胃と腸 12巻2号 (1977年2月)

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 わが国における大腸のX線診断は,胃のX線診断の目覚しい進歩の蔭に長い間おきざりにされ,検査法もほとんど改良をみなかった.しかし,狩谷・西沢らの研究が報告されたのを機に,この数年の間に急速に進歩し診断能も著しく向上してきた.また,わが国で開発されたジャイロに関しても丸山(癌研)らによって検査理論もでき,優れた成績が報告されている.

 このような短期間におけるレベルの向上も,すでに胃において微細病変描写の検査理論ができ上がっているわが国においては,当然のことといえよう.しかし,この胃における検査理論がそのまま大腸にあてはまるものではなかった.腸の解剖学的,生理学的な特異性,病変の特徴など胃との相違点に対して,どのように対処していくかが大きな課題であったが,これらもほぼ解決されたとみてよいであろう.

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 近年,大腸X線診断は胃X線診断の確立とともに著しい発展をみせている.しかし,今までわれわれが胃X線診断で得た検査法を駆使しても,従来のX線透視撮影装置を用いての検査では直腸,上行結腸および盲腸部と同様にS状結腸は盲点の多い部位とされていた.

 1969年黒川および西山により開発されたユニバーサルX線透視撮影装置,ジャイロスコープ(東芝Model UG)を大腸X線検査に用いることにより,造影剤を容易に大腸各部に移動させることができ,かつ多方向撮影が可能となった.この結果,今まで検査が不十分となりがちであったS状結腸部も他の大腸の部位と同様に,ほぼ十分にその粘膜の状態を描出できるようになった.ここでは,まず,われわれが行なっているジャイロスコープを用いたroutine大腸X線検査法と,この検査法におけるS状結腸癌のX線診断およびその問題点について述べる.

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 S状結腸癌にかぎらず,一般に大腸癌のX線検査および診断の問題は,①二重造影法による検査および診断が中心で,胃X線検査では大きな役割をになう圧迫法がほとんど不可能であること,にもかかわらず,②大腸癌,ことに早期大腸癌は隆起性病変が主体を占めることが指摘され,それにS状結腸の特殊性として,③屈曲が著しく,重なりあい,また粘液や残渣の多い部分であることを加えた3点に,S状結腸癌のX線検査および診断の問題が集約されるといえる.この現状にたって,S状結腸癌の精密X線検査法および性状診断について,われわれの経験を報告したい.

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 S状結腸の癌が特に問題とされる理由としては,全大腸癌中に占めるこの部の癌の頻度が直腸に次いで高いことがまず挙げられよう.

 さらに診断という観点からは,この部はX線検査では腸管相互の重なり,屈曲等のため小さい病変,特に隆起性のものはしばしば見落とされる危険があって,比較的診断が難しいということがある.

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 大腸癌発生部位をみると直腸が過半を占めるが,次いでS状結腸が多く,上行結腸,回盲部とこれに次ぐ.他方,予後は一般に大腸の下方に行くに従って,特に直腸下部になると不良といわれているが,S状結腸癌は大腸癌の中でも比較的良好である.大腸の上方ほど比較的大きくなるまで“silent”であることから発見が遅れ,したがって治療開始時には進行癌が多く,これに対しS状結腸は内腔が比較的狭く,便通異常や狭窄が来しやすく,また血便が認められやすいなどで発見されやすい.また腸間膜が長くて移動性に富み,その手術的治療も直腸癌と比べて比較的容易で初心外科医の手術対象とされる.しかしあまり移動性に富むために,離れた臓器(膀胱,子宮など)に接触性転移を起こし予後を悪くする不利な面もないではない.通常,S状結腸癌は結腸癌あるいは左側結腸癌の中に包括されて論じられてきたが1),ここにS状結腸癌(Rsの癌は直腸癌として除外)を独立させてわれわれの症例を検討してその治療成績と外科治療に関する諸問題を述べ責を果たしたいと思う.

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 世界に先がけて1962年に日本で早期胃癌肉眼分類が提唱されて14年が経過したが,その間,この肉眼分類のimageの識者への滲透および彼らの努力により数多くの早期胃癌が発見され,適切なる手術により良好な成績があげられている.この間におけるこの「分類」が果たした役割は非常に大きく,この「分類」なくしては早期胃癌が現在のように多数に,また簡単に診断され得なかったであろう.たとえばⅡcという一語が持つimageの強さ,大きさ,また便利さはKonjetznyの表現などでは決して置換され得ないし,いわんや単純な潰瘍型等という表現では代用され得ない.こ払らの事実はこの「分類」が数々の問題を持つとはいえ,いかに優れたものであるかを実証しているといえよう.

