整形・災害外科 68巻1号 (2025年1月発行)

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特集　Musician’s Handをめぐって

扉酒井　直隆 68巻1号 , 2025年1月 , pp.6-6

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音楽家は手の動作に高度な巧緻性を求められる職業であり，その巧緻性の維持のために日々長時間の反復練習が要求される。このような特殊な環境下にある音楽家の手の障害の総称がMusician’s Handである。本来Musician’s Handは楽器を演奏する身体側の手と，器械側である楽器の接点における問題であって，医学だけでなくバイオメカニクスの工学的観点も必要である。

Musician’s Handと音楽家医学酒井　直隆 68巻1号 , 2025年1月 , pp.7-14

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要旨：Musician’s Handは音楽家の手の障害を総称したものであり，その中には外傷，腱鞘炎，付着部炎，筋肉痛，関節痛，絞扼性神経炎，ジストニアなどが含まれ，舞台恐怖症をはじめとする精神的因子も考慮する必要がある。音楽家を対象とする音楽家医学の歴史において，Musician’s Handは19世紀から報告されていたが，19世紀後半からの100年間には生徒が手を痛めないために音楽教師が医学的観点から，合理的ピアノ奏法を研究した時代があった。1980年代に再び音楽家の健康問題が注目され，各国で研究会が創られるに及び，日本でも2022年に日本演奏芸術医学会が発足した。現在の音楽家医学で最も問題になっているのはジストニアであり，その特殊な病像と難治性から，各国で治療法が議論されている。

音楽家の手指骨折治療喜多島　出 68巻1号 , 2025年1月 , pp.15-23

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要旨：音楽家の手指外傷（骨折）についてまとめた報告は少ない。虎の門病院整形外科（本院・分院）にて手指骨折の診断で治療を行った音楽家症例を振り返り検討した。音楽家の手指骨折を治療する際，その他の症例と比較し，治療法が異なるわけではないが，患側，骨折指，演奏する楽器，整容などが治療方法の選択に影響を与える。また，スポーツ選手と違いオフシーズンは存在せず，通年でスケジュールが入っていることが多く，制約を受ける。音楽家が骨折を受傷した場合，もとより外傷経験が少なく，繊細な指の感覚喪失に対する不安，手術治療に対する抵抗感を感じている場合も多く，精神的なケアも重要となる。手指骨折の治療には適切な安静期間と積極的なリハビリテーションが必要であることを十分理解させる必要がある。

音楽家の腱鞘炎亀山　真 68巻1号 , 2025年1月 , pp.25-32

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要旨：手指を酷使する音楽家で問題となるde Quervain腱鞘炎と手指屈筋腱腱鞘炎について，主に高周波リニアプローブを用いた超音波検査による診断，治療の実際を紹介する。de Quervain腱鞘炎では超音波検査で背側第1区画での腱鞘の肥厚と，隔壁の有無を確認する。治療は超音波エコーガイド下にトリアムシノロンアセトニドを腱鞘内へ注入することで高確率での寛解が得られる。手指屈筋腱腱鞘炎は，超音波検査でA1プーリーと屈筋腱の肥厚，および手指屈伸運動での屈筋腱の滑走障害を確認する。トリアムシノロンアセトニドの腱鞘内注入は，屈筋腱への誤注入を避け，病変である腱鞘と屈筋腱への薬効を得るため，指基節部での側正中注入法としている。手術療法は腱鞘切開が主体だが，重症例では腱剝離，腱滑膜切除の追加を要し，この場合，術後の可動域制限が問題となりやすい。また腱鞘切開後の腱の跳ね上がり現象は演奏活動に支障をきたす可能性があるため，手術適応は慎重にすべきである。

音楽家の絞扼性末梢神経障害―手根管症候群，肘部管症候群― 吉田　綾 , 奥津　一郎 68巻1号 , 2025年1月 , pp.33-41

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要旨：音楽家の手根管症候群あるいは肘部管症候群の手術割合を非音楽家と一概に比較することは困難であるが，われわれの経験した音楽家の手術件数は，非音楽家と比べて極めて少ない。われわれの行っている内視鏡を用いた手根管症候群ならびに肘部管症候群の手術は，従来の観血手術に比べて手術侵襲は軽いと考えるが，影響はゼロではないと考えている。発症後は保存治療を行いつつ定期的に臨床症状および電気生理学的経過観察を行い，恒久的な神経・筋の機能障害を残して将来の演奏活動に支障をきたす前の適切な時期に手術を行う必要があると考える。

手指変形性関節症と音楽家佐野　和史 68巻1号 , 2025年1月 , pp.43-48

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要旨：Heberden結節，Bouchard結節，母指CM関節症は，手外科診療で日常的によく遭遇するが，これらの疾患が音楽家に発生した場合，手術を含めた一般的な治療アルゴリズムをそのまま用いることはできない。頑固な関節痛であっても，手術加療は術前後で少なからず可動域の変化を招きハイレベルな楽器演奏に支障をきたす可能性があるため，可能な限り保存加療での対応が求められる。Heberden結節やBouchard結節に対する金属製の指輪型装具は整容的にも優れ，手洗いや炊事で着脱不要であり治療継続コンプライアンスは高い。一方でHeberden結節に続発する粘液囊腫は，整容的観点だけでなく，自壊し化膿性関節炎を引き起こす危険から，音楽家であっても手術加療が望ましく，筆者の考案した盲目的掻爬術は簡便で治療効果が高い。

