胃と腸 19巻4号 (1984年4月)

今月の主題 肝内結石症―最近の知見をめぐって

序説

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 肝内結石症は,統計上,胆石症全体のわずか4~8%を占めるにすぎない.

しかし現在肝内結石症は診断・治療のうえで関心が持たれ,研究者にとって大きな課題となっていると言えよう.それは肝内結石症が1回の手術で根治させることが難しく,ときに難治性で予後も不良なためである.

 肝内結石症は欧米に少なく,東洋に多いとされている.特に中国,日本に多い.疫学的なことは正確には把握されていない.今後の大きな課題と言えよう.

主題

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要旨 肝内結石症の疫学について,その年次的推移,地域的差異,年齢分布などの面から検討を行い,その成因との関連についても考察を行った.年次的推移では,近年肝内結石症は減少してきているようであるが,コレステロール系胆石の増加が著明であり,みかけ上の減少とも考えられた.地域的な面では,やはり農漁村地区に多く都市部では少ない疾患であることに変わりはないが,成因との関連よりビリルビン系胆石の原因との関連が注目された.年齢分布でみると,一般の胆石症とは異なり,若年者にも多くみられ,先天的因子の関与も考えられる.

肝内結石症の新病型分類 中山 文夫
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要旨 現在まで肝内結石症の分類案は20種以上に及び,討論の場において共通の理解を得るのに多大の支障があった.今回,厚生省特定疾患肝内胆管障害調査研究班において新しい肝内結石症分類案が提唱され,大方の賛同を得ているので,ここにその解説を試みた.肝内結石症の病態を記述するため,その成因因子のうち胆管狭窄と拡張を取り上げ,結石の種類,所在,および既往手術術式を記号化し,共通の理解およびコンピューター化に便利ならしめた.

肝内結石症とCaroli病 三島 好雄
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要旨 先天性肝内胆管拡張症が肝内結石形成の1つの準備状態であり,長い経過のうちに胆汁うっ滞のために胆管炎を反復し,ついには肝内結石や癌が発生する可能性が考えられる.Caroli病は主として肝内末梢胆管の囊胞状拡張を示す疾患であるが,その概念については多くの混乱がある.厚生省肝内結石症研究班の討議では,本症はCaroli病という独立した疾患よりも,先天性肝内胆管拡張症の1つの亜型として取り扱うのが妥当であるとの見解が多数を占めた.しかし,その病態と臨床についてはなお解明すべき重要な問題が多く,病名の是非は別としても,肝内胆管病変の研究や診断と治療に関して注目すべき病態である.

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要旨 従来診断が困難であった肝内結石症がPTCあるいはERCにより確実に診断されるようになったが,超音波電子スキャンの臨床応用により診断が更に確実となった.なおまた超音波映像下PTCにより精細な病態診断が可能となった.肝内結石症は原発性と続発性に型別され,原発性は更に主肝管型と臨床所見の軽微な末梢肝管型に分類されることが超音波電子スキャンの応用により明らかとなった.これら診断法の進歩により肝内結石症の成因,病態に新しい知見が加えられ,治療についての考え方にも今後検討すべき問題が提起されている.

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要旨 肝内結石症の大部分は,胆汁うっ滞と細菌感染を基盤として形成されるビリルビンカルシウム石である.程度の差こそあれ,例外なく肝内胆管は拡張し,同時に肝外胆管も拡張を示すものが少なくない.約60%の症例では拡張胆管は極端なcaliber changeを伴い,いわゆる狭窄像を呈する.教室では胆管狭窄を基準として4型に分類している.このような胆管形態異常の病因に関しては議論が多く,定説をみるには至っていない.最近,病変は肝外胆管優位の時代から肝内胆管優位の時代に移行しつつある.この現象は画像診断技術の進歩によるところが大きいが,本症自体の病態も推移しつつあるとも解釈される.今後の検討に期待される.

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要旨 肝内結石症の結石含有胆管は,拡張と相対的狭窄を示し,その基本的組織像は慢性増殖性胆管炎であり,線維増生,炎症性細胞浸潤および腺組織の増生がみられた.これら3つの基本病変は症例により,胆管のレベルにより変動を示した.そして,この増生した腺組織から分泌される粘液が肝内結石の形成,成長に何らかの役割を果たすと考えられた.肝内胆管拡張が結石形成に先行する症例があり,特に孤立性肝内胆管拡張症の検索が重要と考えられた.肝内結石症の約10%以下の症例に肝内胆管癌の合併がみられ,慢性増殖性胆管炎にみられる異型胆管上皮の過形成が胆管癌の前駆病変と考えられた.

