑問をもち亜全摘,組織学的検索により意外に広汎なⅡbの合併,断端浸潤(+),腹腔動脈周囲リンパ節4コ中1コに癌転移の証明された症例である.

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 長尾 どうも本日はお忙しいところを,北は北海道,南は九州の遠隔から諸先生にお集まり願いまして,まことにありがとうございます.

 本日は,胃の冷凍療法というテーマでありますが,お集まりの先生は,日頃,日本でこの問題を熱心に検討されている諸先生ばかりでありますので,皆様の御意見を承りながら読者の皆さんに胃の冷凍療法とはどういうものであるかということを御紹介し,現況を語るという内容にしたいと思います.Wangensteenがこの方法を取り上げまして以来,欧米はもちろん,わが国でもいち早くこの追試検討が始まったわけでありますが,その効果だとか,あるいは,その方法論につきましては,まさに甲論乙駁でありまして,気の早い人じゃもう大体結末はついたというふうに思われている方もありますし,いや,まだなかなか検討してみればいろんな興味のある効果もあるというふうに,いろんな問題点がございます.ともかく,Wangensteenが外科医であったというせいなのかどうか,わが国では,外科が主となってこの追試検討を始めているという現状でありまして,内科の先生の意見が多く伺えないという,1つの盲点がございますが,この雑誌の読者層と申しますか,内科の方がかなりいらっしゃる.多いというふうに承っておりますので,ひとつ八尾先生に内科方面の代表選手として忌憚なき御批判なり,また,当然これを追試検討なさった担当者としてのいろいろな御意見を承れば,あまりまとはずれなことにはならんじゃないか,と実は思っております.

技術解説

私のレントゲン検査 秋山 吉照
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Ⅰ.緒言

 実際に早期胃癌をたくさん経験すると,誰もが痛感することであるが,ちょっとした手技の拙劣さで病変を捕捉できなかったり,苦心惨憺してやっと診断を決定できる写真をとれることがしばしばである.そのためにこそ,二度三度と検査が繰り返されることがある.しかし,問題は見えにくい透視映像における第一段階での見逃しである.

 筆者は以前より,解像力の悪い螢光板での透視を先にして,その患者の胃の形態すら知らずに,予想もつかない病変に立ち向う従来の検査順序には大きな疑問を持っており,透視前に胃の概観撮影を行なうことがあらゆる点で有利と考えている.胃のX線検査が写真だけで良いというのではない.透視技術の難しさを真に理解し,そして助かる胃癌を対象とするなら,予めルーチン化した写真撮影を行ない,解像力の良いフィルムで見当をつけて,後日,透視を行なって精査する方が診断精度を高めることができると考えている.

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編集後記 常岡 健二
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 10月6,7日には和歌山市で楠井教授会長のもとに日本消化器病学会・日本内視鏡学会・日本胃集団検診学会の合同秋季大会が催された.今回は会長の学会のあり方に対する日頃の考えが率直に示され,大変好感がもたれたようである.全部シンポジウム様式が採用され,主題は5つ,その中に「慢性胃炎の問題点」が22の報告によって種々討論された.胃炎像のX線的・内視鏡的解釈,新しい方法(偏光カメラ,立体顕微鏡)を使っての検討,そして診断の限界,生検,病理組織像との対比の他,成因に関する自律神経,免疫,貧血の役割なども発表された.慢性胃炎の研究は癌,潰瘍に較べると,地味ではあるが,着々と発展しつつあるのは喜ばしい次第である.

 本号は前回につづいて慢性胃炎のレ線診断,胃癌との関連性,外科療法,術後胃炎,心身医学的観察など,夫々の権威者によって解説していただいた.なかでも並木正義博士の心身医学的立場から,いわゆる慢性胃炎患者をいかに取扱うべきか,全くお説の通り,共鳴するところが多い.

基本情報

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胃と腸
2巻11号 (1967年11月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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