臨床婦人科産科 66巻2号 (2012年2月)

今月の臨床 分娩誘発と陣痛促進法の見直し―安全な分娩管理を目指して

陣痛発来のメカニズム 瓦林 達比古
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●子宮筋は妊娠中には過分極により全体的な収縮が抑制され,分娩が開始すると脱分極,活動電位変化,興奮伝導速度の増加などにより効率的な同期性収縮に変化する.また,エストロゲンによる細胞の肥大,収縮蛋白の増加,ギャップジャンクションの形成,さらにオキシトシン受容体の増加などにより全体的な収縮性が高くなる.

●ヒトにおける未妊婦と産褥期婦人の比較研究では,機械的張力は1/12倍,コラーゲンと硫酸グリコサミノグリカン濃度は50%,ヒアルロン酸濃度は35%,コラーゲン分解活性は5倍に変化する.このような生化学的変化と同時に,前陣痛などによる子宮頸管への物理的開大刺激が加わってさらに子宮頸部は軟化し開大する.

●陣痛発来には多くの仮説が報告されているが,子宮筋自体の変化と,性ホルモン,カテコラミン,オキシトシン,プロスタグランジン,サイトカインなど多くの生理活性物質のエンドセリン,パラクリン,オートクリンを介した作用により総合的に陣痛は誘発され増強している.

分娩誘発の適応とタイミング

1.母体適応 渡辺 尚 , 松原 茂樹
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●分娩誘発の母体適応には,医学的適応と非医学的(社会的)適応とがある.

●医学的適応には,前期破水,妊娠高血圧症候群,子宮内胎児死亡,内科合併症,墜落分娩の既往などがある.

●非医学的(社会的)適応には,医療施設側の対応上必要な場合,妊産婦側の希望がある.

●実際の臨床での母体適応による分娩誘発の決定については,個々の症例の経過の中で的確に判断していく必要がある.

2.胎児適応 牧野 真太郎 , 竹田 省
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●絨毛膜羊膜炎の診断方法は変化しているが,胎児脳性麻痺の予防のためには,より迅速かつ正確な診断方法が求められる.

●胎児発育不全(FGR)の分娩のタイミングに関する明確な基準はないが,一般的に2~4週発育が停止した場合には分娩の適応とされることが多い.今後妊娠週ごとの長期予後や研究からのフィードバックに基づいた分娩基準の検討が必要である.

頸管熟化不全への対応 杉村 基
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●炎症や子宮頸管の進展刺激などにより誘導されたIL1-β,TNF-α,IL-6,IL-8を中心とした炎症性サイトカインは,正のフィードバックを形成しながら,最終的にプロスタグランジン(prostaglandin : PG)産生を導き,PGE2受容体を介して頸管の熟化が進行する.

●子宮頸管熟化不良状態においては,適応に則って陣痛誘発・陣痛促進を行う場合でも,誘発促進が不成功となる率が上昇する.

●従来よりラミナリア桿をはじめとした機械的頸管熟化法を用いて,熟化を図る工夫を行い,陣痛誘発・陣痛促進が行われてきている.

●初産で,特に大幅に予定日を超えているにもかかわらず子宮頸管熟化不全である例や,予定日前に前期破水となった十分な熟化がない例の取り扱いでは,十分コンセンサスの得られた標準的対処法はない.

●2011年産科ガイドライン上では安全な分娩管理を目指して,極端に熟化不良な子宮頸管例では子宮収縮薬は原則用いない(B)としており,原則を守ることが求められている.

陣痛の評価と促進 高橋 恒男
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●妊婦への精神的サポートは経腟分娩を遂行するうえできわめて重要である.

●分娩第1期潜伏期の遷延分娩は基本的には安静・休養と,必要に応じ鎮静を行う.

●臨床的には,分娩が遅延あるいは停止した場合,他の原因を排除した後,微弱陣痛の診断をする.

●10分間に子宮収縮回数が3回以下の場合に陣痛促進を考慮する.