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要旨 肝内結石症患者と健常者のHLA抗原を検索し,CW3,A2,8WDRW6Yとの関連性が示唆された.病態との比較ではCW3が狭窄型に比べ非狭窄型に有意に多かった.2抗原間の組み合わせ頻度でみるとA2とCW3の組み合わせが28.6%と最も高率であった.これを日本人健常者と比べると肝内結石症で有意に高率であった.またこの組み合わせは日本人に多い組み合わせであり,肝内結石症の東洋人集積性を考慮すると興味深い.現在までのHLAと疾患感受性では,先天性異常はAおよびC抗原との密接な関連性が見出されている.今回の検討でも,A2とCW3との相関が認められたことより,本症の成因には先天性異常の関与が示唆された.また,CW3抗原は先天性異常の肝内胆管の拡張因子との密接な関連性が示唆された.

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要旨 肝内結石症68例を検討し,肝切除術の本症治療上の意義を考察した.結石の局在,胆管形態異常(狭窄・拡張)は左葉に多く,右葉のみのものは少なかった.狭窄例は68例中44%にみられた.肝切除は左右肝管のいずれかの狭窄例の60%,それより末梢の狭窄例の50%に施行した.切除肝の組織学的検索では,胆管周囲の線維組織内に密在する腺管様構造が多数みられ,これらは粘液産生性で,器質的変化は高度であった.治療成績は,高度の狭窄例では切除群に良好で,94.4%が社会復帰した.非切除群の良好例は76.9%であった.すなわち,高度の胆管障害例では胆管の器質的変化も著明で,肝切除が有効と思われた.

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要旨 過去13年間に手術を行った肝内結石症105例を,肝内胆管自体に病変を認めない続発性肝内結石症と肝内胆管に狭窄・拡張性病変を有する原発性肝内結石症に分類し,手術術式別にその治療成績を検討した.原発性肝内結石症例中,肝両葉型の治療は困難であったが,拡大胆管空腸吻合術の遠隔成績が良好であった.すなわち肝内胆管に狭窄性病変を有する肝内結石症では結石生成の主たる場所はその上流の拡張性病変と考えられ,完全な病巣切除が困難な両側肝内結石症例では,狭窄部の解除と拡張部のドレナージが期待できる術式を行う必要がある.かかる胆汁ドレナージ術式として,拡大胆管切開截石術と拡大胆管空腸(ρ-loop,Roux-Y)吻合術が最も有効と考えられた.

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要旨 50例の肝内結石症に対して肝切除術,胆管空腸吻合術,内視鏡的截石術などの治療を単独かまたはそれぞれ組み合わせて行ったが,内視鏡的截石術は90%の症例に併用し,良好な治療成績を得た.内視鏡的截石術には内視鏡的乳頭切開術(EPT),術後胆道鏡的截石術(POC),経皮経肝胆道鏡的截石術(PTCS)があるが,肝内結石症の治療にはPTCSが最も適応範囲が広い.肝切除術,ドレナージ手術の適応決定に際してもPTCSはなくてはならない診断法である.PTCSで截石後に胆道の形態異常を正確に診断し,最も正しい治療法を選択するというstaged operationの立場で治療に臨むべきである.

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要旨 患者は45歳男性で,主訴は心窩部痛,発熱,嘔吐.ERCPにて肝外胆管の拡張は認めなかったが,胆囊内に1個の胆石と肝左葉外下降枝に充満した多数の胆石像を認めた.血清脂質は正常であった.胆囊摘出術,総胆管切開ドレナージ,肝外側区域切除術を施行した.摘出胆石は胆囊結石は混成石,肝内結石は混合石であった.肝の組織学的検索では外下降枝は著しく蛇行し,胆管周囲には軽度の慢性炎症を認めたにすぎなかった.胆囊胆汁の脂質成分はコレステロール2.1mmol/l,燐脂質8.3mmol/l,総胆汁酸69.5mmol/lで催石指数は0.3であった.総胆管胆汁の催石指数も0.4であった.本症例の胆石の成因は従来のコレステロール溶存能に関する説明では理解できず,コレステロール結石生成の複雑さを考えさせた.

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要旨 腹部USにて肝内のSOLを指摘され当科に精査のため入院.ERC所見から原発性肝内結石症と診断されたが,患者と家族が手術の延期を希望し一時退院.その後急性化膿性胆管炎を併発して死亡した1例をその剖検所見を含めて報告した.また過去8年間に当科と関連施設で経験した肝内結石症11例につき臨床的考察を加え,本症の画像診断における問題点を指摘した.

