胃と腸 19巻3号 (1984年3月)

今月の主題 Crohn病の経過

序説

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 10年前,18歳の美人のCrohn病患者を診たときには経験のない悲しさから,腸結核を否定できず2週間抗結核剤を投与して様子をみた.その後SASPにて一旦寛解をもたらすことができたが,SASPのための胃症状が強く,1年後には大きな胃潰瘍を併発し,Crohn病も増悪して再入院した.このころ欧米の文献を読みあさり,再発率が60%という数字を頼りに,再発しないことを祈りながら手術に踏み切った.ごく最近,過激な職業に従事しているその患者さんに電話を入れたところ,快く来院していただき小腸二重造影法を含む諸検査を行ったが再発はみられなかった.

 次に手術した患者さんは既手術例であったが,広範囲にわたる狭窄のため残存小腸が1m20cmと,広範囲切除のやむなきに至った.この患者さんは現在,低蛋白血症以外の自覚症状は少ないものの,著明かつ広汎な病変と狭窄を起こしており,再々手術の必然性を考えると憂鬱である.

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要旨 5年以上にわたり,経過を観察しえたCrohn病10例を対象として,X線,内視鏡所見の経時的変化と共に,現在の社会生活状況につき検討し,現時点までの成績より次の結論を得た.①非切除例ではskin lesion間の病変の進展はみられるものの,口側,肛門側への進展はほとんどみられなかった.②小腸の敷石像を伴わない縦走潰瘍は,長年にわたりほとんど変化せず経過しており,長い狭窄への進展はみられなかった.③小腸,大腸いずれにおいても,敷石像から狭小,狭窄や瘻孔形成へと進展する例が多くみられた.④多発するアフタ様潰瘍や小潰瘍は,内科的治療が著効を示した症例では消失する場合もみられたが,無効の症例や再燃を繰り返すうちに敷石像へと進展することが多かった.⑤肛門部病変は経過中8例にみられ,著明な狭窄,尿道瘻,腟瘻をそれぞれ1例に認めた.根治手術を施行し再発のみられない1例を除き,再燃を繰り返している.⑥現在の社会生活状況についてみると,ほぼ正常3例,制限つき3例,入退院の繰り返し2例,腸閉塞,狭窄のため最近腸切除術を施行して社会復帰したのが2例であった.

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要旨 経過を観察しえたCrohn病症例25例(非手術例12例,手術例13例)について臨床経過を検討し,経過の悪いものに対してはその要因を考え,更にその背景となっているものを検討してみた.まだ症例も少なく,観察期間も短く十分な考察はできなかった.したがって今回は成績を中心に述べた.

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要旨 Crohn病腸切除35症例について検討を加えた.性別では男性に,年齢では24歳以下の若年者に多くみられ,罹患部位は小腸型15例,小腸・大腸型16例,大腸型4例であった.手術適応としては腸管狭窄14例,瘻孔形成12例,内科的治療に抵抗7例であり,術式では回盲部を同時に切除する術式が76.5%に施行された.35例中,再手術(外科的再発)は13例(37.1%)であり,これらについて男女別,年齢別(24歳以下,25歳以上),罹患部位別に,また,術中漿膜所見で10cm以上離して切除した群と,そうでない群に分けて再発との関係を検討したが,有意の差はみられなかった.X線学的再発については,術後X線学的に追跡しえた23例を対象とし,14例(60.9%)に再発を認め,その再発までの期間は平均17.9カ月であった.これを同時期におけるCRP,血沈値などの炎症所見と比較すると,3例の不明例を除く11例中7例(63.6%)に陽性所見がみられた.X線学的非再発例では9例とも炎症所見陰性であった.術中内視鏡(17例)で残存病変なしとした8例では,5例(62.5%)にX線学的に再発が確認され,その再発までの期間は平均6.2カ月であった.残存病変の有無と再発に関しても,有意の差はみられず,内視鏡学的に観察して病変部をすべて切除する,いわゆる広範切除術は意味のないことだと思われた.術後の生活状況については,高い再発率を示したにもかかわらず,約90%の症例は良好な社会生活を営んでいる.