音楽演奏家のジストニア長谷川　修 68巻1号 , 2025年1月 , pp.51-56

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要旨：音楽演奏家ジストニアは，巧緻な演奏時に正しい筋の使い方から外れた些細な癖から始まる。誤った情報を脳に与え続けることにより，脳の筋緊張調節機構に異常をきたしてジストニアの発生につながる。職業性ジストニアではタスク特異性にジストニアが出現するが，繰り返すとジストニアの出現するタスクと出現領域が拡大していく。音楽演奏家は，その発症要因となる高度の巧緻運動を日々行っており，1～2％がジストニアを経験する。ジストニアが出現した場合は，難しい運動は止めて以前の正しい筋の使い方に戻り，そこから再度一段ずつ正しい道をゆっくり上がるとよい。原点から再学習することが，結局は早道と考える。人間の脳には可塑性があり，良い方にも悪い方にも変化の可能性を秘めている。音楽演奏家も，感性と巧緻性を極める段階で脳の使い方を間違えるとジストニアを発症する。

音楽家の手のリハビリテーション治療尼子　雅敏 , 田村　吏沙 68巻1号 , 2025年1月 , pp.57-64

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要旨：音楽家の手指は，演奏において俊敏かつ繊細な巧緻運動が要求されるため，リハビリテーション治療の目標は高く険しい。円滑なリハビリテーション治療を完遂するには，運動プログラムが演奏手技と乖離せず，音楽家のモチベーションを高めることが重要である。また，演奏復帰に焦りを感じ，過剰に治療や演奏の練習に取り組む傾向があるため，患部の過使用を抑制する必要がある。さらに，楽器特性に合わせた動きが要求され，楽器との適合性を確認しながら治療を進めていく。そもそも，音楽家は常に聴衆を意識し，練習中も演奏会においても精神的な苦痛やストレスを感じており，心理的なサポートを同時に行う。これらの特性を考慮し，適切なリハビリテーション治療を遂行することで演奏復帰が期待できる。しかしながら，フォーカル・ジストニアの治療は容易でなく，特殊なプログラムと心理学的治療を併用した集学的治療を駆使する必要がある。

音楽家の上肢機能障害における心理的因子の影響上原　浩介 68巻1号 , 2025年1月 , pp.65-69

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要旨：近年，筋骨格関連症状への心理的因子の影響が明らかにされつつあるが，音楽家における医学的問題においても，19％が精神・感情に起因していたとの報告がある。音楽家と非音楽家において，上肢機能障害と心理的因子に差異があるのかを明らかにするために，上肢機能評価尺度（DASH），破局的思考の評価尺度（PCS），中枢性感作の評価尺度（CSI）に回答した630人（音楽家：35人［プロ6人，アマチュア25人，不明4人］）を対象とし，年齢，性別，DASH値，PCS，CSIを評価項目として解析した。平均年齢は音楽家58.7歳と非音楽家61.9歳であった。音楽家・非音楽家とも，DASH値はPCSと関連があり，CSIとも関連があった。両群の比較において，DASH値は，音楽家が有意に高く障害が大きかった。一方でPCS，CSIは音楽家と非音楽家で有意差がなかった。音楽家においても，心理的因子と主観的上肢機能が関連していた。一方で，音楽家と非音楽家において，心理的因子の状態に差がないことが明らかとなった。

Personal View

脊椎外科医であるということ金子　慎二郎 68巻1号 , 2025年1月 , pp.1-1

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本稿は主には若手医師向けになっており，ベテランの先生方にとっては釈迦に説法的な内容になっていることはご容赦いただければ幸いであるが，脊椎外科医は脊椎外科のプロフェッショナルとして，手術はしっかりとできて当たり前であり，手術のindicationをしっかりとつけられ，科学的に検証して，最も妥当な術式を選択するということが最も重要であると考えている。

整形外科　名人のknow-how

スポーツ障害に対する高張ブドウ糖液を用いたプロロセラピー面谷　透 68巻1号 , 2025年1月 , pp.2-5

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プロロセラピー（prolotherapy；以下，プロロ）とは，体内の構造物に対して刺激物を注射する治療法の総称である。刺激物を注射することで炎症を惹起させ，その後に生じる組織修復や成長因子の活性化を促すとともに，高浸透圧な薬液により異常血管・神経を硬化・退縮させる機序が痛みの改善に対して有効であると考えられている^1）。初期はエタノールや無水フェノールなどの侵害性の高い高浸透圧注射薬が利用されてきたが，現在では高張ブドウ糖液が使用されることが一般的である^2）。これまでに前腕伸筋群共同腱・膝蓋腱・腱板・アキレス腱の腱障害に対する治療成績が報告されている^3）～6）。

