胃と腸 18巻5号 (1983年5月)

今月の主題 消化管の悪性病変と皮膚病変

主題

消化管の悪性病変と皮膚 西山 茂夫
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 内臓の悪性腫瘍が種々の皮膚病変と密接な関係にあることは,古くから経験的によく知られている.そのような皮膚病変の中には,悪性腫瘍の皮膚転移のように,非常に特異的なものがある.しかし臨床上重要なものは,むしろ内臓悪性腫瘍の皮膚表現(skin manifestation)といった,非特異的な皮膚病変であろう.つまり,ある皮膚病変を見たときに,内臓悪性腫瘍の存在を推定させるようなものが興味があり,syndroma dermato-tumoraleという言語で一括される.または内臓悪性腫瘍のDermadromとも言うことができる.

 このような例は枚挙にいとまがなく,また,内臓悪性腫瘍の性質についても,必ずしも消化管の悪性病変だけを示唆するものではない.これをTable 1にまとめ,そのうち消化管と関係の深いものにつき簡単に記す.

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 消化器疾患の中には皮膚に特定の病変をもって現れてくるものがあり,逆に,皮膚疾患の中には特有の消化器病変を有するものがある.更に,系統疾患の部分病変として,消化器および皮膚に病変を来すものなど,体表皮膚の病変は隠された消化器疾患を診断するうえで重要な症状として,その意義は大きい.しかし,消化器疾患と皮膚疾患との因果関係および病因については不明の点が多い.消化器病変と皮膚疾患が併存する症例の頻度は余り高くはないが,皮膚病変はかなり特徴的な所見を有することから,消化器の重要な疾患を早期に発見しうる有力な手掛かりとなりうる.本稿では消化器悪性腫瘍と皮膚病変が併存した症例について,その臨床像,治療成績,予後などについて外科的に検討した成績を述べる.

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 内臓病変と皮膚病変が密接に関係することはよく知られている.これに対してdermadrome,vicero-cutaneous syndrome, skin manifestation of gastro-intestinal disorderなどの言葉が用いられている.

 このうち本稿では消化管の悪性腫瘍と皮膚病変に焦点を絞った.更にこの中でも,われわれが比較的多くの症例を持っている,Peutz-Jeghers(以下P-Jと略)症候群と家族性大腸腺腫症について,前者に対しては癌化の問題を,後者に対しては皮膚病変の特徴を,検討した.

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 Recklinghausen病(以下R病と略す)は,皮膚の色素斑(café au lait spots)と多発性神経線維腫を主徴とし,更に中枢神経系腫瘍の発生や眼病変,骨変化などを伴う遺伝性疾患である.最近,R病に非神経原性悪性腫瘍の合併する頻度が,従来言われていたより高いとの報告がみられる.

 われわれは,52歳,女性のR病にVater乳頭部癌を合併し,かつ,十二指腸漿膜側にも平滑筋腫を伴うといった多彩な病態を呈した1例を経験したので報告する.

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 黒色表皮腫(acanthosis nigricans)は皮膚の角化増生,色素沈着,乳頭状増殖をtriasとし,その半数が悪性型で内臓の悪性腫瘍,特に胃癌との合併がよく知られている.本症は皮膚病変のほかに口唇,口腔粘膜,食道,腟などにも特異な増殖性変化を伴うことが知られている.われわれも口腔ならびに食道粘膜に著明な乳頭状増殖性変化を認めた1例を経験したので報告する.

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 黒色表皮腫(acanthosis nigricans;以下AN)は,皮膚の乳頭状増殖,色素沈着,角質増殖をtriasとした皮膚疾患であり,約半数に悪性腫瘍を合併し,その悪性腫瘍のうちほとんどは胃癌と言われている.われわれは胃癌を合併した悪性黒色表皮腫(malignant acanthosis nigricans;以下MAN)を4例経験したので報告する.

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 1916年,Stertzにより皮膚筋炎と胃癌の合併例が初めて報告されて以来,本症と悪性腫瘍の合併が注目されてきた.本邦では1955年,加瀬らによる36歳,男子の胃癌合併例を嚆矢とし,以来胃癌合併例の報告が多く,胃癌は本症に合併する悪性腫瘍の40~50%を占めている.最近,われわれは皮膚筋炎に胃癌を合併した症例を経験したのを機会に自験例を含めて本邦報告例および日本病理剖検輯報に記載されている胃癌合併例を選び出し検討を加えたので報告する.

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 紅皮症に合併した噴門部早期胃癌の1例を経験したので報告する.

