巻頭言
睡眠障害研究の現状と将来—睡眠医学の確立に向けて
大川 匡子
1
1国立精神・神経センター精神保健研究所
pp.800-801
発行日 1998年8月15日
Published Date 1998/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405904591
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最近,我が国でも睡眠障害に関する疫学的調査が行われるようになり,欧米諸国並に,睡眠障害が多いことが明らかになってきた。夜寝つけない,熟睡できない,朝起きられない,昼間眠くてしかたがない,などの睡眠障害の増加は我が国をはじめとする先進工業国に共通した社会問題である。これに加え,1980年代からの睡眠科学の飛躍的発展により,日中の脳機能を支える上で夜間の睡眠が重要な働きをしていることが明らかにされてきた。睡眠不足は人間の認知機能や判断能力の低下を引き起こすことが報告されている。睡眠不足は,気分や食欲などの基本的な生体機能にも影響を及ぼす。さらに,最新の研究成果によれば,動物に睡眠をとらせないでおくと免疫機能や代謝機能など生命維持のための基本的機能が低下するという。こうした睡眠科学の進歩は,睡眠障害の問題が単に社会問題であるばかりでなく,生活の質や健康・福祉の問題であることを我々に教えている。
アメリカでは,こうした睡眠科学の発展を踏まえ,1980年代の終わりから健康・福祉問題,社会・産業問題として睡眠障害の問題をとらえ睡眠医学を確立する国家的プロジェクトが始まった。さらに,1993年には,睡眠障害についての研究支援,専門家養成,教育啓蒙を通じて米国民の健康増進を目的とする国立アメリカ睡眠障害研究センターが設立された。このような重要な睡眠障害研究および睡眠医学における我が国の現状を紹介し将来の展望について考えてみたい。
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