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要旨 Crohn病57例の68手術材料を,術前の内科的治療法により無治療群,栄養療法群,薬物療法群,栄養療法+薬物療法群および特殊群の5群に分け,各群の病理形態像を比較検討した.各群を通じて,肉眼的には腸間膜付着部に沿う縦走潰瘍,敷石状外観,密集性炎症性ポリポージス,瘻孔が,一方,組織学的にはリンパ球集蔟巣を主とする全層性炎症,類上皮細胞性肉芽腫,裂溝が基本的かつ重要な所見であった.栄養療法群と栄養療法+薬物療法群で,潰瘍の治癒率は高く,アフタ様潰瘍や裂溝も減少していた.敷石状外観も上記2者群で少なかった.しかし,炎症性ポリポージスは各群間で大差がなかった.肉芽腫は栄養療法群の1例と栄養療法+薬物療法群の2例のみで消失していた.また,栄養療法群では肉芽腫の数が少ない例が多かった.肉芽腫の大きさは無治療群に比し治療群で全般に小さい傾向があり,後者群ではしばしば萎縮状肉芽腫を認めた.Schaumann体は栄養療法群と栄養療法+薬物療法群で出現率が高い.全層性炎症と水腫も上記2者群で著明に軽減していたが,線維化は各群の全例に認められ,その程度に差はない.リンパ管炎も栄養療法群と栄養療法+薬物療法群で少ない.腸壁の肥厚はほぼ全例に認めたが,上記2者群では高度のものがない.狭窄は各群間に著明な差はない.以上,本症の形態像も治療により多少変遷することを指摘し,併せて栄養療法の有効性を論述した.

主題症例 Crohn病の経過観察例―経過観察によってCrohn病が否定された症例

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要旨 23歳の男性,主訴として粘血下痢便,発熱.約2年余前の発病以来,他医にて痔核および大腸Crohn病と診断され治療を受けていた.注腸造影ではS状結腸に不整の浅い潰瘍ならびに狭小化を,下行結腸上部辺縁には線状様潰瘍および炎症性ポリープを,上行結腸下部から盲腸にかけては辺縁不整と多数の小バリウムフレックを認めた.入院後,徐々にテネスムスおよび高熱が出現.これらの症状はCrohn病や大腸結核ではあまりみられないので,X線所見も加味し,区域型潰瘍性大腸炎を疑った.内科的療法が奏効せず,入院後約1カ月して手術(全結腸切除術ならびに回腸直腸吻合術)を施行した.切除標本では,主病変は盲腸から上行結腸下端,脾彎曲部付近,全S状結腸から直腸の3カ所に存在し,いずれも不整形の浅い潰瘍と炎症性ポリープが,全周性かつ連続性に認められた.組織学的には,Ul-Ⅰ~Ⅱであり,全層性の炎症やfissuring ulcerは認めなかった.crypt abscessは多数認められた.これらの肉眼ならびに組織学的所見から本症例を区域型潰瘍性大腸炎と診断した.術後4年経過した現在,患者は健康に社会復帰している.

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要旨 31歳男性.急性大腸炎でステロイドによる治療が無効であったため全結腸切除を施行した.切除標本では直腸から下行結腸にかけて広範囲に潰瘍性病変があり,この主病巣より口側に非連続的に散在する小潰瘍を認めた.組織学的には主病巣部にはfissuring ulcerを,また,それより口側では散在する小炎症巣を認めた.以上よりunclassified colitisとしたが,Crohn病である可能性が考えられた.手術後2年9カ月に及び残存直腸の追跡検査を行ったが,Crohn病を示す所見は認められず,潰瘍性大腸炎に一致する所見を得た.また,小腸二重造影や回腸の内視鏡検査では異常所見がなかったので,潰瘍性大腸炎であると考えられた.

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要旨 5年間の経過観察中,臨床的に1度も増悪をみず,少なくとも最近1年間は寛解状態にあると考えられる大腸Crohn病の1例を経験したので報告した.症例は28歳,男性.粘液便と上腹部痛を主訴として来院した.初診時,上腹部に腫瘤を触れ,肛門部に痔瘻を認めた.注腸X線および内視鏡検査で横行結腸に縦走潰瘍とcobblestone appearance,上行および下行結腸にアフタ様潰瘍を認め,大腸Crohn病と診断した.salazopyrin単独投与による治療を4年間続け,臨床症状およびX線所見も著明に改善されたため,休薬して経過観察を行っているが,1年後の現在再発の徴候は認められず,X線および内視鏡所見も横行結腸に線状縦走潰瘍瘢痕像を残すのみとなっている.

