胃と腸 15巻12号 (1980年12月)

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 患者:H. H. ,50歳,男.

 現病歴:約3年前より心窩部の重苦しい感じを覚えることが時々あったが放置していた.1979年9月,初めて近医を受診し,慢性胃炎と診断され,治療を受けていた.しかし,体重の減少(6カ月で約10kgの減少)が気になり,同年11月当科を訪れた.外来時の胃X線および内視鏡検査で胃体部後壁にⅡcを思わす所見を認め,生検によりsignet ring cell carcinomaの組織像を得た.更に精査のため入院した.

 人院時現症:体格栄養中等度,貧血,黄疸なく,その他理学的に特に異常所見はみられなかった.

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 筆者らはわずか5カ月間にⅡc→局所性巨大皺襞→linitis plastica癌へと急激な変化を来した1例を経験したので,その初期のX線,内視鏡所見をretrospectiveに再検討し,若干の考察を加える.

 症 例

 患 者:51歳,男,公務員.

 主 訴:腹部膨満感およびるいそう.

 家族歴,既往歴:特記することはない.

 現病歴とその診断経過:1974年7月ごろより食後の腹部膨満感と食思不振を認め,約2kgの体重減少を認めたため,同年10月25日新野外科胃腸科医院を訪れ,X線,内視鏡検査を受けた.このときの検査では,角上部前壁に陥凹性病変を見るも,癌の確認を得られず,経過を見た.同年12月6日に胃X線検査にて同様な所見を見たが放置され,翌1975年2月15日のX線検査にてBorrmann 4型の確診を得て手術のため入院した.3月6日に胃全剔が施行された.入院時の検査成績には異常を認めなかった.

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 臨床上linitis plastica胃癌における早期診断は極めて困難で,進展が早く,予後が極めて悪いことはしばしば経験するところである.私ども臨床医は日常の診療において,このlinitis plastica癌を見落とさないようにと日夜気にかけているつもりである.にもかかわらず,数年にわたる胃X線検査で突然leather bottleのX線像が出現し,愕然とすることがある.最近筆者らはX線,内視鏡検査で悪性とする異常所見を把握できず,1年後にlinitis plasticaの状態で手術された症例を経験したので,若干の検討を加え,報告する.

 症 例

 患 者:54歳男,警察官.

 主 訴:食欲不振.

 家族歴,既往歴:特記すべきことはない.

 現病歴および診断経過:1977年1月の胃集団検診にて異常を指摘され,1977年2月1日金沢市内の病院にて胃X線および内視鏡検査を施行するも,異常を指摘できなかった.1978年1月初旬ごろより食欲不振を認めるようになり,新野外科病院を受診,胃X線検査にてBorrmann 4型癌が疑われ,胃生検にて癌の確診を得たため,同年3月6日胃全剔術が施行された.入院時の検査成績には異常を認めなかった.

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 患 者:K. T. ,23歳,女.

 1975年2月,食後の上腹部鈍痛,胃のもたれ感,背痛を訴え外来を訪れ,胃X線検査,胆のうX線検査,血液化学検査などを行ったが,ほとんど異常なしと判定された.

 その後,1年1カ月の間にときどき上腹部不快感,背部痛などを訴え2度ほど外来を受診しているが,理学的所見に異常を認めていない.

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 患者:K. H. ,58歳,男.

 16年前より毎年1回,某職域の成人病検診の一環として遠隔テレビによる胃検診を受けていた.

 1979年2月,例年のようにスクリーニングとしてのX線テレビ検査を受けたところ,linitis plastica疑と診断され,内視鏡および生検施行,原発巣と思われる所より印環細胞癌と診断され,ⅡcまたはⅡc似進行癌として手術を施行した.

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 胃癌に対する診断,治療の著しい進歩にもかかわらず,Borrmann 4型あるいはスキルス型胃癌の予後は極めて悪い.ここに逆追跡しえたBorrmann 4型胃癌の1症例を呈示し,その早期診断について考察を加えてみたい.

 症 例

 患 者:69歳,女,無職.

 主 訴:左側腹痛,胸やけ,体重減少.

 家族歴,既往歴:特記すべきことなし.