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要旨 肝切除術により根治しえた肝内結石症の1例を報告した.患者は40歳,主婦.15年前より年1~2回の高熱を繰り返し,1カ月前より心窩部疝痛発作も加わったため来院した.US,CTより左肝内結石症および総胆管結石症と診断された.ERCPで左肝内胆管に限局性狭窄様所見と末梢胆管枝の拡張,多数の小結石像が認められた.PTCSによる截石術により左肝内胆管の狭窄様所見は改善されたが,まだ末梢胆管枝内に多数の小結石が存在したため,肝左葉切除術が施行された.また術中,右尾状葉胆管に胆泥,膿性胆汁が充満していたため,尾状葉亜全摘術も施行された結果,術後1年半を経過して,結石の遺残,再発もなく良好である.

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要旨 患者は64歳女性.右季肋部痛,発熱,全身倦怠感を訴えていた.肝胆道系酵素には異常は認めなかった.しかし,ERCPでは総胆管の中等度拡張と結石,および左肝内胆管の狭窄像を認めた.術前に肝内胆管癌を強く疑った.手術後,長期の胆管炎のためと,肝内結石によると考えられる肝左葉萎縮病変であることが判明した.

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要旨 われわれは最近,肝内胆管の狭窄に起因すると思われる肝内結石症を経験したので,その狭窄部の病理学的検討を加えて報告した.本疾患は最近の医療技術の進歩により,比較的容易に診断が可能となった.特にERCPなどで狭窄のために肝内胆管が十分造影されない揚合の超音波下PTCの有効性は高い,本症例は狭窄部を含めた肝左葉切除術が施行され,現在まで順調に経過している.狭窄部を病理学的に検討すると狭窄部は胆管壁によく似た構造をしており,われわれは先天性胆管隔壁が炎症のためにこのような肥厚性狭窄に変化したものと推測した.以上より本症の治療は狭窄部を含めた肝切除術が最も理想的であると確信した.

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要旨 肝内胆管の狭窄部位の病理組織学的検討をなしえた2症例を報告した.症例1は71歳男性で,左肝内結石症に対し肝左葉切除術を施行.左肝管起始部と約2.5cm上流の上外側区域胆管に狭窄が認められた.同部の病理組織学的所見では,胆管壁は線維化により肥厚し,線維化巣内に腺管様構造や,粘液細胞の増生を認めた.症例2は65歳女性で,左肝内結石症に対し肝左葉切除術を施行.左肝管起始部より2cm上流に認められた相対的狭窄部位の病理組織学的所見では,症例1と同様に腺管様構造や粘液細胞の増生があり,線維化を伴う胆管壁の内翻を認めた.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱc
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 A 35 year-old woman was admitted to Kitasato University Hospital with a chief complaint of postprandial abdominal discomfort.

 Radiographic and endoscopic examination revealed an irregular and shallow depressed lesion within the converging folds on the anterior wall of the gastric antrum. This lesion was surrounded by the coarse areae gastricae,and small granules were seen within the depression. The diagnosis of Ⅱc type early cancer was made.

Refresher Course・4

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□患 者:61歳男性.

□主 訴:特になし.

〔初回X線所見〕(背臥位二重造影・Fig.1)過伸展気味の二重造影写真である.胃角部後壁に小さな不整形の陰影斑とわずかな胃小区様模様の乱れが認められる(矢印部).しかし,この所見だけでは性状診断は難しい.病変部が椎骨と重なっているため病変の把握が十分できない.

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 大柴 初めに胃・十二指腸のX線診断の基本的な心構えということですが,これは食道のときと同じだろうと思いますので省略して,1つ1つの細かいところに入っていきたいと思います,

 X線検査

 質問 X線検査の場合,バリウムの量や濃度,空気量などは,どの程度がよいでしょうか.また,抗コリン剤は投与すべきなのでしょうか.

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欧文目次

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 甲田英一,古寺研一および平松京一の3氏による「画像診断のための知っておきたいサイン」は既刊の「計測値」に次ぐ3部作の中の第2部である.サインの定義をどこに置くかによって,この種の本の中にどれほどのX線所見を組み込むべきかが決まると思う.

 私がこの本を初めて見たときに,正直なところ,この本に収められている項目のあるものについては抵抗を感じた.例えばA-V shuntで,これがサインと呼ばれるにふさわしいものなのだろうか?ここまで含めなくてもよいのにと思った.しかし,サインだけではX線診断に必要な所見あるいは情報をそろえられないからかもしれない.