主題症例 Crohn病の経過観察例―急激に悪化した症例

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要旨 症例は20歳,男性,下腹部痛,発熱,体重減少を主訴として,1975年5月,当科に入院した.現症で,会陰部瘻孔を認めた.X線・内視鏡検査にてCrohn病と診断され,内科的治療を行ったが,再燃を繰り返し,1979年6月,狭窄のため右半結腸と回腸末端切除術が施行された.術中内視鏡検査で残存小腸は正常であり,組織学的にも切除断端は健常であるのを確認したが,術後42日目に吻合部に再発を認めた.1980年1月には癒着性腸閉塞で手術が施行され,病変部の切除が行われたが,術後40日目に再発した.その後も再燃を繰り返し,会陰部瘻孔のため2期的に手術が施行された.現在,会陰部瘻孔は治癒するも,回腸瘻周囲の瘻孔が新たに生じ,入院加療中である.本症の外科的手術による根治は困難であり,その適応は慎重であるべきと考えられた.

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要旨 患者は14歳女性.1974年2月腹痛出現.肛門周囲膿瘍もみられ1975年7月本院受診.注腸造影,大腸鏡にてCrohn病と診断し1976年3月22日手術を施行.病理学的にもCrohn病と診断.1976年12月吻合部の再発が指摘され,1978年7月2回目の手術を施行.再手術後の経過観察では,1979年8月注腸造影にて吻合部口側20cmにわたり顆粒状粘膜,アフタ様潰瘍,偏在性壁硬化を,大腸鏡ではアフタ様潰瘍が散見された.同年9月アフタ様潰瘍の拡大と増悪がみられ,同年12月不整~縦走潰瘍や仮性ポリープを伴う敷石状外観となった.1981年3月吻合部を中心に縦走潰瘍,敷石状外観の進展,管腔狭小化を認めた.metronidazole投与2カ月後の1981年6月,吻合部近傍の潰瘍の多くは瘢痕化し狭窄と仮性ポリープを残すのみとなった.本例の特徴は術後の変化を経時的に詳しく追跡しえたことであり,アフタ様潰瘍から敷石状外観への変化が確認された.

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要旨 患者は37歳の男性で10年前に膀胱腸瘻の手術を受け,その原因が小腸Crohn病と診断された.術後5年で回腸に再発がみられ内科的治療を続け,更に5年経過した現在,自覚症状はほとんどない.回腸は狭小化が高度で内瘻も形成し回腸終末にはアフタ様潰瘍がみられ,胃前庭部にびらんを伴った小扁平隆起が数個みられたが,小腸,胃の生検では非乾酪性肉芽腫は認めていない.

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要旨 53歳,女性.1972年1月,右下腹部痛にて発症し,同年9月イレウス症状のため開腹.小腸潰瘍として約80cmの回腸切除を受けた.3年後に再発を認め,術後11年間保存的に経過観察を続けているCrohn病症例である.経過の要点は,①再発部位は腸切除吻合部より肛門側回腸であり,縦走潰瘍や敷石状外観所見のほかに浅い不整形潰瘍や輪状潰瘍も混在して認められた.②CRP値や白血球数などの変動が少なく,病勢把握にはX線や内視鏡による形態観察が必要であった.③1979年以後は自覚症状の消失は認められず,形態観察上も病変はほとんど寛解を認めない.④外来通院の状態では栄養状態の悪化や貧血が徐々に進行するため,ときに入院による強制栄養を必要とした.⑤病変部には狭窄性変化が認められ,その口側腸管の拡張が徐々に著明となっており,再手術の可能性も示唆されている.

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要旨 過去22年間に5回の腸切除術を受けた44歳男性のCrohn病患者の,最終手術後7年6カ月間の吻合部の再発所見について報告した.手術後2年4カ月目に吻合部に数個の不整形潰瘍を生じたが,ステロイド剤,salicylazosulfapyridineの投与によって保存的治療を試みた結果,炎症の増悪,緩解を繰り返しながら緩解期に導入することができた.最近の粘膜像は腸結核の治癒期の萎縮瘢痕像とも類似しており,Crohn病と他の炎症性腸疾患との鑑別上の困難さがうかがえた.

