臨床外科 25巻5号 (1970年5月)

特集 外科領域における感染症

外科領域の感染症に思う 島田 信勝
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 私は卒業して外科医としての第一歩を踏み出してから40年を迎えんとしているが,その間における感染症の変遷は,病像から治療・予後に至るまで,かつては夢想だになし得なかつた大きな変革である.古くから外科学,特に創傷療法は戦争の度に著るしい進歩を遂げるといわれているが,第二次世界大戦後における今日の化学療法の目覚しい進歩はまさに画期的なものといえよう.約3年前第29回日本臨床外科医学会総会が岐阜市で開催された際,創傷処置についてのシンポジウムが行なわれたが,私は特別発言者として文献的調査の結果,創傷療法の時代的変遷を大きく3つの時代に区分して次のように述べた(第1表参照).

 第一次世界大戦の前半までは水溶性殺菌剤の研究が盛んであり,創傷の洗滌療法が一般に行なわれておつたようで,保存的療法時代とみることができる.第一次大戦の後半よりいろいろな手術療法と臨床的な工夫がこらされたようであるが,特に目新しぃ殺菌剤の研究はなかつた.ところがDomagk(1935)が発表したProntosilの研究は化学療法の進歩に大きな刺激を与え,この時代は創傷療法の亜積極的時代とみることができる.

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はじめに

 外科的感染症に対する化学療法といつても,外科領域の感染症は非常に広域にわたり,一言で述べることは困難である,というのはそれぞれの原発部位により疾患が異なつてくることと,同じ部位でも細菌や宿主の状態によつても病像が異なつてくるからである.そこで一般に最も多くの外科医が接する感染症の型を中心として,ある程度各感染症に共通の条件をもつているもののみについて述べることとする.

 まず感染の基本としては,古来述べられているごとく,細菌の汚染があり,宿主がその細菌の毒力に抗しきれず発症した場合に,われわれは感染症として注目し,処置を行なうわけで,汚染の無いものについては,炎症があつても大体において治癒するものが多いと思われることから化学療法を必要としないわけで,感染または汚染予防が化学療法剤投与以前に最も重要であると考える.

真菌感染 奥平 雅彦
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はじめに

 医学の領域では真菌類(Eumycetes)と放線菌類(Actinomycetes)に属する微生物を真菌(Fungus)と呼ぶのが習慣となつている.およそ5〜10万種もあるとされている真菌はわれわれの周囲に空中,土中,水中をとわず普遍的に存在しており,その生活力は極めて旺盛である.したがつて,人間は直接,間接に真菌にびつしり囲まれて生活しているといえよう1)

 真菌に関する科学的な知見はHooke(1677)がバラの葉の黄斑が菌糸よりなつていることを記載したことに端を発するという2).人間の病原真菌としてはLangenbeck(1839)が鵞口瘡患者からとつた材料中に今日でいうCandidaを認めたのが最初の報告とされている3),このように真菌発見の歴史が細菌発見の歴史に先行したのは,真菌の菌要素(fungus elements)が細菌より大きく,形態に特徴があるため,その存在が比較的確認し易いことによるものと思われる4).その反面,細菌学の発展に対して地味な歴史をたどつたのは,一般に真菌症は人から人へ,動物から人への感染発病がなく,致死的な重篤な感染症が少なく,地方病的性格を示すものが少なくないことなどによつて,皮膚真菌症を別とすれば,最近までは稀な疾患とされ,あまり注目されていなかつたように思われる.

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はじめに

 穿孔性腹膜炎や術後縫合不全,敗血症など外科領域で遭遇する重篤な感染症患者が,経過中にしばしば治療の困難なショック状態に陥ることはすでに前世紀末から指摘されていた1)2).このいわゆる細菌性ショックと総称される病態が最近欧米はもとよりわが国でも急速に注目されてきたのは,外傷や出血性ショックの治療法が今日著しく進歩した反面,この細菌性ショックの治療成績は極めて悪く最近50年間でほとんどその死亡率が減少していないといわれ,早期診断や適切な対策の確立が望まれているゆえんであろう3-5).また抗生物質の発達にもかかわらず敗血症の頻度やそれによる死亡率も予期した程に減少してはおらずむしろ後にのべるような細菌性ショックを誘発し易い耐性菌を増加させていること3)6-8),一方で気管切開,補助呼吸,各種Catheterizationや交換輸血など一連の現代医学における複雑な診断,治療手技からくる病院内でのいわゆるIatrogenicな感染機会も増していること3),などが指摘されている.

