臨床検査 65巻2号 (2021年2月)

今月の特集1 Diagnostic Stewardship—微生物検査室の重要性

関谷 紀貴
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 抗菌薬適正使用支援活動が進められるなか,感染症診療の大前提となる原因微生物同定に直結するDiagnostic Stewardshipの推進が強く叫ばれています.一方,病院経営の観点から微生物検査室業務の縮小や外注化の流れがあり,抗菌薬適正使用支援活動における要といえる微生物検査室の重要性にあらためて注目する必要があります.

 本特集は,Diagnostic Stewardshipの観点で微生物検査室に期待される役割を見直すことを目的として企画をしました.前半は,①Diagnostic Stewardshipとはそもそも何なのか,②その適切な評価で重要となる“診療全体”と“臨床検査”の視点,③迅速検査の活用法と注意点に関して,それぞれ基本的な考え方をバランスよく理解できる内容となっています.後半では,①医師からみた微生物検査室とのコミュニケーションの重要性,②臨床検査技師からみた具体的実践と課題,③微生物検査室を取り巻く現状と課題について,それぞれ経験豊富な先生方から解説いただきました.

 本特集を通して,Diagnostic Stewardshipの考え方と実践に必要な知識を整理していただき,微生物検査室のあり方を広く問い直す機会となるよう願っています.

Diagnostic Stewardshipとは何か 中村 竜也
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Point

●抗菌薬適正使用支援チーム(AST)を成功に導くためには,正確な病原体の検出など診断精度が重要である.また,diagnostic stewardship(DS.診断支援)の実践が必要となる.

●DSの主な目的は,①適時に微生物学検査結果に基づいた安全で効果的かつ効率的な治療の提供,②治療ガイドラインと薬剤耐性菌制御ための正確な疫学データの提供にある.

●DSにおける介入は検査前,検査,検査後の3つに大別できる.検査前介入は,主に検体採取の対象となる患者の選定や検体採取方法について,検査介入は実施する検査方法の選定やアルゴリズムについて,検査後介入は主に結果報告に関するものである.

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Point

●diagnostic stewardship(DS)における適切な検査提出を評価するには,“診療全体”を考えた評価と,“臨床検査”を考えた評価を分けて考える必要がある.

●“診療全体”を考えた場合,問診,身体診察,problem list,鑑別診断などのプロセスを踏まえた検査計画そのものの評価が必要である.

●“臨床検査”を考えた場合,検査の依頼,検体の採取,保管,搬送などの臨床検査におけるおのおののプロセスの評価が必要である.

●“診療”や“検査”が適切に行われているかどうかを比較するためには“指標”が必要である.

●“指標”は自施設でのみ経過を追うためのものなのか,他施設と比較するためのものなのかを明らかにして設定する.

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Point

●塗沫検査,抗原検査,遺伝子検査などの迅速検査は感染症の診断に有用な検査であるが,POCTとして微生物検査室を介さずに実施されている検査もある点に注意が必要である.

●微生物検査室が実施している検査については,検体採取・保管などの検査前プロセスおよび検査結果の解釈を中心にコミュニケーションを取る.

●微生物検査室を介さずに実施されている検査については,機器・試薬の選定および管理,そして検査の実施についても専門家の立場から助言することが望ましい.

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Point

●微生物検査室とのコミュニケーションは一日では成らず,である.お互いを育て合うことが必要である.

●医師と検査技師がお互いのフィールド(ベッドサイドと検査室)に立ってみて,初めて理解できることがある.

●適正な検査の実現には,病棟/外来と検査室の双方の声をしっかり聞きながら,連携の糸を丁寧につなげていく必要がある.

●未来の感染症診療の風景を一緒に語れる関係を構築できることが,次世代の検査技師と医師の連携を生み出す.

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Point

●AST活動を推進させるため,微生物検査室には適切な微生物検査の実施や迅速な結果報告など,diagnostic stewardshipの実践が求められている.

●適切な微生物検査の実施には,微生物検査室から積極的に検査に適した検体の提出を促すなど,検査依頼医へ直接的なフィードバックが重要と考える.

●迅速な結果報告を行うには従来法や質量分析装置を駆使し,また,微生物検査室から検査依頼医へ電話連絡などで積極的に報告することが重要と考える.

●微生物検査室におけるdiagnostic stewardshipを促進させるようなシステム開発も望まれる.

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Point

●マンパワーの確保をどのように行うのかが大きな課題である.

●施設に応じたdiagnostic stewardshipを構築することが必要である.

●夜間休日対応を含めた,微生物検査室が直接行わない検査室の運用も検討する.

●微生物検査室がない施設のdiagnostic stewardshipはどう行うべきか.

●微生物検査室がない施設でdiagnostic stewardshipを実施するに当たって必要な条件を示す.

●継続的に行えるdiagnostic stewardshipを確立するべきである.

今月の特集2 ダニ媒介感染症—適切な理解と診断の道標

関谷 紀貴
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 ダニ媒介感染症の存在は広く知られている一方,罹患率が低い地域や医師の診療経験が乏しい場合,受診・診断の遅れから死亡に至る症例があります.近年では,北海道におけるダニ媒介脳炎,静岡や茨城における日本紅斑熱など,報告頻度が低い地域からの診断例に対して地方自治体や厚生労働省から注意喚起がなされています.現在はCOVID-19による影響を強く受けていますが,海外渡航者・外国人旅行者による輸入感染症としての側面も念頭に置いておく必要があります.

