臨床泌尿器科 73巻3号 (2019年3月)

特集 基礎から学ぶ下部尿路機能障害―苦手意識を克服しよう

企画にあたって 三井 貴彦
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 時間が経つのは早いもので,平成の時代も残りわずかとなりました.私が泌尿器科に入局した当時は,外来で膀胱内圧測定を専門で行う当番があり,新人医局員が順番で行っていました.最初は何もわからず,ただ膀胱内に生食を注入し,印刷されたデータを先輩の医師に手渡すだけでしたが,少しずつ慣れてくるとカルテに記載してある基礎疾患や症状と見比べながら,膀胱内の圧変化や患者さんの尿意などの訴え方の違い,さらに治療後の変化に驚いたことを記憶しています.

 その後,過活動膀胱の概念の登場で,膀胱内圧測定をはじめとするウロダイナミクスの重要性が低くなり,ウロダイナミクスを行う泌尿器科医も減ってきていることかと思います.実際に,外来で膀胱内圧測定を行う係もなくなりました.そのため,ウロダイナミクスに触れる機会が減り,下部尿路機能障害について深く考える機会も以前と比べて減ったのではないかと感じています.その一方で,「下部尿路機能障害,ウロダイナミクスを泌尿器科医がきちんと理解しないとしたら,どの科の医師が診断するのだろうか?」という懸念もあります.もちろん,好き嫌いや得手不得手などありますので仕方ないとは思いますが,泌尿器科医としてぜひ知っておいていただきたい専門分野の1つだと思います.

〈基礎知識〉

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▶ポイント

・下部尿路は骨盤神経,下腹神経,陰部神経の3つの神経によってコントロールされている.

・膀胱は主に骨盤神経,内尿道括約筋は主に下腹神経,外尿道括約筋は陰部神経が支配している.

・蓄尿時には膀胱からの情報が中脳水道灰白質に至り,蓄尿中は抑制性の刺激が持続的に加わることで橋排尿中枢が抑制されている.

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▶ポイント

・患者自身の下部尿路症状およびQOLの主観的評価は各々の症状に応じた疾患特異的質問票があり,それらを使用することで患者個々の治療効果を他覚的に評価できる.

・ただし,質問票自体はあくまで症状の評価であり,病態の鑑別診断のために使用することは避けたほうがよい.

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▶ポイント

・尿流測定および残尿量測定は簡便に下部尿路機能障害をスクリーニングできる方法であるが,下部尿路閉塞や排尿筋収縮力の正確な診断には至らない.

・尿流測定では尿流カーブの波形,尿流率,排尿量および尿流時間に注目する.

・残尿量の解釈においては,単回測定の数値にのみとらわれず,複数回の測定や患者の状態を総合的に判断することが必要である.

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▶ポイント

・膀胱の収縮力は等容性排尿筋圧で評価するが,これはBCIで推定できる.

・膀胱出口部閉塞は最小尿道開口圧で評価するが,これはBOOIで推定できる.

・透視下尿流動態検査は,脊髄障害や二分脊椎に伴う神経因性下部尿路機能障害の評価として必須である.

尿路管理のポイント 高橋 良輔
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▶ポイント

・膀胱内の高圧環境の回避と残尿の少ない効率よい尿の排出が尿路管理の基本である.

・改善に乏しい場合は,原因検索目的としてカテーテル挿入を伴う尿流動態検査を考慮する.

〈病態別の診断と治療法〉

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▶ポイント

・過活動膀胱患者において,残尿が多い場合には下部尿路閉塞や,DHICに注意が必要である.

・過活動膀胱の治療においては,年齢や性別を考慮し薬物治療を開始し,自他覚症状を確認しながら,適切な薬剤増量・減量,切り替え,中止,併用療法また行動療法の再指導などが必要である.

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▶ポイント

・2018年6月国際禁制学会が夜間頻尿の定義を変更した.

・夜間頻尿の診断には丁寧な問診と排尿日誌が最も有用である.

・夜間多尿には生活指導が重要であるが,運動療法や薬剤が効果的なこともある.

前立腺肥大症 松川 宜久 , 後藤 百万
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▶ポイント

・前立腺肥大症の診断において,①自覚症状の評価,②前立腺サイズの評価,③下部尿路閉塞の評価を系統的に行うことが肝要である.

