胃と腸 15巻8号 (1980年8月)

今月の主題 大腸憩室

主題

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 大腸憩室はVoigtel(1804)によって初めて記載されたが,1900年以前にはほとんど知られていない稀な疾患であった1).それが1920年頃から増加の傾向を示し,近年に至っては60歳以上の1/3には存在すると推定される程の高頻度な疾患となり,‘fiber deficiency disease'と考えられるようになってきた.周知のように,欧米にはS状結腸憩室が多く,わが国では右側結腸憩室が多い.Painterらの結論するように,この疾患が欧米型の低残渣食の摂取が習慣化してから約40年後に発症してくるものならば,近い将来にわが国においても高頻度の疾患となる可能性がある1).したがってこの時期に,治療的に問題の多い欧米型大腸憩室をよく理解しておくことは意義深いことであろう.本稿では,従来わが国でしばしば取り上げられてきた右側結腸憩室はさて置いて,主として問題の多い左側結腸憩室の最近の動向に焦点を絞って述べることにしたい.

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 大腸憩室症(大腸憩室疾患)は最近わが国でもかなりの頻度で発見されており,憩室炎や出血などの合併症も必ずしも稀ではない.今回は1977年度に発足した厚生省特定疾患・特発性腸管障害調査研究班の大腸憩室疾患分科会(以下研究班),およびこれに引続き行った検討および調査結果を中心にして,本邦における本症の実態について述べたいと思う.

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 1973年以前のわが国の大腸憩室の統計1)~5)をみると発見率が5%をこえている報告はない.当時は比較的少ない大腸疾患と考えられていたし,臨床的にもそれほど重要視されない疾患であったといえよう.ところが,近年大腸疾患に対する関心が急速に高まったこと,大腸のX線検査法の手技上の根本的な改良と読影能力の向上などのおかげで,大腸憩室の発見率は,注腸X線検査総数の5~17.3%6)~8)と,むしろもっともありふれて見かける大腸疾患の1つとなった.また,これまで発表されている諸家の報告のうちで信頼できるものをみても,検査手技の向上だけが増加の原因でなく,確実に増加傾向が認められるようで,欧米における発生頻度5.7~25%9)~11)にせまろうとしている.

 一方,これらの大腸憩室疾患(diverticular disease)の50~78.5%が,なんらかの臨床症状を伴っている12)~15)とされており,臨床の場においてももっともっと重要視しなければならないと認識が改められつつある.

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 日本人における大腸憩室症ほど欧米のものとの間に差のある消化器疾患は数が少ないのではなかろうか1).したがって大腸憩室症の手術適応を考えるにあたって,欧米先駆者の意見は参考にはなるとしても,そのままわが国の憩室症にあてはめることができない点もあり,国内における新しい知識や経験2)~4)を集積して,現状をふまえた手術適応の方向づけがなされなければならないと考える.

 無症状の大腸憩室症の処置

 大腸X線検査により大腸に憩室が認められても,症状があまりなければ手術の適応とはならない2)3).患者には大腸憩室より起きてくるかもしれない合併症,とくに憩室炎,憩室からの出血などについて説明し,あらかじめ注意を与えておく.

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 結腸憩室症のうち右側結腸にみられるものは,加齢と共に増加し二次的に発生してくるものであると考えられている.ここでは,高齢,多発性全結腸型憩室症で,出血を合併した症例を提示する.

 症 例

 患 者:本○あ○,82歳(1975年),女.

 家族歴:特別のことはない.

 既往歴:高血圧(186/84),心電図上完全右脚ブロック.

 現病歴:1970年頃より左下腹部に疹痛が出没していた.1975年3月29日より,特別の誘因なく左下腹部痛を伴う下血が始まった.軽度発熱.嘔気・嘔吐なし.以前より便秘傾向があったが,下血が始まってからは出血のため失禁状態となって3月31日入院した.出血量は判明しないが,受診時は肛門から鮮血が常時小量ずつ排出されていた.

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 S状結腸憩室病の興味ある2例を報告する.1例は憩室に進行癌と早期癌が,1例は憩室とポリープとが,併存した例である.また,当教室での大腸憩室病の最近の傾向についても検討した.

 症 例

 〔症例1〕73歳,男.

 主 訴:便柱が細い,残糞感.

 既往歴:18年前に十二指腸潰瘍で,胃切除術を,13年前に胆囊結石で,胆囊切除術を受けた.

