臨床泌尿器科 74巻2号 (2020年2月)

特集 いま話題の低活動膀胱―これを読めば丸わかり!

企画にあたって 小島 祥敬
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 2002年に国際禁制学会によって,過活動膀胱の定義づけがなされました.わが国でもそれにならい,「尿意切迫感を必須症状とし,通常は夜間頻尿と頻尿を伴う症状症候群」と定義づけられています.尿流動態検査でしか診断できなかった排尿筋過活動を,症状のみでとらえようという考えがその根底にあったのだと思います.当時は,抗コリン薬を中心としたいわゆる蓄尿症状の改善薬が世に出始めた頃であり,また下部尿路機能障害を専門とする泌尿器科医のみだけではなく,一般泌尿器科医や一般医家が理解しやすい「病名」をつくるということは,それなりの恩恵をもたらしたのだと思います.その一方で,過活動膀胱というたった1つの言葉で表現されたことにより,その多彩な病態がなおざりにされていることも事実です.

 さて,本号の特集は「低活動膀胱」です.尿流動態検査でしか診断できない排尿筋低活動を症状のみでとらえることができるのか? 過活動膀胱のように一筋縄ではいきません.本文でも触れられている通り,海外では低活動膀胱の特徴が提唱されています.しかし,前立腺肥大症などの膀胱出口部閉塞(BOO)との鑑別を,症状のみでいかにしてするか,非常に難しい問題です.一方で,「低活動膀胱」の患者さんが数多くいることも事実です.侵襲的な尿流動態検査を用いることなく,症状のみで診断できることは,医療従事者にとっても患者さんにとっても非常によいことです.果たして,低活動膀胱は“2匹目のどじょう”となりうるのでしょうか?

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▶ポイント

・低活動膀胱(UAB)とその背景となる排尿筋低活動(DU)の原因は中枢,末梢の多岐にわたる.

・UAB/DUの誘因として,老化,中枢での神経障害,糖尿病,膀胱出口部閉塞,膀胱虚血,末梢神経傷害に伴う膀胱レベルでの神経性,筋原性の変化が挙げられる.

・UAB/DUの病態解析には,臨床データに基づいた複数の動物モデルによる複合的な研究が必要である.

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▶ポイント

・排尿筋低活動(DU)とは,排尿筋の収縮力や収縮持続が減少するため,効率よく尿を排出できない膀胱機能障害で,高齢者によくみられる身近な膀胱機能障害である.

・DUによって発症する症状症候群が低活動膀胱(UAB)である.

・尿流動態検査などの侵襲的検査を用いないDUやUAB診断の可能性について検討されてきている.

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▶ポイント

・一般地域住民における低活動膀胱・排尿筋低活動の有病割合や自然史は,まだよくわかっていない.

・先行研究の結果から,男性でより多く症状を有し,男女とも加齢に伴って有病割合が増加することが示唆される.

・科学的に妥当な,同一の基準を用いた大規模疫学研究の実施が不可欠である.

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▶ポイント

・低活動膀胱は,排尿筋低活動を示唆する症状症候群といった考えが主流である.

・低活動膀胱の特徴的症状として,尿勢低下,排尿遅延および腹圧排尿が挙げられるが,特異性は高くない.

・患者報告アウトカムに基づいた低活動膀胱に対する質問票が開発されており,今後の低活動膀胱診断,治療効果評価に期待されている.

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▶ポイント

・低活動膀胱の診断を可能とする非侵襲的検査はいまだ存在しない.

・すべての非侵襲的検査は前向き臨床試験などによる妥当性の検証が必要である.

・尿流測定,残尿測定は経過観察などの日常的診療の方法として有用である.

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▶ポイント

・低活動膀胱という用語は過活動膀胱と対比する用語であり,排尿筋過活動と対比する尿流動態検査上の用語として排尿筋低活動がある.

・排尿筋低活動とは内圧尿流検査上の所見で,排尿筋収縮力の低下または収縮時間の短縮と定義される.

