産科と婦人科 91巻5号 (2024年5月発行)

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特集　女性のライフコース疫学研究「日本ナースヘルス研究（JNHS）」のすべて

ねらい寺内　公一 91巻5号 , 2024年5月 , pp.489-489

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　日常診療のなかで生じたぼんやりとした疑問：Clinical Question（CQ）をPECO/PICOの形でResearch Question（RQ）として構造化し，それを “FIRM2NESSチェック” によりブラッシュアップする．こうして得られたRQに対応する最適な臨床研究のデザインを選択する…．京都大学の福原俊一名誉教授がその著書「臨床研究の道標」（2013年）で述べられている研究手順である．研究デザインの選択は，研究者が介入を計画しない「観察研究」＞比較対象のある「分析的観察研究」＞要因とアウトカムの測定時点が異なる「縦断研究」と進み，要因（exposure：E）の測定から一定の時間を経てからアウトカム（outcome：O）を測定するのが「コホート研究」である．コホート研究はこの時系列に基づき，正確に測定したEとOとの時間的関係を示すことができるとともに，交絡因子を研究開始時に測定しておくことができる，Eに対して複数のOを測定できる，リスク比・発生率比だけでなくリスク差・発生率差を計算できる等の長所を有するが，一方で膨大な研究資金と労力を消費しながらそれらの大部分がOを起こさない人の追跡・観察に用いられるという短所を抱えており，組織経営に成功した少数の優等なプログラムのみが長期生存を許される過酷な世界である．

1．日本ナースヘルス研究の概要林　邦彦 91巻5号 , 2024年5月 , pp.493-498

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要旨

　わが国女性を対象にしたライフコース疫学研究によるエビデンス創生を目的として，1999年に群馬ナースヘルス研究（GNHS）を，2001年に日本ナースヘルス研究（JNHS）を，2022年に日本ナースヘルス次世代コホート研究（JNHS-II）を，そして2023年に日本ファーマシストヘルス研究（JPHS）を開始した．この4つの前向きコホート研究からなる研究群は，英国のBritish Doctors Study，米国のNurses’ Health Studyといった保健医療従事者コホート研究の流れを汲む．JNHSを中心に，研究の経緯，研究計画の概要などとともに，海外の大規模女性コホート研究との連携について概説する．

2．日本人の閉経年齢，早発卵巣不全や早期閉経の割合，子宮内膜症と子宮筋腫のリスク因子，ライフコースにおける女性ホルモン剤の使用状況およびその特性安井　敏之 91巻5号 , 2024年5月 , pp.499-506

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要旨

　①日本人の閉経年齢の中央値は52.1歳，早発卵巣不全の割合は0.28%，早期閉経の割合は1.67%であった．また，喫煙習慣がある，現在のBMIが低い，18～22歳時の月経が規則的，分娩歴がない女性では閉経年齢は早まっていた．片側卵巣摘出術を受けた女性，子宮内膜症と関連した不妊の既往がある女性では有意に閉経年齢が早まっていた．

　②子宮内膜症に関与するリスク因子として，18～22歳時での月経周期が短いことが示された．子宮筋腫に関与するリスク要因について，高血圧の既往とともに母親の高血圧も関連がみられた．

　③ホルモン補充療法（HRT）使用者の割合について，過去の使用者は3.2%，現在の使用者は10.6%であった．経口避妊薬（OC）使用者の割合は6.0%であった．過去にOCを使用していた女性，日常生活に支障をきたす月経痛を有する女性，血管運動神経症状の経験を有する女性，保健師や助産師，両側卵巣摘出術の既往のある女性では，HRTの使用が高かった．