 本特集は,ダニ媒介感染症に対する適切な理解と診断に関する啓発を目的として企画しました.ダニ媒介という共通項の一方で,原因微生物はウイルス,リケッチア,細菌と幅広いため,疑いをもつために必要な基本的事項が丁寧に整理されています.臨床現場から相談を受けた際に診断の鍵となる検査法を,経験豊富な先生方から解説いただきました.報告頻度が低い,もしくは流行地域に特徴を有する感染症が中心ですが,本特集を通じて,ダニ媒介感染症の適切な診断と報告が1例でも増えるよう願っています.

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Point

●重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は東アジアで流行しているマダニ媒介性新興ウイルス感染症であり,わが国では西日本を中心に年間80人程度の患者が発生している.

●発熱,倦怠感,消化器症状の症候に加えて,臨検値異常として白血球減少,血小板減少,血清酵素〔アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),乳酸脱水素酵素(LDH),クレアチンキナーゼ(CK)〕の上昇がみられるのが特徴である.

●マダニ以外にSFTS発症ネコやイヌが新たな感染媒介動物として判明しているほか,ヒト-ヒト感染もあるので,医療現場では標準・接触予防策の順守も必須である.

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Point

●近年,日本紅斑熱は届け出数が増加しており,届け出地域も拡大している.

●リケッチア症は臨床診断が難しいため,居住地域や行動歴などの疫学情報を疑うきっかけに活用する.

●リケッチア症を臨床的に疑ったら,診断を待たずにテトラサイクリン系の抗菌薬で治療を開始する.

ダニ媒介性脳炎 好井 健太朗
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Point

●ダニ媒介性脳炎(TBE)はダニが媒介するウイルス性人獣共通感染症である.わが国を含むユーラシア大陸広域で患者が発生している重篤な脳炎を引き起こす疾患である.

●わが国では北海道で患者が報告されており,流行巣も検出されているが,北海道以外にも広範な都府県において分布している可能性が示されている.

●わが国では認知度が高くなく,また,診断検査体制も十分には整備されていないため,見逃されている感染者が存在している.適切な診断や予防対策などの対応が重要である.

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Point

●ボレリア感染症は,野外に生息する節足動物(ダニ)が媒介するスピロヘータ感染症である.

●新興回帰熱(ボレリア・ミヤモトイ病)では典型的な臨床症状がない.

●実験室診断には,病原体核酸の検出と抗体検査が用いられる.抗ライム病抗体の上昇までには2ないし3週間のwindow periodがあるため,ペア血清による確認が重要である.

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Point

●わが国の野兎病は約94%が野兎から感染するが,ダニ媒介性のものも約1%存在する.

●わが国の野兎病菌は弱毒であり,現在まで死亡例はない.

●現在は,ほとんど症例の発生はない.

●臨床診断には野兎との接触歴とリンパ節腫脹が重要である.

クリミア・コンゴ出血熱 西條 政幸
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Point

●クリミア・コンゴ出血熱(CCHF)は,ナイロウイルス科(旧ブニヤウイルス科),オルソナイロウイルス属(旧ナイロウイルス属)に分類されるCCHFによる全身感染症で,いわゆるウイルス性出血熱に含まれる疾患である.

●ヒトはウイルスを有するマダニに咬まれて感染する(ダニ媒介性感染症)が,ウイルス血症を伴う動物(ヒツジ)やCCHF患者の体液との接触でも感染する.

●アフリカ,欧州,中東,アジア〔南アジア,中央アジア,中国西部(新疆ウイグル自治区)〕で流行している.日本では流行していない.

●感染症法では一類感染症に分類されている.

認定・資格取得でスキルを磨こう・7

一級臨床検査士 菅野 佳之
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資格の概要と認定試験

1.資格の概要

 一級臨床検査士(以下,一級)資格認定試験1)の歴史は,臨床検査技師国家試験が開始される以前の1956年にさかのぼる.日本臨床病理学会(現 日本臨床検査医学会)の主催による一級臨床病理技術士資格認定試験としてスタートした.1975年に日本臨床病理同学院が設立されるとともに共催となり,2003年に日本臨床病理同学院が公益社団法人日本臨床検査同学院(以下,同学院)へと名称変更されたことに伴って現称号となって現在に至っている.

 一級資格は,臨床検査技師認定資格の登竜門とも呼ぶべき二級臨床検査士(以下,二級)の資格取得後3年以上の実務経験または教育歴を積み,指導的技術者として適当な人物であることを所属長が証明した者に受験資格が与えられる(表1).同学院が認定する臨床検査士資格の最高級の試験と表現されている.二級資格認定試験と同様に受験科目は細分化されており,微生物学(寄生虫学を含む),病理学,臨床化学,血液学,免疫血清学,循環生理学,神経生理学,呼吸生理学の合計8科目がある.1回に受験できるのは1科目までである.

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目次

書評 堤 明純

「検査と技術」2月号のお知らせ

次号予告

あとがき 関谷 紀貴
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発生から1年以上が経過しました.振り返ってみると,昨年の今頃は中国・武漢からの帰国者やダイヤモンドプリンセス号の乗客対応に追われており,現在のような新しい生活様式が提唱される前の時期でした.世の中の大きな転換期となる事件はさまざまですが,自分が専門とする感染症がきっかけになるとは夢にも思っていませんでした.

 昨年に開催予定であったオリンピックは延期となりましたが,果たして今年は開催されるのか,どのような形であれば実現可能なのか,という点は興味のあるところです.近代オリンピックを復興したクーベルタン男爵はオリンピアの精神を“スポーツを通して心身を向上させ,文化・国籍などさまざまな違いを乗り越え,友情,連帯感,フェアプレーの精神をもって,平和でよりよい世界の実現に貢献すること”としています.スポーツに限らず,何か共通のイベントを通じて協調のきっかけをつくることは,これまでも有効な試みとされてきました.

基本情報

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臨床検査
65巻2号 (2021年2月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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