精神医学 40巻8号 (1998年8月)

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 最近,我が国でも睡眠障害に関する疫学的調査が行われるようになり,欧米諸国並に,睡眠障害が多いことが明らかになってきた。夜寝つけない,熟睡できない,朝起きられない,昼間眠くてしかたがない,などの睡眠障害の増加は我が国をはじめとする先進工業国に共通した社会問題である。これに加え,1980年代からの睡眠科学の飛躍的発展により,日中の脳機能を支える上で夜間の睡眠が重要な働きをしていることが明らかにされてきた。睡眠不足は人間の認知機能や判断能力の低下を引き起こすことが報告されている。睡眠不足は,気分や食欲などの基本的な生体機能にも影響を及ぼす。さらに,最新の研究成果によれば,動物に睡眠をとらせないでおくと免疫機能や代謝機能など生命維持のための基本的機能が低下するという。こうした睡眠科学の進歩は,睡眠障害の問題が単に社会問題であるばかりでなく,生活の質や健康・福祉の問題であることを我々に教えている。

 アメリカでは,こうした睡眠科学の発展を踏まえ,1980年代の終わりから健康・福祉問題,社会・産業問題として睡眠障害の問題をとらえ睡眠医学を確立する国家的プロジェクトが始まった。さらに,1993年には,睡眠障害についての研究支援,専門家養成,教育啓蒙を通じて米国民の健康増進を目的とする国立アメリカ睡眠障害研究センターが設立された。このような重要な睡眠障害研究および睡眠医学における我が国の現状を紹介し将来の展望について考えてみたい。

創刊40周年記念鼎談・21世紀への課題—精神医学の40年を振り返る(4)

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 中根(司会) 本日は「精神医学」創刊40周年記念鼎談を,「児童青年精神医学の進歩と将来」というテーマで始めさせていただきます。

 黒丸先生はこの領域では最長老として,また長く神戸大学の教授として我が国の児童青年精神医学の発展に尽くされたわけです。そうしたご経験をお伝えいただいて,それを踏まえ,21世紀の児童精神医学がどうなっているかイメージできたらということで,私が進行役を務めさせていただくことにしました。

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 【抄録】本症例は精神分裂病の母親から出生した男子一卵性双生児で,出生直後からA(兄)は病者である母親に,B(弟)は健常者である父方祖母に養育され,6歳からは両親ともども同居している。ABとも厳しい周産期を経た軽度精神遅滞の高危険別居一卵性双生児である。同居直後と同居7年後にみられた,AとB間の性格傾向と行動様式の違いの変化から,環境要因が彼らの人格形成に影響を及ぼすことが示唆された。また対人関係と社会適応状況でBがAに劣っているが,これは両者の脳機能異常の程度の相違によると推測される。いくつかの分裂病発症に関する危険因子が観察できたが,いずれも決定的なものではない。今後もきめ細かい観察と援助が重要となる。

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 【抄録】我々は,終末期癌患者150名を対象とした355回の評価をもとに,せん妄の危険因子についてprospectiveに調査した。せん妄は全身状態が不良な場合に多く,せん妄を呈した場合の予後は不良であった。全対象では,せん妄群と非せん妄群において,呼吸困難・死前喘鳴・嚥下困難・口渇・浮腫・10以上の身体症状・オピオイド投与率・アルブミン・総ビリルビン・尿素窒素に有意差が認められた。また,多変量解析では,不良な全身状態,多い身体症状,オピオイドの使用がせん妄に関与していた。全身状態が著しく不良な場合で両群に有意差を認めたものは,オピオイド投与率のみであった。以上の結果から,終末期癌患者のせん妄に対する予防的介入の可能性について考察した。

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 【抄録】アルコール依存症の診断でデイ・ナイト・ケアに通院する男性患者77名のMinnesota Multiphasic Personality Inventory(MMPI)記録を用いて,問題飲酒が早期(30歳未満)である若年群38名と,早期でない中年群39名の性格傾向を比較した。同様に,反社会的行動のみられた犯罪群20名と非犯罪群57名の性格傾向を比較した。その結果,若年群と犯罪群では,社会の価値観を取り込めない,社会的責任感が低いなどの共通した性格傾向が示唆されたが,若年群ではさらに,MMPI上の精神分裂病的傾向や神経症的傾向が示唆された。この結果から,アルコール依存症者においては,反社会的行動よりも問題飲酒開始年齢のほうが,精神病理的な性格傾向と強い関連を持つ可能性が示唆された。

