臨床検査 47巻13号 (2003年12月)

今月の主題 イムノアッセイ

巻頭言

イムノアッセイ 片山 善章
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 生体試料中の成分濃度は血液100ml中にg,mg,μg,ng,pg,fg,agと千分の一のオーダーずつ低くなる.これらの濃度の成分を,臨床検査において,いわゆる,直接的に化学的な測定が可能な濃度は血中アンモニアや血清鉄などで数十から数百μg/dlである.また,数μg/dlの比色分析としては,現在のように甲状腺ホルモンのT3,T4濃度が測定できなかった30年ほど前は,血漿蛋白と結合しているprotein bound iodine(PBI)を乾性灰化した無機ヨードを化学的に測定して甲状腺ホルモン量としていた.

 そのように数μg/dl以下の生体の微量成分濃度をイムノアッセイできる方法として放射免疫測定(radioimmunoassay;RIA)法が開発された.

 このRIA法は1959年にBerson and Yallowによりヒト血中インスリンの測定に利用され,免疫測定法に大革命を起こしたといっても過言ではない.その後,RIA法は視床下部・下垂体機能,甲状腺・副甲状腺,副腎髄質・皮質,性腺・胎盤,糖代謝などに関係する低分子,ペプチドホルモンの測定が可能となり,内分泌疾患の診断,治療に大きく貢献したことは周知のとおりである.

総論

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〔SUMMARY〕 ラジオイムノアッセイが開発され50年近くの歳月が流れた.その後その欠点を補うべく種々の非放射性イムノアッセイが開発されてからもかなりの年月が過ぎ,検出法も時代の経過とともに種々の方法が開発されてきた.第一世代の検出法を比濁,吸光度,蛍光法とすると,さらに高感度化,高速化の追及により化学発光法が開発され,これを第二世代とするならば,環境に優しく高感度な生物発光検出法はいわば,第三世代の検出法として位置づけられる.本稿ではこれら検出系の進歩について概説する.〔臨床検査 47:1601-1610,2003〕

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〔SUMMARY〕 臨床検査領域でのイムノアッセイ系について解説し,それらを応用した自動分析機器の測定原理についても記述した.光散乱を光学的に検出する定量分析法としての比濁法,比朧法,ラテックス凝集法と,RIA/EIAのような標識物質を検出する高感度イムノアッセイとして,蛍光イムノアッセイ,化学発光イムノアッセイ,さらに電気化学発光法がある.前者は均一系の測定であり,後者はB/F分離を行う不均一系が主流である.不均一系では特に,標識物質の種類,固相法,標識法などがそれぞれ工夫されている.〔臨床検査 47:1611-1618,2003〕

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〔SUMMARY〕 膠原病患者血清中に検出される自己抗体は特定の臨床像と密接に関連し,疾患の補助診断,病型分類,予後の推定,治療効果判定など,臨床的に有用である.50種類以上に及ぶ自己抗体とその対応抗原が確認されており,かかる自己抗原の多くは遺伝子の複製,転写,RNAプロセッシング,蛋白の翻訳など細胞の重要な生命現象に関与する酵素あるいは調節因子であることが判明している.〔臨床検査 47:1619-1625,2003〕

各論 イムノアッセイの実際

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〔SUMMARY〕 HCV抗原検査を例として,イムノアッセイによる抗原検査において要求される性能について概説した.最近開発されたHCV抗原検査CLEIA法は,広い定量域を有し,インターフェロン治療,高リスク患者のモニタリングなどにおいてウイルス量の変動の把握に有用である.また,感染初期のHCV感染の確認,スクリーニングにおけるHCV抗体陽性例に対する追加検査として実施すれば,NAT検査の必要性を大幅に削減できる.検査に要する時間はCLEIAの場合1時間以内であり,診療前検査も可能である.〔臨床検査 47:1627-1632,2003〕

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〔SUMMARY〕 感染症の抗体検査には,赤血球凝集反応を利用した半定量法からEIA, CLEIA, ECLIAなどの定量法まで種々の測定法がある.半定量法は肉眼判定や手技の違いによる誤差が生じるが確認試験となるものもある.いずれの方法も非特異反応が生じる可能性があり,異なる方法での測定が必要である.WB法や最終的にはPCR法でウイルス感染の証明が必要となる.〔臨床検査 47:1633-1640,2003〕

