臨床検査 63巻2号 (2019年2月)

今月の特集1 てんかんup to date

河合 昭人
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 国際てんかん連盟(ILAE)は2017年に発作分類,てんかん分類の改変版を公表しました.脳波検査を担当する検査技師も,これらを当然の知識としてアップデートしなければなりません.脳波検査は他の生理学的検査と比較し,難しいと思われがちですが,基本を押さえ,経験を積むことにより,熟練した検査技師となることができます.しかしながら,その技術も,最新の知識とリンクしていなければ意味がありません.本特集では,各分野の専門家の先生方に,てんかんの基本から治療に至るまで執筆をお願いしました.また,知識のブラッシュアップと,これからの脳波室運営,てんかんセンターの役割について幅広く解説いただきました.

 脳波検査に従事している方はもちろんですが,そうでない方についても,知識のアップデートとしてご一読いただければと思います.皆さんのスキルアップの一助となれば幸いです.

てんかんの病態と病型 音成 秀一郎
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Point

●てんかんは,100人に1人と,最も頻度の高い慢性の脳神経疾患の1つであり,あらゆる年齢層において発症するcommon diseaseである.

●てんかんの発作分類は,発作起始の症状に基づいて焦点発作(focal seizure),全般発作(generalized seizure)に大別する.

●てんかん分類は「てんかん発作型」,「てんかん類型」,「てんかん症候群」の主軸に加えて,病因や併存疾患など多元的因子に基づいて分類する.

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Point

●21世紀のてんかん診断は,アナログ脳波計(ペン書き脳波)からデジタル脳波計へ移行した.

●デジタル脳波計には,アナログ脳波計ではできなかったリモンタージュ,リフィルタリング機能などがあり,判読の精度が格段に向上した.

●脳波導出法の基本原理を理解し,てんかん発作波と紛らわしい脳波所見を知ることが,てんかん診断のピットフォールを防ぐことになる.

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Point

●てんかん重積状態は誰もが遭遇する疾患であり,迅速な治療が必要である.

●気道・呼吸・循環の治療や低血糖の治療を行ったうえで,薬物療法を行う.

●持続脳波モニタリングは,診断や治療効果の判定のため必須である.

てんかんの外科治療 海渡 信義
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Point

●薬剤抵抗性てんかんの定義を,外科治療対象となる難治てんかんとの相違点を含めて理解する.

●てんかん外科治療の手術適応は,症候群(病態や発作型)で一元的に決定されるものではなく,手術成績・社会的適応を含め総合的に判断することが大切である.

●てんかん外科治療の全過程で最も重要なポイントは,正確な焦点同定にある.発作型・脳波・画像の3項目全てが一致した焦点を指し示さない場合は,検査手術としての頭蓋内電極留置術での焦点同定が必要となる.

●手術法は根治術と緩和治療に大別される.根治術には焦点切除術と側頭葉切除術があり,緩和治療には軟膜下皮質多切術と脳梁離断術が含まれる.症例により,これらの組み合わせでより高い治療成績を目指す.

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Point

●てんかん発作と類似した症状を示し,脳波上てんかん性の突発波を認めないものを心因性非てんかん性発作(PNES)と呼ぶ.難治てんかんとの鑑別疾患として重要な症候群である.

●心因性発作の発症リスクは,女性,知的障害・境界知能,15〜35歳の若年層に高いとされる.

●PNESの特徴として,発作が複雑で一定ではない,発作中閉眼している,持続時間が長い,人が周囲にいるときに起きることが多いなどがある.

●臨床経過,発作症状,脳波所見から総合的に診断する.心因性を疑われる症例であっても,本当のてんかん発作があるかもしれないことを念頭に置いて検査することが大切である.

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Point

●わが国における“てんかんセンター”にはさまざまな様態(形態)の施設が含まれ,その規模や地域の特殊性により求められる機能はさまざまである.

●東京大学医学部附属病院では2016年10月にてんかんセンター開設,2017年1月にてんかんセンター初診外来が開始されたが,以降てんかん初診患者件数は倍増している.

●てんかんセンター症例検討会は,単科ごとの症例検討会では得られない貴重な情報共有の機会であり,医療者間の知識の平準化や若手教育に役立っている.

●今後の課題としては,地域医療連携,若手医師・コメディカルの教育,関連検査の高精度化・標準化などが挙げられる.