 現病歴:1年前より排便時に,ときに下血あり.近医の診断は内痔核で,坐薬を使用した.下血の回数は減少した.10ヵ月前より,少量の軟便があったと思うと,2,3日すると便秘,という状態を繰り返した.3カ月前からは便柱が細くなり,残糞感が増強した.

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 最近,本邦における大腸憩室病の発見頻度の増加が報告されているが1)2),これは最近の大腸疾患への興味の高まりを示すものと思われる.しかも本邦においては,欧米と異なり右側大腸憩室病が圧倒的に多く,欧米にみられるような重篤な合併症が少ないことが知られている.

 今回,われわれは86歳男性でS状結腸憩室病の穿孔例を経験したので報告する.

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 従来より右側結腸憩室炎は左側に比して重篤な合併症を併発することが少なく,保存的療法で寛解するといわれている.しかし最近右側結腸憩室炎でも左側結腸憩室炎と同様に多発性で,壁の硬化,腸管の短縮,変形を伴う仮性憩室の症例がしばしば経験されるようになり,われわれはこのような症例5例に切除手術を施行している.本稿では,4年間follow upしたが,再燃を繰り返した末に手術を施行した右側結腸憩室炎症例を報告する.

 症 例

 患 者:60歳 男性 会社員

 主 訴:回盲部痛,右下腹部腫瘤,発熱

 既往歴:10年前より高血圧にて降圧剤服用

 家族歴:父親が胃癌にて死亡

 現病歴:1976年12月右下腹部痛,発熱(37℃台)にて近医受診,急性虫垂炎の診断のもとに抗生物質の投与を受け症状は軽快した.この時白血球増多を認めた.翌1977年は,時々右下腹部に軽度圧痛があるも消化剤の内服にて軽減したために放置しておいた.1978年1月中旬~3月にかけ右下腹部痛,発熱を繰り返したため近医にて解熱剤,抗生物質の投与を受けた.3月下旬になり38℃台の発熱,右下腹部痛の増強,白血球増多(12,000)を認めたためクローン氏病の疑いにて消化器病センターを紹介され来院す.

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 川井(司会) 「消化管憩室」につきましては約5年前,「胃と腸」10巻6号で一度扱っております.その時は消化管全体の憩室だったのですが,今回の特集では,そのうちとくに大腸憩室に焦点を合わせてみました.

 これは憩室が最近,日本人の間でも,かなりふえている傾向が指摘されていることもあり,そのへん問題点を1つに絞っておきたいからです.主題の展開で問題になると思いますが,食生活の欧米化によるとよくいわれますが,果たしてそう結論していいか,多少問題はあると思います.いずれにしても,消化管憩室は,外国で非常に問題になっていますし,外国ですと,大腸憩室だけでなしに,もっと体質的というか,体格的というか,hiatus hernia横隔膜裂孔ヘルニアとそれに伴うreflux esophagitisが問題になったりするのも,やはり一連のものだろうと感じるわけです.しかし,こういうものがふえてきたというのが,見かけ上のふえなのか,老齢化の影響でそのままのデータとしてうのみにするわけにもいかないというような問題が含まれていると思います.大腸憩室を中心にして,頻度,病因論,合併症並びにその手術適応について,その道の第一線の方々にざっくばらんなご意見をおうかがいしたいと思います.

胃と腸ノート

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 今から10年前といえば大腸fiberscopeが開発されて間もない頃で,器械の改良や挿入手技の工夫などの試行錯誤のすえ,一応の内視鏡診断学が確立された頃であった.その頃すでにX線検査の分野では二重造影法によってfine net-work patternとしての微細診断がルーチンに行われていた.その後,内視鏡検査がX線検査に追いつき,粗大病変の診断学から二重造影法に匹敵する微細病変の診断レベルにまで達したのは,何といっても色素内視鏡検査法の方法論の確立にあったであろう.色素内視鏡検査法が胃の診断学に導人された歴史は古いが,これが大腸内視鏡検査にも応用され,臨床に広く普及して体系だった診断学の中に組み人れられるようになったのは,色素内視鏡研究会が発足した頃である(1974年).

 大腸の色素内視鏡検査法は,当初には赤燈色系の大腸粘膜に対照的な青色系の色素液を散布することによって,粘膜面の凹凸を強調する色彩的コントラスト効果を狙ったり,無名溝(innominated grooves)に色素液を溜めて大腸小区像を明らかにして二重造影法のfine net work patternに相当する効果を期待する目的であった(コントラスト法).このため色素液は大腸粘膜より吸収され難いindigocarmineや低濃度のmethylene blueが用いられた.最近では一種の生体染色として腸上皮より色素液を吸収させる目的で,0.2~1.0%の濃度のmethylene blueが用いられる傾向にある(染色法).大腸粘模の無名溝やpitの陥凹部には色素吸収能力はなく,平坦部に吸収力があるため,コントラスト法とは陰陽逆の効果が得られる.