低分子抗原物質 森下 芳孝
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〔SUMMARY〕 近年,イムノアッセイを測定原理とする全自動免疫測定装置は検出系や分析条件に改良が加えられ,体液中の微量物質を高感度で精度よく測定できるようになった.甲状腺,下垂体,卵巣,膵臓,副腎皮質などから分泌されるホルモンをはじめPSA,β2ミクログロブリンなどの血清および尿中に微量に存在する低分子抗原物質について,検査室でよく利用されている全自動免疫測定装置10機種の最小検出感度,測定範囲等の測定精度を示した.同時にそれらの項目について,測定意義ならびに測定時の注意事項を示した.〔臨床検査 47:1641-1654,2003〕

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〔SUMMARY〕 輸血医療において最も問題となるのは血球の持つ抗原と抗体の反応である.赤血球では中でもABO式血液型での抗原抗体反応(不適合輸血)は時に致死的である.血小板輸血においては患者に生じた抗血小板抗体(ほとんどが抗HLA抗体)は輸血された血小板と結合し,速やかに体内からクリアーされることから輸血された血小板は十分な止血効果を示すことができない.白血球抗原と抗体の反応は時には発熱反応や,輸血関連急性肺障害(TRALI)を惹起する.輸血における検査とは抗原抗体反応が起こらないようにあるいは起こらない組み合わせの製剤を選択するために必須の検査であり,その本態はイムノアッセイにほかならない.〔臨床検査 47:1655-1659,2003〕

話題

ラテックス凝集法の高感度化 関根 盛
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1.はじめに

 ラテックス粒子を最初に免疫学的測定法に応用したのは,Singerら1)である.Singerらはヒト免疫グロブリンリGを結合させたラテックス粒子を用いてリウマチ因子を定性検査できることを報告した.ラテックス粒子表面で抗原抗体が起きることによりラテックス粒子の凝集が生じることを発見したものであり,このラテックス粒子の凝集を肉眼的に捉える方法であった.その後,ラテックス粒子の凝集を光学的に捉える方法がいくつか報告2~4)されたが,実用化には至らなかった.これは,抗原の精製技術による使用抗体の特異性の問題やラテックス粒子合成技術による均一性の問題などが考えられる.

 Cambiasoら5)はparticle counting immunoassayという方法を1977年に報告し,同時にその測定装置も開発している.Cambiasoらの方法は実用化の第一号と言えるかもしれない.1970年代後半から1980年代になると,近赤外線を用いたLPIA法(latex photometric immunoassay)が沢井6)により開発され,現在,専用装置・専用試薬のLPIAシステムとして一般的に検査ルーチン法として使用されている.また,白色光を用いた方法が開発され,専用装置・専用試薬のLAシステムとして検査ルーチン法として使用されている.最近では,一般生化学用自動分析装置でも測定できるようなラテックス試薬が開発され,現在では検体数の多いC-反応性蛋白(CRP)などの検査項目では専用装置・専用試薬に代わり,他の多くの検査項目の同時測定も可能で処理能力の高い一般生化学用自動分析装置での測定が主流になってきている.

 このような一般生化学用自動分析装置での測定が可能になったのは,ラテックス試薬の精度,感度などが大きく向上したことによる.また,一般生化学用自動分析装置自体の種々の精度が向上したばかりでなく,多点検量機能など免疫学的測定法に特有の現象に対応できる機能を装備したことによると考えられる.

ハイブリッド型測定装置 東野 光一
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1.はじめに

 臨床検査で測定される生化学,免疫分野での項目成分は,酵素,糖質,脂質,蛋白質,含窒素化合物,無機質,ホルモン,腫瘍マーカーなど多くの項目がある.それに伴い,その検出測定方法も,多岐にわたる.そのため,その測定原理,成分濃度域の違いから,酵素分析を中心とする生化学分析と,EIA,RIAなどの免疫学的反応を原理とした免疫学的測定法とに大きく分かれていた.しかし,免疫学的測定法に電気化学発光法を用いた方法が開発され,測定時間も18分と大幅に短縮され,生化学分析法との測定時間差の問題点が解消されてきた.従来,不可能と思われていた生化学分析と免疫学的測定の同一プラットフォーム上での分析がこれにより可能となった.本稿では,生化学自動分析装置と全自動免疫分析装置のそれぞれの開発ステージ,歴史に関して概略を説明した後,生化学と免疫の両方の項目を測定できる“ハイブリッド型測定装置”に関して述べることとする.