・排尿筋低活動の内圧尿流検査上の定義は複数存在しており,排尿筋収縮力の低下または収縮時間の短縮という2つの要素を明確に規定するシンプルなパラメータは存在しない.

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▶ポイント

・低活動膀胱は不可逆的な変化であり,理学療法といった保存的治療以外に有効な治療は限られている.

・新たな治療法として再生治療,遺伝子治療,神経変調療法が注目されている.そのなかで,神経変調療法の意義は残存膀胱機能の回復にあり,電気刺激療法などがある.改善機序については十分に解明されていない.

・臨床研究先行型の手法が用いられており,仙骨神経刺激療法は難治性過活動膀胱ばかりではなく,低活動膀胱にもすでに適応となっている.

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▶ポイント

・低活動膀胱に対する治療には,排尿筋低活動に対する治療と尿道弛緩不全に対する治療がある.

・排尿筋低活動に対する有効な治療はないのが現状である.

・尿道弛緩不全に対するα1遮断薬投与は一定の効果を示すと考えられている.

〈疾患各論〉

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▶ポイント

・神経因性膀胱は,骨盤底筋・膀胱出口部(尿道)側の障害を単独で来すことはごくまれで,膀胱側の障害をしばしば来す.

・神経因性膀胱のなかで,脳疾患は過活動膀胱を,仙髄・末梢神経疾患は低活動膀胱と膀胱感覚の低下消失を,脊髄疾患・多系統萎縮症は過活動膀胱(蓄尿期)と低活動膀胱(排尿期)の組み合わせの形を呈することが多い.

・すなわち,原因不明の低活動膀胱をみたら,末梢神経(糖尿病,腰椎症が多い)・仙髄の疾患(潜在性二分脊椎など)・脊髄疾患(多発性硬化症,髄膜炎―尿閉症候群など)・多系統萎縮症などを疑い,精査するとよい.

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▶ポイント

・糖尿病によって低活動膀胱が引き起こされる.

・今後,糖尿病に起因する低活動膀胱の治療・管理を泌尿器科が行う機会が増えていくと予想される.

・糖尿病は早期に治療介入し,下部尿路機能障害・下部尿路症状発症を予防することが重要である.

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▶ポイント

・骨盤内手術後の低活動膀胱(排尿筋低活動)は子宮癌,直腸癌,前立腺癌,その他の骨盤内良・悪性腫瘍などに対する手術で発症する.

・子宮癌・直腸癌においては神経温存などの機能温存手術が普及してきており,発症頻度は減少傾向であるが現在でも10〜40%に発症していると推察される.

・治療法としては随意的排尿,薬物療法,清潔間欠導尿(CIC)があるが,エビデンスレベルの高い薬物療法はなくCICが中心となる.

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▶ポイント

・過活動膀胱と低活動膀胱の併存には膀胱血流障害の関与が示唆されているが,その病態は明らかではない.

・低活動膀胱や排尿筋低活動の定義が明確化されていないため,標準化された診断基準がない.

・過活動膀胱と低活動膀胱の併存に対する定まった治療アルゴリズムはないが,過活動膀胱に対する標準的治療が両者に有効である可能性が報告されている.

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▶ポイント

・低活動膀胱の原因は特発性,神経原性,筋原性,血流性(虚血),医原性に分類できるが,なかでも前立腺肥大症,糖尿病,加齢が主な原因と考えられている.

・前立腺肥大症による下部尿路症状(主として排尿症状)が膀胱出口部閉塞によるものか,低活動膀胱によるものかを症状で診断することは難しく,現状では侵襲的検査である内圧尿流検査を用いて鑑別することができる.

・手術療法により,膀胱出口部閉塞のみならず,低活動膀胱による下部尿路症状の改善が期待できる.