Bacterial Shockの臨床 隅田 幸男
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はじめに

 感染に伴うshockをbacterial shockという.これは細菌が血流を侵襲することによつて生じる.したがつて,bacteremiaが証明されていなければ,厳密にはbacterial shockとはいえない.

 昨年の本誌に"Bacterial shockの診断と治療"という論文を寄せたばかりであるが,今回あえて筆を執つたのは,最近の調査によつてbacterial shockはわれわれの周囲にも実際に増加しており,多くの医師を手こずらせていることを知つたためである.同時に,本邦におけるbacterial shockあるいはendotoxin shockに関する論文の多くが,欧米でのリサーチ,見聞,文献考察を中心としたものであり,本邦での症例について検討した論文が少ないことが解つたためでもある.したがつて,たとえ20症例でも,菌種同定の判明したbacteremiaとこれに伴うshockの治療成績を報告しておくことは,必ずしも無益なことではないだろう.

頭部の感染症 桑原 武夫
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はじめに

 頭部の感染症は,軟部組織,頭蓋骨および頭蓋内の感染症に分けられ,それぞれ非特異性炎症と特異性炎症がある.以上のすべてにわたつて記載することは限られた紙数では困難であるので,頭皮および頭蓋骨の感染症はごく簡単に述べ,頭蓋内感染症—とくにその原因疾患,最近の動向,予防,治療法など—について概略を記したいと思う.

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はじめに

 呼吸器系および胸腔内の外科的感染症の代表は肺化膿症および膿胸である.しかし最近は外科的肺疾患の様相も著しく異なり,肺化膿症特に原発性の型は外科療法の対象となるものが減少し,既存肺疾患に合併した続発性肺化膿症が増加しつつある.この中で肺結核,気管支拡張症に続発するものは減少しているが,肺癌に合併した化膿症の増加は見逃せない.これら疾患について現況を眺めながら予防と対策についての概要をのべることにする.

肝・膵・胆道系の感染症 永光 慎吾
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 肝・膵・胆道系の感染症のうち最も多く且つ重要なのは胆道系の感染であり,肝・膵の感染も胆道感染に由来するもの,または関連があるものが大部分を占めているので,胆道感染を中心に述べる.

 胆道系の感染経路には血行性,リンパ行性および胆管逆行性の3経路がある.正常の胆汁には検鏡によつても培養によつても細菌を証明することは出来ない.他方門脈血には培養によつて細菌を証明し得るとされているが,門脈中の細菌は通常は肝の星状細胞の食喰作用などによつて消減されるものと考えられている.しかし肝のある種の状態においては細菌が肝を通過して胆汁中へ出現するようになるものと考えられている。その代表的なものはチフス保菌者にみられる胆嚢胆汁チフス菌感染症であろう.胆道系3感染経路のうち血行性が主か逆行性が主かは説の分れるところであるが,一般的には逆行性感染が主役を演じているものと考えられている.

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はじめに

 消化管では,その全長にわたつて常住する腸内細菌による感染症が発生するほかに,外来細菌の侵入による発症の危険に曝されている.また消化管の一局部の炎症性疾患でも,原発性と続発性とに分類される.続発性感染症の発生にも血行性あるいはリンパ行性感染が考えられるが,消化管周囲の炎症巣からの波及によるものと,もともと非炎症性疾患ではあるが,消化管内腔からの細菌の侵入によるものとが考えられる.このように消化管の感染症には,原発性疾患のほかに,非細菌性疾患に細菌が侵入しているものにまで視野を広げて考えなくてはならぬことは一つの特色であろう.さらにそれらに手術を行なう立場にたつてみると,あらためて細菌に対する関心を深くするのである.消化管の感染症について,その発生原因や経過を広く眺めるとき,つねに腹膜炎併発の危険が影のごとく実在すると考えなくてはならない.そこで,その消化管感染症の発生の予防や対策となると,諸方面にわたりはなはだ複雑かつ困難な問題であるが,その基礎疾患のいかんを問わず,腹膜炎併発の防止こそ最も重要な問題となる。いずれにしても他部の感染症と同じく,早期診断の進歩と,抗生物質の出現とによつて治療成績は向上したが,ことに抗生物質の早期使用によつて各部疾患の症状にも著しい変容がもたらされ,従来の教科書的記録では了解し難い場合もできてきた.

