臨床検査 63巻12号 (2019年12月)

今月の特集1 糖尿病関連検査の動向

山田 俊幸
  • 文献概要を表示

 糖尿病に関連する臨床検査の動向を特集として取り上げました.最も多い2型糖尿病は自覚症状に乏しく,徐々に合併症が進行する厄介な病気ですが,自分の体質を理解し,健診をしっかり受けて耐糖能状態を知り,体重そのほか適切に自己管理していけば,予防や病気の進行を抑えることが可能です.新薬も続々と登場してきています.糖尿病診療の動向全般については冒頭の佐藤論文に程よくまとめられていますので,そちらをご覧ください.

 さて,糖尿病のリスクを知らせるのも,管理の状態を知らせるのも,血糖とグリコヘモグロビン(HbA1c)が中心です.そのPOCTや連続モニターを含めた最新の測定や標準化の現状を本特集でしっかりと把握してください.合わせて,血糖,HbA1cを補助するグリコアルブミン,インスリン関連のホルモン検査,1型糖尿病の診断にかかわる自己抗体検査など,糖尿病診療で登場する検査項目についても知識を整理していただけたら幸いです.

糖尿病診療の変遷 佐藤 麻子
  • 文献概要を表示

Point

●糖尿病とはインスリンの作用不足に基づく慢性の高血糖状態である.近年,その成因や病態が解明されつつあり,それに基づく新薬が開発されている.

●慢性合併症の発症・進展を予防するための血糖コントロールの目標,糖尿病治療薬の選択のための大規模臨床試験が進められている.

●治療の目標は高血糖の是正から,細小血管症の発症・進展予防,現在では大血管症の発症・進展予防と変遷してきている.

●多くの新薬の開発が進んでいるが,治療の基本である生活習慣改善には医師のみならず,栄養士や看護師などによるチーム医療が必要である.

HbA1cのその後 石橋 みどり
  • 文献概要を表示

Point

●日本糖尿病学会(JDS)は2010年に糖尿病診断基準を改訂し,ヘモグロビンA1c(HbA1c)が診断基準項目に加えられ,従来のJDS値からNGSP値となった.2013年以降,臨床現場では健診を含めNGSP値のみの運用が定着した.

●わが国では日本医師会サーベイによるHbA1c NGSP値の全方法間の変動係数(CV)は1.5%未満で測定精度は臨床上問題のない状況にある.また,CAP Surveyにおいても5%程度で,NGSP認証試薬の使用が普及している.

●科学的根拠の明確な国際臨床化学連合(IFCC)値をアンカーとするHbA1c測定体系により,NGSP値とIFCC値の関係を把握し,十分な議論がなされることは国際的整合性を維持・推進するために重要である.

グリコアルブミンの現状 安川 恵子
  • 文献概要を表示

Point

●グリコアルブミン(GA)は糖尿病治療時の治療効果の評価のほか,糖尿病透析患者や糖尿病妊婦,異常ヘモグロビン(Hb)を有するなどヘモグロビンA1c(HbA1c)が不適な患者において活用されている.

●年間約300万人の献血者にGA検査が実施されているが,血清を用いてほかの生化学項目と同時に検査できるためGAは糖尿病のスクリーニングに適している.

●国内外の有力コホートにおける評価により,GAの糖尿病合併症との関係,HbA1cと比較した特徴が明らかになってきた.

●日本臨床化学会(JSCC)においてGAの標準化体系が確立されており,グローバルな普及と,それに伴う世界標準化の達成が今後の課題である.

  • 文献概要を表示

Point

●糖尿病の病態はインスリン分泌不全とインスリン抵抗性であり,これらの病態を把握するためにインスリン,Cペプチドの測定をすることは臨床上重要である.

●グルカゴンの抑制効果を有するインクレチン関連薬の登場により,グルカゴンの重要性がクローズアップされてきている.

●グルカゴン測定方法は従来のC末端抗体を用いた競合法放射免疫測定法(RIA)では特異性に問題があったが,サンドイッチ酵素免疫測定法(ELISA)により特異性が大きく改善した.

  • 文献概要を表示

Point

●1型糖尿病は,主たるものは自己免疫機序により膵β細胞が障害されることに起因し,血中膵島関連自己抗体が診断のマーカーになる.

●グルタミン酸脱炭酸酵素(GAD)抗体,IA-2抗体,インスリン自己抗体(IAA),ZnT8抗体,膵島細胞抗体(ICA)が主要な膵島関連自己抗体として臨床応用されている.