 元来形態学というものは主観が非常に大きなweightを持ち,まして形態に基づく分類となると益々この傾向は大きくなる.したがっていかに詳釈をつけても形態的分類には常に主観的な相違が出てくるが,かといって早期胃癌分類の主観的なバラツキを減少させる努力を怠るべきではない.その意味で西独での本分類に対する批判を契機にして本分類の再検討がなされようとされていることは大変有意義であり,それに関する本誌特集号(11巻1号)を興味深く読ませていただいた.

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症 例

 患 者:小○山○由○ 18歳 女子学生

 家族歴・既往歴:特記すべきことなし

 現病歴:術前3カ月より食事と関係なく下腹部疝痛が時々出現し,また運動時にはいつも腹部不快感が認められた.悪心,嘔吐,裏急後重,排便時痛,発熱などはなく,尿路,性器の炎症症状も出現しなかった.月経は規則的で,いつもと変わらず,また排便回数は1日1行,硬便で,粘液,血液の混入は認めなかった.

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 胃切除後における胃腸吻合部の病変としては,吻合部癌,吻合部潰瘍,吻合部炎,異物肉芽腫などがあるが,比較的まれなものとして,Nikolai2)やLittler5)が報告したポリープ様隆起性病変がある.われわれは12年前に胃切除をうけ最近吐血と下血を頻回にきたし,胃X線検査や内視鏡検査で吻合部ポリポージスと診断され手術を行ない,胃腸吻合部に多数のポリープ様病変を認めた興味ある症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

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 家族性大腸ポリポージスは大腸にびまん性に無数の腺腫が発生し,しかもそれらが高率に癌化する遺伝性疾患として知られている.しかし最近,胃病変1)~3),潜在性顎骨腫様病変4)および十二指腸病変3)5)6)が本症に極めて高率に合併することが報告され,本症を大腸の限局性疾患としてきた従来の考え方は改められつつある.われわれは胃・十二指腸のみならず,文献上極めて報告の少ない空腸にまで多発性ポリープが発見された本症2例を報告し,若干の文献的考察を加える.

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 偽膜性小腸結腸炎は小腸および大膜粘膜の急性表層性壊死と偽膜形成を主徴とし,重症下痢,脱水,時にはショックを伴い死にいたる炎症性疾患であり,その病態についてはまだ十分には明らかにされていない.本症は1867年Billroth15)によって最初に記載されて以来,今日まで海外文献には多数の報告がみられるが本邦では極めて少なく特にその治験例についての詳細な報告はまだみられない.

 われわれは最近抗生物質投与によると思われる偽膜性大腸炎の1治験例を経験したので報告し若干の考察を加えたい.

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 短期間で胃X線・内視鏡所見に著明な変化を呈し,臨床的には胃悪性リンパ腫を疑い,切除胃の組織学的検索では単なる胃潰瘍瘢痕であった興味ある症例を経験したので報告する.

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 胃に巨大皺襞を認める疾患には良性のMénétrier's diseaseあるいはGiant hypertrophic gastritisといわれる巨大皺襞症と胃癌の浸潤による二次的な巨大皺襞を呈する疾患とがあるが,巨大皺襞症と胃癌とが合併した症例はきわめて稀である.

 著者らは最近,巨大皺襞症(Ménétrier病)と進行胃癌の合併例を経験したので報告する.

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 胃と腸の「1冊の本」の1頁は毎回楽しく書かせてもらっている.これまで多少ふるくなった本も紹介したが,原則的に入手が容易なものをとりあげてきた.

 ところで,最近東京女子医大から山口大学に転任し,肝臓の勉強に追いまくられるはめになった.

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 Carcinoembryonic antigen(以下CEAと略)は癌胎児性抗原で1965年Gold and Freedman1)によって結腸癌組織から発見された抗原であり,この抗原は胎生3~6カ月の結腸組織中にも存在することが明らかとなりCEAと命名2)された.はじめ結腸癌に特異な抗原として注目されたが,その後の研究により内胚葉性癌にかなり高率に検出され,また外胚葉性癌にも認められることから結腸癌特異性は否定され癌に随伴する抗原と考えられるようになった.Thomson3)らによりradioimmunoassay(RIA)が開発され,その後Hansen4)らのZ-gel法,Egan5)らの二抗体法などのRIAの開発進歩により癌以外の疾患の血中CEAの検出6)がなされ,癌特異性は否定された.

 しかしながら癌特異性は否定されたがCEAの臨床的意義は癌の補助診断,癌に対する治療効果の検討,癌の転移および再発の予知,癌患者の長期経過観察の指標などの点で有用性が認められてきている.

