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I.Chromosome walkingとjumpingでたどり着いたCystic fibrosis遺伝子:上皮細胞・膜蛋白の異常
アメリカを旅行中,自動車のラジオから流れて来る“When you grow up,when you grow up....”という子供の歌で始まるCystic Fibrosis協会の啓蒙放送を思い出す人が多いのではないだろうか。何という残酷な歌を使うのだろうか暗澹とした気持ちになったものである。cystic fibrosis(CF)はCaucasianにとって遺伝子頻度のもっとも高い遺伝性疾患であり,外分泌型の異常と呼吸器的には慢性の炎症をくり返す。抗生物質の使用により成人する患者も多くなったが,以前はほとんどの患者が10代で死亡した予後不良の疾患である1)。分泌液中のCl-イオンの異常,イオンチャンネルと考えられる膜蛋白の異常がその病態と考えられ,膨大な家系調査の結果により第7染色体長腕(7q31)に異常のあることが知られている。
Chromosome walkingという術語は耳なれない言葉と思われるので少し説明する。遺伝子のcloningには周知の通りmRNAに相補的なcDNAのcloning(即ち蛋白質のアミノ酸配列そのものの情報)と,その基になる染色体上の遺伝子(genomic DNA)のcloningがある。通常cDNAがcloningされ,次にgenomic DNAの解析に進む2)。しかしながらgenomic DNAにはアミノ酸配列の情報を含むexonとその間の介在配列であるintronが存在する。染色体上のどの部分がexonであるのかはcDNAとハイブリッド形成を行う部分を手探りで探していく以外には方法がない。λファージ(約50kb)には最大約15〜20kbに渡って,外来のDNAを取り込むことができる。この部分に目的遺伝子の近辺のDNAを取り込み,少しずつ重ならせながら進めていくと,原理的には相当長い部分(数100kb)のDNAを解析できる(図1-a)。この方法はあたかも染色体上を手探りでゆっくり歩いていくようなものであり,chromosome walkingと言われる。
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