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はじめに

 尿路感染症には一般細菌によつておこる非特異性感染症と,結核菌,淋菌あるいは糸状菌といつた類のものにより惹起される特異性炎症とがある.ここでは紙面の都合上,主として非特異性感染症としてしばしば遭遇する腎盂炎および膀胱炎について総論的に述べる.

骨の感染症 桜田 允也
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はじめに

 骨の感染は大きく分けて血行感染あるいは隣接臓器より波及する急性,慢性骨髄炎と,骨折に合併した骨の感染に分けられる.前者は後者に比すればその頻度は高くはないが交通の発達や産業の近代化に伴い骨の損傷は次第に増加しつつあり,と同時に内固定材料や抗生物質の進歩,全身管理の進歩と共に骨折に対し観血的に整復固定される機会が多くなつて来た.しかるに骨は他臓器に比し感染し易く,一旦感染すれば治癒し難く,治療に長期間を要し,骨折に合併すれば癒合は著しく遷延し,仮関節となる危険も大きく,機能的予後も不良となる.その為骨折の治療に際して感染の予防とその治療には特に考慮を払わねばならない.ここでは骨折に合併した感染を中心に述べる.骨折に合併する感染は開放骨折における創から感染する場合と観血的に整復固定を行なつて感染する場合とある.

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1961年Los AngelsのHouse, Kurzeが聴神経腫瘍の手術にoperating microscopeを使用して以来,Donaghy, Yasargil等によるmicrovascu-lar surgeryの応用とあいまつて,microneurosurgeryの領域が脳神経外科手術の中で占める重要性,適応の範囲はますます大きくなり,今日一躍時代の脚光を浴びている感がある.

外科の焦点

転移性肺腫瘍の手術適応 吉村 敬三
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はじめに

 原発性肺腫瘍に対する肺切除療法が,多年にわたる多くの外科医の努力にも拘らず,その長期生存成績は必ずしも満足すべき成果が得られていないことは周知の事実である.

 これに対し1939年BarneyおよびChurchillら19)が初めて腎悪性腫瘍の肺転移巣を肺切除後23年の長期生存例を得て以来,近年この問題についての発表が多く内外の文献でかなり注目をあつめている.

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はじめに

 手術用双眼顕微鏡(The operating binocular microscope)が医学領域に利用されるようになつたのは,かなり以前のことで特に目新しいことではない.血管の乏しい,ほとんど術中に出血しない器官,たとえば耳鼻科領域の中耳,内耳の手術(Holmgren 19255),Shambaugh 194214)や眼科領域の角膜,レンズの手術(Peritt 195014), Bar-raquer 19561)のさい,細かい仕事にはこの顕微鏡は偉大な威力を発揮する.従つて,今日耳鼻科,眼科のいくつかの古典的な手術はこれを使うことが必須といつてよく,これなしには不可能といつてもよい.また一方,小血管の手術が盛んに試みられた頃,種々の血管縫合器の開発にもかかわらず,いぜん外科医の手縫いが重用され,しかも1mm以下の血管は手縫い以外には不可能といわれ,したがつて1960年,Jacobson7)がこのbi-nocular microscopeを利用することを発表して以来,micro-vascular surgeryのための器具や縫合糸の改良と相い俟つて,技術的にこの方面においてかなりの進歩をもたらした.

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はじめに

 胆石症,胆嚢炎の外科的療法は今日ほぼ完成されたごとくであるが,今日といえども肝内結石症をはじめ必ずしもその治療は容易でなく,時に極めて治療に難渋し不幸死の転帰をとる症例に遭遇する場合も存する.私共は胆道疾患に際してはでき得る限り経皮胆道造影や術中,術後の胆道造影等を行なつて胆道の病態の把握につとめることに心掛けているが,今回は自験例をもととし胆道造影所見より伺かがつた治療の困難性の一端と,あわせて死亡症例を中心として検討した成績について述べる.

