コーヒーブレイク
父・師・弟子
屋形 稔
1
1新潟大学
pp.1626
発行日 2003年12月15日
Published Date 2003/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542101074
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昔から医は仁術と説かれている.その代名詞のごとく使われている赤ひげは有名な医師である.しかし山本周五郎の赤ひげ診療譚の中の当の赤ひげは「医が仁術などというのは金儲けめあての薮医者が不当に儲けることを隠蔽するために使うたわ言だ」と憤慨している.
これに関連していつも脳裏に浮ぶのは人口1~2万の小さい町の開業医として一生を終えた亡父の姿である.戦時中は町でたった1人の医者として昼も夜も診療に追われ,老いの身で病いに冒されても休めず往診直後に身まかってしまった.私はまだ医の修業中で,生来無口であった父から医は仁術などの言を聞くこともなかった.保険のない頃で未払いの請求書を便所のおとし紙に使わされていたから子として赤ひげの姿をダブらせて考えたいところであるが,その言を聞かされた記憶はない.今老いてますます懐かしく思い浮ぶ父の背中である.
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