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 本書編集者の大澤 忠教授は,昭和30年以降のわが国の放射線診断学発展の牽引車となった方である.まだ米国留学がそれほど容易ではなかった時代にいち早くエール大学に留学,いわゆるgeneral radiologyの研讃をされた.

 著者の平敷淳子,古瀬 信,土井 修,竹川鉦一,平松慶博の各先生は年代的にみて大澤教授に続いた放射線診断学の先兵で,今やわが国の放射線診断学のリーダーシップをとっている方々ばかりである.本書の内容を見て随所に新鮮さを感じるのも,こういった好影響のためであろう.その一方で,本書には新しい画像診断時代にあくまで従来からのX線診断を基盤として新しい画像診断を加味された編集の基本方針が見事に貫かれている.

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 まず冒頭に,渇望久しかった単行本「消化管内圧測定法」の出版を歓迎し,その価値の高い内容と有用性を評価し,率直に双手を挙げて賛辞と敬意を表し,本書に感銘を深めた二,三のことを述べてみます.

 第一に,これから始めようとする初歩の方には何よりの手引きとして,これまで従事されてこられた方に対しては現在の水準を見極めて,将来への発展のために極めて有用な,いわゆる“消化管内圧測定のすべて”といった単行本であることを感じました.これまで消化管の内圧測定に関しては,生理学書や,小児外科,外科,内科などの臨床の単行本の中で,断片的に取り上げられ,簡単な記載を見るにすぎませんでした.

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 Effect of intravenous lipid on human pancreatic secretion: K Edelman, et al (Gastroenterology 85: 1063-1066, 1983)

 経口摂取が不能であったり,望ましくない疾患においては,経静脈性など非経口的な栄養補給がなされる.最近では糖質,アミノ酸などのほかに脂肪も経静脈投与が行われるが,こういったことは,急性膵炎など本来膵外分泌を刺激することが望ましくないときにも必要となることがある.殊に脂肪をこういった疾患で経静脈にせよ投与する場合,最も懸念される.事実Konturekらは,イヌにおいて経静脈的に脂肪を投与した場合,膵外分泌を刺激し,更に消化管から脂肪を投与した場合も,膵外分泌の刺激は,吸収された脂肪成分が重要な役割を演ずると述べている.そこで本論文では,ヒトにおいて,種々濃度を変えた経静脈性の脂肪の投与が,果たして膵外分泌を刺激するか否か,また消化管投与された場合本当に吸収された脂肪成分が,膵外分泌を刺激するか否か実験された.

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 Pregnancy in ulcerative colitis: OH Nielsen, B Andreasson, S Bondesen, et al (Scand J Gastroenterol 18: 735-742, 1983)

 12年間にわたり97人の潰瘍性大腸炎の女性で,妊娠と疾患の活動性などにつき検討された.

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 Intestinal transit time in constipated and non-constipated geriatric patients: Melkersson M, Andersson H, Bosaeus I, Falkheden T (Scand J Gastroenterol 18: 593-597, 1983)

 結腸での通過時間が年齢と共に延長するとの明らかな証拠はなく,また,老人の便秘が大腸での通過が遅いのか否かまだよくわかっていない.この研究の目的は便秘および非便秘の老人患者でtransit time(輸送時間)を記録し,そして若年患者のそれと比較することにある.

編集後記 武内 俊彦
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 以前に本誌16巻6号で「胆道系疾患の臨床(Ⅰ)」として総胆管結石症を取り上げたが,今回は肝内結石症が主題として選ばれた.両疾患とも序説で述べられているように,わが国をはじめとして東南アジアに多い疾患である.しかし,胆管形態異常の病因,胆石生成機序など未だ明らかでなく,わが国における実態も必ずしも詳細に把握されていない.全国的に一定の様式で肝内結石症を登録,調査しようという試みも始まった.本号でも分類についての解説をお願いすると共に,診断,肝内胆管の病理,HLAとの関連など早くから研究されている方々に詳述していただいた.今後の研究の方向に示唆を与えてくれるものと思っている,治療に関しても胆汁ドレナージ手術,肝切除,最近進歩した内視鏡による截石術など自験例をもとにしてその適応,問題点が述べられた.呈示された興味ある肝内結石症例は,一度みておくことで今後の診療,研究に役立つにちがいない.いずれにしても是非わが国で本疾患の成因,実態が明確にされることを期待したい.

基本情報

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胃と腸
19巻4号 (1984年4月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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