●日本人1型糖尿病(自己免疫性)の90%以上はGAD抗体,IA-2抗体,IAA,ZnT8抗体のうち少なくとも1抗体を有するが,多種類測定することで1型糖尿病の診断能が向上する.

POCTの現状 菊池 春人
  • 文献概要を表示

Point

●糖尿病関連検査でPOCTとして実施されているものには,血糖,ヘモグロビンA1c(HbA1c),3-ヒドロキシ酪酸(3-OHBA)などがあり,それぞれPOCTとしての意義は少し異なる.

●臨床現場での血糖測定は血糖自己測定(SMBG)装置ではなく,より精度の高いPOCT対応血糖測定装置を用いるべきである.

●POCTであっても,医療法などの改正に対応して,測定標準作業書,作業日誌などを整備する必要がある.

持続血糖モニタリングの現状 瀬口 正志
  • 文献概要を表示

Point

●持続血糖モニタリング(CGM)システムにはプロフェッショナルCGM(患者非通知,検査目的),リアルタイムCGM(パーソナルCGM:患者がリアルタイムにデータ確認),フラッシュグルコースモニタリング(FGM)の3種類があり,治療目的,患者の自己管理能力などで選択する.

●CGMは全ての1型糖尿病患者と,強化インスリン療法中の2型糖尿病患者で血糖目標が達成できていない患者や糖尿病を有する妊婦,無自覚性低血糖の患者,低血糖に対する恐怖心が強い患者においても推奨される.

●CGMでの効果を最大限に得るためにはシステムの知識や手技,治療アドヒアランスの改善,データの解釈や対応方法など患者教育を継続的に行う必要がある.

今月の特集2 高血圧の臨床—生理検査を中心に

河合 昭人
  • 文献概要を表示

 2019年に新しく発表された「高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)」では,元来正常と判断されていた患者に対しても積極的な治療介入を勧めています.そこで,本特集では高血圧の臨床を生理検査の視点から俯瞰し,基礎的な内容である血圧測定の方法や意義,高血圧時の各種生理検査における臨床像をわかりやすく解説いただくことで,どのように治療効果の判定につなげているか理解することを目的としました.

 生理検査としては,基本的な検査である心電図検査と心エコー検査を紹介しています.また,原因の1つとして挙げられている閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)についても論じました.治療については,生活習慣の改善と薬物療法について解説いただきました.

 生理検査に従事している方はもちろんですが,そうでない方にも知識のアップデートとしてご一読いただければと思います.皆さんのスキルアップの一助となれば幸いです.

  • 文献概要を表示

Point

●わが国の高血圧患者数は約4,300万人に上り,高い罹患率を認める.

●しかし降圧目標を達成している患者数は約30%にとどまる.

●健康寿命延伸のためには高血圧診療のさらなる強化が必要である.

●高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では,高値血圧に分類される患者に対しても積極的な介入を求めている.

●降圧目標値についても引き下げられ,厳格な降圧療法を求めている.

血圧の測定法とその意義 浅山 敬
  • 文献概要を表示

Point

●血圧の正確な測定は,高血圧の治療管理の根幹である.最新のガイドラインに沿った正しい血圧測定方法を身に付けておくべきである.

●高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)では,新たに家庭血圧に基づいた血圧区分が提示され,医療従事者による患者の家庭血圧測定環境や手技の確認・指導の重要性が述べられている.

●病院や検診など医療現場での(診察室)血圧測定には,水銀血圧計の代わりに,十分訓練された検者による電子圧力柱血圧計を用いた聴診法での測定と,上腕式自動血圧計による測定が推奨される.

  • 文献概要を表示

Point

●高血圧はわが国において約4,000万人が罹患している頻度の高い疾患であり,心電図検査による高血圧とそれに伴う心肥大のスクリーニングは有用性が高い.

●左室肥大の心電図基準としてSokolow-Lyon診断基準の“V1誘導のS波+V5もしくはV6誘導のR波>35mm”が頻用されている.

●左室肥大の特徴的心電図所見として,“左室側誘導のR波増高”,“QRS時間の延長”,“再分極異常”が挙げられる.

高血圧の心エコー 赤坂 和美
  • 文献概要を表示

Point

●左室肥大は高血圧患者の独立した予後規定因子であることが知られており,左室心筋重量係数(LVMI)による左室肥大の評価が必要である.

●高血圧症は心不全の原因疾患として一般的であり,左室駆出率(LVEF)の保たれた心不全(HFpEF)の原因として最も多い.