・前立腺肥大症に対する治療では,エビンデスに基づいて(ガイドラインのアルゴリズムに沿った),薬物・外科的治療を行うことが推奨される.

・男性下部尿路症状を来す病態として前立腺肥大による閉塞だけでなく,膀胱収縮障害の存在も考える必要がある.

腹圧性尿失禁 松下 千枝
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▶ポイント

・女性の尿失禁では腹圧性尿失禁が最も多いが,高齢女性では混合性尿失禁の頻度が多い.

・腹圧性尿失禁の手術適応は,軽度でも患者の希望があれば考慮してよい.

・混合性尿失禁は,術前に病態をできるだけ精査して,術後の切迫性尿失禁の残存やde novo urgencyについて十分説明を行うことが重要である.

神経因性膀胱 三井 貴彦 , 武田 正之
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▶ポイント

・自排尿(随意排尿)が可能であるかを評価する.

・膀胱内の高圧環境と上部尿路障害の有無を評価をすることが診断のポイントである.

・膀胱内の高圧環境を改善する尿路管理を行うことが治療のポイントである.

〈トピックス〉

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▶ポイント

・難治性過活動膀胱の治療として,2017年9月から仙骨神経刺激療法が保険適用となった.

・まず経皮的に仙骨神経にリード線を挿入し,体外から試験刺激を行う.効果が認められれば持続刺激用の電池を植え込む.

・リード線挿入術は治療効果の成否を決める重要な行程である.術中に電気刺激による反射を確認しながら留置位置を決定する.

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▶ポイント

・平成28年度に新たに「排尿自立指導料」が保険収載されたことは,長寿社会であるわが国の医療において,排尿ケアの必要性が重要視されていることを示すものである.

・排泄は,個人の自尊心やADLの維持に深く関わる身体活動であり,排尿自立とは,排尿管理法を問わず,自力で排尿管理を完結することである.

・排尿自立の実現に向けて,多職種の連携が不可欠である.

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 本書は医学書院の月刊誌『総合リハビリテーション』で2016〜17年に長期連載されて好評を博した集中講座「研究入門」を一書にまとめたものです.リハビリテーション医療の臨床研究から「健康の社会的決定要因」を中心とする社会疫学へと研究のウィングを広げつつ,現在も第一線で研究を続けている近藤克則氏が,自己の研究をいかに育ててきたか,大学院生や若い研究者をいかに育ててきたかを,系統的かつ具体的に紹介しています.

 全体は以下の4部(24章)構成です.第1部「総論」,第2部「構想・デザイン・計画立案」,第3部「研究の実施・論文執筆・発表」,第4部「研究に関わるQ&A」.各章の最後には,近藤氏オリジナルのさまざまな「チェックリスト」が付けられており,頭の整理に役立ちます.

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目次

バックナンバーのご案内

次号予告

編集後記 小島 祥敬
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 中学校の卒業式のときに“ある人”からもらった手紙に,「出会いがあれば別れもある.別れがあれば出会いもあるのです」と書かれていたことを,ふと思い出しました.3月は別れの季節,4月は出会いの季節.さて皆さんはこの3月,どんな別れがあるのでしょうか?

 かくいう私は,2つの大きな別れを経験します.1つ目の別れは,広島大学と岩手医科大学から当講座に国内留学していた2人です.東北地方の慢性的な医師不足に加え,東日本大震災に端を発した複合災害の影響により,いまだに福島県の医療は厳しい状況にあります.広島大学とは,放射線災害の学術的基盤として大学間の交流が進んでいることもあり,岩手医科大学とは,専門医プログラムを共有していることもあり,松原昭郎教授と小原航教授のご高配により,若い先生を1人ずつ派遣していただきました.両教授には,苦しい福島の現状をご理解いただき,福島復興のためにお力添えをいただきました.また,優秀な若い泌尿器科医が,家庭を犠牲にして見知らぬ土地に来てくれたことは,福島の医療を助けてくれたのみならず,異文化を持ち込んでくれたことにより,医局員には大きな刺激となり,思わぬ数々の相乗効果を生み出してくれました.その2人が国内留学を終え,それぞれの母校に帰っていきます.

基本情報

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臨床泌尿器科
73巻3号 (2019年3月)
電子版ISSN:1882-1332 印刷版ISSN:0385-2393 医学書院

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