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 内臓悪性腫瘍に伴う皮膚変化としては,黒色表皮腫,皮膚筋炎,細網組織球腫,Gardner症候群を始めとする多くのものが報告され知られている.Leser-Trelatの徴候もこれらの皮膚変化の1つであり,高率に悪性腫瘍を合併することより,この所見が皮膚にみられた場合には消化管を始めとして各種臓器の検索を行うように言われてきた.われわれはLeser-Trélatの徴候をきっかけとして胃癌が発見された1例を経験したので報告する.

Coffee Break

ストレスと胃潰瘍 五ノ井 哲朗
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 先日,ある週刊誌の編集部から電話があった.最近,子供の潰瘍が増加しているのではないかという問い合わせである.察するところ,ストレスなるものが子供の生活にまで広く侵襲して,その結果,子供の胃潰瘍が多発しているという趣旨の取材と思われた.

 マスコミ,ひいてはわれら大衆には好みのテーマがある.現代はストレスの時代であり,それを反映して胃潰瘍が増加しているというのもそのようなテーマの1つである.専門家の中にもそのような仮説を採る人があり,マスコミではこれが通説となり,一般では常識となっているという塩梅である.

SHAYの天秤 五ノ井 哲朗
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 周知のとおり,胃潰瘍の成因については,いまだに定説とされるものはない.数ある仮説の中で,最近,殊に多くの支持を受けているものは,ShayおよびSunによる説であろう.彼らはBockusの教科書の中で,消化性潰瘍のEtiologyの章を担当し,潰瘍の発生に関して,攻撃的に働く諸因子と防御的に働く諸因子とを想定して,前者が優勢に傾く場合に潰瘍が発生し,後者が優性に傾く場合には潰瘍は治癒に向かうという仮説を記述したが,その説明のために掲げられた天秤のシェーマは印象的で,また説得力のあるものであった.

 それかあらぬか,この天秤説はたちまち広い支持を受け,更に,攻撃因子や防御因子に新しい内容を加えるなどして,いまや最も有力な潰瘍成因説となるに至った.また,当然ながら,これは治療理論にまで応用され,潰瘍治療剤の薬効は,攻撃因子や防御因子とのかかわりによって論議され,その処方は抗攻撃因子剤と防御因子補強剤の組み合わせとして工夫され,更には個々の潰瘍症例について,攻撃因子型か,防御因子型かなどと論じられる状況となった.

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 膵癌の早期診断にアミラーゼをスクリーニングに用いることの有効性と共に,前回アミラーゼ高値が軽度である場合に対する考え方を述べました.しかしながら,膵癌は一筋縄で簡単につかまえることが難しいもので,アミラーゼ値が著明に上昇し,上腹部痛を伴って,急性膵炎と考えられる状態を経過して,アミラーゼ値も下がり,臨床症状も軽快した時期に,ERCP を行って発見された早期膵癌が3例も認められたことは,全く驚くべきことでした.

 従来急性膵炎と言われるものは,激烈な症状で始まるものから軽度なものまであり,また,原因から種々に分類されています.この原因の中に膵癌,殊に早期膵癌によって引き起こされるものがあることを加える必要があります.

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多田正大論文について

 御論文を興味深く読みました.私もこのような症例の経験はありませんし,病因についても特にアイディアはありません.ただ,切除標本の組織像について少しコメントを加えさせてもらいたいと思います.

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 Degos病(malignant atrophic papulosis,悪性萎縮性丘疹症)は主として皮膚および消化管に発生するまれな疾患であり,1948年にフランスの皮膚科医Degosらによって命名されたことよりその名がある.本症はその初発症状が特有な皮疹であるためか,従来より主として皮膚科の領域で報告,検討がなされてきた.しかし,本症は高頻度に消化管障害を来し穿孔により死亡する極めて予後不良な疾患である.今回,われわれはこのDegos病の典型的な1例を経験したので報告すると共に,本邦報告例を集計し検討した.

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 胃癌と胃肉腫の併存例は非常にまれである.とりわけ胃平滑筋芽細胞腫との共存は本邦報告例によれば,本症例を加えてもわずかに5例にすぎない.最近われわれは,胃角部から胃前庭部の小彎側の Borrmann 3型進行癌とこれより約 1cm 口側の胃体中部から下部の小彎側の平滑筋芽細胞腫を共存した症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

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 絨毛状腺腫は大腸によくみられる腫瘍であるが,そのほかの消化管ではまれである.今回,われわれは十二指腸に発生した絨毛状腺腫の1例を報告すると共に,併せて文献的考察を行ってみたい.

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 大腸の化生性ポリープは,結節状の小隆起としてしばしば認められ,特に高齢者において高頻度にみられる.その本態については不明な点が多いが,非腫瘍性の病変で癌化することはないとされ腺腫とは明確に区別されるべき病変と考えられている.しかるに,化生性ポリープが多発することは極めてまれで,内外にわずかの報告をみるにすぎない.最近われわれは,大腸に比較的大きい化生性ポリープが多発すると共に,ほかに粘膜内癌を伴う腺腫を合併した極めて稀有な症例を経験したので,ここに報告する.