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1.はじめに

 イムノアッセイにおいて,現在特別な機械などを必要としない最も簡便な測定法の1つがイムノクロマトであろう.1990年頃から開発され始めたこの技術は,1992年(平成4年)にOTC分野でセルフチェックテストとしての妊娠診断薬が,薬局・薬店で販売されたことによって身近なものになった.検体を供給するだけで短時間のうちに着色ラインが発現するという画期的なこのシステムは,当然医療機関の臨床検査分野でも注目され,感染症や便潜血反応など様々な項目に応用されるようになった.

 1999年(平成11年)に,C型肝炎ウイルス(HCV)診断薬の1つとして,イムノクロマトを用いたHCV抗体スクリーニング試薬が開発され,緊急検査を始め多くの医療現場で使用されることになり,その簡便性と性能に高い評価を得ている1~3)

 一方,検査現場からはこのように便利なイムノクロマトについて,原理などの質問を受けることがよくある.本稿では,「オーソ クイックチェイサーHCV Ab」(以下,クイックチェイサーHCV Abと称す)に関して,その操作性や性能に寄与するイムノクロマトの原理・特徴について製造法を交えて解説する.

イムノセンサー 廣田 晃一
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1.はじめに

 イムノセンサーとは,バイオセンサーの一種であり,トランスデューサー表面に固定化された抗体が抗原を捕捉するときに起きる変化をトランスデューサーによって電気信号に変換することで検出するしくみになっている.大きく直接型イムノセンサーと間接型イムノセンサーに分けることができる.間接型イムノセンサーの中には通常のイムノアッセイとの差異が明確でないものもあるが,基本的にトランスデューサー表面(あるいは近傍)に抗体が固定化されているものをセンサーとするのが一般的である.

 本稿では,イムノセンサーの種類と,代表的な直接型イムノセンサーである,SPRセンサーおよび圧電変化型イムノセンサーを紹介する.

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1.はじめに

 ゲノムプロジェクトによって約30億塩基対のヒト遺伝子の配列が明らかになり,次に,その情報を利用した大規模なSNP(single nucleotide polymorphism)解析が開始されている.こうした大規模スクリーニングの結果,疾患に関連した遺伝子の変異や多型,さらには,遺伝子発現ネットワークの全貌が明らかにされようとしている.将来は,こうした遺伝子情報を利用して,分子レベルでの各個人の体質や病状に合わせた医療,すなわち,テーラーメイド医療が展開されるであろう.こうしたテーラーメイド医療を実現するためには,臨床検査の現場で使用可能な,迅速性,再現性,簡便性に優れた遺伝子解析ツールが必須となる.

 マイクロアレイ技術は最近注目を集めている遺伝子解析ツールの1つであり,シリコン基板やスライドガラスの上に数千から,時には1万個以上の遺伝子を合成,もしくはスポットし,一度に数多くの遺伝子の発現量や変異を解析することを可能にした革新的な技術である.マイクロアレイの登場によって,従来の測定技術では“点”でしか得ることができなかった複数の遺伝子変化の関係を“多面的に”解析することが可能になった.このマイクロアレイ技術の元をたどれば,1991年のAffymetrix社(当時はその前身であるAffymax社)の発表にその端を発している1).Affymetrix社は半導体製造装置と光化学反応を組み合わせてシリコン基板上の微小領域にアミノ酸を重合させ,多種類のペプチドを高密度に合成する技術を完成させた.さらにその後でシリコン基板上に核酸を合成する技術を追加し,現在のマイクロアレイ技術の基礎を作り上げた.したがって,現在のマイクロアレイ技術の先祖はペプチドチップであったといえる.

 今日のマイクロアレイ技術は,遺伝子の発現解析のみならず,遺伝子の点突然変異やSNP解析,イムノアッセイにも用いられている.ここでは,将来的な臨床応用をめざして開発されたPAMマイクロアレイシステムを中心に取り上げ,マイクロアレイ技術の様々な応用範囲とその可能性について言及したい.

サイトカイン 所 崇 , 北島 勲
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1.サイトカインの特徴

 サイトカインとは,免疫担当細胞に代表される様々な細胞から産生される生理活性物質である.サイトカインの特徴を以下に列挙する1)

 1) サイトカインは糖蛋白である 多くのサイトカインは糖蛋白であり,分子量約1~10万である.