●子宮口開大が5~6 cmに至るまでは,陣痛促進を行う判断はより慎重に行う.

●陣痛促進時の子宮収縮回数は.10分間で5回以下とする.

子宮収縮薬の薬理作用と副作用

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●用法,用量については,添付文書,ガイドラインに従って使用し,副作用,禁忌,原則禁忌を理解しておく.

●重大な副作用としては,心室細動,心停止,ショック,呼吸困難,過強陣痛,胎児機能不全などがある.

●その他の副作用としては,顔面潮紅,頻脈,血圧変動,動悸,嘔気・嘔吐,下痢,注射部の血管痛,頭痛,発汗,悪寒,発熱,手指のしびれなどがある.

●緑内障,眼圧亢進,心疾患,高血圧症患者,および既往帝切,子宮切開などの既往歴のある患者,多胎妊娠,経産婦では注意する.

2.オキシトシン―oxytocin 平松 祐司
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●用法,用量については,添付文書,ガイドラインに従って使用し,副作用,禁忌,原則禁忌を理解しておく.

●副作用としてはショック,過強陣痛,子宮破裂,頸管裂傷,羊水塞栓症,微弱陣痛,弛緩出血,胎児機能不全などが報告されている.

●胎児機能不全疑い,妊娠高血圧症候群,心・腎・血管障害,児頭骨盤不均衡疑い,帝王切開術および広範囲子宮手術の既往,高年初産婦,多胎妊娠では母児および子宮収縮の観察を十分に行い,慎重に投与する必要がある.

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●分娩誘発は,われわれにとって経腟分娩が必要な未陣発妊婦に対して汎用される日常的な介入の1つであるが,リスクを伴う医療介入であると認識し,施行前に十分なインフォームド・コンセントを行うことが望ましい.

●頸管熟化を促進する前に内診を行い,Bishopスコアが低値であれば,前日から頸管拡張を行う.

●子宮収縮薬を使用する場合は,ガイドラインを確認し,適応,条件,禁忌を十分検討したうえで決められた用法・用量を順守することが勧められる.

●子宮収縮薬投与の際は,投与前から分娩監視装置により継続的に胎児心拍と陣痛監視を行う.

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●ダブルセットアップとは,帝王切開術が必要になる可能性が高い妊婦に対し,いつでも帝王切開術に切り替えられるだけの準備をして経腟分娩にのぞむ体制のことである.

●TOLACとは,帝王切開術の既往を有する妊婦が経腟分娩を試みること.子宮破裂のリスクがあり,ダブルセットアップが必要である.

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●子宮収縮薬による陣痛誘発・促進を行う際は,文書によりインフォームド・コンセントを得る.

●頸管熟化不良例に吸湿性頸管拡張材やメトロイリンテルを使用する際にもインフォームド・コンセントを得る.

●メトロイリンテルを使用する際のインフォームド・コンセントでは,その使用で臍帯脱出の事例があることを伝える.

●前期破水例の頸管熟化操作では感染徴候に注意しながら経過を見ることを伝える.

連載 Estrogen Series

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 米国食品薬品局(FDA)は早産(preterm birth : PTB)リスクを低下させるための合成プロゲステロン(17-alpha-hydroxyprogesteone caproate, 17P)の認可を発表した.早産防止薬の認可はこれが最初のものである1~3).これはプロゲステロンの合成剤で筋注により使用される.その対象となる条件は,37週以前の妊娠,単胎,(妊娠37週以前の分娩と定義される)早産の既往が少なくとも1回あること,などである.子宮奇形や多胎を原因とする場合には,適応とはならない.米国商品名はMakenaと呼ばれる.

 薬剤効果判定のためのend pointには,最終的に児の生存や病態などのclinical benefitが検討されるが,今回の認可に当たっては,PTBの減少というsurrogate endpointが判定に使用された.それによれば,この薬剤使用時のPTB率は37%,コントロールでは同55%であった,とされる.