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 はじめに

 大腸憩室疾患は,人種や地域によって発症頻度,発生部位,臨床症状の面で著しい差異がある.欧米では,筋層の異常を伴うS状結腸の憩室例が多く,病態の根底をなすものはこの筋層異常であるとの観点から,大腸憩室疾患diverticular diseaseの概念が確立されている.一方,本邦例では,従来より,欧米で極めて少ないとされている右側憩室が主であったが,近年,高年齢者を中心に,欧米型のS状結腸憩室も徐々に報告されはじめ,出血,穿孔などの合併症の問題も生じてきた.しかし,剖検例にょる詳細な頻度や発生部位の検討,さらに,本邦では欧米型の筋層異常は存在するのか,といった点に関しては,十分に解明されているとはいい難い.

 われわれは,主として60歳以上の高年齢者よりなる連続剖検1,000例の大腸検索により,高年齢者における大腸憩室疾患の特徴を検討した,この結果は,今後の本邦症例の病態を考察する上で参考になると考えられる.

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 大腸憩室疾患はこれまで多くの人達によっていろいろ分類されてきた1)~3).このうち,特にPerry & Morsonは憩室の存在部位と結腸の筋層異常(結腸紐が肥厚短縮し,内輪筋も肥厚した状態でMorsonはmuscle abnormaliteと表現した.)の有無によって大きく4つのtypeに分類している.すなわち第1のtypeはS状結腸に多発し筋層異常を伴うもの,第2のtypeはS状結腸を含んだ大腸全体または一部に多発性憩室を認めるが,筋層異常を伴わないもの,第3のtypeは右側結腸の単発性憩室,そして第4のtypeは右側結腸多発性憩室である.このうち,第1,第2のtypeは欧米特に白色人種によく見られ研究もよくなされてきた.第3のtypeである右側結腸単発性憩室は他の大腸憩室が固有筋層を欠如した仮性憩室であるのに反し,腸壁全層を有する先天性真性憩室の方が多いとの報告がこれまで多かった4)5).しかしHughesは200例の解剖例中,3.5%に盲腸単発性憩室を発見したがすべて仮性憩室であったと報告している6).今後,この点に関しさらに詳細な病理組織学的研究が必要であると考える.一方,Fig.1のような第4のtypeである右側結腸多発性憩室は欧米では非常に少なく,症例報告されているほどである1).従来,右側結腸多発性憩室では筋層異常を伴うことは少なく,左側結腸多発性憩室とは成因的に異なるのではないかとされてきたが7),理論的根拠に乏しい.その発生頻度が非常に高いことより8)右側結腸多発性憩室の成因を究明することは,わが国に課せられた研究課題であるといえよう.そこで右側結腸多発性憩室の成因を明らかにする目的で,その切除標本につき形態学的,病理組織学的検討を試みてみた.

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 胃癌の肉眼所見は,その病理組織構築を反映し,X線,内視鏡検査はこの肉眼所見を忠実に描出してその病理組織構築を推定することにある.

 われわれは潰瘍瘢痕の周辺に微量の癌細胞を認めるのみで,しかも非癌被蓋上皮に覆われていたため,肉眼所見の変化が軽微であった症例を経験した.しかし,X線にてその微細変化を忠実に描出したために,生検を施行し癌と診断し得た.またそのX線,内視鏡所見の裏付けを立体構築にて行ったので呈示する.

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 ⅩⅠ International Congress of Gastroenterology(会長Prof. L. Demling)は1980年6月8日(日)~6月13日(金)に,続いてⅣ European Congress of Gastrointestinal Endoscopy(会長Prof. M. Classen)は6月13日~14日,西ドイツのHamburgで開催された.

 出発前,編集室よりこれらの学会の印象記を書くようにという電話があって,できるだけ会場を回るように努めたものの,なにしろ12会場もあって,ごく一部を聴いたにすぎない.ごく表面的な印象記になることは,ペンを握る前から覚悟している.またあたえられた紙数では,到底内容の細かい点までふれる余裕もない.

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欧文目次

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 何日間かかかって,時間をひろいながら,本書を読了したが,大変教わることの多い,また興味津々たる内容で,各所で深い感銘をうけた.長年にわたり消化管の診断学にたずさわって来た,また今後もたずさわるものとして,同じく今この道を歩む人,今から歩もうとしている若い医師にとって,本書は必読の書であると断言してはばからない.

