産科と婦人科 88巻1号 (2021年1月発行)

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特集　最新産婦人科遺伝診療ABC

産婦人科遺伝診療総論澤井　英明 88巻1号 , 2021年1月 , pp.5-10

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産婦人科領域における遺伝診療は、周産期医療の出生前診断、生殖医療の着床前診断、そして婦人科腫瘍領域の遺伝性腫瘍とがんゲノム医療がおもな関連領域である。また女性医学の領域でも注目されつつある。このように遺伝診療は産婦人科の全領域を横断しており、基本的な遺伝診療の知識は、産婦人科専門医には欠かせないもので、専攻医の段階から最新の基本知識を身につけておく必要がある。その後は遺伝診療により深くかかわるサブスペシャリティとして臨床遺伝専門医がある。

出生前遺伝学的検査と医療倫理鈴森　伸宏 88巻1号 , 2021年1月 , pp.11-15

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出生前遺伝学的検査は、診断することで、女性の心理的･身体的負担を軽減するという考え方がある一方、検査の目的やアクセス、心理ストレス、社会的要素といった問題がある。生命倫理的な課題を含んだ診断になり慎重な姿勢で臨むことが大切で、医療倫理の4原則のうち、｢自律(意思)尊重｣と｢正義(公平)｣、すなわち｢自己責任･自己決定｣と｢社会｣の対立がある。このため命と向き合う夫婦とそれを受け入れる社会の相互の関係を医療倫理の側面から考える必要がある。

出生前遺伝学的検査と遺伝カウンセリング古庄　知己 88巻1号 , 2021年1月 , pp.16-21

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出生前遺伝学的検査をめぐる遺伝カウンセリングは、臨床遺伝専門医･認定遺伝カウンセラーが産婦人科医と協力して、胎児が遺伝性･先天性疾患を有するリスクを心配する妊婦(夫婦)を対象に、正確なリスク評価、関連する遺伝学的検査の方法･わかること･限界･留意点、陽性結果が出た際の選択肢としての人工妊娠中絶の方法･留意点、代表的な疾患に関する具体的かつ包括的な臨床像についてわかりやすく情報提供するとともに、その思いをじっくり傾聴し、自律的決断を促し、そして見守り支える診療行為である。

NIPT 関沢　明彦 , 藤川　浩 88巻1号 , 2021年1月 , pp.22-30

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母体血胎児染色体検査(NIPT)は胎児染色体疾患についての非確定的出生前スクリーニング検査の1つである。母体血漿中を循環するcell-free DNAの10%が胎児由来成分であることを利用して行われているが、このDNAは胎児由来といっても胎盤の絨毛細胞由来である。そのため、検査精度は高いものの確定的な検査にはなり得ない。NIPTにより、21トリソミー、18トリソミー、13トリソミーを極めて高精度に検出可能である。検査前には出生前カウンセリングを行い、妊婦に検査についてよく理解を得たうえで、妊婦の自律的な意思に基づいて検査が行われる。

羊水検査、絨毛検査上出　泰山 , 佐村　修 88巻1号 , 2021年1月 , pp.31-36

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母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal testing:NIPT)の拡大により、侵襲的検査である絨毛検査や羊水検査は施行件数が減少している。しかし、非侵襲的検査は確定検査ではないため、確定検査である絨毛検査や羊水検査の重要性は変わらない。また最大の合併症である流産のリスクは従来考えられていたより低いと近年報告されている。胎児超音波診断や遺伝学的解析技術の発展により手技だけでなく、施行する者は幅広い知識を獲得し適切な情報提供を行う必要がある。

着床前遺伝子検査(PGT) 佐藤　卓 , 水口　雄貴 , 末岡　浩 88巻1号 , 2021年1月 , pp.37-44

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着床前遺伝子検査は、体外受精により発生した胚の遺伝的状態を診断する技術である。当初は重篤な遺伝病を対象として開発されたが、現在ではその適応は拡大し、染色体構造異常に起因する流産の回避等を目的として実施されるようになった。また、体外受精の成績向上を目的として、胚の染色体異数性の検出のためにも用いられつつあるが、実施をサポートする十分なエビデンスのない、体外受精に対する付加的な治療選択肢の1つであることを患者には伝える必要がある。

着床前遺伝学的検査の技術的進歩と限界七里　由衣 , 加藤　武馬 , 倉橋　浩樹 88巻1号 , 2021年1月 , pp.45-51

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着床前遺伝学的検査では体外受精後に胚生検を行い、疾患関連遺伝子や染色体構造異常を同定することにより非罹患胚を移植する。近年、胚の染色体異数体に起因する不妊や習慣流産において、流産率の低下や妊娠率の向上を目的とした特別臨床研究が開始された。生検細胞数の増加や網羅的遺伝子解析技術の進歩により解析精度が高まる一方で、結果の解釈や倫理的問題など解決すべき課題も多い。十分な遺伝カウンセリングのうえで、可能なこと、そして限界をクライエントが十分理解したうえで実施されることが重要である。

不育症と遺伝診療杉浦　真弓 , 吉原　紘行 , 佐藤　剛 88巻1号 , 2021年1月 , pp.53-57

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不育症の4大原因は抗リン脂質抗体症候群(APS)、子宮奇形、夫婦染色体構造異常、胎児(胎芽)染色体異数性(aneuploidy)である。APSは抗凝固療法によって70～80%が出産可能である。子宮奇形に対する手術が実施されているが、出産率改善は証明されていない。均衡型転座、異数性に対する着床前診断による出産率改善は証明されていない。

