--------------------
書評「病理学図譜」
飯島 宗一
1
1広島大学
pp.326
発行日 1977年3月25日
Published Date 1977/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1403112539
- フリーアクセス
- 文献概要
- 1ページ目
この図譜は,ハイデルベルグ大学病理学教授W. Doerrが中心となって編集した「Atlas der pathologischen Anatomie(Georg Thieme社刊,スツツガルト,1975)」の日本版で,邦訳は影山圭三教授他の慶応大学病理学教室の諸君によって行なわれた.322ページ,874のカラー図版を収める総アート紙の大冊で,この種の図譜としては内容体裁とも,もっとも充実したもののひとつである.
病理学図譜の目的と効用をどのように考えるかは意外にむずかしい問題であるが,原著者は,「図譜というものはその利用者に助言を与えようとするものである.利用者が本質的なものと非本質的なものを区別することを助けようとするものである.図譜は利用者に観察することを経て熟視にまで達せしめるために“見ること”を教えようとしている」とのべている.これは形態学の根本にかかわるひとつの見識であるといえよう.この見識を図の選択と配列を通して現実の図譜に結晶せしめることは至難の業であるが,この図譜について敬服すべき点はとにもかくにもこの見識を全巻につらぬく努力を惜しんでいないことである.そしてその努力は,たんに編集の過程のみにかかわる事柄ではなくて,日常の病理解剖,病理組織学の不断の実践の蓄積にまでさかのぼるものでなくてはならない.われわれはそこにDoerr教授らの苦心を見るばかりでなく,長いヨーロッパの人体病理学の伝統の力をも見るのである.そして読者は,1枚のさりげない図に即しても,その背景にふかく秘められているものをまさに熟視することを要するのであろう.
Copyright © 1977, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.