外国文献

外傷とDIC,他
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 Disseminated intravascular coagulation(DIC)のシンポジウムがJ.Trauma 8月号に特集されているが,さしあたり,Mckay(9:646, 1969)を紹介しておきたいが,病理学の立場から論じていること勿論である.細小動静脈・毛細管の栓球ないし,セン維素塊である時間以上つづけば出血ないし壊死を招くので,腎・脳・下垂体・肺・肝・副腎・小腸粘膜に好発する.程度は部位毎に不定だが,腎では無症状,tubular necrosis, bilateral cortical necrosisまでさまざま.ただし多臓器にmic-roscopic thrombiが多発したことは直ちに継続時間,重症度を示さない.まず栓球,fibrinogen, prothrombin complex,Ⅴ,Ⅶ,Ⅷ,Ⅹ因子の欠乏がみられ,これが血栓形成に消費されている.active fibrinolysinが同時におこり(maximalに),やがて上記因子は正常以上(100−800%)となつて回復する.症状は程度によつて,さまざまの度のショック,無尿,ケイレン,嘔吐,下痢など.

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第31回日本臨床外科医学会は1969年11月27日(木)から29日(土)までの3日間,好天に恵まれた鹿児島において,総会会長内山八郎氏と準備委員長秋田八年氏のお世話で開催され,この地ではこうした学会のもたれたことは少ないとのことであつたが,その所為でもあつたかゆつたりとした雰囲気のうちに展開された.

臨床経験に基づいた質疑応答の多いのも本会の特色であるが,臨床家の持つ破り難い厚い壁を再確認する場となるのも特色といわねばならない.

患者と私

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□33.333‥‥%

 "臨床の教授というものは研究・教育・診療の3本立て,どちらか1本欠けても,その職責を果したとはいえない".こう戒しめられて今日にいたつたが,"患者と私"——この席へ引きだされたとたん,私の頭のなかでは,この二つがはげしい連鎖反応をおこした.

 私は外科医者を志して大学の教室にはいり,6年間の修業を終えたとき,すぐ教職についた.その後30年間,同じ職業を続けたわけであるから,この戒しめは,いわば私の一生にわたつてつきまとつたという次第.この席がザンゲ台,なんとなく冷たいものに感じられるのも無理はあるまい.事実,私は研究・教育・治療,この三つのバランスのことに悩まされつづけた.

外科教育を考える 医師の卒後教育について・3

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将来に展望のない暗い混乱のなかから,どのように抜け出ていくのか? なりふりかまわず生きのびて良いのだろうか? 自分の住む社会を自らの手で築こうとする人達のあまりにも少いこと,医学や医療のあり方を追求する人達のあまりにも少ないこと,このことが全てを誤らせてはいないだろうか?

 外科医の卒後訓練制度について論ぜよとのことだが,その前に現在の医療制度の,また今後10年間の医療そのものの危機についてまず考えを及ぼさなければならない.

講座 連載・1

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 手術の成績を向上させるためには,まず完全な手術をすることである.今日のように手術の適応が拡大してきて,胃癌の拡大根治手術や,膵頭切除術などの大きな手術が行なわれるようになると,手術時間とか,出血量とかの点でも手術侵襲も大であるし,また時にはpoor riskのものや,老人の手術をする機会が増えて来たことなどあり,手術はうまくいつたが,あとが思わしくないというのでは感心しないのである.これは全て合併症の発生によるものであるから,合併症のおこらないような対策をたてることが大切であることになる.

 消化器疾患では,幽門狭窄などで,食餌の摂取ができなかつたりして,低蛋白血症とか,貧血とか,あるいは脱水とかの状態に陥つているものが少なくないのである.このような悪い状態をできるだけ早く改善して,最良の条件のもとに手術をすることが望ましいわけである.

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はじめに

 今日胃腸ならびに胆道疾患をはじめ,その他の腹部疾患に際して腹部X線検査は日常不可欠のものとしてはなはだ多数の症例に行なわれている.しかしX線検査上,胆道系のガス像あるいは消化管のバリウムの胆道内への逆流をみる症例の報告は少なく,その成因といわれるOddi氏筋不全,胆嚢あるいは総胆管十二指腸瘻などの疾患は比較的稀とされている.

 われわれは最近Oddi氏筋閉鎖不全症の2例を経験し,これを外科的に全治させ得たのでここに報告し,文献的に2,3の考察を行なつてみた.

基本情報

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臨床外科
25巻5号 (1970年5月)
電子版ISSN:1882-1278 印刷版ISSN:0386-9857 医学書院

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