 2) サイトカインは微量で作用する in vitroで,サイトカインはpg~ng/mlの微少な濃度で十分に生理活性作用を示す.一方では,ある一定の濃度以下では生理活性は示されず,作用が発揮される閾値が存在する.また,一定の濃度以上ではプラトーに達してしまうこともある.

 3) サイトカインは主に産生された局所にて活性を示す サイトカインは,産生された局所にて活性を示すことが多い.その一例として,関節リウマチの滑膜組織では,インターロイキン1(IL-1)や腫瘍壊死因子(TNF-α)などが大量に産生され,破骨細胞を活性化し骨破壊が起こることが挙げられる.

 4) 単独のサイトカインが複数の生理活性作用を示す 多くのサイトカインは1つの分子であるにもかかわらず,多彩な生理活性作用を有する.例えばIL-1は,免疫系の賦活作用以外に,白血球や破骨細胞,血管内皮細胞,滑膜細胞,線維芽細胞など様々な細胞に働き,その活性化を引き起こす.これはサイトカインの“pleiotropy”とも呼ばれる.

 5) サイトカイン産生細胞が多様に存在する サイトカインを産生するのは単一の系列に属する細胞群に限らない.IL-1を例に挙げると,マクロファージからだけでなく,T細胞,B細胞,NK細胞,多核白血球,血管内皮細胞,滑膜細胞,皮膚のランゲルハンス細胞など,様々な細胞から産生される.

 6) 異なるサイトカインが同一の作用を有する IL-1とTNF-αの生理活性はほぼ同一であり,また産生制御機構も極めて類似している.これをサイトカインの“redundancy”と呼ぶ.このように一見無意味に思われる現象であるが,生体内ではこの現象により危険回避をしている可能性が推定できる.それは1つのサイトカイン遺伝子が何らかの原因によって異常を起こしても,別のサイトカイン遺伝子がこれをカバーするからと考えられている.

 7) サイトカインは相乗的あるいは拮抗的に働く IL-1やTNF-αなどの炎症性サイトカインは同時に複数存在することで,その作用が相乗的に働く.つまり,複数のサイトカインが低い濃度で産生されたときに,単独で働かなくても,それらのサイトカインが同時に存在することで,相乗的に強い活性を示す.この現象は炎症反応における増悪・慢性化に関わっている.またIL-10はマクロファージに作用することで,IL-1やTNF-αの産生を間接的に抑制する.IL-4やIL-13もIL-10同様の作用を持ち合わせており,抗炎症性サイトカインとして注目を集めている.

 8) 正のフィードバック機構を有するサイトカインカスケードの存在 1つのサイトカインが産生することで,次のサイトカイン産生が誘導される.このような現象を“サイトカインカスケード”,または“サイトカインネットワーク”と呼ぶ.例として,IL-1が産生されるとTNF-α,IL-6,IL-8,GM-CSFなどの産生が誘導される.炎症反応において,IL-1が産生されることで,さらにIL-1産生が誘導されるという正のフィードバック機構が働くことが知られている.

 9) サイトカインインヒビター・アンタゴニストの存在 サイトカインにはインヒビター,またはアンタゴニストが存在する.例えば,IL-1アンタゴニスト(IL-1ra)はIL-1と構造が似ているために,IL-1レセプターと競合的に結合する.すなわちIL-1の活性を特異的に阻害することになる.IL-1raはIL-1レセプターと結合しても,IL-1のように細胞内シグナルを伝達しない.またIL-1raを産生する細胞は,同時にIL-1も産生する.つまり,同じ細胞がIL-1,IL-1raを産生することで免疫応答の調節をしているということがいえる.

 10) サイトカインは正と負両面の作用を有する サイトカインは生体の恒常性を保つうえで必要不可欠な存在である.一方で,炎症反応により過剰産生され病態の増悪・慢性化につながる.例えば関節リウマチ患者の関節滑膜ではIL-1,IL-6,TNF-αなどの炎症性サイトカインが大量かつ持続的に産生される.これにより滑膜細胞の増殖,破骨細胞の活性化,軟骨細胞の破壊が起こり,関節組織が破壊される.またサイトカインがサイトカイン産生を誘導し,炎症の慢性化を引き起こす.

