呼吸と循環 38巻8号 (1990年8月)

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 高度先進医療を組み入れた治療では治療成績の評価の一つとしてquality of lifeは重要な尺度として考えられるようになった。そのため,治療体系も多様化し,治療法も疾患に対する標準治療法が確立する一方,症例に応じた細かい配慮がなされ,手術法としても標準術式に加えて縮小手術や拡大手術が症例によって適応されるようになり,治療成績の向上がはかられるようになった。また,術後もrehabilitationを活用してより高いqualityof lifeがえられる術式を優先的に選択するようになった。

 このような意味からも胸部疾患に対する肺機能温存と残存予備血管床の評価は術後予後とくにquality of lifeと密接な関係を持っている。また,肺疾患があると,心とくに右心負荷をうけることになるし,逆に,心疾患があると,肺うっ血による肺病変が器質化することになる。このように心と肺の機能は互いに密接な関係があるので,一方の臓器障害があると他の臓器にも機能障害を来たすことになる。これらの臓器機能障害は,いずれもvital organ dysfunctionとして直接関連し,その機能障害の程度は術後の予後とくにquality of lifeに関連する。そのため,高度機能障害に陥った心肺疾患に対する治療に関しては,その機能保持が直接予後に関連する因子ともなる。

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はじめに

 肺サーファクタントは肺胞II型細胞で合成され,肺胞腔へ分泌される脂質—蛋白質複合体で,肺胞被覆層を形成し,肺胞表面の空気相と液相界面の表面張力を著しく低下せしめることにより,肺胞の換気能力を維持する機能をもつ生理活性物質である1)。肺サーファクタントはきわめて特徴ある分子から構築されており,成熟動物ではその約90%は脂質,とくにジパルミトイル・ホスファチジルコリン(DPPC)とホスファチジルグリセロール(PG)が主成分である2,3)(図1)。肺以外の組織でリン脂質は膜構成分として存在し,PCは1位飽和脂肪酸(S),2位不飽和脂肪酸(U)のS-U分子種が大部分を占める。肺サーファクタントにはS-S分子種が大量に存在する4)こと,肺以外の組織では痕跡程度認めるにすぎないPGが比較的多く含まれる3,4)ことから,これら特異リン脂質の機能と生成機構が注目され多くの研究成果が蓄積されてきた3〜5)。すなわち,従来の肺サーファクタント研究の主題はDPPCおよびPGの機能と代謝調節の解析が中心であった。

 最近肺サーファクタントには,サーファクタント特異蛋白質が存在し(図1),肺サーファクタントは脂質—蛋白質重量比約10:1のリポ蛋白質であることが明らかとなった2)。いくつかのアポ蛋白質のcDNAが分離され6〜10),mRNAからのアポ蛋白質の合成,細胞内プロセッシングの過程が解析されている11,12)。またアポ蛋白質の生理的役割が検討され,アポ蛋白質がサーファクタントの機能および代謝を調節する担い手であることが示され6,13,14),注目されている。血漿リポ蛋白質の代謝の調節において,各種アポ蛋白質の役割がきわめて大きいように,現在肺サーファクタントの研究はそのアポ蛋白質をめぐって,従来の肺サーファクタントの研究とは異なった方向で新たな展開をみている。

抗不整脈剤の併用療法 比江嶋 一昌
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 最近の抗不整脈剤の開発にはめざましいものがあり,本邦でもここ数年,いろいろな抗不整脈剤の臨床治験が行われてきた。それらの中には,平成2年3月現在,すでに市販され,日常臨床に供されているもの(mexiletine,aprindine,verapamil,diltiazemやpropafenon),厚生省に申請中のもの(SUN-1165,cibenzoline,bepridil,flecainide),現在多施設において臨床治験中のもの(amiodarone,pirmenol,ME3202,D-600,E-4031,CV-6402,MD-26)など,さまざまなものがある。このように,メーカーサイドで薬剤の開発をあおっているのは,高齢化社会の到来で,心筋梗塞をはじめとする心疾患患者がふえ,それに相応して抗不整脈剤の適応患者もふえてきたことが主因であろうが,従来の抗不整脈剤は“帯に短し,たすきに長し”で,切れ味が良いとまた副作用も強く,この点,理想的な抗不整脈剤がまだ臨床に登場していないことにも起因していよう。