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 排尿自立指導において,多職種連携である排尿ケアチーム介入の具体的成果について機能的自立度評価法FIMを用い検討した.対象は脳卒中で回復期病棟に入院し,尿道カテーテルを抜去した65症例である.これらを従来方式の非介入群(31名)と排尿ケアチームの介入群(34名)で比較した.両群は,年齢,入院時,抜去時,退院時のFIMにて差を認めなかった.一方で,留置中認知FIM効率(非介入群0.10±0.23点,介入群0.24±0.54点)および総合認知FIM効率(非介入群0.02±0.07点,介入群0.06±0.06点)で介入群は有意に改善を認めた.よって,多職種連携の排尿ケアチーム介入は,より効率的に患者に利益をもたらすといえる.

連載 医薬系プレゼンテーションの技術―知れば,学べば,必ず上達!・第2回

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 前回,プレゼンテーションの3P分析「People(聞き手),Purpose(目的),Place(場所/環境)」(図1)を紹介した.しかし,読んで頭で理解しただけで十分だろうか.今回はその3P分析の実践例と,そのトレーニング方法をお示ししたい.

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 2016年5月に開催された先進国首脳会議,通称「伊勢志摩サミット」で薬剤耐性(AMR)の問題が取り上げられ,当時の塩崎恭久厚生労働大臣のイニシアチブの下さまざまな企画が立ち上げられた.国立国際医療研究センターにある国際感染症センターの活動も周知のとおりである.

 にもかかわらず,広域抗菌薬の代表ともいえるカルバペネム系抗菌薬の消費が,日本だけで世界の7割を占めるという状況から,(一部の意識の高い施設を除いて)大きく変わった印象が現場に少ない.もちろん,最大の原因は「感染症診療の原則とその文化」の広がりが均一でないことによる.しかし,さらにつきつめると,実は「抗菌薬感受性検査の読み方」が十分に教育できていないことも大きな理由の一つである.感受性検査の結果をS,I,Rに分類して単純に「Sを選ぶ」ことに疑問を抱かない問題といってもよい.一つひとつの症例で,ある抗菌薬が選ばれる背景には,感受性が「S」であること以外にも,微生物学的・臨床的・疫学的など多くの理由がある.その理解なしに,適切な抗菌薬の選択は不可能あるいは危険なのである.評者も,群馬大におられた佐竹幸子先生らとともにNPO法人EBICセミナーの一環として「抗菌薬感受性検査の読み方」シリーズを10年以上にわたり講義してきた.その講義は現在,日本感染症教育研究会(通称IDATEN)に引き継がれている.しかし,そのエッセンスを伝える書物は本書の発行まで皆無であった.

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目次

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 近藤 幸尋
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 最近「ダイバーシティ」という言葉を新聞やニュースだけでなく,病院や大学でもよく耳にすると思います.ダイバーシティ(diversity)とは,直訳すると「多様性」となり,性別,人種,国籍,宗教,年齢,学歴,職歴などの多様さを活かして,競争力につなげる経営上の取り組みを指します.「企業におけるダイバーシティ経営」といった文脈で使われますが,もともとアメリカで始まったダイバーシティ経営は,女性や性的マイノリティなどの積極的な採用や差別のない処遇を実現するために広がりました.日本においては,多様なワークスタイルや障害者雇用などを表す用語として使われ,取り組みを進める企業が増加しています.

 医療の世界でも,障害者雇用を踏まえた職場のバリアフリー化やクリニカルクラークシップで海外からの採用などを行っています.当院でも外国人の実習生が午後より働いており,物品の輸送や食事の配膳などを行っております.文部科学省関連でも「ダイバーシティ研究環境実現イニシアティブ」と称して,科学技術人材育成補助事業が公募されています.この事業は研究環境のダイバーシティを高め,優れた研究成果の創出につなげるため,女性研究者のライフイベントおよびワーク・ライフ・バランスに配慮した研究環境の整備や,女性研究者の復帰・復職支援や上位職への積極登用に向けた取り組みなどを支援するものです.優秀な女性医師が妊娠・出産を経て仕事を諦めてしまう環境は非常に残念であるため,これによって研究の継続や上位職へのステップアップを後押しできれば大変よい試みだと思います.

基本情報

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臨床泌尿器科
74巻2号 (2020年2月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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