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 【抄録】強迫性障害(OCD)患者の症状や合併する人格障害への男女差の影響について検討した。対象はOCD患者75例(男性33例,女性42例)で,男性では攻撃的,性的な強迫観念と繰り返しの儀式行為が,女性では汚染の強迫観念と掃除洗浄,整理整頓に関する強迫行為が,それぞれ他方に比し高率傾向であった。男性では社会生活上の問題が主にOCD発病に関与し,社会的孤立を認める症例も多く,男性に高率であった分裂病質,分裂病型人格障害などとの関連がうかがわれた。一方,女性では,症状の形成や内容に,家事や家庭での人間関係が関与し,依存性や境界性人格障害がより高率で,家族への依存,巻き込み傾向を認めた。このようにOCD患者では,症状の内容のみならず,合併する人格障害にも男女の性差が多面的に反映されているものと考えられた。

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 【抄録】季節性に発症する周期性四肢運動障害(PLMD)を伴うrestless legssyndrome(RLS)の1例を報告した。症例は毎年11月にPLMDを伴うRLSを発症,約1か月で自然軽快していた。病相期には中途覚醒,stage shiftの増加が認められ,総睡眠時間は減少,stage W, 1が増加し,stage 2,3+4,REMは減少,睡眠効率も低下していた。また二分脊椎,椎間板ヘルニア,脊柱管狭窄を合併し,PLMD出現に関与したと考えられた。季節性発症の原因としては,寒冷刺激による末梢血管収縮が11月頃最大になることから,それによる末梢循環障害の増悪が,RLSを顕在化させたと考えられた。

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 総合病院精神科のコンサルテーション・リエゾン診療においては,種々の身体疾患を抱えた症例の紹介が多いが,その中でも腎不全の患者については薬物選択において苦慮することが多い。今回我々は,虚血性心疾患を有し体外循環に適さないため,腹膜透析が導入された慢性腎不全患者でせん妄を呈した症例を経験した。以前に我々は,せん妄に対して塩酸トラゾドンが効果的であったことを報告したが5),本症例にも投与したところ,副作用を認めずせん妄の明らかな改善を認めた。また,透析患者に対して塩酸トラゾドンを投与し安全性と有効性を確認した報告は,我々の知るかぎり1例の報告があるのみであり2),今回の経験は貴重であると判断したので報告する。

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 筆者らは,同じ時期にカナダ・オンタリオ州のトロント大学精神科に留学し,同州の単科精神病院の現状ならびに改築プロジェクトを見学する機会を得た。これらの病院には現在の我が国の国公立,民間の精神病院とは多くの違いがあり,我が国の単科精神病院の将来像を考えるうえで参考になると思われるのでその現状について報告する。

シンポジウム 災害のもたらすもの—阪神・淡路大震災復興期のメンタルヘルス

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■はじめに

 1995年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は,死者6千名以上,家屋倒壊20万棟,最大避難者数30万人,被害総額10兆円というまさしく未曾有の災害となった。ちょうどその1年前に米国ロスアンジェルス近郊で起きたノースリッジ地震は米国災害史上最悪の災害となり,被害総額は3兆円に及んだ。しかし,死者57名,家屋倒壊2万棟,最大避難者数2万人という統計値が示すように,災害規模は桁違いである。圧倒的な量的違いは問題の質を変化させるといわれる。ノースリッジ地震では,米国の災害対応能力の高さが証明されたが,それでも阪神・淡路大震災規模で機能しうるかはまったく未知数なのである。既定事実として阪神・淡路大震災があり,着実に復旧・復興が進んでいる現実に直面すると,それが当然という印象も生まれる。しかし,こうした活動はどれもこれまで前例のない課題へのまったく新しい取り組みであることを忘れてはならない(林3))。

 精神保健の分野でも,阪神・淡路大震災は我が国で初めて災害後の心的外傷後ストレスの存在とそれへのケアの必要性が認識された災害となった。兵庫県をはじめ様々な機関によって種々のパンフレットが用意され,1月23日の臨床心理士会の活動をかわきりに被災地内外での相談電話活動も始まった。また1月26日以降保健所に精神科救護所が開設され,多くの精神科医が参画して,地域内のケア拠点の役割を果たしている。震災からまもない段階では外部ボランティアを中心に,その後は地元のボランティアを中心にした避難所での巡回相談もなされた。さらに6月1日には兵庫県精神保健協会こころのケアセンターが設置され,5年間にわたる継続的な活動が行われることが制度的にも確立した。

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■はじめに

 兵庫精神神経科診療所協会(以下,兵精診)では,1995年1月17日の阪神・淡路大震災3か月後の1995年4月より,震災が精神科診療所と利用者に及ぼした影響について調査研究プロジェクトを発足させ,震災から5年間の継続を目標に現在も実施中である。