Case of the Month

Early Gastric Cancer, Type Ⅱa+Ⅱc
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 A 69 year-old man was admitted to Asahikawa Medical College Hospital in 1983 for the treatment of gastric cancer which had already been diagnosed at the out-patient clinic. X-ray examination of stomach was done on March 1, 1983. Double contrast and compression study (Fig. 7~10) revealed an elevated lesion with shallow central depression at the greater curvature of the antrum and the diagnosis of early gastric cancer, type Ⅱa+Ⅱc,was made.

 Endoscopic examination done on February 24, 1983 (Fig. 11, 12)revealed a round elevated lesion with central depression at the same site. Malignancy was confirmed by biopsy.

Refresher Course・3

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□患者:71歳女性.

□主訴:眩暈,嘔吐.

□既往歴:1979年より高血圧症で治療中.

□現症:1983年1月5日午前1時ごろトイレに起きたところ急に眩暈がして転倒したが,意識は正常であり,10~15分ぐらい自宅で様子をみていたが四肢の振戦と食物残渣様嘔吐が生じたため当科を受診し入院となる.

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 質問 m~smの食道癌で,リンパ節転移のあるものとないものを鑑別できますか.

 大柴 ある程度の大きさ,高さ,凹みというものの表現がはっきりしている場合には割合に簡単だろうと思いますが,鑑別のできないところがかなりあるだろうと思いますが,どうなんでしょうか.

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欧文目次

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 Crohn's disease and ulcerative colitis in the same patient: White Ⅲ CL, Hamilton SR, Diamond MP, Cameron JL (Gut 24: 857-862, 1983)

 著者らは臨床的,病理学的データの十分整ったCrohn病と潰瘍性大腸炎の共存例を報告している.

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 Endoscopic sclerotherapy for bleeding esophageal varices: effects and complications: SJ Ayres, JS Goff, GH Warren (Ann Intern Med 98: 900-903, 1983)

 最近,食道静脈瘤出血に対する内視鏡的硬化療法が注目されている.硬化療法では硬化剤により血管内皮の損傷を生じ,食道静脈血栓ができると考えられていたが,病理学的な証明はなかった.われわれは硬化療法後の剖検例で硬化剤注入後の病理学的変化とその合併症について検討した.

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 本書はErlangen大学のRohen解剖主任教授と神奈川歯科大学解剖学教室の横地千仭教授の共著になるもので,そのサブタイトルに人体のphotographic studyとあるように,人体の解剖過程を示す多数の実物カラー写真を駆使して,人体の構造を図によって説明することを試みたものである.

 医学における人体解剖学の教育ないし勉学のための図譜としては,古くから多くの優れたものが出版され,Sobotta,Toldt,Spalteholzなど私共の学生時代によく使われたものが現在でもなお生命を保って利用されている.そのような現状の中で,本書が企画された理由と目的は,この本の序文に著者らが述べていることに明らかで,本書の特色もまたそれに尽きているといえる.

編集後記 大柴 三郎
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 胃癌の発育進展型式やスキルスの初期像などの考え方の進歩は数多くの症例の集積,見逃し例のretrospective studyが大きい役割を占めていたと思う.Crohn病の病態解明の手掛かりも同様に長期にわたる詳細な経過が重要な資料を与えてくれるものと思われる.Crohn病は最近日本でも増加していると言われるが,まだまだ欧米諸国に比べると症例は少ない.その少ない症例の1つ1つを大切にしてゆくことが日本独自の研究成果を生み出してくれるものと思う.「胃と腸」13巻でかつて3号にわたるCrohn病の特集が出版され,先達の計り知れない努力の結晶がその診断学を確立している.しかし治療に当たってはIHVやED療法が新しい局面を開いてくれたとは言うものの患者の社会復帰を考えるとき困惑するのが現状であろう.

 本特集の長期予後に関してみると内科的にしろ,また,外科的にしろ治療法の限界が如実に示されている.どんな治療法を選んでみてもそれぞれの予後に関しては診断された時点で既に決定されているような宿命的予後にも受け取れる.一方,寛解を得て所見は残しながらも固定してしまう例もみられることは将来への希望を残すものでもある.いずれにしてもCrohn病という若い人を侵す難病が1日も早くコントロールされ,社会生活をそれほど不自由なく過ごせるように,その実態の把握が期待される.

基本情報

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胃と腸
19巻3号 (1984年3月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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