 現病歴:1971年5月初めより食後の腹部不快感が出現し,約1カ月後当センターを受診,胃X線,胃内視鏡検査の結果,慢性胃炎の診断で薬物治療を受けて症状は軽快した.1972年5月同様症状が再現し,6月には上記主訴の出現をみた.同年7月,当センターを再受診して胃X線胃内視鏡検査の結果,Borrmann 4型胃癌の診断で8月14日入院した.

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 われわれは20年来,胃癌早期発見を主たる目的とする登録制定期成人病検診を続けているが,本例はその間ただ一度遭遇せるスキルスである.ちなみに,現在総登録数は800名.発見胃癌は,本例を除き,進行癌4例(いずれも初回),pm癌4例,早期癌22例である.

 症 例

 患 者:61歳,男,会計士.

 既往症:30歳に腸チフス.

 嗜好品:1目たばこ25本,日本酒2合.

 検診登録の動機:いとこが初回検査で進行胃癌を発見され再発死せるため,定期検診の必要性を認めた.

 初診時所見:1963年3月,50歳,体重43kg(標準60.9kg).胃X線検査所見は軽度胃下垂.その他特記すべきことなし.その後,極めて几帳面に,半年に1回ずつ受診を反復していた.

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 従来よりBorrmann 4型胃癌(特にscirrhus)を早期診断することは困難であったが,われわれは手術1年前にX線,内視鏡検査を施行したが確診を得られなかった,粗大雛襲を認める症例を経験したので報告する.

 症 例

 患 者:54歳,男,公務員.

 主 訴:空腹時上腹部痛.

 家族歴:長兄は胃癌にて死亡(45歳),次兄も胃癌にて死亡(50歳).

 既往歴:左肺結核にて胸廓成形術(28歳時),高血圧症治療中.

 現病歴:1972年胃集検にて要精検,千葉大学第1内科にてX線,内視鏡,生検施行したが異常なし.

 1973年胃集検にて要精検,6月当センターにてX線にてポリープ疑および胃体部の粗大殿漿を指摘,胃カメラ施行ではポリープおよび粗大雛襲にて6カ月後経過検査を指示する.

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 巨大皺襞様所見および胃体下部前壁の発赤びらんが目立ち,原発巣と考えられる胃体中部後壁の潰瘍性病変が,初回内視鏡検査時には病変としてチェックできなかったBorrmann 4型胃癌症例を提示する.

 症 例

 患 者:64歳,男,会社役員.

 主 訴:空腹時心窩部痛.

 既往歴:15歳時虫垂炎手術.

 入院時現症および検査成績:身長156.5cm,体重53.5kg,体重減少は認められなかった.体格中等度,栄養良,貧血,黄疸なく,胸部理学的所見に異常なく,腹部は回盲部に手術瘢痕を認め,心窩部に軽度圧痛を認めたが腫瘤は触知しなかった.検査所見では特に異常なく,便潜血反応(±),胃液検査は無酸であった.

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 患 者:37歳,女.

 現病歴:1979年8月10日,初診.午前3時ごろから,胸部中央から左季肋部にかけての持続性とう痛.悪心なし.この疹痛は1日続いたのみで,その後は無症状.便通は1日1回.左下腹部に軽い圧痛(+).

 外来時検査所見:Bl. Pr. ;122/74,BSR;3mm/1hr,8mm/2hr,WBC;11,400,GOT;19,GPT;8,LDH;230,CRP(-),ECG;normal.

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 竹本(司会) 今日の座談会は珍しく全員編集委員です.この座談会への読者の方の期待も大きいと思います.どうかよろしくお願いいたします.

 定義の討論もあとで出ますが,Iinitis plasticaは早期診断がたいへん難しいという大きな問題をかかえています.その早期発見をどうすればよいのか,それは胃癌診断に従事しているものにとって大きな悲願であります.そのために,retrospectiveな追求はたいへん大きな意味をもっています.この座談会は,2回にわたる特集号に寄せられた84症例を振り返って見るという役割を含んで開かれていますので,まず最初に,たくさんの症例をご覧になられた先生から感想をお聞きしたいと思います.西沢先生,お願いします.

研究会だより

福岡消化器研究会 大岩 俊夫
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 福岡消化器研究会は1968年6月発足いたしました.その当時,九州大学の内部に,早期胃癌研究会や若手研究会などがありましたので,それらとの重複をさける意味で発足当時は大学を除いた病院,開業医などの消化器専門医を対象とした研究会で,当時福岡市医師会病院の副院長をされていた中村裕一先生が世話役となって本会の発足と運営に大変努力されました.