今月の特集2 災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から

〆谷 直人
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 2018年は,西日本豪雨,連日の台風の発生や,東から西へ日本を横断した迷走台風,震度7の北海道胆振東部地震など,自然災害が多く発生しました.

 大規模災害が発生すると,被災地では被災直後の傷病者の対応のみならず,その後も被害に遭われた大勢の人々が避難所生活を続けるため,避難住民の健康対策が課題となります.しかしながら,被災地では医療施設自体が影響を受けていて臨床検査を実施することができなかったり,運よく被害を免れた臨床検査室であっても,使用している分析装置の多くは電源だけでなく水も大量に必要であるため,その使用はライフラインの復旧を待たなければなりません.また,交通手段も断たれるので,検体を近隣の検査センターや医療施設へ搬送する手段も失います.

 本特集では,いつ起こるとも知れない想定不可能な災害に対し,東日本大震災や熊本地震を体験された方と支援活動を行った方に,自身の経験をもとに災害現場で実施できる臨床検査について執筆していただきました.

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Point

●災害発生時に体系的な医療活動を行うためには,CSCATTTの原則が行動規範となる.

●災害発生後の段階では時間の経過とともに保健医療活動が変化し,臨床検査もそれに対応した項目が必要となる.

●災害医療の現場で臨床検査技師の活躍が期待できる.十分な貢献を行うためには,日頃からの準備と訓練が必要である.

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Point

●被災地のニーズに沿う支援活動が有効である.

●被災地から,正確な情報を入手するよう努めることが災害支援に重要となる.

●日頃から,自治体と情報共有しておくと,災害支援に有効である.

●災害支援時には,自治体と連携することが大事である.

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Point

●震災に備え,災害対応マニュアルの作成や見直しとともに,事前準備として,事業継続計画(BCP)の策定がクローズアップされている.

●臨床検査技師の臨床検査に対する人的支援としては,所属団体や技師会・学会の組織の一員としてチームを組み,被災地自治体対策本部との連携により活動すべきである.

●長期の避難所生活における深部静脈血栓症(DVT)の検診のために,医師らと下肢静脈エコー検査に関するチームを組み,臨床検査技師が実施する.

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Point

●熊本地震では,日本臨床検査医学会が結成した熊本地震対策委員会が支援活動を実施した.この活動では,被災地に必要な機器や試薬が取りまとめられ,リクエストベースで被災地に支援物資が貸与・提供された.

●被災側では,情報を集約し,支援のリクエストを取りまとめることが重要である.複数のチャンネルからリクエストが発信されるよりも,チャンネルを絞り,できる限り整理された支援要請がなされるのが望ましい.

●平時から地域の連携を図り,災害発生時には速やかに相互支援・復旧体制に移行する必要がある.情報を正確かつ速やかに集約するためにも,普段から行政や関連団体が意思疎通しておくことが求められる.

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Point

●災害時におけるPOCT対応機器・試薬での支援は,被災者の健康維持と疾病予防の両面で有用であった.

●さまざまな要因や状況により,支援を必要とする物品は異なる.

●支援物資を提供するだけではなく,適切な使用方法を伝えるなど運用面でも支援することが重要である.

●技術進歩はPOCT対応機器・試薬にも及んでおり,感度,精度の向上だけでなく検査種も増えているため,支援での対応力も広がっている.

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Point

●装置の小型化が進み,高画質画像が得られるようになったことで,超音波検査は,災害現場でも頻繁に使用されるようになった.

●一晩の車中泊で血栓は形成される.エコノミークラス症候群の注意喚起は,発災直後から必要である.

●災害時に行う超音波検査は,深部静脈血栓症(DVT)の検査だけではない.急性期から支援に入る場合,技師はFASTやRUSHなどの習得も望まれる.

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■疫学

 マラリアは現在に至るまで,人類に甚大な被害をもたらしており,結核,ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)感染症と並んで3大感染症の1つとされている.2016年の世界保健機関(World Health Organization:WHO)の報告によると,マラリアの発症者は2億人以上に達し,約45万人が死亡に至っている.91カ国において国内感染例が報告され(図1)1),サハラ以南のアフリカ諸国およびインドの15カ国が全体の80%を占めている2).死亡例の90%以上は,サハラ以南のアフリカ諸国である.