 理想的な抗不整脈剤の出現まで,なおかなりの時間がかかるとすれば,今日の薬物療法は従来の抗不整脈剤に頼らざるをえない。しかるに,薬剤の単独投与では効果がないか,効果があっても忍容性が低い場合,作用の異なる薬剤を二つ,三つ併用して,相加的ないし相乗的効果をねらい,一方では各々の投与量を減らすことで忍容性を高めるという治療法が行われるようになった。かかる治療法は併用療法combination therapyと呼ばれ,経口剤による治療が中心となるが,本邦においても,抗不整脈剤の種類がふえるにしたがい,各種の抗不整脈剤を組み合わせた薬物療法が試みられるようになってきた。

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I.Chromosome walkingとjumpingでたどり着いたCystic fibrosis遺伝子:上皮細胞・膜蛋白の異常

 アメリカを旅行中,自動車のラジオから流れて来る“When you grow up,when you grow up....”という子供の歌で始まるCystic Fibrosis協会の啓蒙放送を思い出す人が多いのではないだろうか。何という残酷な歌を使うのだろうか暗澹とした気持ちになったものである。cystic fibrosis(CF)はCaucasianにとって遺伝子頻度のもっとも高い遺伝性疾患であり,外分泌型の異常と呼吸器的には慢性の炎症をくり返す。抗生物質の使用により成人する患者も多くなったが,以前はほとんどの患者が10代で死亡した予後不良の疾患である1)。分泌液中のCl-イオンの異常,イオンチャンネルと考えられる膜蛋白の異常がその病態と考えられ,膨大な家系調査の結果により第7染色体長腕(7q31)に異常のあることが知られている。

 Chromosome walkingという術語は耳なれない言葉と思われるので少し説明する。遺伝子のcloningには周知の通りmRNAに相補的なcDNAのcloning(即ち蛋白質のアミノ酸配列そのものの情報)と,その基になる染色体上の遺伝子(genomic DNA)のcloningがある。通常cDNAがcloningされ,次にgenomic DNAの解析に進む2)。しかしながらgenomic DNAにはアミノ酸配列の情報を含むexonとその間の介在配列であるintronが存在する。染色体上のどの部分がexonであるのかはcDNAとハイブリッド形成を行う部分を手探りで探していく以外には方法がない。λファージ(約50kb)には最大約15〜20kbに渡って,外来のDNAを取り込むことができる。この部分に目的遺伝子の近辺のDNAを取り込み,少しずつ重ならせながら進めていくと,原理的には相当長い部分(数100kb)のDNAを解析できる(図1-a)。この方法はあたかも染色体上を手探りでゆっくり歩いていくようなものであり,chromosome walkingと言われる。

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はじめに

 心疾患と関連して発症する神経障害には種々のものが知られている1)。特に脳の循環系に及ぼす影響が最も大きく,神経内科医としては,これらについて十分な素養を必要とするが,同時に循環器疾患を専門とする医師も,臨床の場面ではこれらの中枢神経障害について常に配慮する必要があることは言うまでもない。本主題は,心疾患に伴って二次的に中枢神経が侵される疾患群という意味合いが強い。しかし,広義に解すれば相互に関連する疾患や症候,心疾患(高血圧を含めて)の治療と関連して発現する神経疾患もしくは症候なども含まれるが,紙数に限りもあるので,本稿では前者を中心に述べることにする。

Bedside Teaching

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 近年降圧剤開発の進歩は目覚ましいが,中でもAn-giotensin Converting Enzyme(以下ACEと略す)阻害薬の出現はそのすぐれた降圧作用と,患者の“qualityof life”の改善によって画期的なものである。同薬は比較的副作用が少なく,中枢神経系や心機能に対する抑制作用のないこと,糖脂質,尿酸代謝に対する影響などが極めて少ないことより現在高血圧治療の第一選択薬に位置づけられている。また降圧作用以外にも,心不全における死亡率の減少および心筋梗塞後の心機能の改善が報告されて以来ますますその使用頻度が増してきている。ところが1985年Soseko,Kanekoらによる初めての報告以来1),その副作用としてかなりの頻度で咳嗽が出現することが注目されている。以下症例を提示するとともに,この副作用の疫学,病因,治療について現時点での知見を解説する。

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はじめに

 重い心疾患は結局,心筋の質の悪化とともにさらに重症となり,その極限として死に至るものも少なくない。この心筋の変化は疾患の種類により,偏りと特徴がある。心筋の変化の行きつく所は心不全と不整脈であるが,その種類にも時間的な関係にも特徴がある。もちろん,同じ名前の病気であっても重症度によりさまざまな差がある。