今月の表紙 電気泳動の解析シリーズ・12

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 乳酸脱水素酵素(LD, E.C.1.1.1.27)と結合する免疫グロブリンが血液中に存在すると,アイソザイム検査では様々な異常パターンを呈する.またLD活性は低活性異常として見い出される例も稀に認められるが,病態を反映しない高活性異常として観察される場合が多い.その出現頻度は200~400人に1人とかなり高いのが特徴である.LD結合免疫グロブリンを自己抗体と考えるか否か十分な結論は得られていないが,検索されたほとんどの例で免疫グロブリンのFab部との結合が証明されていることから自己抗体であるという考え方が主流であった.LD結合免疫グロブリンは酵素のLDよりも免疫グロブリン側に異常があることがわかっているが,どのような構造異常なのか全く解明されていない.なぜなら,LD結合性を示す免疫グロブリンは全体の免疫グロブリンのごく一部であり,結合性免疫グロブリンのみを精製することは非常に困難であるからである.

 最近われわれは,LD結合免疫グロブリンの結合様式を解明するうえで重要な手がかりとなるM蛋白にLD結合能を認めた極めて稀な3症例を見い出した.そのうち,前号で示したLD-IgG1型M蛋白複合体例では抗原抗体反応ではなく,他の結合様式をとる可能性を解説した.それでは,一体どのような結合メカニズムが考えられるのだろうか?

コーヒーブレイク

父・師・弟子 屋形 稔
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 昔から医は仁術と説かれている.その代名詞のごとく使われている赤ひげは有名な医師である.しかし山本周五郎の赤ひげ診療譚の中の当の赤ひげは「医が仁術などというのは金儲けめあての薮医者が不当に儲けることを隠蔽するために使うたわ言だ」と憤慨している.

 これに関連していつも脳裏に浮ぶのは人口1~2万の小さい町の開業医として一生を終えた亡父の姿である.戦時中は町でたった1人の医者として昼も夜も診療に追われ,老いの身で病いに冒されても休めず往診直後に身まかってしまった.私はまだ医の修業中で,生来無口であった父から医は仁術などの言を聞くこともなかった.保険のない頃で未払いの請求書を便所のおとし紙に使わされていたから子として赤ひげの姿をダブらせて考えたいところであるが,その言を聞かされた記憶はない.今老いてますます懐かしく思い浮ぶ父の背中である.

シリーズ最新医学講座・Ⅰ 免疫機能検査・36

好中球機能不全 中村 三千男
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はじめに

 好中球は細菌の侵入してきた部位に遊走し,これを貪食して殺すいわば生体防御での先兵の役割を担っている.急性感染症で白血球数が増加することからわかるように,その役割を果たすのに,基本的には数を増やして対応している.しかしながら,たとえ数が増えても細菌が侵入した場所に遊走できなかったり,個々の細胞の殺菌能が極端に低下していると十分な殺菌ができないために感染症になる.このような際には,その機能が重要になってくるわけである.ここでは好中球の殺菌異常と粘着異常による炎症巣への遊走不全を取り上げる.文献は最小限にとどめているので,必要に応じて報告者名などをキーワードにMedlineへアクセスして欲しい.

シリーズ最新医学講座・Ⅱ シグナル伝達・12

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はじめに:細胞内の蛋白質輸送

 真核細胞は,脂質二重膜に囲まれた細胞内空間に,さらに脂質二重膜で仕切られたコンパートメント(オルガネラあるいは細胞内小器官)をもつ(図1).各オルガネラは,それぞれ特徴的な構造をもち固有の機能を発揮するとともに,他のオルガネラとも協調して細胞全体の機能を調節している.例えば,核は2枚の膜で仕切られ,その中にDNAを含んでおり,細胞分裂に際してDNAを複製するほか,遺伝情報をRNAへと転写する.ミトコンドリアは外膜と内膜の二重の膜に囲まれた構造をとり,細胞活動に必要なエネルギーの産生のほか,細胞の死をも制御している.また小胞体は細胞内に網目状に広がった袋状構造をとり,分泌蛋白質の合成に働く.

 オルガネラを構成する蛋白質を含めて,真核細胞で合成される蛋白質のほとんどは核内のDNAに遺伝子としてコードされており,各遺伝子はmRNAに転写された後,細胞質ゾルのリボソームで蛋白質へと翻訳される.しかし,蛋白質ができただけではその本来の機能を果たすことはできず,働くべき場所まで運ばれてはじめて機能を発揮する.すなわち,合成された蛋白質を目的地となるオルガネラ,さらにオルガネラ内の適当な区画にまで送り届ける機構が必要である.「細胞内蛋白質輸送」は,細胞の構築と機能発現にとって最も基本的な機構であるといえる.