 当時は,早期胃癌の診断方法が漸く普及し始めた頃であり,会員めいめいが大いに勉強し,よい写真を撮ろうと心がけ,大学に負けないようなよい診断をしようと努力いたしました.その中心にあって消化器研究会はよい啓発の場であり,よい診断者,研究者を育てる中核となったように思います.会が終わったあとも,近くの喫茶店,飲屋に場を移し出題された症例についてけなされたと言ってはくやしがり,延々と議論をたたかわせ,お互いの明日からの診療に対する勇気を蓄えて帰路に着いた,といったことを思い出します.

学会印象記

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 オーストラリアのメルボルンにおいて本年9月7日から11日まで開催された第8回国際大学結腸直腸外科学会についての学会印象記を書くよう現地で白壁教授より御依頼を受けた.最初から準備して出かけたわけではないので多少聞き落とした点もあるかと思うが,思いつくまま書いてみる.

 演題数は1人1題と制限されていたため,120題程度であり,地元オーストラリアが一番多く26題,日本が24題,ヨーロッパ各国合計26題,中南米16題,アメリカ15題,その他で,Dr. Baconが病気で欠席のためかアメリカからの参加がやや少なかったようだ.

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 近年,X線・内視鏡検査の発達・普及に伴って,通常の早期胃癌の診断は一般化し,上部胃癌についても多くの考察が加えられている.しかし穹窿部癌に関しての報告は極めて少ない.

 われわれは最近穹窿部に発生した隆起性の腺癌で,初め早期癌と考えたが速やかに発育し進行癌であった1例を経験したので,その経過を報告するとともに,この部の癌について考察を加える.

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 わが国におけるアニサキス症については,石倉ら1),岩野ら2)の調査によると1972年主でに496例が報告され,その後,徐ら3)によると1978年7月現在770例以上が報告されている.一方,並木ら4)は生きたアニサキス様幼虫を内視鏡下に発見し,これら早期に発見される例においては好酸球性肉芽腫は認められず,また生の魚を食べて数時間後に“食あたり”様の急性胃症状を呈してくることから,このような例に対し急性胃アニサキス症と称することを提案した.

 最近著者らも,いずれも生のサバを食べて急性胃症状を呈した胃アニサキズ症と思われる症例を経験し,その血清学的診断について検討したので報告する.

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 X線所見,内視鏡所見共に盲腸癌との鑑別が困難であった興味ある回腸末端部脂肪腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

 症 例

 患 者:花○利○,71歳,男.

 主 訴:上腹部痛,右季肋部腫瘤.

 既往歴,家族歴:特記すべきことなし.

 現病歴:4年ぐらい前から時々上腹部痛があり,そのつど開業医を受診し胃透視を受けたが源因は不明であった.1978年6月ごろより右季肋部に腫瘤を認め,1978年10月25日から再度上腹部痛を来した.とう痛がとれないため3日後に入院した.

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 消化管平滑筋肉腫のうちでも直腸病巣は臨床上極めてまれで,本邦では岩井ら1)(1955年)の第1報以来,1977年までに45症例の報告2)がみられる.著者は直腸平滑筋肉腫の1例を報告するとともに直腸本症の特異性について診断面を中心にして考察を加えてみたい.

 症 例

 患 者:56歳,男,鉄工員.

 主訴:便通異常.

 家族歴:特記すべきことなし.

 既往歴:36歳時虫垂切除.

 現病歴:約半年前より下腹部の軽度膨満感と尿意頻回などの症状を自覚していた.排便は1日1行であったが来院10日前より下痢と便秘を繰り返すため来院.肛門出血やとう痛および便柱狭小などは,全く自覚していなかった.

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 膵頭部に関する血管が膵頭自体および膵頭周辺臓器に対して,極めてユニークに分布することにより,膵頭部領域癌に対する血管造影は質的診断のみならず病巣の拡がり,切除可能性,術式の選択などを決定する多くの情報を提供する.それで今回それらの情報を整理し,各疾患別の特異的血管像について検討を加えたので報告する.