 本書には2つの特徴があり,今までに類書を見ないと思う.本邦において,早期胃癌を中心として,病理学者との緊密な共同研究のもとに,胃のX線および内視鏡診断学の研究が極めて熱心に行われ,早期胃癌をはじめとして胃の診断学が世界をリードする素晴らしい進歩を遂げた時代は,すでにもうそう新しい事ではない.その当時から次々に現在に残るすぐれた病理学書が出版されたが,これらはすべて胃癌ないし胃疾患を対象としたものであり,本著者のお一人中村教授も胃癌に関する名著をあらわしておられる.しかしこれらはすべて胃疾患の,それも切除材料を検索の材料としたものである.それらに対し,本書の内容は,わずかに小腸を除き,現在内視鏡直視下にて組織細片の採取可能な消化管の広汎な領域の生検材料を主体とした病理組織学的診断学の研究の成果を,広汎かつすぐれた材料をもとにして詳述したものである.その内容については,著者お二人の恩師である太田邦夫東京都老人総合研究所長,先輩である菅野晴夫癌研所長の序に精しく紹介されている.特に太田先生は本書は本邦消化器腫瘍学発展の一時期を劃するものであり,将来この領域の発展の鍵となるべきものが含まれていると激賞している.

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Adenomatous and Carcinomatous Changes within Hyperplastic Colonic Epithelium: H. S. Cooper, A. S. Patchefsky, G. Marks(Dis Colon & Rectum 22: 152~156, 1979)

 過形成性ポリープは良性で,特徴的な組織学的性格をもつ非腫瘍性増殖を示す.腺管腺腫および絨毛状腺腫と異なり,前癌性病変ではない.著者らは,過形成性上皮が,局部的な腺腫性変化と腺癌を示した多数の過形成性大腸ポリープのまれなる1例を経験した.

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Coexisting Malignant Lymphoma and Adenocarcinoma of the Stomach: J. I. Lin, C. H. Tseng, S. Chow, et al(Southern Medical Journal 72: 619~622, 1979)

 2つの組織学的に異なる腫瘍が,特に胃の中で起こるのはめずらしい.著者らは,悪性リンパ腫と腺癌の胃での共存例を報告している.

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Staging of Cancer of the Colon and Cancer of the Rectum: Wood DA, Robbins GF. Zippin C, et al(Cancer 43: 961~968, 1979)

 各種の癌を一定の病期分類に従って分類する必要があることはよく知られている.国際対癌連合(UICC)は1950年から,T(原発巣の浸潤程度),N(リンパ節転移),M(遠隔転移)分類を提唱している.AJC(American Joint Committee)の改訂案が1977年にUICCの正式な病期分類として承認された.この分類ではpostsurgicalな所見にょるpTNMのほかに,臨床所見に基づくcTNM,術中所見によるsTNMなどが決められている.この分類を,アメリカ合衆国の10施設で1959~67年の期間に手術された1,826名に適用して,その予後との関係などを検討した.結腸癌924名(男性47%),直腸癌902名(男性59%)で,平均年齢は66歳,63歳である.それぞれ92%,90%が切除術を受けており,97%,96%で消息が判明している.

編集後記 武内 俊彦
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 本誌10巻6号が消化管憩室を特集してからすでに5年の歳月が過ぎた.当時は十二指腸憩室,大腸憩室,憩室様病変,Meckel憩室など消化管憩室という立場からとりあげられたが,本号では最近問題になっている大腸憩室に的を絞ることにした.

 大腸憩室については従来より食事,社会環境,加齢などと深く関連しているといわれている.そこで,わが国の大腸憩室の実態は最近変化してきているのか,わが国に多い右側結腸憩室と欧米に多いS状結腸憩室の本質的な差異は何であるのか,成因,病態生理はどこまで明らかにされているのかなどを考え,その方面で活躍されておられる方々に執筆していただき,座談会でも討論していただいた.合併症については手術適応を含めてどう対処すべきかが述べられ,症例としてもすべて興味あるものが提示された.病態生理に関しても詳細な病理組織学的検索,内視鏡を用いた腸管内圧の測定などの機能面からの観察によって右側結腸憩室と左側結腸憩室との間にはいくつかの点で類似性のあることが示された.これらの知見を基礎に更に大腸憩室の問題点がわが国独自の検討を通じて解明されていくことが期待されるが,今回の特集はその端緒になりえたものと考えている.

基本情報

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胃と腸
15巻8号 (1980年8月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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