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 Ischemic colitis なる疾患概念が,Marston および Marson らにより1966年に提起されて以来,現在では,そのほかの大腸炎症性疾患と異なる,1つの新しい clinical entity として広く認められるようになった.われわれも最近 IgA type の myeloma の臨床経過中に全身性の vascular amyloidosis による ischemic colitis を合併した1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

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 大腸におけるびまん性浸潤癌(linitis plastica型癌)はまれとされている.最近,われわれは大腸原発のびまん性浸潤癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.

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 消化管カルチノイドの中でも胆管カルチノイドは極めてまれであり,Davies,Pilz らの報告を含めて7例にすぎない.われわれはカルチノイド症候群を来した本邦2例目の胆管カルチノイドを経験したので報告する.

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 1907年 Oberndorfer は小腸腫瘍のうちで通常の癌腫とは異なる性状を有する腫瘤を経験し,これを carcinoid と名付けた.以後この腫瘍の起源に関して幾つかの学説が提唱されてきたが,近年では,これが原腸系内分泌腫瘍であるとの学説が提唱され,また,形態学的ならびに組織化学的研究がなされ,報告例も増加している.本腫瘍については主として消化管,気管支などに発生したものの報告が多いが,今回われわれは従来極めてまれとされている,十二指腸乳頭部のカルチノイドの切除症例を経験したので報告する.

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 近年,腹部超音波検査,CT,PTC,ERCPなどの普及により,早期胆管癌の報告例が増えてきている.今回われわれは,胆石様疝痛発作を主訴として来院し総胆管結石との診断のもとに開腹したが,切除標本では1.5×1.5×2.0cmの早期乳頭状腺癌が見出された1例を経験したので報告する.

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 「胃と腸」の編集委員会を代表して故増田久之先生の御霊前に謹んで弔辞を捧げ,哀悼の意を表したく存じます.

 増田先生は大正10年大分県に生を受け,御両親の温かい愛情と厳しい躾に育まれつつ,京都府立一中,旧制第二高等学校,東北大学医学部を卒業され,昭和22年春東北大学黒川内科に入局されました.先生の研究の足跡は胃液分泌動態と消化器疾患のX線診断学に尽きると思われます.昭和27年私が入局した当時,小さな研究室に籠り,各種条件下における胃液分泌動態と胃内温度,更に胃液電解質の研究に没頭されておられました.また,恩師黒川先生の御業績である胃癌のX線狙撃撮影の後継者として,消化管のX線診断学に情熱を燃やしておられました.昭和32年パリで開催された万国地理病理学会において“日本人の胃潰瘍”について黒川先生の代理として講演されましたが,その折,わが国の主な研究施設の御協力のもとに数千例の症例を集められ,その分析に幾夜を徹して努力されていたお姿が生々しく甦って参ります.昭和44年文部省在外研究員として西独エルランゲン大学のDemling教室に遊学されましたが,その間も数年前から着手されていた“X線像による消化管診断学”の完成に全精力を傾注され,昭和52年遂にこれを集大成されました.全5巻に及ぶ大著であり増田先生のライフワークとして万人の等しく認めるところでありましょう.

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欧文目次

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 シアトルのメイスンクリニック放射線科Freeny助教授と,ミルウォーキーのウィスコンシン医科大学放射線科Lawson教授の共著になる「Radiology of the Pancreas」がこのたびSpringer-Verlagより出版された.

 近年多くの画像診断が発達し,各種臓器の形態診断は今やほぼ完成されたものとなりつつあるなかで,膵疾患,特に膵腫瘍に関する画像診断には依然として多くの障害が残されている.特に膵癌の早期発見に関しては,すべての画像診断技術を駆使しても,その検出能にはかなり限界が存在することは確かである.本書はこのような厳しい状況下にある膵画像診断の限界に対するチャレンジとも言うべき,これら診断法をすべて網羅したtextbookである.

編集後記 岡部 治弥
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 Beobachten,beschreiben und bedenken!既に40年近い昔の戦時中,診断学の授業にて教わったこの言葉は,いまだに頭の中に深く刻み込まれている.

 このbeobachten(観察する)は,患者が診察室に入ってくる歩き方を診るところから始まるのだとも言われたのであるが,生きた人体を包み込んだ皮膚は,このbeobachtenの対象として,すこぶる大切なものの1つであろう.大切なものでありながら,しばしば内科医はないがしろにしているのではないかという気がする.

基本情報

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胃と腸
18巻5号 (1983年5月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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