男性不妊に対する遺伝学的検査吉川　直希 , 阿部　友嘉 , 大野田　晋 88巻1号 , 2021年1月 , pp.59-64

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造精機能障害の重症度と染色体異常の発生頻度には相関関係があり、そのため男性不妊診療において染色体異常を有する症例は決してめずらしくない。近年TESE-ICSIの技術の向上に伴い、難治性の男性不妊症例でも児を獲得できる可能性が出てきたが、遺伝学的な問題が次世代に伝播する可能性についても注意を払わなければならない。本稿では男性不妊診療においてわれわれ産婦人科医が理解すべき基本的な知識について概説した。

婦人科腫瘍領域における遺伝診療総論坂井　美佳 , 竹原　和宏 , 平沢　晃 88巻1号 , 2021年1月 , pp.65-72

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遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)やLynch症候群を代表とする遺伝性腫瘍は婦人科腫瘍とのかかわりが深い。特にごく最近では2019年のBRCA1/2遺伝学的検査のコンパニオン診断とがんゲノム医療の保険診療化、そして2020年4月のHBOC診療の一部保険診療化に伴い、産婦人科医にとって遺伝性腫瘍の知識は不可欠なものとなっている。個々の遺伝情報を知ることは、がん治療および予防の観点から有用性が高い。

Lynch症候群安達　将隆 , 阪埜　浩司 , 青木　大輔 88巻1号 , 2021年1月 , pp.73-79

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Lynch症候群は、大腸癌や子宮体癌を高率に発症する遺伝性疾患であり、女性では、Lynch症候群の子宮体癌は大腸癌に先行または重複して発症することがある。若年発症の場合には妊孕能の消失など、医学的、社会的に問題となるケースが少なくない。本稿ではLynch症候群の診断やサーベイランス、リスク低減手術をはじめ、免疫チェックポイント阻害薬のコンパニオン診断との関連などLynch症候群に関する最新の知見につき解説する。

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC) 近藤　春裕 , 右田　王介 , 鈴木　直 88巻1号 , 2021年1月 , pp.81-88

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BRCA生殖細胞系列病的バリアント保持者の女性における生涯の卵巣癌発症リスクは一般女性に比べ高率である。卵巣癌に対する確実な早期発見法はなく、進行卵巣癌の予後は決して良好ではない。一方、遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)は診断によってサーベイランス、リスク低減手術などの対応が可能な疾患概念である。2020年4月よりBRCA生殖細胞系列病的バリアント保持者の乳癌既発症者に対して卵巣癌発症予防を目的にリスク低減卵管卵巣摘出術(RRSO)が保険収載された。本稿では、産婦人科医に必要なHBOCの診断とRRSOの現状について解説する。

婦人科腫瘍領域におけるがん遺伝子パネル検査織田　克利 88巻1号 , 2021年1月 , pp.89-94

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2019年6月より2種類のがん遺伝子パネル検査が保険適用となり、広く日常診療として実施されるようになってきた。限られた誌面でがん遺伝子パネル検査の全体像を把握することは難しいため、本稿では、特に婦人科がん領域での活用という観点から、(1)婦人科がんで本検査を受けている人が多い要因、(2)各がん遺伝子パネル検査における留意点、(3)適応外使用を可能にするための患者申出療養(受け皿試験)の3点を中心に解説する。

遺伝カウンセリングロールプレイ研修の実際三宅　秀彦 88巻1号 , 2021年1月 , pp.95-100

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遺伝カウンセリングロールプレイは、遺伝カウンセリングの面接実習であり、遺伝カウンセリングの教育では標準的に用いられている。その目標としては、面接における姿勢･態度、知識や遺伝学的評価を説明する技術、意思決定支援の技術の修得である。スモールグループによるロールプレイでは、グループ内で遺伝カウンセリング担当者役、クライエント役、観察者役の各役割を交代しながら担当する。ロールプレイ実習では、ロールプレイで役割を担当することだけでなく、事前検討、事後検討が大切であり、お互いの学びを共有することでより大きな学びにつながる。

連載

医療裁判の現場から(第24回)　医療裁判に関するQ&A　減胎手術における手技、術式、感染症対策等について医師の注意義務違反が否定された事例福原　正和 , 水上　裕嗣 88巻1号 , 2021年1月 , pp.101-109

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注目の製品

子宮頸管熟化剤プロウペスの使い方　子宮頸管熟化剤で子宮収縮作用がある薬剤の適切な使用方法Q&A 永松　健 , 伊東　宏晃 88巻1号 , 2021年1月 , pp.113-117

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原著

COVID-19が奈良県の地域産婦人科医療に与えた短期的影響　日本人初感染例の確認から緊急事態宣言発令までの解析市川　麻祐子 , 三宅　龍太 , 山中　彰一郎 , 馬淵　誠士 88巻1号 , 2021年1月 , pp.119-126

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日本人初感染例の報告日(2020年1月28日)から緊急事態宣言発令(4月7日)までの期間に、COVID-19が奈良県の産婦人科医療に与えた影響を検討した。手術実施数、放射線･化学療法実施数、分娩数に大きな変化を認めなかったが、期間内にCOVID-19を理由にした良性腫瘍手術の延期･中止希望患者が増加した。外来では、報告の直後から、再診予約の変更･未来院、また心理カウンセリングを希望する妊婦が増加し、月を追うごとに外来の収益が減少した。

基本情報

産科と婦人科
88巻1号
(2021年1月発行)

電子版ISSN：印刷版ISSN：0386-9792 診断と治療社

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