●心エコー図検査で非侵襲的に拡張能を評価することは,心不全診療の視点からも意義は大きい.

睡眠時無呼吸症候群と高血圧 得能 智武
  • 文献概要を表示

Point

●睡眠時無呼吸症候群(SAS)は,治療抵抗性高血圧の原因であることが多く,高血圧症を治療する場合,鑑別の1つとして考える必要がある.

●睡眠中に無呼吸が起こると低酸素から交感神経活性化を介して夜間高血圧,早朝高血圧をきたすが,長期罹患重症例は,昼間の高血圧の原因にもなる.

●重症例においては,持続陽圧呼吸療法(CPAP)などによる積極的な加療により,血圧コントロールが改善する症例も認める.

  • 文献概要を表示

Point

●高血圧治療の基本は生活習慣の包括的改善にある.

●生活習慣の評価のために各種検査を行う.

●薬物療法を開始するにあたり,患者の臓器障害の程度は薬物選択の決め手となる.

●治療中には効果判定のためのみならず,副作用のチェックのためにも臨床検査を行う.

  • 文献概要を表示

■はじめに

 生体に細菌やウイルスなどの病原微生物や異物(抗原)が侵入すると,抗原を攻撃して排除しようとする物質(抗体)が体内で作られる.B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)感染に関しては,ウイルスの本体であるHBV DNA検査に加えて,HBVマーカーと呼ばれるHBVの抗原および対応する抗体を血液検査によって調べ,症例の病態を判断する.

 HBVマーカーの臨床的意義について,表11)に示す.HBV感染者では,肝臓の細胞質内でHBs(hepatitis B surface)抗原,HBe(hepatitis B envelope)抗原が産生され,細胞外へ分泌される.コア抗原〔HBc(hepatitis B core)抗原〕も主に細胞質で産生され,一部は核内に移行しウイルス複製や病態形成にも関連するが,Dane粒子と呼ばれる感染粒子やp22crと呼ばれるHBV遺伝子をもたない空の粒子の構成成分(キャプシド)として細胞外へ分泌される.これらは,HBコア関連抗原(HB core-related antigen:HBcrAg)として検出可能である.

 B型急性肝炎の診断には,発症初期の血中HBs抗原・HBV DNAおよび免疫グロブリンM(immunoglobulin M:IgM)-HBc抗体高力価の証明が必要である.IgM-HBc抗体は,B型慢性肝炎の急性増悪時にも低力価上昇を示すことがある.B型慢性肝炎の診断には,HBs抗原陽性,HBc抗体高力価陽性,HBV DNA陽性が重要である.典型的な臨床経過でみられるHBVマーカーの挙動について,一過性感染時(図1)2),持続感染時(図2)2)に分けて示す.

 このようにHBVマーカーは,HBV感染の有無を調べるスクリーニング検査,HBV感染既往の確認,B型肝炎ワクチン(HBワクチン)接種効果の判定などに役立つ.一方で,抗原および対応する抗体が共存する症例もみられ,病態の判断に難渋することがある.

 本稿では,HBs抗原とHBs抗体の共存例,HBe抗原とHBe抗体の共存例について取り上げ,その原因を解説する.

INFORMATION

--------------------

目次

書評 伊藤 仁

書評 北村 聖

「検査と技術」12月号のお知らせ

バックナンバー一覧

次号予告

あとがき 関谷 紀貴
  • 文献概要を表示

 令和元年も年の瀬を迎え,読者の皆さまも忙しくお過ごしのことと存じます.今年の秋はラグビーワールドカップが大きな盛り上がりをみせましたが,その一方で自然災害による被害も身近に感じられた1年であったと思います.

 なかでも,9月と10月に大きな被害をもたらした台風15号(アジア名:Faxai),台風19号(アジア名:Hagibis)は記憶に新しい自然災害です.台風は発生地域ごとにサイクロン,ハリケーンなどと呼ばれていますが,最大風速17m/s以上の場合に台風と呼ばれます.一般に強さ(強い,非常に強い,猛烈な)と大きさ(大型,超大型)によって表現され,台風15号は非常に強い台風,台風19号は大型で猛烈な台風でした.関東地方では観測史上最強クラスの勢力とされた台風が2カ月連続で上陸したことになり,台風自体の風雨被害に加えて,通過後の水害,ライフラインの断絶など多くの爪痕を残しました.

基本情報

04851420.63.12.jpg
臨床検査
63巻12号 (2019年12月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

文献閲覧数ランキング(
11月23日~11月29日
)