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はじめに:細胞内の蛋白質輸送
真核細胞は,脂質二重膜に囲まれた細胞内空間に,さらに脂質二重膜で仕切られたコンパートメント(オルガネラあるいは細胞内小器官)をもつ(図1).各オルガネラは,それぞれ特徴的な構造をもち固有の機能を発揮するとともに,他のオルガネラとも協調して細胞全体の機能を調節している.例えば,核は2枚の膜で仕切られ,その中にDNAを含んでおり,細胞分裂に際してDNAを複製するほか,遺伝情報をRNAへと転写する.ミトコンドリアは外膜と内膜の二重の膜に囲まれた構造をとり,細胞活動に必要なエネルギーの産生のほか,細胞の死をも制御している.また小胞体は細胞内に網目状に広がった袋状構造をとり,分泌蛋白質の合成に働く.
オルガネラを構成する蛋白質を含めて,真核細胞で合成される蛋白質のほとんどは核内のDNAに遺伝子としてコードされており,各遺伝子はmRNAに転写された後,細胞質ゾルのリボソームで蛋白質へと翻訳される.しかし,蛋白質ができただけではその本来の機能を果たすことはできず,働くべき場所まで運ばれてはじめて機能を発揮する.すなわち,合成された蛋白質を目的地となるオルガネラ,さらにオルガネラ内の適当な区画にまで送り届ける機構が必要である.「細胞内蛋白質輸送」は,細胞の構築と機能発現にとって最も基本的な機構であるといえる.
この蛋白質輸送の機構について確立したのがBlobelである1).各々のオルガネラを構成する蛋白質には,局在化に働くシグナルが自身のアミノ酸配列の情報として含まれており(表1),それを細胞質とオルガネラ膜の輸送装置が順次解読することによって蛋白質の輸送が行われる.1980年代に各々のオルガネラ局在化シグナルの大まかな配列特性が明らかにされ,その後輸送シグナルを認識し,輸送に働く装置が明らかとされてきた.
ここでは,オルガネラ局在化シグナルとその認識・輸送機構について,オルガネラごとにその特徴をまとめてみたい.
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