スポーツ医学つれづれ草

腰かがまり，眉白く武藤　芳照 68巻1号 , 2025年1月 , pp.70-70

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毎年，敬老の日（9月の第3月曜日）に合わせて，高齢者人口に関するデータが国から開示される。2024年の統計によれば，現在の総人口に占める65歳以上の人口の割合は，29.3％だ。高齢化社会（人口比7％を超える）となったのが1970年，高齢社会（同，14％）に至ったのが1994年，そして超高齢社会（同，21％）に突入したのが2007年だ。高齢者比率は，すでに28％を超えており，「超々高齢社会」と呼ぶべき時代を迎えている。

新しい医療技術

外側円板状半月板の形態的特徴西野　壱哉 , 橋本　祐介 68巻1号 , 2025年1月 , pp.71-74

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要旨：外側円板状半月板（DLM）は先天的な半月板の形態異常の一つであり，小児期に半月板損傷をきたし手術に至る場合がある。MRIを用いて転位のないDLMの形態的特徴を調査したところ，無症状のDLMは成長とともに矢状断での関節内半月板占拠率が低下していくことがわかった。また，有症状DLMは無症状DLMと比べて冠状断，矢状断での半月板占拠率が高かった。この傾向はMRIにおける内部高信号を有する症例に顕著であった。

臨床

足部腱断裂に対するCT検査の有用性今尾　貫太 , 三輪　仁 68巻1号 , 2025年1月 , pp.75-79

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要旨：足部の腱断裂に対してCT検査を実施し，その有用性について調査を行った。対象は外傷による足関節以遠の腱断裂9症例で，術前のCT所見と術中所見との正診率を検討した。その結果，術前のCT検査で腱断裂を疑った症例は，術中に全例腱断裂を認めた。しかし，術中に判明した部分断裂は，術前のCT検査では診断が困難であった。今回の結果から，腱部分断裂の診断は困難であるが，CT検査は足部の腱完全断裂の診断に有用と考えられる。

経験

急性石灰沈着性頚長筋腱炎との鑑別に難渋した，咽後膿瘍から頚椎化膿性脊椎炎を生じた1例萩野　哲広 , 井上　亮 , 大場　哲郎 , 萩野　哲男 , 若生　政憲 , 波呂　浩孝 68巻1号 , 2025年1月 , pp.81-85

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要旨：急性石灰沈着性頚長筋腱炎は急激な頚部痛を引き起こす予後良好な疾患であるが，重症化の可能性がある咽後膿瘍との鑑別が困難である。症例は肝硬変のある57歳男性。誘因なく頚部痛が出現し，初診時の所見では頚長筋腱炎と考えたが，後に咽後膿瘍ならびに化膿性脊椎炎の診断となった。抗菌薬投与による保存的治療により軽快し，1年後も再発なく経過した。基礎疾患がある場合は初期から咽頭壁の穿刺などの積極的な検査が必要と考えた。

症例

上腕伸側部におけるインフルエンザワクチン皮下注射により生じた橈骨神経障害と尺骨神経障害矢﨑　尚哉 68巻1号 , 2025年1月 , pp.87-90

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要旨：当院において季節性インフルエンザワクチンの上腕伸側部皮下注射により2例に橈骨神経障害を認めた。また，それより以前にインフルエンザワクチン接種後に尺骨神経障害を起こした例があることも判明した。上腕伸側部の皮下注射は正中線上に穿刺しなければならないが，外側に2cmずれると橈骨神経の位置が最も浅い部位に一致し，逆に内側にずれれば尺骨神経に薬液が及ぶ恐れがあることを考えると，安全マージンが小さいと考えられた。

両側上腕骨小頭に離断性骨軟骨炎を発症した両投げ野球選手の1例井澤　朋大 , 織田　崇 , 濱田　修人 , 髙橋　克典 , 和田　卓郎 , 寺本　篤史 68巻1号 , 2025年1月 , pp.91-96

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要旨：右上腕骨小頭の離断性骨軟骨炎（OCD）を発症後に左投げに転向し，9カ月後に左同部にOCDを発症した少年野球選手の1例を経験した。上腕骨小頭OCDの発症には外力による負荷のほかに内的要因も関与する症例があると考えられている。一側の肘にOCDを発症した症例では，内的要因と非利き手での不慣れな投球動作による外的要因により新たに投球側とした対側の肘にも早期にOCDを発症する可能性がある。上腕骨小頭OCDの発症後に投球側を交換することには慎重を期す必要がある。

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目次 68巻1号 , 2025年1月

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告知板 68巻1号 , 2025年1月 , pp.79-79

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告知板 68巻1号 , 2025年1月 , pp.85-85

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バックナンバー特集一覧 68巻1号 , 2025年1月 , pp.86-86

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次号予定目次 68巻1号 , 2025年1月 , pp.90-90

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投稿規定 68巻1号 , 2025年1月 , pp.97-97

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読者アンケート 68巻1号 , 2025年1月 , pp.98-98

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著作財産権譲渡・二重投稿に関する同意書 68巻1号 , 2025年1月 , pp.99-99

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編集後記 68巻1号 , 2025年1月 , pp.100-100

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基本情報

整形・災害外科
68巻1号
(2025年1月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0387-4095 金原出版

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