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 Linitis plastica型の癌は,比較的若い年代に多く,予後も著しく悪い1)10).その多くは胃底腺粘膜領域に小さな原発巣を持つ未分化型癌である3)~5)10).早期胃癌の中に,それを放置しておけばlinitis plastica型に発育する癌が存在することは明らかであるがlinitis plastica型になる癌の初期像の形態は不明である.

 癌発生から,あるいは粘膜内癌が粘膜下組織へ浸潤してから,leather bottle状態あるいは胃全体の収縮を示すlinitis plastica型として発見されるまでは,相当長い期間を要していると考えられている2)~4).一方,最近X線学的なlinitis plastica型癌の逆追跡の研究でこの間の形態的変化が明らかにされつつある11)~13)

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欧文目次

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 恒例の「胃と腸」購読の諸先生全国大会が10月21日夜6時より鹿児島市の県医師会館で開かれました.今回は風間病院,今村病院,三船病院から3例が供覧され,地元の諸先生をはじめ全国からの多数の先生方により活発な討論が行われました.(写真は会場の鹿児島県医師会館と討論風景)

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 胆道疾患の一病態として胆石症を扱った著書は最近数多くみられるが,胆石症そのものを取り上げたものは少ない.周知のように,近年わが国における胆石症も胆石の種類,頻度,合併症などその実態は食生活,高齢化など社会環境の変遷に伴って大きく変化してきている.一方,経皮経肝胆道造影,内視鏡的逆行性胆道膵管造影をはじめとする直接胆道造影,胆道内視鏡,超音波診断などの検査法の進歩,コレステロール系胆石に対する溶解剤の開発によって胆石の診断,治療面における進歩はここ数年めざましいものがある.こうした意味から現時点における胆石症診療の実際について解説した本書の刊行は時宜をえたものといえる.

 著者らはすべて胆石症の診療,研究の第一線で活躍されておられる方々である.数多くの経験例をもとにしてわかりやすく,要領よく,実際に即して書かれており,各項目別に今後の展望についてもふれられている.本書は大きく5つの章から成っているが,その特色として「初診から治療まで」という副題からも推測されるように,まず診断の進め方,重症度の判定,各検査法の利点と欠点,その診断上の位置づけなどすぐに診療面で役に立つ事項からはじまっている.各検査法の項では実施上の注意点とともに多数の写真,表が提示されており大変解りやすい.あえて希望を述べさせてもらえば,最近行われつつあるCTによる診断も取り上げられればと考えるが,胆石診断における意義,経済的な問題を考慮すれば,そのことで本書の価値が減ずるものでは決してない.次に黄疸,胆摘後症候群,再発,遺残結石,発癌,肝内胆石,胆道ジスキネジー,膵炎など胆石症の特殊病態とその取り扱いが述べられており,経口的胆石溶解剤をふくむ内科的治療,内視鏡的乳頭括約筋切開術,手術が詳述されている.胆石症の病態に応じた手術術式の解説は胆石患者の診療上,内科医にとっても大変参考になり,教えられるところが多い,第4章では診療に必要な基礎的事項として胆石の種類,成因のみでなく,胆道の病態生理についても胆石症との関連から要領よく記載されている.

編集後記 中村 恭一
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 あるパターンを呈する胃癌に対して,linitis plastica型癌,スキルス,Borrmann 4型癌,びまん性癌などと呼ばれていて,用語の混乱がある.しかし,それらの名称をもって規定された胃癌の形態には多少のずれはあっても,臨床的に共通することは患者の経過追跡中のある時点で急にどぎつい所見が出現することであり,病理組織学的には原発巣が胃体部に存在している場合が多いといった傾向がみられる.

 このような臨床・病理学的な特徴を示す癌の早期発見は,早期胃癌診断学が進歩した現今でも,それが可能であるのか不可能なのかの証明のないまま残されている.本号はこのような癌の症例特集であって,どの症例報告も逆追跡の検討に耐えうるきれいな写真が呈示されている.これらの症例を通覧することによって,いわゆるlinitis plastica型癌の早期発見のための糸口が見出されるようにも思える.座談会では,先にも述べた用語の混乱を避けるため,新たなる名称を用いた用語の統一とその定義づけの必要性が強調されている.

基本情報

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胃と腸
15巻12号 (1980年12月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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