3．出生時体重，若年時体型と2型糖尿病片野田　耕太 91巻5号 , 2024年5月 , pp.507-513

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要旨

　出生時体重，若年時の体型と2型糖尿病との関連について，日本ナースヘルス研究（JNHS）のベースライン調査の断面的分析結果を紹介する．出生時体重と2型糖尿病既往歴の関連については，出生時の体重が軽いほど2型糖尿病との関連が強いという結果であった［出生時体重の100g増加に対応する2型糖尿病オッズ比0.93（95%信頼区間：0.90-0.96；年齢と成人後BMI調整）］．生物学的機序としては，いわゆるBarker仮説，つまり胎児期の低栄養への適応が考えられる．若年時（18歳時）のBMIとの関連については，U型，つまり18歳時BMIが大きい群でも小さい群でも2型糖尿病のオッズ比が大きい傾向があった．やせが2型糖尿病と関連する機序としては，低栄養や骨格筋の発達不良がインスリン抵抗性を惹起することが考えられる．ライフコースを通じた体重と2型糖尿病との関連は未知の部分が多く，今後の研究が期待される．

4．妊娠高血圧症候群倉林　工 91巻5号 , 2024年5月 , pp.515-520

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要旨

　周産期は自らの生涯の健康を予測するチャレンジテストの時期でもある．日本ナースヘルス研究（JNHS）から，①実母に妊娠高血圧症候群（HDP）既往があるとその娘もHDPのハイリスクである，②HDP既往は更年期以降の高血圧，高コレステロール血症のリスク因子である，③低出生体重児や早産児は将来のHDPのリスク因子である，④HDP既往女性は未経験者に比べ重度のホットフラッシュ発症が高率であることが判明した．すなわちHDPは自分の将来の生活習慣病や更年期障害のリスク因子であり，また子どもの健康にも影響する可能性がある．

5．卵巣性不妊と生活習慣病倉林　工 91巻5号 , 2024年5月 , pp.521-528

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要旨

　約45,000人の日本ナースヘルス研究（JNHS）のベースラインデータ解析から，多囊胞性卵巣症候群（PCOS）が多くを占める卵巣性不妊（排卵障害，黄体機能不全）の既往があると非不妊女性に比べ，①45歳未満で肥満が多く，②45歳以上の高血圧発症リスクが約1.7～1.9倍高く，③年齢にかかわらず高コレステロール血症発症が約1.4倍高いが体格補正で消失し，④45歳未満の糖尿病発症リスクが約3倍高いが体格補正にて消失した．すなわちPCOSは若年期の生殖異常のみでなく，その後の長期的な代謝異常である生活習慣病のハイリスク群であることが示唆された．

6．女性のライフコースと骨粗鬆症倉林　工 91巻5号 , 2024年5月 , pp.529-535

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要旨

　日本ナースヘルス研究（JNHS）のデータ（15,717人，ベースライン時の年齢41.6±8.3歳，平均フォロー期間11.5±4.4年）を用いた骨粗鬆症の日本人女性は，原発性骨粗鬆症5.2%，続発性骨粗鬆症0.5%，合計5.6%であり，骨粗鬆症の年代別累積発症率は，40歳，50歳，60歳，70歳，80歳で各々0.1%，1.1%，7.7%，23.6%，54.2%であった．また，ベースラインデータと2年ごとの定期フォローアップデータに骨粗鬆症の詳細調査票を併用することにより，JNHS疾病評価委員会専門委員判定での判定法の高い妥当性（陽性的中率85.6%，陰性的中率98.2%）を証明した．

7．喫煙習慣と妊娠，出産，閉経宮崎　有紀子 91巻5号 , 2024年5月 , pp.537-541

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要旨

　日本ナースヘルス研究（JNHS）では，喫煙習慣に関する情報をベースライン調査およびフォローアップ調査において継続的に収集している．喫煙者の割合はベースライン調査時点で17.2%であったが，時間経過とともに減少傾向である．妊娠中の女性の喫煙者割合は低く，妊娠・出産等のリプロダクティブヘルスに関連するイベントは女性の喫煙習慣に影響していた．喫煙経験は閉経の起こりやすさと有意な関連がみられ，喫煙量も関連することが示唆された．

8．日本人女性における婦人科癌罹患の実際―日本ナースヘルス研究におけるバリデーション評価から― 髙松　潔 91巻5号 , 2024年5月 , pp.543-550