 かつてはありふれた疾患と目された弁膜症,就中リウマチ性弁膜症もここ2,30年の間に著しく減ってしまったが,それでもなお,各年齢層の成人の中にいろいろな弁膜症が見られる。さらに,非リウマチ性の弁膜症はり前よりもかなり多く認識されるようになった。したがって,この,多少は古典的とも見られかねない病気も,その自然歴をよく承知していないと診療方針を誤りかねない。

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 心室頻拍(VT)をsustained VT(SVT群)およびnonsustained VT(NSVT群)に分け,両群の臨床像と電気生理学的性質について検討した。

 対象は電気生理学的検査を施行し得た40例(SVT 19例,NSVT 21例)であった。自覚症状ではSVT群に動悸・胸部圧迫感(84.2%)が多く,NSVT群に失神・眩暈(57.1%)が多かった。器質的心疾患はSVT群(42.1%)のみに認められた。心エコー図上,僧帽弁逸脱はSVT群の54.5%,NSVT群の23.8%に認められ,左室駆出分画はSVT群56.9%,NSVT群67.1%であり,両群間で有意差を認めた(p<0.02)。VTの誘発率はSVT群89.5%,NSVT群28.6%であり,両群間で有意差を認め(p<0.01),SVT群はNSVT群に比べ比較的容易に誘発された。VT中のR-R間隔はSVT群では規則的で345.9±84.6ms,NSVT群では不規則で245.0±40.7msであり,両群間で有意差を認めた(p<0.05)。LidocaineはSVT群の全例で停止効果がなかった。

 SVTとNSVTの間には臨床像と電気生理学的性質に若干の相違のあることが示唆された。

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 虚血性心疾患,高川血圧性心不全などの急性心不全にともなう心原性肺水腫による呼吸不全のなかで,機械的人工呼吸を必要とした症例について検討を加えた。

 低酸素性呼吸不全群53例と肺胞低換気性呼吸不全群23例に分けて比較検討を行った。肺胞低換気性呼吸不全群では,低酸素性呼吸不全群に比べてPaCO2の上昇にみられる換気不全が強くまた,P/F値は同様に低値を示し肺の酸素化能の低下が見られた。肺胞低換気性呼吸不全では臨床症状でも呼吸困難感は強く,より重篤な呼吸不全を呈していた。しかし,心機能の比較では肺胞低換気群のほうがよく保たれており死亡率も低値であった。気道過敏性をもつ症例において心原性肺水腫が誘因となって気管支攣縮が誘発されることによっておこる肺胞低換気群では,心不全の管理と共に適切な機械的人工呼吸も合めた呼吸管理によって救命の機会はよりふえると考えられた。

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 冠動脈内血栓溶解療法(PTCR)が,心筋梗塞例の慢性期で心室遅延電位(LP)検出にどのような影響を与えるかを検討した。対象は陳旧性前壁梗塞54例で,その内PTCR施行(A群)29例と非施行群(B群)25例に分け,各群に平均加算心電図(SAECG)を記録した。更に,ホルター心電図,左室造影所見も併せ検討した。SAECG上,QRS終末40msecの低電位成分が15μV以下の時LP陽(+)と定義した。LP検出率は,A群で7%,B群で32%であり,B群で有意に高率であった(p<0.01)。心室期外収縮総数,左心機能には両群間に有意差を認めなかったが,LP(+)例はLP(−)例と比較し,左室収縮末期容積,梗塞範囲が有意に大であり,左室駆出分画が有意に小であった。再灌流療法の成否では,梗塞責任血管が急性期に開存した(TIMI grade 3)27例は全てLP(−),開存不良(TIMI grade 2)2例は全てLP(+)であった。以上より,梗塞責任血管を開存することがLP検出率の低下に重要であると考えられた。

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 混合静脈血酸素飽和度(SvO2)をphotodetectorつきのthermodilution,balloon tipped flowdirected catheter(opti-catheter)を用いて連続して測定することにより,運動中のSvO2の変化を詳細に検討し,さらにSvO2値より外的負荷最が実際に生体に及ぼしている運動強度を検討することを目的とした。陳旧性心筋梗塞5例および健常例1例を対象とし,自転車エルゴメータにて多段階定常漸増運動負荷を行い,opti-catheterによりSvO2を連続測定した。SvO2は負荷開始後平均43.4秒後より急激に減少を開始し,各負荷量約1.5分でほぼ定常状態に達した。60W負荷時SvO2は44.7%と乳酸産性レベルより低下した。各々の症例でSvO2値と心拍出量間には良い相関が得られた。opti-catheterは運動中のSvO2変化の詳細な検討を可能とし,負荷の生体に対する影響を解析する有用な方法と考えられた。