 国内では,戦前まで年間2万人の国内感染例が報告されていたが,1960年ごろには,土着のマラリアは消滅している3)

生理検査道場・9

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はじめに

 眼球はカメラにたとえられ,角膜・瞳孔・水晶体(レンズ)を通過した光は網膜に集められ,結像する(図1)1).網膜でまず光に反応するのは光受容体でありニューロンである網膜視細胞であり,それが2次ニューロン,および3次ニューロンである網膜神経節細胞を介して脳に伝えられると,視覚を形成する.眼底検査では,瞳孔を通じて眼内に光を入れることで,主に網膜神経組織と栄養血管網の変化を観察する.また,網膜のさらに奥には脈絡膜という血管が豊富な結合組織があるため,網膜を通してみえる脈絡膜の変化を観察する場合もある.

Salon deやなさん。・19

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 東京にきて約1年が過ぎ,私ががんゲノム検査の道に進み約2年が経過した(しみじみ).現在,院内で手術を受けたなかで,同意を得られた全患者のがんゲノム検査を実施している.摘出された検体をホルマリン固定パラフィン包埋ブロックにし,薄切,HE染色する一連の病理標本作製を行う.HE染色を病理医が鏡検して,DNAを抽出する腫瘍細胞の位置をマッピングするとともに,そのマッピングした部位に存在する腫瘍細胞の割合を算出する.そのマッピングに従い,未染色標本数枚から腫瘍細胞をカリカリ削り取る.削り取った細胞からDNAを抽出して,DNA片に解析に必要な物質を結合させて,目的のDNA片を精製していき,それを次世代シークエンサーにアプライ!

 この一連の操作は,約1週間の時間を要する.この操作,現在2名の技師で実施しており,1週間で処理できる検体数は20〜30検体.検査申込検体数は1カ月で約100検体.もうギリギリ! この検査作業だけでなく,週2日は外来に出て,検査内容の説明を患者に,1人につき30分間みっちり行っているうえに,週に2回のエキスパートパネル(がんゲノム解析結果から治療方針を話し合うカンファレンス)に出席.“やりがい”は,とてつもなくある! しかし,2人しかいない! この仕事量をこの人数でこなせるには理由があるのだ.

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目次

書評 植田 政嗣

「検査と技術」2月号のお知らせ

次号予告

バックナンバー一覧

あとがき 佐藤 尚武
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 今回の「あとがき」は,2018年の11月下旬に執筆しています.今年の秋は全般的に暖かく,東京地区では晩秋に至るまであまり寒さを感じませんでしたが,さすがにここ1,2週ほどで急激に寒さが増し,冬の気配が感じられるようになりました.8年ぶりに東京で開催された第65回日本臨床検査医学会学術集会(11月15日〜18日)が終了した頃から,東京の秋も本格化した印象を受けます.

 さて,今月号の特集テーマは「てんかんup to date」と「災害現場で活かす臨床検査—大規模災害時の経験から」です.第2特集では大規模災害に関連したテーマを取り上げていますが,振り返ってみると,2018年もさまざまな自然災害がありました.印象が強いのは,6月末から7月にかけての西日本豪雨と9月に襲来した台風21号,そして同じく9月に発生した北海道胆振東部地震でしょうか.西日本豪雨は停滞した梅雨前線と台風7号によるもので,記録的な雨量を計測し,中国地方に甚大な水害をもたらしました.台風21号も数々の被害をもたらしましたが,特に関西国際空港が一時的に閉鎖に追い込まれたこと,そしてその連絡橋にタンカーが衝突したことが印象に残ります.胆振東部地震では,北海道で初めて震度7が記録され,発電所が大きな被害を受けたため,北海道の広い範囲で大規模停電が生じました.そのため,日本臨床検査医学会の第52回北海道支部総会が中止になっています.このほかにも2月には北陸で豪雪があり,4月には島根県西部,6月には大阪府北部で地震がありました.台風も7号や21号以外に,“逆走台風”と呼ばれた12号,四国から近畿を縦断した20号,全国55地点で最大瞬間風速が観測史上最大を記録した24号などがありました.このような状況を考えると,災害対策の重要性が痛感されます.

基本情報

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臨床検査
63巻2号 (2019年2月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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