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要旨

　日本ナースヘルス研究（JNHS）参加者からの婦人科癌（子宮頸癌・子宮体癌・卵巣癌・乳癌）の申告情報についてのバリデーション評価を行い，推定罹患率を算出したところ，JNHSコホートの30～60歳における婦人科癌の罹患率は年間10万人年あたり，子宮頸癌，子宮体癌，卵巣癌，乳癌それぞれ，22.0，25.4，13.8，160.4であった．

　本検討から，単なる自己申告だけでは罹患の確定はできないもの，追加の詳細確認や病歴・死亡情報などとの照合により，妥当性の高い検討が可能であることが明らかとなった．今後，JNHSにより，婦人科癌における日本人でのリスク因子の解明が期待される．

9．ライフコースにおけるサプリメントの利用岸　美紀子 91巻5号 , 2024年5月 , pp.551-555

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　サプリメントは身近な存在となっており，国民健康栄養調査によると20歳以上の女性の38.2%が利用している．目的は健康の保持・増進やビタミンの補充である．日本ナースヘルス研究（JNHS）による調査でも対象者の34.4%がサプリメント等の健康食品を利用しており，うち70%が複数の種類を併用していた．年齢が高くなるに従って利用者の割合が増える傾向にあった．健康のために利用されるサプリメントが健康被害を及ぼす例もあることから，日常診療において参考となるデータベースについても紹介する．

10．日本人女性におけるエクオール産生能井手野　由季 91巻5号 , 2024年5月 , pp.556-559

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　エクオールは大豆イソフラボンのなかでも高いエストロゲン様作用を有するが，すべての人がエクオールを産生できるわけではなく，また世界的に確立されたエクオール産生者の定義もなかった．そこで日本ナースヘルス研究（JNHS）では，日本人女性の日常生活下でのエクオール産生能を評価するために，「尿中のダイゼイン濃度に対するエクオール濃度の比を対数変換した値＝−1.42」というカットオフ値を提案した．この定義を解説するとともに，日常生活下で収集した尿検体を利用したJNHSサブ研究を紹介する．

11．更年期症状としての物忘れと尿失禁長井　万恵 91巻5号 , 2024年5月 , pp.560-566

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　周閉経期において，記憶力の低下や物忘れの症状が出やすいものの，閉経後には症状が軽快する可能性が示唆されており，ほかの更年期症状とも関連があった．明確なメカニズムは不明なものの，腹圧性尿失禁は閉経により軽減する可能性がある一方，尿意切迫感や切迫性尿失禁を引き起こす過活動膀胱は，加齢とともに有病割合が増えるが，周閉経期の女性の有病割合の増加が大きく，更年期症状に関連している可能性が考えられる．

12．体重コントロールと膝痛・腰痛伊藤　歩美 91巻5号 , 2024年5月 , pp.567-571

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要旨

　一般に女性は膝痛・腰痛などの筋骨格系障害の有訴率が男性より高い．看護職有資格者の女性を対象とする日本ナースヘルス研究（JNHS）において，BMIの長期間の変化パターンと膝痛有訴との関連を調査分析した．中年期において女性が正常体重を維持すること，過体重の女性では体重を減らすことで，より後年の膝痛を予防できる可能性が示唆された．一般集団に比べ看護職では膝痛・腰痛の有訴率が高いが，膝痛・腰痛をもつ対象者に，日常生活や就労時において困難となる動作を調査した結果，起居，長時間立位，階段昇降，重い物の持ち上げなどがおもな困難動作となっていた．その後のJNHSフォローアップ調査において，これら4動作について継続して調査しており，看護職における筋骨格系障害の早期検出や重症化予防に寄与できるエビデンス創生を目指している．