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はじめに

 2011年7月に実施した「海外渡航治療と第三者が関わる生殖技術に対する不妊治療担当医師の意識調査」によれば,特定不妊治療費助成施設で長として不妊治療を担当する医師の約半数が「海外渡航すれば卵子提供が受けられるか」との問い合わせを受けたことがある.卵子提供について70%が「国内法を整備して国内実施が望ましい」と考えているのは,危機感のあらわれでもあるだろう.また9割が,一般論として卵子提供に賛成にしても反対にしても「自身は扱わない」と回答している.ただ,こうした回答には,一定の傾向をもったばらつきもみられる.本調査結果も参考に,さまざまな立場の人を巻き込んだ再議論に基づいた,国レベルの方針決定が望まれる.

連載 Obstetric News

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 25%の早産は,医学的適応による人工早産であるが,75%の早産は自然早産である.

 妊娠週数を延長し,新生児転帰を改善できる介入の利点を最大にするうえで,早産リスクがある妊婦を正確に診断することが必須である.

連載 教訓的症例から学ぶ産婦人科診療のピットフォール

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症例

患者 37歳,1経妊1経産.

既往歴

31歳 : 骨盤位のため,帝王切開術.

32歳 : 右卵巣腫瘍(粘液性囊胞腺腫)のため,右付属器切除術.

現病歴

 生来健康であった.32歳時,右卵巣腫瘍のため,右付属器を切除した.術後,定期的に外来通院していた.無月経4週6日を主訴に近医を受診し,診察を受けた.尿中hCG 343 IU/mL,子宮内胎囊を認めなかった.妊娠4週6日と診断され,1週間後に再診予定とされた.妊娠5週4日時に少量の性器出血を認めたが,自然軽快した.妊娠5週6日,尿中hCG 5,785 IU/mLと上昇を認めたが,子宮内胎囊を認めないため,異所性妊娠の疑いで同日当院へ紹介受診となった.

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はじめに

 子宮捻転は「子宮がその長軸の周りに45度以上回転したもの」と定義され,稀な疾患である.特に非妊娠子宮における文献的報告は国内外通じて非常に少なく,診断に苦慮することが多い.

 今回われわれは,骨盤腔に嵌頓し腸閉塞をきたした非妊娠性子宮捻転の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

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次号予告

編集後記 岡井 崇
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 思い返せば,昨年,日本は大自然の力の前にひれ伏すしかありませんでした.東北地方を襲った大地震と巨大津波,列島を蹂躙して廻ったゲリラ豪雨,映像で見るそれらの惨状は目を覆うばかりでした.なかでも私が衝撃を受けたのは,裸の鉄骨を晒ける原発建屋の惨たらしい外貌です.原子力の制御技術という人類の知恵の結晶をあれ程までに敢え無く粉砕してしまう,こんな自然の猛威は千年に一度にしてもらいたいものです.

 さて,今年の日本,政権与党が“被災地の復興”や“社会保障と税の一体改革”などの重要事案に精力を注入せざるを得ないことは理解できます.しかし,それはそうとしても,医療の方は一体どうなってしまうのでしょうか?医師の不足,偏在と過重労働への対策,初期研修の改革と専門医制度の確立,混合診療の問題,医療安全と医師法第21条の問題などなど,山程ある医療問題のどれひとつをとっても,昨年は1歩も前に進まなかったように思います.それは,厚労大臣がタバコ税の値上げ以外に何らインパクトのある発言をしていないことに象徴されるように,現政権が医療問題を軽視しているから,としか言いようがありません.その姿勢を正させるためには,関係者の政府・厚労省への働きかけを強める必要があります.今年こそ,われわれ医療提供者が大きな声を上げ,医師会と医学会の力を結集して医療問題の解決に向けての政策論議を促す年にしたいものです.

基本情報

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臨床婦人科産科
66巻2号 (2012年2月)
電子版ISSN:1882-1294 印刷版ISSN:0386-9865 医学書院

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