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 トレッドミル運動負荷試験(以下トレッドミル試験)は虚血性心疾患の診断そして薬物治療,経皮的冠動脈形成術(以下PTCA)の効果判定に有用である。しかし,まれではあるが合併症が報告されており,我々はPTCA後のトレッドミル試験直後に,急性冠閉塞をきたした2症例を経験した。

 症例1:NT,54歳男性。右冠動脈と左回旋枝に対してPTCA実施後8病EIにmodified Bruceprotocolに従いsymptom-limited法にてトレッドミル試験を実施したが直後に右冠動脈に急性冠閉塞を認めた。症例2:YH,68歳男性。左前下行枝にPTCA実施後18病日に同protocolに従いトレッドミル試験を実施したが直後に右冠動脈に急性冠閉塞を認めた。いずれの症例においても再PTCAにより再拡張に成功した。

 運動耐容能の評価を目的としたPTCA後比較的早期のsymptom-limited法による高レベルのトレッドミル試験の実施は急性冠閉塞などの合併症の発生に留意すべきであると考えられた。

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 我々は59歳男性で,血胸・ショックにて発症し,手術により救命し得た肺動静脈奇形を経験したので報告する。

 突然の右背部激痛,顔面蒼白,四肢冷感をきたし救急車で他院受診。受診時血圧,90/70mrnHg,胸部X線で大量の右胸水貯留を認め,試験穿刺で血性胸水を確認。解離性大動脈瘤破裂を疑われ,昇圧剤にて血圧を維持しつつ当院転院。心エコー図にて心タンポナーデを認めず,CT,胸部X線より解離性大動脈瘤が否定され,肺動脈疾患を疑い,肺動脈造影を施行。右中肺野の肺動静脈奇形と診断。右肺S4の部分切除を施行し,術後第17病日に軽快退院。

 肺動静脈奇形の報告は数多くあるが,血胸にて発症した症例は国内外合わせて16例と少なく,本症のようにショック状態を呈した報告は1例のみである。

 以上より,血胸・ショックにて発症する疾患の一つに肺動静脈奇形が存在することを念頭におくべきである。

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 意識消失発作を主訴として緊急入院し,心電図所見より左冠動脈主幹部(LMT)病変を疑って緊急冠動脈造影(CAG)に引き続く緊急冠動脈バイパス術(A-C bypass術)を行い救命し得た3例を経験した。

 症例1は71歳,男。心電図にてaVR,aVLにてST上昇と他の誘導にてST低下を認め,緊急CAGにてLMTに80%狭窄が認められた。症例2は51歳,男。心電図にてI,II,III,aVF,V1〜V6におけるST低下,aVRにおけるST上昇を認め,緊急CAGにてLMTに70%狭窄を認めた。症例3は75歳,男。心電図にてaVR,aVLにST上昇を認め,緊急CAGにてLMTに60%狭窄を認めた。症例1は外来到着後2時間半後,症例2は同じく2時間50分後,症例3は24時間後にA-C bypass術を施行し救命し得た。

 結語:意識消失発作の患者で,心電図にて広範且つ高度のST低下,aVR,aVLにおけるST上昇を認めたらLMT病変を疑って緊急CAGを行い,緊急A-C bypass術を考える必要がある。

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 常用量の向精神薬を服用中に,心電図のQT間隔が延長し,Torsade de PointesとT wavealternansを生じた1例を経験した。

 患者は31歳,女性。精神分裂病にて長期間chlorpromazine(100mg/day)を服用していたが,失神発作を頻発して緊急入院した。心電図にて著明なQT延長とともに,T wave alternansとTorsade dePointesを認めた。lidocaine(50mg)の静注にてT wave alternansとTorsade de Pointesは消失し,その後は失神も生じなかった。QT間隔はchlorpromazineの投与中止にて漸減したが,再投与にて再び延長した。

 常用量の向精神薬を服薬中に,Torsade de Pointesを生じたことは,突然死の子防のためにも重要であるとともに,まれなTwave alternansを記録し得たので報告した。

基本情報

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呼吸と循環
38巻8号 (1990年8月)
電子版ISSN:1882-1200 印刷版ISSN:0452-3458 医学書院

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