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欧文目次

書評「標準外科学」 和田 達雄
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 今日のように医学が専門分化してくると,学生や研修医に外科学を教育する場合,その範囲をどの程度にとどめたらよいか悩むことが多い.すべての外科の分野に通暁する教育者というものは,もはや存在しえないから,この範囲の決め方は各分野を担当する教官の合議にゆだねられる.専門家は日常,自分の分野の症例しか扱っていないから,その疾患がきわめて重要でしかも頻度の高いものと錯覚しやすい.したがって,この合議というものが曲者で,各分野の教育に平等な時間と空間を与えるということで意見の一致をみることが多い.

 外科学の教科書についてもまったく同様で,分担執筆にならざるを得ないが,各執筆者の受け持つ頁数はややもすると悪平等ということになりかねない.筆者は学生や研修医に用いる外科学の教科書を評価する場合に,まず各分野に対する紙面の割当てに注目することにしている.将来外科医になるとはかぎらない若い人たちに対する書物は,当然総論的でしかも実地臨床に則した項目を重視すべきであろう.

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Adenocarcinoma of the Colon and Rectum in Young Adults: F.J.Scarpa, W.H.Hartmann, J.L.awyers (Southern Medical Journal 69: 24-27, 1976)

 全大腸癌のわずか6%が41歳以下の患者にみられる.生存率は若年者大腸癌では高年者に比べ一般に低いといわれているが,腫瘍の態度は年齢に関係ないとの報告もある.著者らは20~40歳の47人の大腸癌患者を対象として次のような検討を行った.うち男が21人,女は26人.年齢は30~40歳が32人を占めた.

 患者の症状では直腸出血が28例で最も多く,次いで腹痛が12例に認められた.痛みと体重減少が右結腸癌に多い症状であった.症状は高年者のそれと大差はない.症状持続期間は6カ月以内が65%,1年以上が17.5%だった.1カ月未満の場合の5生率は20%であるのに,1年以上では56%と良好で,症状の発現から診断までの期間が短い方がむしろ予後は不良だった.

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Metastatic Disease Involving the Stomach: L.S.Menuck, J.R.Amberg (Amer.J.Digest. Dis. 20: 903~913, 1975)

 胃を侵す転移性疾患は珍しく,臨床上困難な問題であるが正しい診断と治療により症状の緩和と延命が時に可能である.この報告では1,010の悪性腫瘍剖検例中に悪性腫瘍が胃に転移した17例を発見した.原発の腫瘍は黒色腫,肺癌,乳癌,膵臓癌,睾丸および卵巣癌等で,黒色腫以外は一般的によくみられるものだった.17例中10例は臨床的に分らなかった.他の7例は上腹部痛,下血,貧血等を示した.17人中13人は上部消化管X線検査をうけた.3人は異常なしで,剖検で小さい粘膜下侵襲を発見した.異常のあった10人中5人は単発性のポリープ様病変を有し,うち3例は潰瘍を伴っていた.他の3例は胃内に多発性の侵襲部位があり,残りの2例では“linitis plastica”様の浸潤性病変だった.血行性転移は通常胃の粘膜下組織にうえつき,大きくなると隆起型の粘膜下腫瘤になるか,あるいは粘膜下織内で限局性の扁平隆起として拡がることもある.しばしば粘膜側に進展し潰瘍化する.“linitis plastica”型は乳癌からの病巣の約50%にみられる.他の場合には稀だ.黒色腫の場合,多発性の小潰瘍腫瘤で,bulls eyeまたはtargetの形を呈すといわれる.他でもみられるが黒色腫に多い.

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 「新臨床内科学」の第2版(改訂版)が出た.編者も述べておられるように,本書の初版は文字通り“爆発的”な売れゆきをみせたようであり,私どもの大学の学生もほとんど全員が持っている.臨床講義のときあるいは外来でのポリクリのさいなどに,座右の書として愛用されており,卒業試験や医師国家試験の最終のまとめのときにも大いに役立っているようである.

 内科学の領域において取り扱われる疾患の数はきわめて多く,そのなかのどの疾患に,どれ位のスペースを与えて各執筆者にまとめてもらうかを決めるのは編者の腕のみせどころである.

編集後記 西沢 護
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 すでに,12巻1号の村上教授の巻頭言にものべられているように,「胃と腸」の表題が「胃と腸」となってから,はじめての腸疾患の主題にS状結腸癌がとりあげられた.

 S状結腸は直腸とならんで,大腸癌の最も多い部位で,しかも比較的検査のむずかしかった所である.

基本情報

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胃と腸
12巻2号 (1977年2月)
電子版ISSN:1882-1219 印刷版ISSN:0536-2180 医学書院

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