13．女性のライフコースにおける夜勤と睡眠障害寺内　公一 91巻5号 , 2024年5月 , pp.572-578

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要旨

　日本ナースヘルス研究（JNHS）第6次調査で得られた女性看護師9,728人の回答を後方視的に解析し，日中の眠気に夜勤が与える影響について検討した．28.7%が月3回以上の夜勤に従事しており，日中の眠気（エップワース眠気尺度11点以上）の有症率は24.6%であった．60歳以上の女性では，現在の夜勤と肥満が日中の眠気と関連していた．医療過誤を最小化するためにも，看護師の睡眠・健康の状態を十分に考慮したうえで夜勤を指示することが必要であると考えられた．

14．女性の妊娠出産と歯の喪失田口　明 91巻5号 , 2024年5月 , pp.579-583

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　妊娠出産や閉経は歯を喪失するリスク因子といわれている．従来の報告では，出産回数が多いほど歯の喪失リスクが高まることが示唆された．日本ナースヘルス研究の検証では，50歳以降の女性看護職員において，出産回数と歯の喪失リスクとの関係はみられたが，50歳以前では関係はみられなかった．歯の喪失には時代背景を含めて多くの因子が関係することから，それらを含めての縦断的検証が今後必要と考えられる．

連載　漢方よもやま話・第5回

半夏厚朴湯能㔟　充彦 91巻5号 , 2024年5月 , pp.584-587

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1．はじめに

　今回ご紹介する処方は，半夏厚朴湯です．

連載　弁護士が答えます！法律にまつわるあれこれ

患者さんの迷惑行為にどうやって対処したらよいでしょうか？水上　裕嗣 91巻5号 , 2024年5月 , pp.588-589

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Q　看護師に対して大声で怒鳴ったり暴言を吐いたりする通院患者さんがいて，看護師がおびえています．どうしたらよいでしょうか．

連載　専門医・認定医をとろう！私の体験記・第11回

細胞診専門医（日本臨床細胞学会）近内　勝幸 91巻5号 , 2024年5月 , pp.590-591

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細胞診専門医とは

・細胞診断に関する知識・技量を備えた医師・歯科医師で，医師・歯科医師ならびに細胞検査士の指導にあたる者を指します．

・がんの予防および治療に必要とされる細胞診についての専門的な知識・技能・態度を身につけ，自らが行う臨床実務のみならず，精度管理や細胞検査士等の指導・育成等幅広い活動を通じて国民の福祉に貢献する医師を指します．

　詳しい制度や試験の内容などは日本臨床細胞学会のホームページをご確認ください（https://jscc.or.jp/）（2024年1月17日閲覧）．

症例

機能性ゴナドトロピン産生下垂体腫瘍が原因で生じた卵巣囊胞に対しくり返し卵巣腫瘍摘出術が行われた1例太田　肇 , 三宅　菜月 , 太田　幸希 , 村岡　彩子 , 竹内　和人 , 大須賀　智子 91巻5号 , 2024年5月 , pp.593-597

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要旨

　機能性ゴナドトロピン産生下垂体腫瘍（functioning Pituitary Neuroendocrine tumor：functioning PitNET）は非常にまれな疾患であるが，卵巣腫大や月経異常などをきたすことがある．本症例は反復する卵巣腫大に対してくり返し卵巣腫瘍摘出術が施行されていたが，経鼻的下垂体腫瘍摘出術によって各ホルモン値は正常化し卵巣腫大が改善した．内分泌学的異常を伴う卵巣腫大に対しては，卵巣予備能低下を引き起こす卵巣腫瘍摘出術を安易に選択せず，本症を疑い精査することが重要である．

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目次 91巻5号 , 2024年5月 , pp.490-491

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お知らせ 91巻5号 , 2024年5月 , pp.514-514

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投稿規定 91巻5号 , 2024年5月 , pp.600-601

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投稿論文チェックリスト 91巻5号 , 2024年5月 , pp.602-602

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投稿同意書 91巻5号 , 2024年5月 , pp.603-603

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バックナンバー 91巻5号 , 2024年5月 , pp.606-606

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本号掲載広告一覧 91巻5号 , 2024年5月 , pp.607-607

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次号予告 91巻5号 , 2024年5月 , pp.608-608

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基本情報

産科と婦人科
91巻5号
(2024年5月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9792 診断と治療社

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