 この蛋白質輸送の機構について確立したのがBlobelである1).各々のオルガネラを構成する蛋白質には,局在化に働くシグナルが自身のアミノ酸配列の情報として含まれており(表1),それを細胞質とオルガネラ膜の輸送装置が順次解読することによって蛋白質の輸送が行われる.1980年代に各々のオルガネラ局在化シグナルの大まかな配列特性が明らかにされ,その後輸送シグナルを認識し,輸送に働く装置が明らかとされてきた.

 ここでは,オルガネラ局在化シグナルとその認識・輸送機構について,オルガネラごとにその特徴をまとめてみたい.

続・追悼 故 堀尾武一先生

組換えヒトCRPまでのことなど 松尾 雄志
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本誌Vol.47 No.7(813~815頁)で故 堀尾武一先生(大阪大学名誉教授)の追悼文を掲載いたしましたが,生化学分野の研究に真摯にとりくまれた先生の死を悼む声が編集室あてに多く寄せられました.そこで,故人に縁の深い先生方に追悼のお気持ちをまとめていただき,続・追悼として掲載いたしました.なお,堀尾先生の略歴はVol.47 No.7をご参照下さい.(編集室)

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 私は今も堀尾先生が亡くなったという気がしません.私の研究者としての魂ともいうべき心の奥深い芯の部分に生き続けているからでしょうか…….

 私は昭和42(1967)年6月に大阪大学大学院理学研究科修士課程1年生の学生として堀尾研究室に入門させていただきました.堀尾研への入室のキッカケは大学の1年先輩であった角野冨三郎さん(元大阪大学助教授,現エムエス機器株式会社開発部長)を訪ねて中ノ島の旧阪大構内鳥井記念館にあった堀尾研に見学に行ったことです.その折に,松尾雄志さん(オリエンタル酵母(株)常務取締役)や西川克三さん(金沢医大名誉教授)から堀尾先生の人柄や研究室の明るいカラー,研究テーマの魅力などをお聞きし,その場で入室を決めたと記憶しています.その時,堀尾先生は毎年恒例であったカリフォルニア大学サン・ジェゴ校(UCSD)のKamen教授の研究室に出張中で不在でした.入室約2か月後,帰国した堀尾先生と初めてお会いしました.その時に目にした堀尾先生の真赤なブレザー姿が今も鮮やかに蘇えります.晴ればれした笑顔で“やあ,君が中村君か!”と声をかけられたことが懐かしく思い出されます.

堀尾武一先生を偲ぶ 大川 二朗
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 神戸大学の生化学教室に大学院学生として入学した私はしばらく学外へ出ることを許され,大阪大学蛋白質研究所の共同研究員として採用していただき1966年から2年間を酵素反応部門の堀尾研で過ごすことになりました.

 その当時はチトクロームオキシダーゼの研究者として有名であった奥貫一男先生の直弟子であった堀尾先生の研究室のメインテーマは光のエネルギーをATP産生に結びつけるCoupling enzymeを見つけることで,多くの若い研究者が熱意を注いでおられました.またRhodamine肉腫を用いてトキソホルモンをテーマとする新しい研究グループも誕生して成果を挙げておられました.

 研究室の雰囲気は活気にあふれ専門分野の異なる大学院生が全国から集まり,それまではのんびりとしたムードで過ごしていた私にとっては新鮮な刺激でした.

 堀尾研のモットーは『よく学び,楽しく遊び』でした.蛋白研ではソフトボールやテニス,スキーなどの行事,日生球場を借り切った野球試合,岡山大学理学部藤茂研と野球での交流試合,先生のご家族もご一緒に楽しんだ賢島の海の家,奈良のお寺でのセミナーなどなど多くのレクリエーションへの参加が思い出されます.スポーツマンであった先生の姿を思い出すたびに『スポーツに秀でるヒトはいい仕事ができるヒト』と確信するようになりました.

基本情報

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臨床検査
47巻13号 (2003年12月)
電子版ISSN:1882-1367 印刷版ISSN:0485-1420 医学書院

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