 調査研究の主題は,

 ①精神科診療所の被害実態と回復の過程

 ②震災前からの精神科診療所利用者に認められた震災の影響

 ③震災を契機に初めて精神科診療所を受診した利用者の精神医学的特徴

 ④震災が精神科診療所スタッフに与えた精神的影響

 の4点にある。

 ①〜③の調査研究は,半年ごとの定点観測アンケートと個々の診療所から報告される月別診療実績と新旧利用者に関するデータの集計から成っている。④に関しては30項目一般健康質問紙(GHQ 30)を使用した調査を実施している。

 以下,上記調査研究の中間集計結果を参考にしながら,震災後の精神医療上の諸問題について述べる。

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■はじめに

 災害後のメンタルヘルスの問題は,衝撃的な事態に暴露されたことによる心的外傷後ストレス障害(posttraumatic stress disorder;PTSD)だけでなく,喪失体験と結びついた悲哀と抑うつ,あるいは社会的ストレスから生じる様々な心身への影響など多岐にわたる。これらは災害発生から時間が経てば経つほど個別化していくが,災害によって地域社会全体が大きな影響を受けた場合には,社会的ストレスによる二次的影響をいかに低減するかが,長期的なメンタルヘルスケアの重要な課題となる。

 阪神・淡路大震災はいうまでもなく都市部を襲った最大級の自然災害であり,広範な地域に住む膨大な数の人々が被災した。したがってメンタルヘルスケアの対象も幅広く多様であるが,様々な問題が集約されているという意味において,仮設住宅は復興期にまず最優先の対象とするべきフィールドであった。この震災では実に48,000戸あまりの仮設住宅が建設された。これらの応急仮設住宅は1947(昭和22)年に制定された災害救助法第23条を根拠として設置される。原則的には滅失世帯の3割以内とされているが,災害の規模によって適正な数が設置される。また,設置期間は2年間と決められていたが,震災後1年単位で使用の延長ができるように関連法が整備された。いずれにしても今回の建設戸数は,同法施行後の災害の中では群を抜いたものであったといえよう。

 本稿では,1995年6月に,阪神・淡路大震災復興基金を財源として設置された「こころのケアセンター」5)の活動を通して,被災地の復興期のメンタルヘルス上の問題,とりわけ様々な問題が凝縮されている仮設住宅での問題と課題を論じてみたい。

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 欧米における疫学研究の結果では,戦闘参加兵士やレイプ被害者など,明らかな心的外傷(トラウマ)を体験した高危険集団においても,外傷後ストレス障害(Post-traumatic stress disorder;PTSD)はさほど高頻度に発生するわけではない22)。DSM-IVによれば,一般人口調査におけるPTSDの生涯有病率は1〜14%であり,高危険者(戦闘参加兵士,噴火災害被災者,暴力犯罪被害者など)中における有病率は3〜58%とされている1)。一方,心的外傷の内容により精神的影響の経過はやや異なるともいわれる。一般に災害は地震や洪水などの自然災害と事故などの人為災害に大きく分けられるが,これまでの報告によれば,被災者にみられる精神的影響は,自然災害の場合では2年以上を経過するとほぼ消褪するのに比べ,人為災害ではより遷延しやすいようである4)

 我が国では,ことに1995年阪神・淡路大震災以後,被災者のPTSDが専門家やマスコミの注目を集めるところとなった。しかし,被災者にみられた精神症状に関する報告をみるかぎりでは,震災後早期の急性ストレス症状は広く認められた6)が,PTSDの割合はおしなべて低いようである。ただし多くの報告では,調査対象は医療機関や相談機関の受診者・相談者であり,また診断は個々の臨床家の個別診断によるため,当然ながら診断の精度は異なるものと考えられる。

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 司会(風祭) 今日はまず,林先生より,「防災心理学」の立場から被災された方々の心理的状況の一般的推移についてお話をうかがいました。それから,生村先生は実際に精神科の診療所を開業しておられる立場から,被災後の,特に精神医療のニードに焦点を合わせて話されました。加藤先生は,震災後にできた半公的機関である,「こころのケアセンター」での活動を通じて,「こころ」を前面に出すだけでなくて,生活支援,身体的な医療や相談も含めた広い形の活動が必要だと話されました。最後に飛鳥井先生は,企業の職員に対する質問紙調査を通じて,割合大きな企業に勤務するサラリーマンの意識の変化や,PTSDとの関係についてお話をされました。

 最初にパネリストの先生方から意見交換をお願いします。

基本情報

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精神医学
40巻8号 (1998年8月)
電子版ISSN:1882-126X 印刷版ISSN:0488-1281 医学書院

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